メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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夢見る蛇の都

その1

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 大勢の護衛兵に囲まれている馬上の人ペルセウス王の前にゆっくりと進み出る大魔女マンスリー。
ペルセウス王の馬前に居並んでいた村の代表者たちも彼女に道を開けます。
その村人たちの間をすり抜けるようにしてペルセウス王の前に進み出たマンスリーはまず馬上の王に対して一礼し頭を下げます。

「お久しぶりです、アラン王子。いや、今はペルセウス13世陛下ですね。この老婆の事は覚えていらっしゃいますか?」

大勢の兵に囲まれたペルセウス王は眼前に立つマンスリーを馬上から見下ろしながらニヤリと笑います。

「フフッ、懐かしいですな。そのマッシュルームの様な髪型。もっとも以前見たときは白髪ではなく艶やかな亜麻色の髪色でしたがー。もちろん、自分の師を忘れるほど、わたしは忘恩の徒ではありませんぞ、マンスリー先生。それにあなたが亡くなった先王の再婚の申し出を受け入れていれば今頃は母上と呼んでいたはずー。そうすればあなたも先王と気まずくはならずもちろん王都から追放もされず当然こんな辺境の地でお会いする事もなかったでしょう」

王の馬前に立つマンスリーは彼のその言葉に対してフルフルと首を振ります。

「昔のことてす、王よ。それにどうも王宮の固苦しい生活はわたしの性には合いませんでしたからね。それより一つ聞きたいことがあります。こんな大軍を引き連れて辺境の地までやって来るとは一体どういうおつもりなのですか?ぜひご存念をお聞きしたい」

大軍を率いる馬上のペルセウス王と真正面から向き合い彼を問い詰める魔女マンスリー。
ペルセウス王の軍勢を遠巻きにする「ジブリ村」の村人たちも馬上と地上で向かい合う二人の様子を離れた場所から固唾を飲んで見守っています。
しかし大勢の兵たちに囲まれた馬上のペルセウス王がマンスリーの問いに対し口を開こうとしたその前にはるかに高い別の場所からある人物が放つ奇妙な声が聞こえて来ました。

「もちろん、メデューサ族の秘宝を手に入れる為ですよ。シュナンたちがそれを首尾よく手に入れた後でね」

その声を放ったのはペルセウス王の軍勢に同伴している魔術師レプカールが操縦する「魔神兵」と呼ばれる巨大な戦闘用の人型機械でした。
レプカールが内部に乗る魔神兵はペルセウス王の軍列の横でまるで村の大通りを塞ぐみたいに屹立しており周囲に建つ家々の屋根よりもはるかに高いその巨体であたり一帯を威圧していました。
魔女マンスリーはまるで自分を見下ろすように村の家々の屋根を背にして立つその巨大な人型機械をキッと睨み付けると絞り出すような声でつぶやきます。

「レプカール・・・」

マンスリーが言ったようにその巨大な機械人形を頭部内の操縦席から操りのっぺりした顔についた小窓のモニターを通して周囲の人々を高みから見下ろしているのはかつては彼女の高弟であった大魔術師レプカールでした。
魔神兵の頭部の操縦席に乗り込んだ彼は内部に取り付けられた発生装置を使用して主人であるペルセウス王と眼下で対峙するマンスリーに向かって横槍を入れるように話しかけたのです。
魔神兵の頭部の発声装置を通じて発せられたレプカールのくぐもった声がはるか下の地面に立つ魔女マンスリーの耳に不快な機械音と共に届きます。

「シュナンは「黄金の種子」だけを手に入れるつもりのようですがとんでもない。なにせメデューサ族の秘宝の中には目も眩むほどの金銀財宝はもちろん不老不死の妙薬や世界を支配できるほどの超兵器も含まれているのですから。これを全て我が物にしない手はありません。まぁ、「黄金の種子」も充分魅力的ですからシュナンから横取りするつもりですがね。クークックックーッ!!」

