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アルテミスの森の魔女
その23
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さて、魔女マンスリーの作った妙薬とメデューサを始めとする仲間たちの献身的な介護によってシュナン少年は徐々に回復していきました。
今では時おり杖を片手に屋外を散歩する様になっており彼がやがて完全回復し仲間たちと共に旅を再開出来るのも時間の問題かと思われました。
しかしやはり命に関わる病にかかったダメージは大きく魔女マンスリーの助言もありメデューサたちはシュナンの病が完全に癒えるまでは魔女の家に逗留し彼の様子を見守る事にしたのでした。
そしてさすがに何のお返しもせずに世話になるのも悪いのでメデューサと旅の仲間たちは魔女マンスリーの家にやっかいになっている間できるだけ彼女の手助けをしたいと考えたのでした。
そこでボボンゴは力仕事、料理などが上手なレダは家事一般、そしてメデューサはマンスリーの家の庭で花壇の世話や野菜作りを手伝う事にしました。
ちなみに吟遊詩人デイスは肉体労働が苦手なのでベッドで療養しているシュナン少年の世話を一手に引き受けました。
そんなわけで今日も今日とてシュナンの世話をデイスに任せたメデューサは魔女マンスリーと肩を並べ庭仕事に精を出していたのです。
魔女の家の庭先には様々な種類の家庭菜園や花畑が作られまさしく百花繚乱といった感じの情景が春の日差しの中に広がっています。
メデューサはマンスリーに付き添われながらその広い庭のあちこちに移動して雑草を抜いたり花や野菜の選定や水やりなど様々な農作業を行いました。
そして今現在メデューサは庭の一角に生育しているライラックの茂みの前に立ち隣にいるマンスリーの指示でその小さな白い花を数多くつけた多年生の植物の根元にジョウロで水をまいていました。
メデューサはマンスリーに渡された魔法のジョウロで水やりをしておりそのジョウロは水を足さなくても無限にシャワーのように水が出る仕様になっていました。
メデューサは手に持ったジョウロで水を振りまきながら緑の葉に溜めた水滴をキラキラと弾かせるライラックの茂みの生命力にあふれるその姿に思わず感嘆のため息を漏らします。
そして緑の茂みの間からチラホラと顔を覗かせる小さく可憐な白い花を見ながら誰に言うでもなく呟いていました。
「きれい・・・なんでこんなに綺麗なんだろう」
メデューサの隣に立って彼女が水やりをする様子を見守っていたマンスリーは自身もライラックの茂みの方に目をやるとゆっくりとした口調で言いました。
「頑張って生きているからさ。一生懸命に生きているから美しいんだ」
水やりをする手を止めて隣に立つマンスリーの方に蛇の前髪に覆われた顔を向けるメデューサ。
「生きてるから・・・」
メデューサの思わず放ったつぶやきを引き取るように魔女マンスリーは後ろ手を組みながら話し続けます。
「花は自分が育つ場所は選べない。種がどこで芽吹くかわからないからね。でも、どんな場所で芽吹こうとそこで精一杯生きて花を咲かせようとするー。それが花の心なんだよ」
メデューサはマンスリーの言葉に真摯に耳を傾けていましたが心にふとした疑問が起こりました。
なので彼女はその疑問を隣に立つマンスリーにぶつけて見る事にしました。
「でも、花の種は芽吹かない事もあるわ。たとえ芽吹いても花を咲かせるまで育たない事もある。環境によってはすぐに枯れたり種のままで終わる場合ももちろんある。そういう場合にはその命にはなんの価値も無いのかしら。生まれた意味や生きるべき理由もー」
しかしそんな疑問を投げかけるメデューサに対して魔女マンスリーは頭を横に振りながら言いました。
