メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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アルテミスの森の魔女

その12

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さて、しばらくしてここは昼間にシュナンとデイスが訪れた村からはほど近い鬱蒼とした森の中ー。
ここには周りに茂る高い木々に隠れるように一軒の瀟洒な平屋建ての家が建っていました。
家の玄関口には大きな立て看板が打ちつけてありそこには「善き魔女マンスリーの家」という文字と共に薔薇を元にデザインされた紋章が刻み付けられていました。
そしてその魔女が住む家に夜の闇にまぎれて近づく何人かの人影がありました。
それは近くの村の住人である屈強な男たちでした。
男たちはそれぞれの手に武器や道具などを携え夜の闇の中、足音を忍ばせながらこっそりとその家に近づこうとしていました。
そう、今から彼らは魔女が住むというその目の前に立つ森の中の一軒家を夜陰に乗じて大勢で襲撃しようとしていたのです。
男たちは闇の中、地面にへばりつくようにその一軒家に近づくと外から家の中の様子をそっとうかがいました。
その家の外窓から見る家の中の様子は明かりもついておらず物音もせずどうやらここに住む人間は出かけているかおそらくはすでに寝ているものと思われました。
すると家のすぐ外でうずくまり中の様子をうかがっていた男たちは互いに顔を見合わせてうなずきます。
それから彼らは家のまわりに紙や布を丸めたようなものをばら撒きさらに男たちの中の一人が懐から火打ち石を取り出すとばら撒いたそれらに火を付けようとします。
この木造の家に放火するつもりなのです。
しかしその時でしたー。

<< おやめ。あんたたち全員、池のカエルに変えちまうよ >>

その家を取り囲んでいた男たち全員の頭に一斉に異様な声が響き渡りました。
それは耳から聞こえるのではなく頭の中に直接響いてくるような不思議な感覚でした。
その余裕と威厳に満ちた声を頭で感じた家を取り囲む男たちは驚懼し一斉に悲鳴を上げます。

「ま、魔女の声だっ!!」

「な、中にいるぞっ!!」

「俺たちの事を見張ってるっ!!」

恐怖に打ち震えた男たちは絶叫すると家に火をつけるのをあきらめ手に持っていた武器や道具もその場に全て投げ捨てました。
そして包囲していた家の囲みを解くと我先に逃げ出し脱兎の勢いで夜の闇の向こうへとてんでバラバラに消えて行きます。
あっという間にその森の中の一軒家の周りには誰もいなくなりただ辺り一面の地面に男たちの残した武器などが点々と散らばっていました。
実はその家の中には男たちが気づいたように一人の人物が灯りを落とした状態で暗い部屋の中に佇んでおり家に近づいて来た襲撃者たちの様子をじっと観察していたのです。
そして暗い部屋の中でまんじりともせず椅子に座る彼女は家の外で不審者たちが火を放とうとしているのを超感覚で察知すると彼らに向かって警告のテレパシーを発したのでした。
その人物は家の周囲から自分に危害を加えようとしていた連中がいなくなったのを感じ取ると座っている椅子の背もたれに身体を預けふうっとため息をつきます。
しかしすぐに違った方向から別の集団がこっちに近づいてくるのを超感覚で察すると今度はそちらの方に注意力を振り向けました。

「やれやれ、今夜は千客万来だね」

家の主は今度も別の村人たちが徒党を組んでやって来たのかと思いましたがどうやら違うみたいでした。
彼女が察知したこちらに近づくその人影は全部で三つしかしそこから伝わってくる魂の数は何故だか五つありました。
しかもその中のいくつかの魂は人間のものではない様です。

(はて、妙だね。それに何だか知り合いの気も混ざっているみたいだ)

