メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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アルテミスの森の魔女

その13

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 森の中の一軒家に住むその老魔女は玄関先に突如として現れたシュナン一行の姿を見ても全く動じる気配はありませんでした。
彼女は一歩後ろに下がると玄関の扉の前に居並ぶシュナン一行に家の中に入るよう促します。

「そんな所に突っ立ってないで入りな」

マンスリーの言葉に従い戸惑いながらもデイスに背負われたシュナンを先頭にぞろぞろとその魔女の家の中に入って行くシュナン一行。
恐る恐る彼らが入っていったその家の中は一見普通の民家のようでした。
玄関の扉口からは大きなテーブルのある居間につながっており食器棚や本がぎっしりと詰まった棚が置いてあります。
そしてその居間からは家の奥へと通路が伸びていて寝室や台所などに入るための扉がズラリと並んでいます。
先頭に立って家の中を歩くマンスリーは通路に並んだ扉の一つの前に立ち止まりその扉を開くと手招きして部屋の中にシュナンを運び入れるよう指示を出します。
そこは普段は来客用の寝室としてマンスリーが用意している部屋でしたがもう長い間利用されていないようです。
デイスは背負っていたシュナンをその部屋に置かれたベッドになるべくそっと寝かせると大きく息をつきました。
ベッドに寝かされたシュナンは相変わらずぐったりしており熱のせいか意識も朦朧としているようでした。
マントと上着とズボンを脱がされ肌着姿でベッドに横たわる彼をその周りを取り囲み心配そうに見つめる旅の仲間たち。
更にマンスリーはシュナンの容態を確認するため彼が身に付けた肌着を胸元までめくり上げます。
その瞬間、今まで落ち着き払った態度を崩さなかった魔女マンスリーの目が驚きで大きく見開かれます。
何故ならベッドの上で力無く横たわるシュナン少年の露わになった裸の上半身は大小様々な醜い傷でびっしりと覆われていたからです。
ベッドの周りに立って彼を見守っていた旅の仲間たちも知ってはいたけれど改めて見るその酷さに思わず目を背けます。
少年のその傷を目の当たりにした魔女マンスリーは何故かベッドの傍に立つメデューサが持つ師匠の杖をギロリと睨みました。

「随分あこぎな事をしているようだね、レプカール。場合によっちゃタダじゃおかないよ」

しかし今はメデューサの手の中にある師匠の杖はマンスリーの恫喝を受けても平然とそれを受け流し冷静な声で言いました。

「今はそんな事を言っている場合ではありません、師匠。どうか我が愛弟子を助けて下さい」

マンスリーはその言葉を聞くとフンっと鼻を鳴らし改めてベッドに横たわるシュナンの身体を見下ろすと彼の目隠しをした顔に自分の顔を近づけて少年の病状を詳しく確認します。
そして彼の枕元近くでベッドの横に立つマンスリーは彼の額にそっと手を載せると重々しく首を振りました。

「熱病だね。このあたりの風土病だよ。でもー」

首をふりながら言葉を続けるマンスリー。

「普通、魔法使いならこの程度の病気にはかからないよ。なにか精神に大きなショックを受けたんじゃないのかね」

マンスリーとは反対側でベッドに横たわるシュナンの枕元に付き添うメデューサは心配そうに病に伏せる少年の姿を見下ろしていましたがやがて首をかしげて言いました。

「シュナンは強い精神力を持つ人だわ。いったいどうしてこんな事に・・・」

しかし当のメデューサが両手で抱える様に持っている師匠の杖は意味ありげにその先端の大きな目を光らせます。
師匠の杖はシュナンがショックを受けたのはおそらくメデューサとボボンゴが抱き合っている(?)のを見たせいではないかと推測していましたが何も言いませんでした。
しかしメデューサの隣でベッドの側に立ち同じく横たわるシュナン少年を心配そうに見下ろしていたレダが隣の蛇娘に食ってかかります。

「また、メデューサが何かわがまま言って心配をかけたんじゃないの?まったく困ったものね」

本当の原因の一端はメデューサのネックレス奪ったレダ自身にもあるのですがそんな事情を知るよしもなく彼女はシュナンがいつも気にかけ心配しているメデューサが原因ではないかと勝手に考え嫉妬まじりにそんな事を言ったのでした。

