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アルテミスの森の魔女
その7
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そのころ我らがヒロイン、ラーナ・メデューサはレダが言った通り家獣が待機している場所から少し離れた湖の全景が良く見える開けた草地で膝を立てて座り込みそこから見える風景を目を凝らしながらじっと眺めていました。
湖畔からの涼やかな風が蛇の前髪に隠された彼女の頬にそっと吹き付けます。
つい先ごろまで山奥に引きこもっていた彼女にとってこんな大きな湖を見るのはもちろん生まれて初めてでした。
(シュナンと出会ってからは初めての事ばかりね。見るもの聞くものはもちろんだけど今まで知らなかった色々な気持ちもー。あたし自分の中にこんなに色んな感情があるなんて思いもしなかった)
草地に座りながら湖を眺めるメデューサの心に様々な思いが去来します。
そして湖の美しさに感動しながらもやっぱりシュナン少年と一緒に来れば良かったなとふと思いその蛇の髪の毛で隠された顔をちょっと赤らめました。
そんな風に湖の側の草地に体育座りをして風景を眺めていたメデューサですがそんな彼女の背後に近づく一つの影がありました。
背後に人の気配を感じたメデューサは草地に座ったまま首だけを動かして後ろを振り返ります。
するとー。
「シュ・・・シュナン」
そこにはメデューサがさっきまで心に思い浮かべていた当の相手であるシュナン少年が優しい笑顔を浮かべながら立っていたのでした。
思わず動揺してさらに顔を赤めるメデューサでしたがシュナン少年はそんなメデューサの揺れ動く気持ちを知ってか知らずか穏やかな声で彼女に尋ねます。
「隣に座ってもいい?」
蛇の前髪で隠された顔をコクリとうなずかせるメデューサ。
蛇の髪の下からわずかに覗く顔はほんのりと赤らんでいます。
「よっこらしょ」
シュナン少年は手に持つ杖を地面に置くと草地に体育座りをしているメデューサの横にストンと腰を下ろしました。
水辺の草地に二人並んで座る彼らの顔に湖の水面を渡る涼やかな風がそっと吹き付けます。
シュナンはメデューサの隣で草地に座りながら湖の方にその目隠しをした顔を向けると静かな口調で言いました。
「綺麗な湖だね。もっとも僕は杖を通じてしか周りの景色を見れないからきっと本当はもっと綺麗なんだろうけど」
その言葉を聞いたメデューサは隣に座るシュナンの方にそっと身を寄せると蛇の前髪の隙間から彼の横顔を見上げ真剣な口調で尋ねます。
「ねぇ、シュナンの目は見えるようにはならないの?レプカールは精神的なショックが原因で目の機能自体は問題無いはずだって言ってたけど」
しかし盲目の少年はメデューサの隣で悲しげに首を振ります。
「どうかな・・・。都て何人かの腕の良い医者に診てもらったけど結局駄目だったし」
その時、メデューサと並んで草地に座るシュナン少年が傍らの地面に置いている師匠の杖が急に声を発します。
「シュナンは目が見えなくても充分頑張っていると思うぞ。それに悪い事ばかりではないぞメデューサ。二人が仲良くなれたのはシュナンの目が見えずその為にお前が自身の魔眼を気にする必要が無かったからではないか」
「・・・」
メデューサは師匠の杖の指摘は一理あるとは思いましたが改めてそう言われるとまるで自分がシュナンの身体の障害のおかげで得をしていると指摘された気がしてなんだか心がモヤモヤしました。
シュナンはそんなメデューサを気遣うように隣に座る彼女に声をかけます。
「僕には目が見えていた時の記憶がほとんど無いからね。見えないのが当たり前だからそんなに気にしてないよ。確かに不自由ではあるけれど。それに今は杖を通じてある程度は周囲の状況を把握できるしね。だけどー」
シュナンは一呼吸置くと自分の今の思いをメデューサに告げました。
「実は最近はやっばり目が見えるようになればいいとよく思うんだ。その・・・どうしても見たいものが出来たから」