魔神兵の発生装置を通して邪悪な笑いを響かせるレプカール。
そんな弟子の乗り込んだ巨大な機械人形を地上から苦り切った表情で睨み付ける魔女マンスリー。
レプカールの乗り組んだ魔神兵の巨体を地上から見上げる彼女の目はいつもとは違って大きく見開かれ怒りに燃えていました。

「その為にシュナンとメデューサを引き合わせたんだね。メデューサに心を開かせパロ・メデューサへの旅に同行させる為にー。なにせメデューサ族の宝物殿の扉を開けるのは王家の直系の子孫だけだからね。そして宝物殿の扉が開いた後はそれを横から奪う気なんだね。なんて汚いんだ。二人の若者の心をもてあそんでー。どうせシュナンはあんたらの企みは知らないんだろう」 

眼下の地面で仁王立ちになり怒気を発する魔女マンスリーとは対照的に巨大な機械人形の頭部内の操縦席に鎮座するレプカールはその顔に冷笑を浮かべていました。

「もちろんですよ。シュナンは我が弟子ながら馬鹿がつくぐらい純情な男ですからな。あいつは心底メデューサの境遇に同情しやがて一緒に旅を続けるうちに本気で彼女を愛するようになったのです。あの蛇娘をね。まったく奇特な奴です。幼い頃からずっと酷い虐待を受けているのに人を思いやる心を未だに失わないとはー。まるで砂糖菓子のように甘い男ですよ。まぁ、おかげでこちらも美味しい思いが出来るというものです」

レプカールの言葉を聞いて怒りに震えながらもその首を悲しげに振る魔女マンスリー。
  
「その優しい心こそがシュナンの最大の力の源なんだよ。そして彼の持つ魂の高貴さを示す証なんだ。何故それが分からないんだい?レプカール」

元師匠であるマンスリーのその言葉を魔神兵の頭部内に乗り組んだ魔術師レプカールははるかな高みからせせら笑います。

「はっはっはーっ!!この世はしょせん弱肉強食。結局は力がものをいうのです。いくら高貴でも力が無ければなんの意味も無い。まぁ、いずれはあの馬鹿にもその事がわかるでしょう」

シュナンを侮辱する元弟子の言葉に大魔女マンスリーの怒りがついに爆発します。
ペルセウス王の軍列の傍で村の大通りを占拠しながら立つその目の前にそびえる魔神兵の巨体に向かってマンスリーは片腕を伸ばすと人指し指をビシリと突き出し怒声を張り上げます。

「その馬鹿でかい図体の木偶人形から出ておいで、レプカール!!あんたの首をすっ飛ばして王の御前に転がしてあげるよっ!!!」

そんな二人の魔法使いの一触即発のやり取りをペルセウス王の率いる軍勢の兵士たちや更にそれを遠巻きにしている大勢の村人たちは一様に不安げな表情を浮かべながら見守っていました。
しかしやがてそんな緊迫した雰囲気を打ち払うかのようにマンスリーの正面付近で大勢の兵に囲まれながら馬に乗るペルセウス王がなだめるような口調で魔女に向かって声を発します。

「まぁまぁ、マンスリー先生。落ち着いて下さい。わたしに逆らわなければシュナンやメデューサに対して危害は加えるつもりはありません。もちろんこの村の人々にもです。王の名にかけて約束いたします。それとも戦いがお望みですかな。だったら受けて立ちますぞ」

ペルセウス王の口調は穏やかでしたがその発言の内容は場合によってはこの村の人々に大きな犠牲が出る事もいとわないという厳しい方針を暗に示すものでした。
するとマンスリーは一瞬ハッとした表情になり周囲をぐるりと見回すと改めて現在の状況を確認します。
マンスリーの眼前には黄金の鎧を身にまとったペルセウス王が黒い馬にまたがっており彼の周りを固めるように多数の兵士が村の大通りにひしめいています。
その王の軍列の傍にはまるで守護神のようにレプカールが内部に乗り込んだ巨大な人型兵器「魔神兵」が屹立しておりそののっぺりとした顔でマンスリーを見下ろしていました。
そして村全体を占拠するように長い隊列を組んだペルセウス王の軍勢の周りにはそれを遠巻きにするように大勢の村人たちが立っており事態の推移を心配そうに見守っています。
マンスリーは自分の側で所在無げに立つ数人の村の代表者の方をチラリと見ると大きなため息をつきます。