けれどその人物は今回接近する数人の人影にはこちらに対する敵意は無いものと判断して彼らが訪ねて来るのをそのまま待つ事にしました。

実は今回その一軒家を目指して夜道を移動しているのは病に倒れたシュナン少年と彼の身体を背負って運ぶ吟遊詩人デイス、それに師匠の杖を持ったメデューサと赤髪の少女レダも加えた四人と一本?すなわちボボンゴを除くシュナン一行の旅のメンバーたちでした。
レダの変身したペガサスに乗って人里近くにまでやって来た彼らはいったん人目につかない森の中に降り立ちました。
そして安全を期すためにそこから先は移動手段を徒歩に切り替える事にしました。
まずは吟遊詩人デイスが歩けないシュナン少年を背負いその両脇に人間形態に戻り身なりを整えたレダと師匠の杖を持ったメデューサがぴったりと付き添います。
ちなみにメデューサは身につけたマントのフードを目深くかむってその蛇の髪の毛と魔眼が外側からは見えないように隠していました。
そうしてひとかたまりの影となった彼らは急いで夜の森を駆け抜けます。
師匠の杖が語ったシュナンを救ってくれるはずの大魔女が隠棲するという森の中の一軒家を目指してー。
必死に急ぐ彼らの前にやがて目的地である森の中に建つ瀟洒な一軒家が見えて来ました。
病に倒れたシュナン少年を運ぶ彼らは夜陰に乗じてその家の玄関口に近づくと正面についた木製のドアを激しくノックします。
家の周囲に散乱している丸めた油紙や布または武器などを目にして少し不審に思いながらもそれどころではなく家の扉を激しく叩くメデューサとレダ。
シュナンを背中にしょっている吟遊詩人デイスは彼女たちが必死に玄関口のドアを叩くのを一歩下がった位置で見ながらじりじりしてその扉が開くのを待っています。
やがてその玄関の扉は音もなくスーッと外側に向かって開かれます。
そして開いた扉の奥にかいま見える闇に包まれた部屋の向こうから一人の人物がゆっくりと玄関口に歩み出て来たのです。
その人物は扉の開いた玄関口から一歩外に出ると家の前で息を切らして立つシュナン一行の姿を目を細めながら見つめます。
彼女はまず目の前で息を切らしているメデューサとレダを一べつしてからその後方に立っているシュナンをおんぶしたデイスの方にも目をやり順繰りにその姿を見つめます。
そして再びメデューサの方に目をやるとそのフードに隠された正体を見抜いたのかちょっと意外そうに言いました。

「メデューサか・・・。まだ一族の生き残りがいるとは聞いていたけど。よりによってこの地に現れるとはね」

その時、フードマントを身につけたメデューサが手に持っている師匠の杖が声を発します。

「ご無沙汰しておりました。師匠」

杖の言葉を聞いたその師匠と呼ばれた家の中から出て来た人物は驚きもせず軽く肩をすくめます。
どうやら彼女はメデューサが持つその杖が自分の元弟子であるレプカールの分身である事は分かっておりまたシュナン一行がこの家に来た理由についてもある程度察しがついているようでした。
その人物は一見すると袖の膨らんだ青色の婦人用のドレスを着たかなり高齢の老婦人で格別に特別な存在には見えませんでした。
白髪をマッシュルームみたいにした髪型で頭を覆っており顔には深いしわが刻まれていましたがとても上品な顔立ちで若い頃にはかなりの美人であった事をうかがわせました。
そして彼女の最も際立った特徴は何と言ってもその神秘的な瑠璃色の瞳でした。
彼女は玄関先に押しかけて来た連中を開いたドア口の前で後ろ手を組んで立ちながら見つめていましたがやがてメデューサの持つ師匠の杖にその瑠璃色の瞳の焦点を合わせます。

「久しぶりだね、レプカール。何とも奇妙な姿で現れたものだね。おまけに伝説の怪物メデューサまで連れて来るとはー。まったくあんたは昔から厄介ごとを持ち込むのが上手だよ」

そう言って玄関口の開いた扉の前に立ち家の外に居並ぶシュナン一行をぐるりと見回すこの老女こそかつて最も神に近いとまで言われた伝説の魔法使いー。
シュナンの師であるレプカールのそのまた師匠であり植物系の魔法を得意とするところから「花神」とも呼ばれる地中海一の大魔女。
マンスリー・グランドーラその人だったのです。

[続く]

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