「そんな風に思うのは本当は誰しもが幸せを求めているからなんだよ。物事の順序を間違えちゃいけないよ、メデューサ。それに命の価値や意味は自分や他人が決めるものじゃない。それは命自体に最初から備わっているものなんだ。本来持っている命の価値や意味をうまく発揮できないから全ての生き物は苦しむんだよ。そして幸福になろうとする意思は命の本質であり全ての生き物に等しく備わっているものなんだ。全ての生き物に平等にね。その事を否定出来る者はこの世に一人もいないんだよ。たとえ神でもね」
マンスリーの言うことは魔物の小学校しか出ていないメデューサには少しわかりにくかったのですがそれでも懸命に耳を傾けてその意図を汲み取ろうとしていました。
魔女マンスリーは目を細めてそんなメデューサを見ています。
そしてライラックの茂みの方へもう一度目を馳せると更に言いました。
「でも確かに環境は大事だよね。どんなに強い種でも雨一滴降らない砂漠では花を咲かせる事は出来ないしね。誰かが水や肥料をやり育ててあげないと。でもー」
マンスリーはメデューサが水をやっているライラックの茂みを指差して静かな声で告げました。
「でもこのライラックは大丈夫。きっと綺麗な花を咲かせるよ。だってお前が水をあげたんだから」
その言葉を聞いたメデューサは手にした魔法のジョウロをぎゅっと握りしめるとコクリと顔をうなずかせます。
そんなメデューサを横目で見ながらマンスリーは尚も語り続けます。
「実はねメデューサ。かく言うあたしもこの地でもう一花咲かせたいと思ってるのさ。まぁ、ずいぶん年をとってしまって若い時のようにはいかないかもしれないけど。でも人間は幾つになっても自分の幸せを求めて生きていくものだからね。特にあたしは昔から欲張りだしそう簡単にあきらめたりはしないのさ。幸せになる事をね。きっと死ぬその瞬間までそうなんだろうね」
そう言ってマンスリーは隣に立つメデューサに軽くウインクをします。
「とりあえず早く村の連中の誤解を解いて仲良くならないとね。色々大変だけど頑張るよ。だってわたしはこの場所で花を咲かせるって決めたんだから」
マンスリーの隣でジョウロを片手に立つメデューサは魔女にいきなりウインクをされて驚きます。
しかし陽気な口調で己の生き方や考えを語る大魔女のそのちょとお茶目で親しみやすい素顔を目の当たりにしてメデューサの口元には思わず笑みが浮かびます。
そして幾つになっても自分や周りの人々を幸福にしようと努力し続ける彼女の姿に深い尊敬の念を抱くと同時にさすがはシュナン少年の大師匠にあたる人物だと思いました。
老いてなお盛んな精神を持つ彼女の姿はメデューサの中で幼少期において過酷な環境にあったにも関わらず他者に対する慈悲と正義の心を失わなかったシュナン少年の姿とどこか重なって見えたのでした。
そんな思いを抱きつつマンスリーと共に庭の植物たちの世話を続けるメデューサでしたが彼女は隣にいるシュナンの恩人でもあるこの老魔女の事がいつのまにか好きになっていました。
そして恐らく苦境にあるであろう隣に立つこの人を助けたいと心の底から思いました。
少なくとも今のところは魔女マンスリーと周囲の村人との関係は良好とはいえずもしなんらかのきっかけで状況が悪化した場合、彼女が迫害と排除の対象となりかねない事は火を見るより明らかでした。
メデューサは庭仕事に従事しながらもマンスリーがそんな酷い目にあうのを防ぐ為にどうにか魔女と村人の両者を和解させる道は無いかと頭を悩ませます。
そしてマンスリーと肩を並べてその指示で庭のトマトに魔法のジョウロで水をかけていた時にメデューサの頭に一つのアイデアが浮かびました。
(そうだわ。これなら、おばあさんを助けれるかもー)
そんな蛇娘の心を知ってか知らずかマンスリーはメデューサが庭に水を振りまく様子を横目で見ながら後ろ手を組みちょっと淋しげに溜息をつきます。
