メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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アルテミスの森の魔女

その26

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 さて、魔女の家のリニューアルがシュナンたちの尽力で完成し新たに生まれ変わった魔女のお店としての開店準備が整った日の翌日の事です。
森の中に建つ魔女の家からはほど近い人間たちが住む大きな村落ー。
ここはほんの十日ほど前にシュナン少年が吟遊詩人デイスと共に買い物をしに来た場所でした。
しかし今日ここにはシュナン少年の姿は見当たりません。
今現在、村の中心部に近い市場が開かれている賑やかな場所に立っているのは吟遊詩人デイスとその隣に寄り添うドレスを着たまだ幼さが残るうら若き少女でした。
彼女の名前はチキ。
そう、みなさんの中には覚えている人もきっとおられる事でしょう。
彼女はシュナンが病に倒れ仲間たちの手によって魔女の家に担ぎ込まれたあの日にマンスリーを真夜中に訪ねてきた魔法使いの女の子でした。
新米の魔女である彼女はあの日高名な大魔女であるマンスリーに挑戦して自分の実力を認めさせあわよくばマンスリーの弟子になりたいと思っていました。
しかしシュナン一行を始めとする他の訪問者への対応で手一杯だったマンスリーはチキの事をまるで相手にしようとはせず訪ねてきた彼女を閉め出すようにその鼻先で玄関口の扉を閉めたのです。
しかし門前払いにされたからと言って彼女はそう簡単に諦めるわけにはいきませんでした。
田舎から出てきた新米魔女である彼女は故郷に住む家族に必ずビックになって帰ると約束しており何としても近隣では一番多くの人々が住む場所であるこの村で一旗上げたいと考えていたのです。
そんな彼女にとってこの地で伝説的な存在である大魔女マンスリーに出会えた事は大きな僥倖であり運命的な何かの力が働いているように感じられたのでした。
そんなわけでチキはマンスリーに門前払いされてからも魔女の家の付近の林の中で野宿して接触のチャンスをじっとうかがっていたのでした。
そしてシュナンやデイスの指揮する大工たちの手によって魔女の家が徐々にリニューアルされてゆく様子を野宿している林の中から訝しげな表情で日々監視していたのです。
潜伏している林の中から木の幹の影に身を隠しながら改築中の魔女の家の様子をジッと見つめる新米魔女チキ。
そんな風に魔女の家の周りを毎日ウロチョロしているチキでしたがある日彼女の前に突如として現れ話し掛ける一人の人物がいたのです。
それは病から回復し今はマンスリーを助けるために力を尽くしている盲目の魔法使いの少年シュナンでした。
シュナンはマンスリーの家の周りをうろついているチキの存在に以前から気づいており彼女が抱えている事情についてもある程度察していました。
いつもの通り林の中に潜伏してマンスリーと接触する機会をうかがっていたチキは突如として自分の前に現れた奇妙な少年を目の当たりにして驚きうろたえます。

「な、なによ、あんた!?あたしが用があるのはマンスリーだけよっ!杖を持ってるとこを見ると魔法使いみたいだけどー。余計なおせっかいはやめて引っ込んでなさい!!」

上ずった声で叫ぶチキと彼女がキャンプを張る林の中で対峙するシュナンは敵意のない落ち着いた声で言います。

「マンスリー様は今、魔女の家にはいないよ。僕たちが移動用に使っている魔物を見学するために家を離れている。それより君に話があるんだ。どうやら君はあわよくばマンスリー様に取り入ろうとしているみたいだね。やり方は稚拙だけど」

シュナンの指摘を受けたチキは図星だったのか一瞬その顔にドキリとした表情を浮かべるとすぐにふくれっ面になって少年に言い返しました。

「あんたには関係ないっしょっ!!放っといて!何よ、変な目隠ししてー」

しかしシュナンはそんなチキの挑発的な態度にも動じる事なく彼女にある提案をしてきました。

「僕たちに協力してマンスリー様を助けてあげてくれないか。もうすぐリニューアルが完成する彼女の店で働いて欲しい。店の主力メンバーとして」

シュナンの提案を聞いて目を丸くするチキ。
けれど彼女はその後シュナンから詳しい説明を聞いて納得すると快くその提案を受け入れたのでした。
それはシュナンのその提案が自分の進路について悩んでいたチキにとっても非常に都合が良く魅力的に感じられたからでした。
こうして新米魔女チキも仲間に加わりシュナンたちが指揮する魔女の家の改修工事は順調に進んで行きました。
そしてある日ついにリニューアル工事は終了し「魔女の家」は今までの陰気で重々しい雰囲気が一掃されたお洒落で明るい印象を与える新しいお店として生まれ変わったのでした。
工事を頼んだ人間の大工たちが報酬を受け取って村へと引き上げた後、シュナンとデイスそして新米魔女のチキはマンスリーの造った庭園に囲まれて建つ新たに完成した魔女のお店の前に居並びその瀟洒な外見を揃って見上げていました。
やがてシュナン少年の隣に立つ吟遊詩人デイスが魔女の家の真新しい姿を感嘆の目で見上げながら言いました。

「さて、器は出来ましたが問題はこれからですな」

彼の隣に立つシュナン少年も手に持つ師匠の杖を通じて魔女の家の新たに生まれ変わった姿を見上げ吟遊詩人に対してコクリとうなずきながら答えます。

「そうだね。次は大勢の人たちが来てくれるよう宣伝しないとー。デイスそれにチキ。君たちは村に行って村人たちにこの店の事を宣伝してくれないか?なるべく派手にね。僕はその間に店の内装とかを村の業者に頼んで整えておくよ。もうすぐ応援のペガサス族も到着すると思うからそっちの方の準備もしないとね」

シュナンの言葉を聞いたデイスはニヤリと笑うと我が意を得たりと自分の胸を拳で叩きます。

「合点承知ですぜ、シュナンのダンナ!荒事と肉体労働以外ならあっしにお任せですぜっ!!」

リニューアルした魔女の家の前に居並んでいる3人のうちシュナンを挟んでデイスの反対側に立つ魔女チキもピカピカにひかっている家の屋根を見上げながらどこか自信なさげに言いました。

「あたしも手伝うわ。でも・・・あたし箒で空を飛ぶくらいしか魔法を使えないのよね。お母さんは魔法薬を作るのが得意だったけど。田舎にいる時にちゃんと習っておけば良かった・・・」

しかしデイスはそんなチキの方をシュナンの肩越しに見つめニヤリと笑みを浮かべます。

「大丈夫ですぜ、チキさん。あなたにしか出来ない事がありますぜ」

シュナンを間に挟んでデイスに声をかけられたチキは何故か嫌な予感がして目の前に建つ新たに生まれ変わった魔女の家の赤い屋根を見上げながら思わずその身をブルっと震わせました。

[続く]

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