メデューサの旅 (激闘編)

きーぼー

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アルテミスの森の魔女

その3

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 さて、シュナンたちを乗せた「家獣」はアルテミスの森の外れにたどり着くとその湖の近くの少し開けた場所にしばし止まり小休止する事にしました。
人間の集落に買い出しに行く予定のシュナンとデイスを他の旅の仲間たちがそこで待機して待つためです。
長い長い脚を持つ「家獣」はシュナンの号令でその脚を折りたたむとその象のような胴体は地上に向かってスーッと降りていきます。
地上に着地した魔物の胴体の上にはシュナンたちが生活するための平屋建ての家が乗っかっておりその脚を折りたたんで地面にうずくまる姿は遠目から見るとまるで森に囲まれた小さな丘に建つ木造の一軒家みたいに見えました。
その家の中から出て「家獣」の胴体に付いている階段を降り魔物がうずくまっている緑の草地に降り立つシュナン一行。
彼らは湖のほとりで久々に地面の感触を確かめると大きく身体を間伸びさせ森の中の新鮮な空気を吸い込みます。

「うーん、いい天気」

ペガサスの少女レダはその両腕を頭上に上げて背中を大きく反らし身体を伸ばすと気持ち良さそうに声を発します。

「さすが、古い森、空気、おいしい」

緑の巨人ボボンゴも大きく深呼吸して大森林の新鮮な空気を思い切り味わっています。

一方で二人並んで立つシュナンとメデューサは「家獣」のうずくまっている森の草地になっている場所から見えるキラキラとした湖に目を奪われていました。

「素敵ね、シュナン」

「ああ、後でもう少し近くで見てみよう」

うっとりした表情で湖を見つめながらシュナンに寄り添うメデューサ。
シュナンは目隠しをした顔を彼女の方へ向けて優しい笑顔を浮かべています。
そして、吟遊詩人デイスは他のメンバーから少し離れた森の入り口に近い場所に佇みそこに生い茂る高い木々の側で何かインスピレーションを受けたのかまたしても竪琴を弾き鳴らし歌を歌い始めました。

深き森の奥にたおやかな光が差し込み♪

まだ蕾のままの固き花弁を朝露が濡らす♪

湖に浮かぶ睡蓮の風に揺れる有様よ♪

さながら現世は幻か美しき夢の如し♪

さて、このように久々に地上に降り立ってそれぞれ周りの美しい自然や広々とした景色をしばらくの間、満喫していた彼らですがやがてリーダーであるシュナンが他のメンバーに向かってよく響く声で告げました。

「それじゃ、僕とデイスは近くにある人間の村まで買い出しに行ってくるよ。他のみんなはここで待機していてくれ」

その言葉を聞いた吟遊詩人デイスは竪琴を弾くのをやめるとニヤリと笑って言いました。

「ガッテンですぜ。シュナンの旦那。人間たちとの交渉は任せて下さい」

しかしその時、シュナンと一緒に湖を見ていたメデューサが隣に立つ少年に心配そうに声を掛けました。

「やっぱり、わたしも行こうか?シュナン。二人だと荷物を持つのも大変だわ。マントを着てフードをかむれば村の人間たちにはわたしの正体は隠せると思うしー」

けれど、そんなメデューサに少し離れた草地の上で寝転んで屈伸運動していたレダが口を挟んできます。

「ちょっとメデューサ正気?この辺りはあなたにとって敵地とも言っていい場所なのよ。貴方の一族と王国を滅ぼした女神さまが支配している場所なんだからー。メデューサ王の末裔であるあなたがこの地に足を踏み入れている事を知られたら只では済まないわ」

そして、草地に寝転んでいた彼女はその姿勢からパッと立ち上がると今度はシュナン少年に対して軽くウインクして言いました。

「荷物運びの人手が足りないならわたしが行くわ。人間形態なら旅の女戦士で通るだろうしメデューサよりは力はあるしね」

グッと白い腕を曲げて見せるレダに対して今度はメデューサが反論します。
彼女はレダの黒色の革ビキニを身につけた身体に指を突きつけると咎めるみたいな口調で声を発します。

「そ、そっちこそそんな裸同然の格好をして街を歩いたら目立つでしょう!?痴女かと思われるわよ。まぁ、実際そうなんだから仕方ないけど・・・」

「ハァッ!?」

メデューサの挑発を受けてレダは腰に手を当てるとシュナンの隣で隠れるように立つ蛇娘の顔をキッと睨みつけます。

「なによ、メデューサ。あんたケンカ売ってるの?この格好はペガサス族の由緒ある伝統衣装なの。いくら主人(あるじ)筋だからって馬鹿にするならタダじゃおかないわよっ!」

湖のほとりで互いに睨み合うメデューサとレダ。
対峙する二人の間に立つシュナンや少し距離を置いて様子見しているボボンゴやデイスはそれぞれの顔に戸惑いの表情を浮かべます。
仲が良いと思ったらつまらない事で言い争いをしたりこの二人はまるで本当の姉妹のようでした。
やがて醜い女同士のいさかいを見かねたのか吟遊詩人デイスがことさらに陽気な声を発して仲間たちに自分の考えを伝えました。