「でも、なんだね。あの少年ももうすぐ元気になるしそしたらあんた達とはお別れだね。せっかく仲良くなれたのに残念だよ。また淋しくなるねぇ」
[続く]
今では時おり杖を片手に屋外を散歩する様になっており彼がやがて完全回復し仲間たちと共に旅を再開出来るのも時間の問題かと思われました。
しかしやはり命に関わる病にかかったダメージは大きく魔女マンスリーの助言もありメデューサたちはシュナンの病が完全に癒えるまでは魔女の家に逗留し彼の様子を見守る事にしたのでした。
そしてさすがに何のお返しもせずに世話になるのも悪いのでメデューサと旅の仲間たちは魔女マンスリーの家にやっかいになっている間できるだけ彼女の手助けをしたいと考えたのでした。
そこでボボンゴは力仕事、料理などが上手なレダは家事一般、そしてメデューサはマンスリーの家の庭で花壇の世話や野菜作りを手伝う事にしました。
ちなみに吟遊詩人デイスは肉体労働が苦手なのでベッドで療養しているシュナン少年の世話を一手に引き受けました。
そんなわけで今日も今日とてシュナンの世話をデイスに任せたメデューサは魔女マンスリーと肩を並べ庭仕事に精を出していたのです。
魔女の家の庭先には様々な種類の家庭菜園や花畑が作られまさしく百花繚乱といった感じの情景が春の日差しの中に広がっています。
メデューサはマンスリーに付き添われながらその広い庭のあちこちに移動して雑草を抜いたり花や野菜の選定や水やりなど様々な農作業を行いました。
そして今現在メデューサは庭の一角に生育しているライラックの茂みの前に立ち隣にいるマンスリーの指示でその小さな白い花を数多くつけた多年生の植物の根元にジョウロで水をまいていました。
メデューサはマンスリーに渡された魔法のジョウロで水やりをしておりそのジョウロは水を足さなくても無限にシャワーのように水が出る仕様になっていました。
メデューサは手に持ったジョウロで水を振りまきながら緑の葉に溜めた水滴をキラキラと弾かせるライラックの茂みの生命力にあふれるその姿に思わず感嘆のため息を漏らします。
そして緑の茂みの間からチラホラと顔を覗かせる小さく可憐な白い花を見ながら誰に言うでもなく呟いていました。
「きれい・・・なんでこんなに綺麗なんだろう」
メデューサの隣に立って彼女が水やりをする様子を見守っていたマンスリーは自身もライラックの茂みの方に目をやるとゆっくりとした口調で言いました。
「頑張って生きているからさ。一生懸命に生きているから美しいんだ」
水やりをする手を止めて隣に立つマンスリーの方に蛇の前髪に覆われた顔を向けるメデューサ。
「生きてるから・・・」
メデューサの思わず放ったつぶやきを引き取るように魔女マンスリーは後ろ手を組みながら話し続けます。
「花は自分が育つ場所は選べない。種がどこで芽吹くかわからないからね。でも、どんな場所で芽吹こうとそこで精一杯生きて花を咲かせようとするー。それが花の心なんだよ」
メデューサはマンスリーの言葉に真摯に耳を傾けていましたが心にふとした疑問が起こりました。
なので彼女はその疑問を隣に立つマンスリーにぶつけて見る事にしました。
「でも、花の種は芽吹かない事もあるわ。たとえ芽吹いても花を咲かせるまで育たない事もある。環境によってはすぐに枯れたり種のままで終わる場合ももちろんある。そういう場合にはその命にはなんの価値も無いのかしら。生まれた意味や生きるべき理由もー」
しかしそんな疑問を投げかけるメデューサに対して魔女マンスリーは頭を横に振りながら言いました。
「そんな風に思うのは本当は誰しもが幸せを求めているからなんだよ。物事の順序を間違えちゃいけないよ、メデューサ。それに命の価値や意味は自分や他人が決めるものじゃない。それは命自体に最初から備わっているものなんだ。本来持っている命の価値や意味をうまく発揮できないから全ての生き物は苦しむんだよ。そして幸福になろうとする意思は命の本質であり全ての生き物に等しく備わっているものなんだ。全ての生き物に平等にね。その事を否定出来る者はこの世に一人もいないんだよ。たとえ神でもね」
