メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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アルテミスの森の魔女

その27

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 さて、こんなわけで今日もアルテミスの森の近隣に位置する大きな村には近日中にリニューアルオープンする魔女のお店を宣伝する吟遊詩人デイスと新たにシュナンたちの仲間に加わった新米魔女チキの姿がありました。 
ちなみにシュナン少年は魔女のお店の開店準備のためそちらの方に張り付いていました。
デイスとチキの二人はその「ジブリ村」の中央付近にある人通りが多い広場に陣取って魔女の家の宣伝活動を行なっていました。
その大勢の人々が行き交う広場に並んで立った二人は目の前を次々と通り過ぎる大勢の人たちに熱心に呼びかけ魔女のお店に来てもらえるよう積極的に宣伝を続けます。
吟遊詩人デイスはいつものゆったりとした白いマントのついた衣服に身を包み手に持った竪琴を奏でておりその音楽に魔女の店を宣伝する言葉を載せて大声で歌っていました。

いらはい♪

いらはい♪

魔女の店~♫

美味しいお茶がありますよ♪

美味しいお菓子も出てきます♪

美味しいご飯も食べれます~♫

いらはい♪

いらはい♪

魔女の店~♫

お代はお安くいたします♪

見るだけだったらタダですよ♪

可愛いあの娘も待ってます~♫

そんな風に広場の真ん中で竪琴を奏でその曲に乗せて調子外れの唄を歌う吟遊詩人デイス。
魔女チキはその隣で道行く人々に手製のチラシを次々と配っていたのですが彼女はちょっと奇妙な格好をしていました。
普段、彼女は黒色の地味なワンピースを常に着用しておりその身を飾っているのは髪に結んだ巨大なリボンだけでした。
しかし今日はいつもとは打って変わってスカートが短いフリルがいっぱいついた派手な色の半袖のドレスを身につけていたのです。
それは吟遊詩人デイスが何処からか調達して来たドレスでありチキは彼に宣伝時や店で働く時にはそのドレスを着るように指示されたのでした。
チキは目の前を通過する村人たちにチラシを次々と手渡しながらもその服装のせいで太ももがスースーするせいかはたまた広場を横切る人たちの視線が気になるのか隣にいる吟遊詩人デイスに文句を言います。

「デイスさん。このドレス恥ずかしいんですけど。第一なんでこんなにスカートが短いんですか?」

しかし彼女の隣で竪琴を弾く吟遊詩人デイスはどこ吹く風といった様子で答えます。

「恥ずかしくなんかないですぜ。これは「冥土服」といってあっしの故郷に伝わる伝統衣装でしかもチキさんに合わせて魔女っ子っぽくしてあるんですぜ。店のユニホームなんだから我慢するべきですぜ」

「~っ!」

デイスの言葉に押し黙る「冥土服」姿のチキ。
恥ずかしい姿でしたが時給二千円で雇ってもらっている手前逆らうわけにはいきません。
それに彼女が一人前の魔女になるためにはどうしても店のお手伝いをするという名目で大魔女マンスリーの側に近づきその弟子になる必要がありました。
だから彼女は奥歯をギュッと噛み締めてトレードマークの赤いリボンを恥辱に震わせながらもチラシを配り続けました。
すると不思議なもので最初は気になっていた道行く人々の視線もだんだんと気にならなくなっていきました。
デイスの奏でる竪琴にはそれを聞く人間の警戒心を解く不思議な効果がありチキは自分に好奇な視線を向けてくる村人たちに次々とチラシを手渡していきます。
そのチラシには魔女のお店のある場所を示した地図と飲食はもちろん薬草などの物品の販売や宅配便も取り扱う便利なお店である事が記されており目玉商品であるオリジナルドリンク「タペオカ」の無料配布券もついていました。
チキの配るチラシを受け取った村人たちは歩きながらそれに見入り連れ立って歩いている人々はチラシと相手を交互に見ながらそれについて話し合っています。
こうしてデイスの音楽に合わせてチキが配る魔女のお店のチラシは飛ぶように無くなっていき村の広場でとり行われている二人組の宣伝活動はどうやら上手くいっているように見えました。
しかしー。
チキの配るチラシがほとんど村人たちの手に渡りそれを横目で見ていたデイスが竪琴を弾く手を休め隣に立つ「冥土服」を着た魔女っ娘にねぎらいの声をかけようとしたその時でした。

「やいやい、てめえらっ!!何を勝手な事をしてやがるっ!!あんな極悪魔女の味方をするなんて絶対に許さねえっ!!!」

怒号と共に数人のいかつい男たちが人混みをかき分けながら広場の中央に立つデイスとチキの方にドカドカと足音を響かせつつ近づいて来たのです。
彼らはおのおの巨体の持ち主であり全員が頭髪はモヒカン刈りで両肩にトゲのついた肩パットをしておりおまけに顔や腕に派手な入れ墨をしていました。
広場にいる他の村人たちも彼らに怯えているのかデイスたちに歩み寄るその姿を遠巻きにしながら不安げな様子で見ています。
彼らは村にたむろする不良集団で最近何故か凶暴化し人々はその事を不審に思っていました。
魔女っ子チキは自分たちの方に近づいてくるいかつい男たちを見て怖くなったのか隣に立っているデイスの背中に隠れるようにしがみつきます。
しかし吟遊詩人デイスは自分の背中に隠れたチキの方を肩越しにチラリと見てから前を向き自分たちに向かって歩み寄ってくる男たちを睨みつけ不敵な笑みをその口元に浮かべます。

「シュナンの旦那が言った通りですな。のこのこ顔を出してくるとはー。マンスリー様に危害を加えようとしたり村に悪い噂を流してたのはあんたらだったんですね。まぁ、まだ裏には黒幕がいるようですがとりあえずここで一網打尽にしてやりますぜ」

吟遊詩人デイスが手にした竪琴をポロンと弾き鳴らしました。

[続く]

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