(やれやれ、あたし一人の命だけならあの子達にくれてやるのも悪くは無いけど。この村の連中を巻き込むわけにはいかないね。ここは引くしかないかー)

ペルセウス王の言葉を聞いて少し冷静さを取り戻したのかマンスリーはレプカールの乗る魔神兵を挑発するのをやめて身体を眼前の王の方へ向けると少し顔を伏せながら言いました。

「もちろん、この村を火の海にするつもりはありません。偉大なる王よ。わたしとあなた方が戦えば必ずそうなりますから。陛下のお言葉を信じます。どうか慈悲の心を持って民草に安らぎをお与えください」

すると村の大通りの上で大勢の部下たちに囲まれている馬上のペルセウス王は満足そうにうなずくと自分の前に立つマンスリーを見下ろしながら彼女に約束します。

「ご安心ください、マンスリー先生。補給と休養が済んだら我々はすぐに出て行きます。たった数日間の辛抱ですよ。無論その間の村人たちの安全はこのわたしが保証します」

王の言質を受けて彼に対し深々と頭を下げる魔女マンスリー。
周りにいる大勢の村の人々もなんだかホッとした表情を浮かべています。
ペルセウス王の軍勢の侵入によって生じた緊張状態もなんだか少し緩和した様でした。
多くの村人たちはこの際、数日の不便や多少の物資の提供は致し方ないと考えたのです。
しかし、王の馬前で頭を下げ服従の意思を示す魔女マンスリーは最後に一つ釘をさす事を忘れませんでした。
今は沈黙を守っているレプカールの乗る魔神兵の巨体を横目で見ながら村を占拠する大軍勢に囲まれた馬上のペルセウス王に向かってきっぱりと忠告する大魔女マンスリー。

「それではくれぐれもよろしくお願いいたします、王よ。けれど、もし村の人々を傷つけるような事があれば、このマンスリー・ドーラ黙ってはおりませんぞ。決してねー」
 
その後、ペルセウス王の軍勢は「ジブリ村」に数日間滞在して物資の補給を行い更に兵士に充分休養を取らせてから再びパロ・メデューサを目指すため東の方角に向けて出立して行きました。
家の外に出た大勢の村人たちは自分たちの村から徐々に遠ざかっていくその軍勢の去りゆく姿を安堵と疲れの入り混じった複雑な表情でしばしの間見送っていました。
そしてその村の通りで立ち尽くす大勢の村人たちの中には今回村を代表してペルセウス王と交渉した大魔女マンスリーの姿もありました。
更に今日は自分の弟子であり「魔女のお店」でバイト店員として働く少女チキも一緒に来ておりマンスリーの隣に立っています。
村の中で二人一緒に並んで他の村人たちと共にペルセウス王の去りゆく姿を見つめるマンスリーとチキの子弟。
二人の視線の先には村から遠く離れ今しも地平線の向こうに消えつつあるペルセウス王の長い軍列とそれと随伴して歩くレプカールの乗る魔神兵の群を抜いて背の高い異様な姿がかすかに見えます。
チキが隣に立つ師匠に向かって心配そうに聞きます。

「シュナン君たち、大丈夫なんでしょうか、師匠。なんとか危険を知らせた方がいいんじゃ。ペガサス族のお姉さんたちに頼めばー」

しかしそんな弟子の提案に対してマンスリーは首を振ります。

「いや、余計な干渉は今さらしない方がいい。何故ならこれは彼らの運命なのだから。メデューサとシュナンそしてペルセウスとレプカール。二組の「王とその補佐役である魔法使い」。両者のどちらかが生き残るかによってこの先の人類のたどるべき運命が決まるのだからー」

ペルセウス王の軍勢の長い列が地平線の向こうに消えてからもマンスリーとチキの2人は村の中からその軍列が消え去った東の方角の空をいつまでも見つめていました。

[続く]

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