マンスリーの言うことは魔物の小学校しか出ていないメデューサには少しわかりにくかったのですがそれでも懸命に耳を傾けてその意図を汲み取ろうとしていました。
魔女マンスリーは目を細めてそんなメデューサを見ています。
そしてライラックの茂みの方へもう一度目を馳せると更に言いました。
「でも確かに環境は大事だよね。どんなに強い種でも雨一滴降らない砂漠では花を咲かせる事は出来ないしね。誰かが水や肥料をやり育ててあげないと。でもー」
マンスリーはメデューサが水をやっているライラックの茂みを指差して静かな声で告げました。
「でもこのライラックは大丈夫。きっと綺麗な花を咲かせるよ。だってお前が水をあげたんだから」
その言葉を聞いたメデューサは手にした魔法のジョウロをぎゅっと握りしめるとコクリと顔をうなずかせます。
そんなメデューサを横目で見ながらマンスリーは尚も語り続けます。
「実はねメデューサ。かく言うあたしもこの地でもう一花咲かせたいと思ってるのさ。まぁ、ずいぶん年をとってしまって若い時のようにはいかないかもしれないけど。でも人間は幾つになっても自分の幸せを求めて生きていくものだからね。特にあたしは昔から欲張りだしそう簡単にあきらめたりはしないのさ。幸せになる事をね。きっと死ぬその瞬間までそうなんだろうね」
そう言ってマンスリーは隣に立つメデューサに軽くウインクをします。
「とりあえず早く村の連中の誤解を解いて仲良くならないとね。色々大変だけど頑張るよ。だってわたしはこの場所で花を咲かせるって決めたんだから」
マンスリーの隣でジョウロを片手に立つメデューサは魔女にいきなりウインクをされて驚きます。
しかし陽気な口調で己の生き方や考えを語る大魔女のそのちょとお茶目で親しみやすい素顔を目の当たりにしてメデューサの口元には思わず笑みが浮かびます。
そして幾つになっても自分や周りの人々を幸福にしようと努力し続ける彼女の姿に深い尊敬の念を抱くと同時にさすがはシュナン少年の大師匠にあたる人物だと思いました。
老いてなお盛んな精神を持つ彼女の姿はメデューサの中で幼少期において過酷な環境にあったにも関わらず他者に対する慈悲と正義の心を失わなかったシュナン少年の姿とどこか重なって見えたのでした。
そんな思いを抱きつつマンスリーと共に庭の植物たちの世話を続けるメデューサでしたが彼女は隣にいるシュナンの恩人でもあるこの老魔女の事がいつのまにか好きになっていました。
そして恐らく苦境にあるであろう隣に立つこの人を助けたいと心の底から思いました。
少なくとも今のところは魔女マンスリーと周囲の村人との関係は良好とはいえずもしなんらかのきっかけで状況が悪化した場合、彼女が迫害と排除の対象となりかねない事は火を見るより明らかでした。
メデューサは庭仕事に従事しながらもマンスリーがそんな酷い目にあうのを防ぐ為にどうにか魔女と村人の両者を和解させる道は無いかと頭を悩ませます。
そしてマンスリーと肩を並べてその指示で庭のトマトに魔法のジョウロで水をかけていた時にメデューサの頭に一つのアイデアが浮かびました。
(そうだわ。これなら、おばあさんを助けれるかもー)
そんな蛇娘の心を知ってか知らずかマンスリーはメデューサが庭に水を振りまく様子を横目で見ながら後ろ手を組みちょっと淋しげに溜息をつきます。
「でも、なんだね。あの少年ももうすぐ元気になるしそしたらあんた達とはお別れだね。せっかく仲良くなれたのに残念だよ。また淋しくなるねぇ」
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