「見たいもの?それって・・・」
シュナンの隣で水辺の草地に座りながらきょとんと首をかしげるメデューサ。
しかしシュナンはその問いには答えず目隠しをした顔に優しげな笑みを浮かべます
そして彼は座っている草地から腰を浮かせると片膝を地面に付けもう片方の足を地面とは直角に立てるまるでプロポーズ時みたいな姿勢であらためてメデューサと向き合います。
更に傍に置いていた杖を地面に立てている方の足にくっつけるように置き直し周囲の状況が把握できるよう視界を確保します。
シュナンは何故か目隠しで覆ったその顔に照れた表情を浮かべると上着のポケットに手を入れて紙で包装された小さな品物を取り出しました。
その包みの中身は先ほどシュナン少年がデイスと共に村市場に行った時、露天商の男から買った例のネックレスでした。
シュナンは包装紙からそのネックレスを取り出すと両手で持ったそれを正面に座っているメデューサの目の前で拡げました。
その瞬間、シュナン少年と湖畔の岸辺で向かい合うメデューサの蛇で覆われた顔に、驚きの表情が浮かびます。
するとそんなメデューサにシュナン少年はネックレスを拡げて持ったままスッと両手を伸ばすとメデューサの細い首にそのネックレスの金の鎖をそっと巻きました。
思ってもいなかった出来事にメデューサは蛇の前髪の下に隠された二つの赤い瞳を大きく見開きました。
そして自分の胸に光るネックレスと眼前で照れ臭そうに微笑むシュナン少年の顔を交互に見つめます。
「これ・・・わたしに」
目隠しをした顔にはにかんだ笑顔を浮かべてコクリとうなずくシュナン。
するとメデューサは蛇の前髪から覗く顔をこれ以上は無いほど赤らめたどたどしい口調でお礼を言います。
「あ・・・ありがと」
メデューサのお礼の言葉を聞いて照れ臭そうに頭をかくシュナン。
メデューサも感極まったのか首から下げられたそのネックレスを両手で包み込むようにして胸元に押し当て恥ずかしそうにうつむいています。
水辺の草地で向かい合って座る二人はしばし無言で佇みその長く延びた影だけが湖のきらめく水面に写ります。
湖の湖面はキラキラと輝き傾きかけた太陽が彼らのいる場所を穏やかに照らし出していました。
[続く]
湖畔からの涼やかな風が蛇の前髪に隠された彼女の頬にそっと吹き付けます。
つい先ごろまで山奥に引きこもっていた彼女にとってこんな大きな湖を見るのはもちろん生まれて初めてでした。
(シュナンと出会ってからは初めての事ばかりね。見るもの聞くものはもちろんだけど今まで知らなかった色々な気持ちもー。あたし自分の中にこんなに色んな感情があるなんて思いもしなかった)
草地に座りながら湖を眺めるメデューサの心に様々な思いが去来します。
そして湖の美しさに感動しながらもやっぱりシュナン少年と一緒に来れば良かったなとふと思いその蛇の髪の毛で隠された顔をちょっと赤らめました。
そんな風に湖の側の草地に体育座りをして風景を眺めていたメデューサですがそんな彼女の背後に近づく一つの影がありました。
背後に人の気配を感じたメデューサは草地に座ったまま首だけを動かして後ろを振り返ります。
するとー。
「シュ・・・シュナン」
そこにはメデューサがさっきまで心に思い浮かべていた当の相手であるシュナン少年が優しい笑顔を浮かべながら立っていたのでした。
思わず動揺してさらに顔を赤めるメデューサでしたがシュナン少年はそんなメデューサの揺れ動く気持ちを知ってか知らずか穏やかな声で彼女に尋ねます。
「隣に座ってもいい?」
蛇の前髪で隠された顔をコクリとうなずかせるメデューサ。
蛇の髪の下からわずかに覗く顔はほんのりと赤らんでいます。
「よっこらしょ」
シュナン少年は手に持つ杖を地面に置くと草地に体育座りをしているメデューサの横にストンと腰を下ろしました。
水辺の草地に二人並んで座る彼らの顔に湖の水面を渡る涼やかな風がそっと吹き付けます。
シュナンはメデューサの隣で草地に座りながら湖の方にその目隠しをした顔を向けると静かな口調で言いました。
