56 / 79
邪神モーロックの都
その32
しおりを挟む
「オロ村長、万歳ーっ!!!」
「悪魔を倒せーっ!!!」
「子供たちを助けろーっ!!!」
「ムスカル王を許すなーっ!!!」
オロ元村長の激白を聞いて反ムスカル一色に染まる王宮広場に集まった市民たち。
彼らの中には内心ムスカル王のやり方に疑問を持っている者が数多くおりオロの演説をきっかけとしてその不満が爆発したのです。
手を天に突き上げオロに賛同する舞台の周りに集まった無数の市民たち。
彼らの発する怒号と不満の声が王宮の広場を大きく揺れ動かします。
そしてそんな王宮内の混乱する様子をムスカル王は水晶塔の最上階の部屋から考え込む様な表情で見下ろしていました。
水晶魔宮の深い闇が玉座に座る彼の孤独なシルエットを包み込んでいます。
一方、広場の周辺を自軍で取り囲んでいた黄金将軍ジュドーは配下の兵までが腕を上げてオロを支持する様子を見て思わず舌打ちをします。
彼女は周りにいる部下たちに怒鳴りつける様に出撃の命令を下します。
「何をしている!!反逆者どもを捕らえろっ!舞台の上の三人をひっ捕らえるのだ!!」
「は、ははーっ!!」
ジュドー将軍の下知を受けあわてて隊列を整えて広場の中央に設置された舞台に向かって突入する将軍直属の魔牛兵たち。
彼らは舞台の周りを取り囲むオロの演説に熱狂する市民の人波を切り裂く様に突っ込んでいきます。
舞台に上がった彼らはその真ん中に立っているシュナンとクズタフ隊長、そして厳しい目で自分たちを見つめるオロを捕まえようと大挙して押し寄せました。
しかし舞台の中央に立つ反逆者たちを捕まえようとする彼らの動きを妨害しようとする者たちがいました。
それはクズタフ隊長の率いる警備隊の兵士たちでした。
彼らはジュドー将軍配下の魔牛兵とは反対側の方から次々と広場に設置された舞台に上がり今まさに襲われようとしている自分たちの隊長を含む三人を守るかの様に取り囲んだのです。
シュナンたち三人を守る警備隊の兵士たちと反逆者を捕らえようとするジュドー将軍配下の魔牛兵たちが舞台の真ん中で激しく衝突します。
双方の兵士たちはそれぞれ剣と盾を持ち舞台の中央付近で向かい合って激しく争っています。
そして他の二人と共に配下の兵に守られながら舞台に立つクズタフ隊長は鼻の頭を指でこすると周りの兵たちに言いました。
「時間外手当でも出すかな」
兵たちのうちの一人が盾と剣を高く掲げながら隊長に答えます。
「特別手当でお願いしますぜ」
こうして舞台の真ん中でクズタフ隊長率いる警備隊とジュドー将軍配下の魔牛兵たちが激しく争う中で舞台を取り囲んでいた大勢の市民たちもついに旗手を鮮明にしムスカル王を倒すために立ち上がります。
最初に反逆の狼煙を上げたのはオロと同じく王宮内の広場に他の市民たちにまぎれて潜んでいた「ぼったくり亭」の主人ジムでした。
「今だ!!一緒に悪魔を倒すんだっ!!!」
そう言うと彼は同じく王宮内に潜んでいた仲間たちとともに広場に出ていた屋台に隠していた剣や槍そして盾などの武器を取り出しそれを振りかざして激しい戦いが続く舞台へと乱入したのです。
雄叫びを上げて舞台に駆け上がる武器を振りかざしたジムを始めとするレジスタンスの男たち。
それに呼応するように他の一般市民たちもある者は武器を持ちまたある者は徒手空拳で舞台に上がり魔牛兵たちに攻撃を加えます。
クズタフ隊長率いる警備隊と舞台上で正面からぶつかっていたジュドー将軍麾下の魔牛兵たちは側面から市民たちの挟撃を受けて大混乱し総崩れになります。
そんな部下たちの苦戦する様子を見た広場の後方で指揮をとるジュドー将軍はついに自らを含め全兵力を投入する決意をします。
ジュドー将軍は手にした黄金の槍を高々と掲げると甲高い声で広場の周辺や神殿前など城内の各所を固める全ての兵に出撃の合図を送りました。
「全軍出撃せよっ!!総力戦だっ!反逆者たちを包囲殲滅するのだっ!!」
そしてジュドー将軍自身も周りにいる装甲兵たちを率いて激しい戦いが繰り広げられる広場中央の舞台に向かって突っ込んで行きます。
