7 / 99
アルテミスの森の魔女
その6
しおりを挟む
さて、その後もシュナンとデイスの二人は村市場で買い物を続け必要な物を入手すると次々にデイスの持つ魔法のエコバックに詰め込んでいきました。
そして買い物を一通り済ませると村を出て先ほど来た道を逆に戻りメデューサたちが家獣と共に待つ湖のほとりを目指して歩みを進めます。
彼らが村を出て並木の間を通る一本道を歩き始めてしばらくたった時の事です。
シュナン少年がふいにその歩く足を止めます。
彼が足を止めたのは周りに広がる森の奥へと入る脇道がある場所であり先ほど村に行く時にも立ち止まった魔女の家への案内板がかけられた大きな木の前でした。
その森の奥へと向かう分かれ道の前に立ち止まったシュナン少年は手に持っている師匠の杖にあらためて聞きました。
「この森の奥で店を構えているという魔女はグランドーラ様だったんですね。師匠は気づいてたんですか?」
魔女の家への案内文が記された木製の看板が掲げられた大きな木の方に顔を向けながら質問して来る弟子に対し師匠の杖はその大きな目を光らせながら答えます。
「ああ、その看板に刻まれた薔薇の紋章は間違いなく。我が師のものだ。西の都を出てからあちこちの国をを旅されていたようだが最近この土地に落ち着かれたのだろう。まぁ、村人たちとはあまりうまくいってないようだがな」
その木に掛けられた看板には魔女の家が森の奥の脇道を入った道なりにあって薬草などを売っている事を知らせる文章と共に薔薇を元にデザインされた紋章が刻み込まれていました。
するとその時ふいにシュナンの隣に立つ吟遊詩人デイスが横から口を出してきました。
「でも、村で聞いた話は本当なんですかい?彼女は恐ろしい魔女で近づくと命が無いってのはー」
シュナンがその手に持っている師匠の杖はその先端部の円板についている目を光らせながら答えました。
「ふんっ、まさか。確かに怒らせれは恐ろしい方だがむやみやたらと人を傷付ける御仁ではない。恐らく誰かがあの方を陥れる為におかしな噂を流しているのだろう。何のためかは判らぬがな」
師匠の杖のその言葉を聞いて彼をその手に持つシュナンが再び聞きます。
「会いにいきますか、師匠。この森の奥へと脇道を行けばグランドーラ様の住む家までたどり着けるはず。それに彼女がトラブルに巻き込まれているのなら何かお力になれるかもしれません」
人間の村へと繋がる道と分岐した森の奥深くへと繋がる脇道の方に顔を向けながら手にした師匠の杖に尋ねるシュナン。
しかし彼の手に握られている師匠の杖はその大きな目を光らせながらどこか沈んだ口調で声を発します。
「いや、わたしはあの方に破門された身だからな。合わせる顔がないよ。それに今はいくら師匠とはいえ他人事にかかずらっている場合ではない。我々には大事な使命があるのだから」
「それもそうですね・・・。わかりました、師匠」
シュナン少年は師匠の杖の言葉にうなずくと分かれ道の方から身体を背けクルリと踵を返しました。
そして再び吟遊詩人デイスと肩を並べ仲間たちの待つ湖のほとりまで戻る為に元来た道を引き返し始めます。
魔女の家へと向かう分岐点を後にした彼らは村へと真っ直ぐに続く道を来た時とは逆方向に早歩きで歩き帰路を急ぎます。
だんだんと遠ざかる二人の並んで歩く後ろ姿を魔女の家へと向かう目印である看板がかかった大きな木が静かに佇みながら見送っていました。
さて、人間の村での買い物を済ませたシュナンとデイスは村の周囲を囲む森の中を通過してやがて人気のない場所までたどり着きました。
するとシュナン少年は最初にこの辺りまで来た時と同じく片手に杖を持ったままエコバックを携えたデイスを両腕で羽交い締めにする様に後ろから抱きかかえると何やらブツブツと呪文をつぶやき始めます。
シュナン少年が魔法の呪文を唱えると彼の身体は自分よりも一回り大きなデイスの身体を背後から抱きかかえたまま空中にフワリと浮き上がります。
そしてシュナンは師匠の杖を脇に挟みエコバックを持つデイスを背後から持ち上げたままマントを翻して空を飛びメデューサたちが家獣と共に待機する湖のほとりを目指し来た時とは逆方向に森の木々の頭上をひとっ飛びで越えていきました。