「綺麗な湖だね。もっとも僕は杖を通じてしか周りの景色を見れないからきっと本当はもっと綺麗なんだろうけど」
その言葉を聞いたメデューサは隣に座るシュナンの方にそっと身を寄せると蛇の前髪の隙間から彼の横顔を見上げ真剣な口調で尋ねます。
「ねぇ、シュナンの目は見えるようにはならないの?レプカールは精神的なショックが原因で目の機能自体は問題無いはずだって言ってたけど」
しかし盲目の少年はメデューサの隣で悲しげに首を振ります。
「どうかな・・・。都て何人かの腕の良い医者に診てもらったけど結局駄目だったし」
その時、メデューサと並んで草地に座るシュナン少年が傍らの地面に置いている師匠の杖が急に声を発します。
「シュナンは目が見えなくても充分頑張っていると思うぞ。それに悪い事ばかりではないぞメデューサ。二人が仲良くなれたのはシュナンの目が見えずその為にお前が自身の魔眼を気にする必要が無かったからではないか」
「・・・」
メデューサは師匠の杖の指摘は一理あるとは思いましたが改めてそう言われるとまるで自分がシュナンの身体の障害のおかげで得をしていると指摘された気がしてなんだか心がモヤモヤしました。
シュナンはそんなメデューサを気遣うように隣に座る彼女に声をかけます。
「僕には目が見えていた時の記憶がほとんど無いからね。見えないのが当たり前だからそんなに気にしてないよ。確かに不自由ではあるけれど。それに今は杖を通じてある程度は周囲の状況を把握できるしね。だけどー」
シュナンは一呼吸置くと自分の今の思いをメデューサに告げました。
「実は最近はやっばり目が見えるようになればいいとよく思うんだ。その・・・どうしても見たいものが出来たから」
「見たいもの?それって・・・」
シュナンの隣で水辺の草地に座りながらきょとんと首をかしげるメデューサ。
しかしシュナンはその問いには答えず目隠しをした顔に優しげな笑みを浮かべます
そして彼は座っている草地から腰を浮かせると片膝を地面に付けもう片方の足を地面とは直角に立てるまるでプロポーズ時みたいな姿勢であらためてメデューサと向き合います。
更に傍に置いていた杖を地面に立てている方の足にくっつけるように置き直し周囲の状況が把握できるよう視界を確保します。
シュナンは何故か目隠しで覆ったその顔に照れた表情を浮かべると上着のポケットに手を入れて紙で包装された小さな品物を取り出しました。
その包みの中身は先ほどシュナン少年がデイスと共に村市場に行った時、露天商の男から買った例のネックレスでした。
シュナンは包装紙からそのネックレスを取り出すと両手で持ったそれを正面に座っているメデューサの目の前で拡げました。
その瞬間、シュナン少年と湖畔の岸辺で向かい合うメデューサの蛇で覆われた顔に、驚きの表情が浮かびます。
するとそんなメデューサにシュナン少年はネックレスを拡げて持ったままスッと両手を伸ばすとメデューサの細い首にそのネックレスの金の鎖をそっと巻きました。
思ってもいなかった出来事にメデューサは蛇の前髪の下に隠された二つの赤い瞳を大きく見開きました。
そして自分の胸に光るネックレスと眼前で照れ臭そうに微笑むシュナン少年の顔を交互に見つめます。
「これ・・・わたしに」
目隠しをした顔にはにかんだ笑顔を浮かべてコクリとうなずくシュナン。
するとメデューサは蛇の前髪から覗く顔をこれ以上は無いほど赤らめたどたどしい口調でお礼を言います。
「あ・・・ありがと」
メデューサのお礼の言葉を聞いて照れ臭そうに頭をかくシュナン。
メデューサも感極まったのか首から下げられたそのネックレスを両手で包み込むようにして胸元に押し当て恥ずかしそうにうつむいています。
水辺の草地で向かい合って座る二人はしばし無言で佇みその長く延びた影だけが湖のきらめく水面に写ります。
湖の湖面はキラキラと輝き傾きかけた太陽が彼らのいる場所を穏やかに照らし出していました。
[続く]
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