一時は優勢になったクズタフ隊長の配下の警備隊と市民たちの連合軍ですがジュドー将軍が本隊を投入した事によりたちまち危機におちいります。
特にジュドー将軍の戦いぶりはすさまじく舞台上を中心にして押し合っている両軍の中に乱入するとその長い槍を振るって敵側の警備兵や市民たちを次々と弾き飛ばし戦闘不能にしていきます。
広場の舞台上でオロ元村長やクズタフ隊長そしてシュナン少年をぐるりと取り囲み魔牛兵から護る警備隊の兵たちと彼らを支援し側面から魔牛兵を攻撃する反ムスカル派の市民たち。
奮戦を続ける彼らでしたがジョドー将軍自ら全軍を率い戦いに参戦した事により徐々に押され敗色が濃厚になって行きます。
そして水晶塔の遥かな高みから事態の推移を見下ろしていたムスカル王が自らの勝利を確信したその瞬間でした。
戦いには参加せず広場の隅に避難していた女子供を含む市民たちの中の一人が東の空の方を指し示すと大声で叫びました。
「あれを見ろーっ!!!」
その男の叫び声を聞いて東の空を仰ぎ見た者たちの眼は敵も味方も驚きのあまり大きく見開かれます。
「ぺ、ペガサスだーっ!!しかもあんなに沢山ーっ!!」
そうです。
東の空を見た者の瞳に映ったのはこのモーロックの都を目指し大挙して飛来するペガサスの群れだったのです。
しかもそのペガサスたちは背中に緑色の巨人族の男を一体ずつ乗せていました。
彼らは先日モーロックの都をペガサスの姿で抜け出したレダが自ら率いて来たペガサス族とボンゴ族の戦士たちでした。
戦闘中にも関わらず敵も味方もあっけにとられる状況下で背中に巨人を乗せたペガサスの群れはムスカル王の王宮の上空を2、3回旋回した後で王宮内の広い庭園の敷地に次々と降り立ちました。
その瞬間、庭園の広い敷地がまばゆい光に包まれました。
そして、その光の中から飛び出して来たのはー。
棍棒を振りかざした緑色の体色を持つ大勢の巨人族の男たち、そして地上に降り立つと同時に天馬から人間の姿に戻り急いで革のビキニや肩パッドを身に付けた剣を構えるペガサス族の少女たちでした。
彼らは旗色の悪い反ムスカル派の兵士や市民たちを助けるように広場を包囲する魔牛兵の隊列に突っ込んでいきます。
ペガサス族とボンゴ族の乱入によりムスカル王側に傾きかけた勝利の天秤は再び逆方向に傾きます。
先ほどまで舞台の上の警備隊や彼らを側面から援護する市民たちを攻め立てていたはずの魔牛兵たちはペガサス族とボンゴ族に背後を突かれ逆に三方向から攻められ包囲される状況に陥っていました。
こうして王宮内の戦いはシュナンを処刑する為に広場に設けられた舞台を中心に各勢力が入り乱れ混沌とした様相を呈していたのです。
そして王宮の中心部に屹立する水晶の塔の最上階にある王が座する部屋ー。
水晶魔宮と呼ばれるその王座の間から広場で行われている混戦の様子を見下ろすムスカル王は少しいらだたしげに座っている椅子の肘掛けを指でコツコツと叩きます。
ペガサス族とボンゴ族の参戦は狡猾な彼にとっても予想外の出来事でした。
しかし彼にはまだ奥の手がありました。
ムスカル王は水晶魔宮の透き通った壁の向こうに見える王宮内の建物群の方に目を走らせます。
その中に一際目立つドーム型の建物がありそれを見るムスカル王の眼鏡がキラリと光ります。
実はそのドーム型の建物の中にはムスカル王が長年かけて収集し飼いならした恐るべき魔獣たちが閉じ込められていたのです。
一方、その水晶塔からはごく近い場所に立つ北の塔ではー。
塔のてっぺんの部屋に閉じ込められたメデューサが小窓にはまった鉄格子にしがみつきながら広場の様子を目を凝らして見ていました。
先ほどまでメデューサはシュナン少年が広場の舞台の上で処刑されそうになっているのを見て彼の名を呼び悲鳴を上げ続けていました。
しかしどうやら助かったのを見てホッとしたのもつかの間今度は兵同士や市民たちが入り乱れての戦いが始まり何が起こっているのか彼女にはまったくわかりません。
おまけにペガサス族やボンゴ族までやって来たので彼女の頭はますます混乱します。
壁に立て掛けられた師匠の杖のわめく声にはまったく耳を貸さず彼女は鉄格子のはまった部屋の小窓から外の様子を懸命にうかがおうとしていました。