やがて眼下に湖が見えるとそのほとりにはうずくまる家獣の巨体とその近くで空を見上げながら手を振るレダとボボンゴの姿がありました。
そこでシュナンは空中で一旦停止するとデイスの両脇を背後から抱えたまま仲間たちがその前で待つ家獣の巨体の側の草地の上にスーッと降り立ちました。
こちらに飛んでくるシュナンを見つけて手を振りながら空を見上げていたレダとボボンゴはシュナンがデイスを抱えたまま地上に降り立つのをみると草地を駆けて彼の元に走り寄ります。
「おかえり、シュナン」
「大丈夫だったか」
口々に声をかけてくる二人に笑顔で応えるシュナン。
シュナンと共に地上に降り立ったデイスも慣れない空中飛行で少し顔を引きつらせながらも持っていたエコバッグを頭上に掲げて自慢げに笑いながら言います。
「買い物はバッチリですぜ!見て下さい!」
そう言って魔法のエコバッグからいくつか品物を取り出して見せるデイス。
買い物帰りの二人の元に駆け寄ったレダとボボンゴも感嘆した表情をその顔に浮かべています。
シュナンも師匠の杖を通して仲間たちの様子を見ていましたがふとその場にメデューサの姿が無いことに気づきました。
「メデューサはどこに行ったんだい?」
シュナンの質問にデイスがバックから取り出した大きなニンジンを手にするレダが答えます。
「なんか湖の方へ行ったみたいよ。あなたと一緒に行くつもりだったらしいけど待ちきれなかったみたい。まったく落ち着きがないんだから」
「そう・・・」
シュナンは杖を通じて湖のきらめく水面を眺めると静かな口調で言いました。
そしてメデューサへの贈り物が入っている上着のポケットを軽く杖を持っていない方の手でそっと押さえました。
[続く]
そして買い物を一通り済ませると村を出て先ほど来た道を逆に戻りメデューサたちが家獣と共に待つ湖のほとりを目指して歩みを進めます。
彼らが村を出て並木の間を通る一本道を歩き始めてしばらくたった時の事です。
シュナン少年がふいにその歩く足を止めます。
彼が足を止めたのは周りに広がる森の奥へと入る脇道がある場所であり先ほど村に行く時にも立ち止まった魔女の家への案内板がかけられた大きな木の前でした。
その森の奥へと向かう分かれ道の前に立ち止まったシュナン少年は手に持っている師匠の杖にあらためて聞きました。
「この森の奥で店を構えているという魔女はグランドーラ様だったんですね。師匠は気づいてたんですか?」
魔女の家への案内文が記された木製の看板が掲げられた大きな木の方に顔を向けながら質問して来る弟子に対し師匠の杖はその大きな目を光らせながら答えます。
「ああ、その看板に刻まれた薔薇の紋章は間違いなく。我が師のものだ。西の都を出てからあちこちの国をを旅されていたようだが最近この土地に落ち着かれたのだろう。まぁ、村人たちとはあまりうまくいってないようだがな」
その木に掛けられた看板には魔女の家が森の奥の脇道を入った道なりにあって薬草などを売っている事を知らせる文章と共に薔薇を元にデザインされた紋章が刻み込まれていました。
するとその時ふいにシュナンの隣に立つ吟遊詩人デイスが横から口を出してきました。
「でも、村で聞いた話は本当なんですかい?彼女は恐ろしい魔女で近づくと命が無いってのはー」
シュナンがその手に持っている師匠の杖はその先端部の円板についている目を光らせながら答えました。
「ふんっ、まさか。確かに怒らせれは恐ろしい方だがむやみやたらと人を傷付ける御仁ではない。恐らく誰かがあの方を陥れる為におかしな噂を流しているのだろう。何のためかは判らぬがな」
師匠の杖のその言葉を聞いて彼をその手に持つシュナンが再び聞きます。
「会いにいきますか、師匠。この森の奥へと脇道を行けばグランドーラ様の住む家までたどり着けるはず。それに彼女がトラブルに巻き込まれているのなら何かお力になれるかもしれません」
人間の村へと繋がる道と分岐した森の奥深くへと繋がる脇道の方に顔を向けながら手にした師匠の杖に尋ねるシュナン。
しかし彼の手に握られている師匠の杖はその大きな目を光らせながらどこか沈んだ口調で声を発します。