「買い物するだけならあっしとシュナンの旦那だけで充分ですぜ。こいつを使えばー」

そう言うと彼は白いマントの内側に隠し持っていた折りたたんだ布のような何かを取り出しました。
それは肩にかけるタイプの布製の手提げ袋のようでした。
いわゆるエコバッグというやつです。
デイスはその折りたたんだバックを広げると仲間たちに自慢げに言いました。

「見てくだせえ。このバックならいくらでも荷物が入りますぜ」

シュナンの仲間たちはそのエコバッグを手に持って拡げているデイスの側に集まるとパカリと開かれたバックの内側をみんなで覗き込みました。
するとー。
肩に掛けれるほどの大きさのそのバックの内側にはまるで深い夜空を覗き込んだかのような暗闇がどこまでも広がっていたのです。

「すごい、底なし」

驚愕する巨人ボボンゴ。
さっきまでケンカしていたメデューサとレダも二人してその不思議なエコバッグの中身を覗き込み目を丸くしています。
やがて師匠の杖を通じてバックの内側に広がる闇を見つめていたシュナン少年が感心した声を出しました。

「どうやら高度な魔法技術でつくられた肩掛けバックのようですね。荷物がいくらでも入る仕様になっている」

するとそのバックをみんなに見せているデイスがフフンと鼻を鳴らしていいました。

「実はこのエコバッグはムスカル王の宮殿で使われていたものでしてね。知り合いの女官にこっそり譲ってもらったんです。荷物がいくらでも入る上に念じるだけで必要な荷物を取り出す事も出来ます。内部では時間が止まっていて食料品の長期保存も可能ですぜ。これがあればあっしとシュナンの旦那だけで大量に買い出しが出来ますぜ」

シュナンの持つ師匠の杖も納得したように口を挟みます。

「ムスカルの発明の一つだな。魔道具(マジックアイテム)の開発にかけては彼の右に出る者はいなかったからな」

その言葉を聞いてペガサスの少女レダが肩をすくめました。

「まったく、あいつ変な野心なんか持たずに商人にでもなればよかったのに」

その言葉に無言でうなずく他の仲間たち。
やがて沈黙を破ってシュナン少年が声を発します。

「それじゃ、みんなデイスと二人で行ってくるよ。他のみんなはこの場所で「家獣」と一緒に待機しててくれ。なるべく早く帰るからね」

こうして街に買い物に行く事になったシュナンとデイスですがそんな二人を他の旅のメンバーが湖のほとりに着地した「家獣」の前に居並んで見送ります。
シュナンは師匠の杖を脇に挟むように持つとエコバッグを持ったデイスの背後に立って吟遊詩人の身体を後ろから羽交い締めにするように抱え込みました。
彼の身体を持ち上げながら空を飛び森を飛び越えて人間の集落に行くためです。
「家獣」がうずくまる湖のほとりの草地は人間の集落からはまだ少し距離があり森を歩いて抜けるのは大変でした。
なので魔法使いであるシュナン少年は得意魔法の一つである飛行術を使ってデイスを抱えながら空を飛び森の上空を一気に飛び越えて人間の集落の近くにまで行く事にしたのです。
シュナンは師匠の杖を脇に抱えながらデイスを背後から羽交い締めにし飛行準備を整えるとデイスに声をかけます。

「それじゃ、飛ぶよデイス。大丈夫かい。舌を噛まないでね」

シュナンに後ろから両腕の脇を抱えられたデイスはちょっと目を泳がせながらもコクリとうなずいてから言いました。

「大丈夫ですぜ、シュナンの旦那。レッツフライですぜ」

デイスのその言葉を聞いたシュナンは自分もコクリとうなずくとデイスの両脇を背後から抱えたまますばやく呪文を唱えます。

「フライヤー」

すると、シュナン少年の身体は後ろからガッチリと羽交い締めにしているひとまわり大きな吟遊詩人の身体ごと宙に飛び上がりました。
マントをひるがえして後ろから抱えたデイスと共に空を飛ぶシュナン。
他の旅のメンバーが地上から見守る中、シュナンと彼に背中から抱えられたデイスは何回か上空を旋回すると人間の集落がある方向へ向かって飛び去って行きます。
デイスを抱えながら片手に持った杖を軽く振って空中から別れの挨拶をするシュナン。
宙を飛ぶ彼はデイスをしっかりと後ろから抱きながら森の木々の上を飛んて行きます。
地上から手を振りながら彼らを見送るメデューサをはじめとするほかの旅の仲間たち。
メデューサとレダの二人はなんだかくっつきながら空を飛ぶ二人をちょっとうらやましそうにみています。
彼らが見守る中、密着して空を飛ぶ二人の後ろ姿は人間の集落がある森の向こうへとあっという間に消えて行きました。

[続く]
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