そんな窓にはまった鉄格子を握りしめて外の様子を見つめるメデューサはこちらに空飛ぶなにかが近づいているのに気付きます。
「レダ!!」
思わず叫ぶメデューサ。
飛翔しながら北の塔に近づくその美しいペガサスは間違いなくメデューサの旅の仲間であるレダが変身した姿でした。
メデューサの頭にペガサスに変身したレダのテレパシーが響きます。
<< メデューサ、後ろに下がって!部屋の壁を壊すわ! >>
メデューサが小窓を離れ部屋の隅に下がると空飛ぶレダは大きく翼を羽ばたかせスピードを増して北の塔に近づきます。
そして激しい勢いのまま塔の壁に近づきその力強い蹄のついた両足でメデューサのいる部屋の壁を外側から破壊しました。
ドカンという耳をつんざく音がしてメデューサの閉じ込められていた北の塔の最上階の部屋の壁に大きな穴が空きました。
メデューサは轟音と共に部屋が半壊し壁に大穴が空いたのを見て一瞬呆然としました。
しかしその部屋に空いた大きな穴の向こうに青空を背にしたレダのペガサスが浮いてるのを見てメデューサはその穴の空いた壁の側に近寄ります。
その時、穴が空いた壁とは正反対にある出入り口のドアの向こう側から階段を登ってくる足音が聞こえて来ました。
恐らく異変に気付いた見張りの兵士たちに違いありません。
メデューサの頭に再びレダのテレパシーが響きます。
<< グズグズしないで早く背中に乗って!!シュナンを助けに行くわよ! >>
その言葉を聞いたメデューサは一瞬、躊躇しましたがすぐに脱出の決意を固めます。
そして羽織っているマントについたフードをすっぽりとかむりそれで蛇の髪で覆われた自身の頭を覆い隠します。
それから、覚悟を決めると穴の空いている部屋の壁際からエイっと飛び降りて、穴のすぐ外で宙に浮いているレダのペガサスの背中にしっかりとしがみつきます。
その時、置いていかれると思ったのか、壁に大穴の空いた部屋の中で、ポツンと立てかけられている師匠の杖が叫びます。
「こらっ!わしを忘れるなっ!!」
[続く]
「悪魔を倒せーっ!!!」
「子供たちを助けろーっ!!!」
「ムスカル王を許すなーっ!!!」
オロ元村長の激白を聞いて反ムスカル一色に染まる王宮広場に集まった市民たち。
彼らの中には内心ムスカル王のやり方に疑問を持っている者が数多くおりオロの演説をきっかけとしてその不満が爆発したのです。
手を天に突き上げオロに賛同する舞台の周りに集まった無数の市民たち。
彼らの発する怒号と不満の声が王宮の広場を大きく揺れ動かします。
そしてそんな王宮内の混乱する様子をムスカル王は水晶塔の最上階の部屋から考え込む様な表情で見下ろしていました。
水晶魔宮の深い闇が玉座に座る彼の孤独なシルエットを包み込んでいます。
一方、広場の周辺を自軍で取り囲んでいた黄金将軍ジュドーは配下の兵までが腕を上げてオロを支持する様子を見て思わず舌打ちをします。
彼女は周りにいる部下たちに怒鳴りつける様に出撃の命令を下します。
「何をしている!!反逆者どもを捕らえろっ!舞台の上の三人をひっ捕らえるのだ!!」
「は、ははーっ!!」
ジュドー将軍の下知を受けあわてて隊列を整えて広場の中央に設置された舞台に向かって突入する将軍直属の魔牛兵たち。
彼らは舞台の周りを取り囲むオロの演説に熱狂する市民の人波を切り裂く様に突っ込んでいきます。
舞台に上がった彼らはその真ん中に立っているシュナンとクズタフ隊長、そして厳しい目で自分たちを見つめるオロを捕まえようと大挙して押し寄せました。
しかし舞台の中央に立つ反逆者たちを捕まえようとする彼らの動きを妨害しようとする者たちがいました。
それはクズタフ隊長の率いる警備隊の兵士たちでした。
彼らはジュドー将軍配下の魔牛兵とは反対側の方から次々と広場に設置された舞台に上がり今まさに襲われようとしている自分たちの隊長を含む三人を守るかの様に取り囲んだのです。
シュナンたち三人を守る警備隊の兵士たちと反逆者を捕らえようとするジュドー将軍配下の魔牛兵たちが舞台の真ん中で激しく衝突します。
双方の兵士たちはそれぞれ剣と盾を持ち舞台の中央付近で向かい合って激しく争っています。