「いや、わたしはあの方に破門された身だからな。合わせる顔がないよ。それに今はいくら師匠とはいえ他人事にかかずらっている場合ではない。我々には大事な使命があるのだから」
「それもそうですね・・・。わかりました、師匠」
シュナン少年は師匠の杖の言葉にうなずくと分かれ道の方から身体を背けクルリと踵を返しました。
そして再び吟遊詩人デイスと肩を並べ仲間たちの待つ湖のほとりまで戻る為に元来た道を引き返し始めます。
魔女の家へと向かう分岐点を後にした彼らは村へと真っ直ぐに続く道を来た時とは逆方向に早歩きで歩き帰路を急ぎます。
だんだんと遠ざかる二人の並んで歩く後ろ姿を魔女の家へと向かう目印である看板がかかった大きな木が静かに佇みながら見送っていました。
さて、人間の村での買い物を済ませたシュナンとデイスは村の周囲を囲む森の中を通過してやがて人気のない場所までたどり着きました。
するとシュナン少年は最初にこの辺りまで来た時と同じく片手に杖を持ったままエコバックを携えたデイスを両腕で羽交い締めにする様に後ろから抱きかかえると何やらブツブツと呪文をつぶやき始めます。
シュナン少年が魔法の呪文を唱えると彼の身体は自分よりも一回り大きなデイスの身体を背後から抱きかかえたまま空中にフワリと浮き上がります。
そしてシュナンは師匠の杖を脇に挟みエコバックを持つデイスを背後から持ち上げたままマントを翻して空を飛びメデューサたちが家獣と共に待機する湖のほとりを目指し来た時とは逆方向に森の木々の頭上をひとっ飛びで越えていきました。
やがて眼下に湖が見えるとそのほとりにはうずくまる家獣の巨体とその近くで空を見上げながら手を振るレダとボボンゴの姿がありました。
そこでシュナンは空中で一旦停止するとデイスの両脇を背後から抱えたまま仲間たちがその前で待つ家獣の巨体の側の草地の上にスーッと降り立ちました。
こちらに飛んでくるシュナンを見つけて手を振りながら空を見上げていたレダとボボンゴはシュナンがデイスを抱えたまま地上に降り立つのをみると草地を駆けて彼の元に走り寄ります。
「おかえり、シュナン」
「大丈夫だったか」
口々に声をかけてくる二人に笑顔で応えるシュナン。
シュナンと共に地上に降り立ったデイスも慣れない空中飛行で少し顔を引きつらせながらも持っていたエコバッグを頭上に掲げて自慢げに笑いながら言います。
「買い物はバッチリですぜ!見て下さい!」
そう言って魔法のエコバッグからいくつか品物を取り出して見せるデイス。
買い物帰りの二人の元に駆け寄ったレダとボボンゴも感嘆した表情をその顔に浮かべています。
シュナンも師匠の杖を通して仲間たちの様子を見ていましたがふとその場にメデューサの姿が無いことに気づきました。
「メデューサはどこに行ったんだい?」
シュナンの質問にデイスがバックから取り出した大きなニンジンを手にするレダが答えます。
「なんか湖の方へ行ったみたいよ。あなたと一緒に行くつもりだったらしいけど待ちきれなかったみたい。まったく落ち着きがないんだから」
「そう・・・」
シュナンは杖を通じて湖のきらめく水面を眺めると静かな口調で言いました。
そしてメデューサへの贈り物が入っている上着のポケットを軽く杖を持っていない方の手でそっと押さえました。
[続く]
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。


メデューサの旅
きーぼー
ファンタジー
ギリシャ神話をモチーフにしたハイファンタジー。遥か昔、ギリシャ神話の時代。蛇の髪と相手を石に変える魔眼を持つ伝説の怪物、メデューサ族の生き残りの女の子ラーナ・メデューサは都から来た不思議な魔法使いの少年シュナンと共に人々を救うという「黄金の種子」を求めて長い旅に出ます。果たして彼らの旅は人類再生の端緒となるのでしょうか。こちらは2部作の前半部分になります。もし気に入って頂けたのなら後半部分(激闘編)も是非御一読下さい


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる