メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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アルテミスの森の魔女

その9

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 シュナンから自分がもらったネックレスを渡すようにレダに言われたメデューサ。
こちらに向かって差し出されたレダの白い手を見つめるメデューサは蛇の髪の奥に隠されたその顔に戸惑いの表情を浮かべました。
しかしこれといって断る理由も見つからずメデューサは仕方なく自分の首に手を回すとそこにかけていたネックレスを外すとレダの手に渡しました。
するとネックレスを手渡されたレダはニタリと笑います。
そしてメデューサから受け取ったネックレスを片手に持ち頭上に高く掲げると挑発するような口調で声を発します。

「やっぱりすごく素敵っ!これあたしにくれない?」

その瞬間、メデューサの顔からサッと血の気が引きます。

「はあっ!?な・・・何言って」

レダのとんでもない発言に驚くメデューサ。
シュナンの心のこもったプレゼントを簡に他人に渡せるわけがありません。

「返してっ!!お願いっ!!」

ネックレスを頭上に掲げ喜色満面のレダに叫びながら飛びかかるメデューサ。
メデューサは両手を伸ばしてレダに掴みかかり彼女からネックレスを取り返そうとします。
しかし悲しいかなメデューサはレダよりずっと背が低くどんなに懸命に腕を伸ばしてもレダが片手で高々と頭上に掲げたネックレスにはまるで手が届きません。
必死にネックレスを取り返そうと自分にしがみついてくるメデューサに対してレダはおどけるみたいにステップを踏んで軽々とそれをかわします。
そしてメデューサの手の届かない位置で片手で持っているそのネックレスを見せびらかすように軽く振りました。

「大丈夫っ!シュナンにはあんたからもらったって言っておくから」

「ーっ!!!」

その瞬間メデューサの蛇の前髪がぞわりとめくれ上がりました。
そしてその下に隠されていた真紅の魔眼があらわになり憎しみの光を放ちます。
さすがに調子に乗っていたレダもメデューサの尋常じゃない様子を見てそのふざけた態度を改めます。

「な、何よ。あたしに魔眼を使う気?」

その言葉を聞いたメデューサは一瞬ビクッと身体を震わせました。
すると怒りでかま首を持ち上げていた彼女の蛇の髪の毛が急に力を失いぐったりとなって再びその顔を覆いました。
その蛇で覆われた顔をうつむかせがっくりと肩を落とすメデューサ。
メデューサの身体は小刻みに震えておりどうやら精神的に強いショックを受けたみたいでした。
レダはそんなメデューサの姿をばつの悪い表情で見つめています。
その時でした。
気まずい雰囲気の中、小道の上で無言で向かい合って立つ二人に歩み寄り声をかける大きな一つの影がありました。
それはレダと同じくメデューサを捜していた巨人ボボンゴでした。

「おい、どした、二人共?そんなとこで、何してる?」

ボボンゴは小道の真ん中で何やら険悪な感じで向かい合って立つ二人に近づくとがっくりと肩を落として震えるメデューサとその前で気まずそうに腕を組むレダを交互に見つめます。
そしてある程度事情を察したのかまず気まずそうに腕を組んで立っているレダに尋ねます。

「どうした、レダ?もしかして、メデューサに、意地悪したか」

しかし気まずそうにしているレダはボボンゴの顔をまともに見ようともしません。
そして無言でボボンゴの手にメデューサから奪ったネックレスを乗せるとプイッと横を向きました。

「あたし先に帰ってる」

そう言うとレダはメデューサとボボンゴに背を向けてシュナンとデイスが荷物を整理しながら待っているはずの家獣を待機させている森の奥へとつながる小道の方へと去っていきます。
ボボンゴはしばしその背中を戸惑いながら見つめていましたがやがて去りゆくレダの方を見ようともせずうつ向いたまま草地に立ち尽くすメデューサの方へその困惑した顔を向けました。
そして彼女の手にレダから受け取ったネックレスをそっと握らせ優しい声で聞きました。

「これメデューサのか。喧嘩の原因これか?でも喧嘩良くない。俺たち、仲間」

しかしメデューサはボボンゴからネックレスは受け取ったものの相変わらず顔をうつ向かせ無言で立ち尽くしています。
眼前で蛇で覆われた顔をうつ向かせて立つメデューサを見下ろすボボンゴは彼女にどう声をかけたら良いのかわからずその顔に戸惑いの表情を浮かべます。
しかし彼はやがてメデューサが声を殺しながら泣いている事に気付きます。

「あたし・・・魔眼を使いそうになった。あんな事で・・・。友達のレダに・・・ついカッとなって。友達に・・・。あたし・・・怖い」

嗚咽しながら振り絞るように声を出すメデューサ。
蛇の前髪の隙間を縫って流れ落ちるいく筋もの涙がメデューサの頬を濡らします。

「メ、メデューサ・・・」

思わずボボンゴはメデューサの右の肩に片手を置くともう一方の手を彼女の背中に回しポンポンと優しく叩きました。
メデューサも涙に濡れたそのうつ向かせた顔をボボンゴのたくましい胸の中にうずめます。
はた目から見ると二人は湖の側の小道の上でギュッと抱き合っているみたいに見えました。

「大丈夫だ。メデューサ、優しい子。ボボンゴ、よく解ってる。だから大丈夫、大丈夫だ」

メデューサの肩を抱きながら励ましの言葉を彼女にかけるボボンゴ。
メデューサはボボンゴの胸にその顔をうずめながら泣き続けています。
湖の側で身を寄せ合って立つ二人の姿を黄昏時の日の光が優しく照らし出していました。
そしてそんな二人の姿を少し離れた木陰から見つめていたのはー。
シュナン少年でした。
シュナンはメデューサと別れ他の仲間たちの元に一人で戻ろうとしていました。
しかしその途中でやはり日が暮れる前にメデューサを連れて一緒に帰った方がいいと思い直しました。
そこで一旦通った道を引き返して再び湖の側のこの場所まで戻って来たのでした。
そしてメデューサとボボンゴが湖の側の小道で身体を密着させて抱き合っているみたいな姿をたまたま目撃してしまったのでした。
思わず二人のその姿から背を背け手に持つ師匠の杖をギュッと握りしめるシュナン。
なんだかショックを受けた様子の弟子に彼がその手に握る師匠の杖が声をかけます。

「どうした、シュナン?顔色が悪いぞ」

「いえ・・・」

シュナンの目隠しをしたその顔は師匠の言う通りなんだか青ざめており確かに普通ではありませんでした。
二人が寄り添っている姿に背を向けたシュナンは目隠しをした顔をうなだれ肩を落としたまましばらくの間無言で路上に佇んでいました。
シュナンは湖の方へ背を向けたまま振り返りもせずしばらくその場に立ち尽くしていましたがやがてトボトボと今来た道を引き返し始めました。
先ほどメデューサと別れた時とは打って変わって肩を落とし今来た道を戻るシュナン。 
寂しげに歩く彼の後ろ姿は「家獣」を待機させている森の奥へとつながる木々に挟まれた小道の向こうへとやがて消えて行きました。

[続く]
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