そして他の二人と共に配下の兵に守られながら舞台に立つクズタフ隊長は鼻の頭を指でこすると周りの兵たちに言いました。
「時間外手当でも出すかな」
兵たちのうちの一人が盾と剣を高く掲げながら隊長に答えます。
「特別手当でお願いしますぜ」
こうして舞台の真ん中でクズタフ隊長率いる警備隊とジュドー将軍配下の魔牛兵たちが激しく争う中で舞台を取り囲んでいた大勢の市民たちもついに旗手を鮮明にしムスカル王を倒すために立ち上がります。
最初に反逆の狼煙を上げたのはオロと同じく王宮内の広場に他の市民たちにまぎれて潜んでいた「ぼったくり亭」の主人ジムでした。
「今だ!!一緒に悪魔を倒すんだっ!!!」
そう言うと彼は同じく王宮内に潜んでいた仲間たちとともに広場に出ていた屋台に隠していた剣や槍そして盾などの武器を取り出しそれを振りかざして激しい戦いが続く舞台へと乱入したのです。
雄叫びを上げて舞台に駆け上がる武器を振りかざしたジムを始めとするレジスタンスの男たち。
それに呼応するように他の一般市民たちもある者は武器を持ちまたある者は徒手空拳で舞台に上がり魔牛兵たちに攻撃を加えます。
クズタフ隊長率いる警備隊と舞台上で正面からぶつかっていたジュドー将軍麾下の魔牛兵たちは側面から市民たちの挟撃を受けて大混乱し総崩れになります。
そんな部下たちの苦戦する様子を見た広場の後方で指揮をとるジュドー将軍はついに自らを含め全兵力を投入する決意をします。
ジュドー将軍は手にした黄金の槍を高々と掲げると甲高い声で広場の周辺や神殿前など城内の各所を固める全ての兵に出撃の合図を送りました。
「全軍出撃せよっ!!総力戦だっ!反逆者たちを包囲殲滅するのだっ!!」
そしてジュドー将軍自身も周りにいる装甲兵たちを率いて激しい戦いが繰り広げられる広場中央の舞台に向かって突っ込んで行きます。
一時は優勢になったクズタフ隊長の配下の警備隊と市民たちの連合軍ですがジュドー将軍が本隊を投入した事によりたちまち危機におちいります。
特にジュドー将軍の戦いぶりはすさまじく舞台上を中心にして押し合っている両軍の中に乱入するとその長い槍を振るって敵側の警備兵や市民たちを次々と弾き飛ばし戦闘不能にしていきます。
広場の舞台上でオロ元村長やクズタフ隊長そしてシュナン少年をぐるりと取り囲み魔牛兵から護る警備隊の兵たちと彼らを支援し側面から魔牛兵を攻撃する反ムスカル派の市民たち。
奮戦を続ける彼らでしたがジョドー将軍自ら全軍を率い戦いに参戦した事により徐々に押され敗色が濃厚になって行きます。
そして水晶塔の遥かな高みから事態の推移を見下ろしていたムスカル王が自らの勝利を確信したその瞬間でした。
戦いには参加せず広場の隅に避難していた女子供を含む市民たちの中の一人が東の空の方を指し示すと大声で叫びました。
「あれを見ろーっ!!!」
その男の叫び声を聞いて東の空を仰ぎ見た者たちの眼は敵も味方も驚きのあまり大きく見開かれます。
「ぺ、ペガサスだーっ!!しかもあんなに沢山ーっ!!」
そうです。
東の空を見た者の瞳に映ったのはこのモーロックの都を目指し大挙して飛来するペガサスの群れだったのです。
しかもそのペガサスたちは背中に緑色の巨人族の男を一体ずつ乗せていました。
彼らは先日モーロックの都をペガサスの姿で抜け出したレダが自ら率いて来たペガサス族とボンゴ族の戦士たちでした。
戦闘中にも関わらず敵も味方もあっけにとられる状況下で背中に巨人を乗せたペガサスの群れはムスカル王の王宮の上空を2、3回旋回した後で王宮内の広い庭園の敷地に次々と降り立ちました。
その瞬間、庭園の広い敷地がまばゆい光に包まれました。
そして、その光の中から飛び出して来たのはー。
棍棒を振りかざした緑色の体色を持つ大勢の巨人族の男たち、そして地上に降り立つと同時に天馬から人間の姿に戻り急いで革のビキニや肩パッドを身に付けた剣を構えるペガサス族の少女たちでした。
彼らは旗色の悪い反ムスカル派の兵士や市民たちを助けるように広場を包囲する魔牛兵の隊列に突っ込んでいきます。