「はぁ!?な、何をーっ」

師匠の杖を抱えたままレダを睨みつけるメデューサ。
シュナンの倒れた原因が自分にあると言われメデューサの心に戸惑いと怒りが拡がります。
シュナンが横になっているベッドの側でにらみ合うメデューサとレダ。
しかし彼女たちの反対側でベッドの側に立ちシュナンの容体を見ているマンスリーは穏やかな声で二人を諭します。

「おやめ、病人の前だよ。静かにおし」

その穏やかでありながら威厳に満ちた声に思わず黙り込むシュナンの枕元で喧嘩をしていたメデューサとレダ。
するとその時シュンとなっていたメデューサが持つ師匠の杖が声を発します。

「すいません、グランドーラ様。騒がしい連中で。それよりシュナンの病気は治せるのでしょうか?」

シュナンの枕元に立ってベッドの上の彼を見下ろすマンスリーはその目を細めるとゆっくりとした口調で言います。

「特効薬があればいいんだけど、あいにく今は切らしててね。材料かあればすぐに作れるんだがー」

シュナンの足元近くでベッドの側に立っている吟遊詩人デイスが心配そうな声でマンスリー女史に尋ねます。

「その材料はどこで手に入るんですかい?あっしがひとっ走りして買ってきますぜ」

しかし魔女マンスリーは軽く首を振ると何故かベッドを挟んで自分の向かい側に立つメデューサとレダをその細めた目で見つめます。

「この少年を助ける薬を作る材料を手に入れるにはあんたらの力が必要だよ」

「わたしたちの・・・」

シュナンの枕元でベッドの側に揃って立つメデューサとレダは思わず顔を見合わせます。
そんな二人に対してモンスリーはゆっくりとした口調でシュナンを救う方法について説明を続けます。

「ここから北へ三キールほど行った場所に花咲山といわれる山がある。そこに咲いている七色の花を摘んでくるんだよ。そしてそれはこの少年を愛している娘にしか出来ない事だ」

「どういう事ですかい?」

シュナンの足元の方でベッドの側に寄り添う吟遊詩人デイスが首をひねります。
魔女モンスリーはベッドの周りを取り囲むシュナンの仲間たちをぐるりと見回すと噛んで含める様に説明し続けます。

「その花は普段はつぼみの状態なんだけど異性を愛する強い心に反応して花を咲かせるのさ。だからこの少年を愛する誰かが山に花を取りにいけばきっとその心に反応してつぼみだった花のどれかが花を咲かせそれを手に入れる事が出来るはず。万病を癒すという七色の花びらを持つ魔法の花をね」

マンスリーの説明を聞いてシュナンの枕元に寄り添うメデューサとレダの二人はベッドの側に並んで立ちながらお互いの顔を見合わせます。
そしてメデューサはそのフードに隠された顔をマンスリーの方へ向け意を決したようにうなずきます。

「わかりました、おばあさん。その山に行って咲いている花を取ってくればいいんですね。七色の花を」

メデューサの隣に立つレダも負けじと言いました。

「わかったわ、任せて。メデューサ、あんたの足じゃ山道は時間がかかるわ。わたしがペガサスに変身して背中に乗せて山まで運んであげる。ケンカしてる場合じゃないしね。でも山についたらどちらが先に花を見つけるか競争よ」

レダの言葉にフードの中の顔をコクリとうなずかせるメデューサ。
どうやら二人はシュナンの危機を前に争うのをやめて一致協力する事にしたようです。
そんな二人の姿を見てベッドの周りにいる他の旅のメンバーである吟遊詩人デイスはホッと胸を撫で下ろしメデューサがその手に持つ師匠の杖もなんだか安心したみたいにその目を光らせます。
魔女マンスリーもいったん仲直りしたメデューサとレダの方を見つめ軽くうなずき口元に笑みを浮かべます。

「それでいい。この少年を思う純粋な気持ちこそがあの山の花を開花させるエネルギーの源なんだからね。あんたたちなら必ずあの山で自分の心が咲かせた特別な花を見つける事が出来るはずだよ。誰のものでもない、自分だけの花をね。あっと、そうだ。もう一つ伝えなきゃー」

マンスリーがさらに話を続けようとしたその時でした。
突如として家の玄関先からなにかガラスの割れるような音が彼らのいる部屋まで響いて来ました。

ガシャンッ!!!

それはシュナン一行が最初に家に入った時に通過した玄関口近くに設けられた大きな居間の窓ガラスが何者かによって割られた音でした。

[続く]


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