ペガサス族とボンゴ族の乱入によりムスカル王側に傾きかけた勝利の天秤は再び逆方向に傾きます。
先ほどまで舞台の上の警備隊や彼らを側面から援護する市民たちを攻め立てていたはずの魔牛兵たちはペガサス族とボンゴ族に背後を突かれ逆に三方向から攻められ包囲される状況に陥っていました。
こうして王宮内の戦いはシュナンを処刑する為に広場に設けられた舞台を中心に各勢力が入り乱れ混沌とした様相を呈していたのです。
そして王宮の中心部に屹立する水晶の塔の最上階にある王が座する部屋ー。
水晶魔宮と呼ばれるその王座の間から広場で行われている混戦の様子を見下ろすムスカル王は少しいらだたしげに座っている椅子の肘掛けを指でコツコツと叩きます。
ペガサス族とボンゴ族の参戦は狡猾な彼にとっても予想外の出来事でした。
しかし彼にはまだ奥の手がありました。
ムスカル王は水晶魔宮の透き通った壁の向こうに見える王宮内の建物群の方に目を走らせます。
その中に一際目立つドーム型の建物がありそれを見るムスカル王の眼鏡がキラリと光ります。
実はそのドーム型の建物の中にはムスカル王が長年かけて収集し飼いならした恐るべき魔獣たちが閉じ込められていたのです。
一方、その水晶塔からはごく近い場所に立つ北の塔ではー。
塔のてっぺんの部屋に閉じ込められたメデューサが小窓にはまった鉄格子にしがみつきながら広場の様子を目を凝らして見ていました。
先ほどまでメデューサはシュナン少年が広場の舞台の上で処刑されそうになっているのを見て彼の名を呼び悲鳴を上げ続けていました。
しかしどうやら助かったのを見てホッとしたのもつかの間今度は兵同士や市民たちが入り乱れての戦いが始まり何が起こっているのか彼女にはまったくわかりません。
おまけにペガサス族やボンゴ族までやって来たので彼女の頭はますます混乱します。
壁に立て掛けられた師匠の杖のわめく声にはまったく耳を貸さず彼女は鉄格子のはまった部屋の小窓から外の様子を懸命にうかがおうとしていました。
そんな窓にはまった鉄格子を握りしめて外の様子を見つめるメデューサはこちらに空飛ぶなにかが近づいているのに気付きます。
「レダ!!」
思わず叫ぶメデューサ。
飛翔しながら北の塔に近づくその美しいペガサスは間違いなくメデューサの旅の仲間であるレダが変身した姿でした。
メデューサの頭にペガサスに変身したレダのテレパシーが響きます。
<< メデューサ、後ろに下がって!部屋の壁を壊すわ! >>
メデューサが小窓を離れ部屋の隅に下がると空飛ぶレダは大きく翼を羽ばたかせスピードを増して北の塔に近づきます。
そして激しい勢いのまま塔の壁に近づきその力強い蹄のついた両足でメデューサのいる部屋の壁を外側から破壊しました。
ドカンという耳をつんざく音がしてメデューサの閉じ込められていた北の塔の最上階の部屋の壁に大きな穴が空きました。
メデューサは轟音と共に部屋が半壊し壁に大穴が空いたのを見て一瞬呆然としました。
しかしその部屋に空いた大きな穴の向こうに青空を背にしたレダのペガサスが浮いてるのを見てメデューサはその穴の空いた壁の側に近寄ります。
その時、穴が空いた壁とは正反対にある出入り口のドアの向こう側から階段を登ってくる足音が聞こえて来ました。
恐らく異変に気付いた見張りの兵士たちに違いありません。
メデューサの頭に再びレダのテレパシーが響きます。
<< グズグズしないで早く背中に乗って!!シュナンを助けに行くわよ! >>
その言葉を聞いたメデューサは一瞬、躊躇しましたがすぐに脱出の決意を固めます。
そして羽織っているマントについたフードをすっぽりとかむりそれで蛇の髪で覆われた自身の頭を覆い隠します。
それから、覚悟を決めると穴の空いている部屋の壁際からエイっと飛び降りて、穴のすぐ外で宙に浮いているレダのペガサスの背中にしっかりとしがみつきます。
その時、置いていかれると思ったのか、壁に大穴の空いた部屋の中で、ポツンと立てかけられている師匠の杖が叫びます。
「こらっ!わしを忘れるなっ!!」
[続く]
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる