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邪神モーロックの都
その11
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ムスカル王の先導でモーロック神の神殿に踏み込んだシュナンとメデューサでしたが石柱が立ち並ぶその仄暗い場所にかいま見える光景に二人は戦慄します。
彼らの進む広い石造りの通路の周囲には鉄格子の入ったいくつもの部屋がありそこには生贄にされる為に集められた多くの子供達が閉じ込められていたのです。
先程から聴こえていた泣き声や呻き声はこの牢屋に閉じ込められた子供達が発していたのです。
シュナンと手を繋いで神殿の通路を歩いていたメデューサは思わず立ち止まりその牢屋に閉じ込められた子供達の姿を見つめました。
子供達はいくつかの牢屋に男女を問わず分けられほとんど裸同然の姿で閉じ込められていました。
彼らはある者は声を枯らして泣き叫びまたある者は膝をかかえてすすり泣いています。
また諦めた様にぐったりと床にうずくまっている者も大勢いました。
ほとんど食べ物を与えられていないのか彼らは一概にやせ細っておりお腹が空きすぎて腹痛を起こし身体を縮こませて苦しむ子供もいました。
目深くかむったマントのフードの中からそのあまりの惨状を見たメデューサは胸にこみ上げる吐き気を懸命に抑えます。
そして前にいるムスカル王の背中を怒鳴りつけました。
「あんた、子供を無理矢理に狩り集めた上にこんな所に閉じ込めて生贄にしようなんてー。それでもこの国の指導者なの!?」
しかしメデューサたちの前を歩いていたムスカル王は立ち止まって背後を振り向くと目深くかむったフードの奥から自分を睨み付けるメデューサに対してどこ吹く風と言った様子で答えます。
「何か勘違いをしているようだね。確かに今年は子供の数が足りなくて少し狩りも行なったがここにいる子供達のほとんどが親が自主的に差し出して来た子たちだよ。金や財宝と引き換えに喜んでね」
その言葉を聞いたフードの中のメデューサの蛇の髪がゾワッと逆立ちます。
そして歯を食いしばり怒りを懸命に堪えて言いました。
「そ、そんな事って・・・ひ、ひどい」
ムスカル王は軽く肩をすくめてメデューサに言います。
「酷いもなにも事実だからな。まぁ、自分たちが豊かに暮らすためだ仕方なかろう。相場は子供一人につき400ゼニーといったところか。フフッ、私にとってははした金だがね」
メデューサの怒りがついに爆発します。
彼女の頭を隠していたマントのフードがパッとめくれ上がりその下からうごめく蛇の髪の毛と怒りに燃えた魔眼が露わになります。
「人間ってやっぱり本当にクズだわっ!!どんな卑しい動物だって自分の子供の為には命を投げ出すのに!!こんな汚らわしい生き物見たことないっ!!!」
怒りに燃えた魔眼でムスカル王の鏡像を睨みつけるメデューサ。
彼女がここまで怒ったのは生涯で後にも先にも今回を含めて二回だけでした。
そして後の一回は彼女の大切な思い人の命が失われる時だったのです。
烈火の如く怒るメデューサに対して隣に立つシュナンは彼女とずっと繋いでいるその手を更に強く握ります。
彼女の心を少しでも落ち着かせようとしたのです。
そしてシュナンの持つ師匠の杖は怒り狂うメデューサの姿をその大きな眼を光らせながら冷静に観察しています。
一方、シュナンとメデューサの背後で武器を構えながら彼らを見張っていたクズタフ隊長とその部下の兵士たちは何故か恥じる様に顔を伏せ押し黙っていました。
だが、メデューサの魔眼に直接睨まれているムスカル王の鏡像は我関せずといった表情で怒っているメデューサの様子を眺めると鼻にかかった様な口調で言いました。
「こんな汚い餓鬼どもを見せる為にここに連れて来た訳ではない。さぁ、ついて来るがいい。我らの偉大な神に会わせてやろう」
そう言うとムスカル王は白いマントを翻して再び歩き出し後ろにいるシュナン達に自分の後に付いてくるよう促しました。
相変わらず子供達の閉じ込められている牢屋を背にしてムスカル王を睨んでいるメデューサでしたがそんな彼女に対してシュナンは繋いでいる手をキュッと握りしめて言いました。
「行こう、メデューサ。この先どんな恐ろしいものが待っていたとしても前を歩くあの男ほどおぞましくは無いだろう」
メデューサは無言でうなずくとマントのフードをまたすっぽりと頭にかむります。
そうして再びシュナンとメデューサは手を繋ぎながらムスカル王の後を追いかけて神殿の通路の上を歩き始めました。
クズタフ隊長と兵士たちがその後に続きます。
牢の中から聞こえる子供達の呻き声と泣き声が彼らの背中を鞭の様に打ちました。
[続く]
彼らの進む広い石造りの通路の周囲には鉄格子の入ったいくつもの部屋がありそこには生贄にされる為に集められた多くの子供達が閉じ込められていたのです。
先程から聴こえていた泣き声や呻き声はこの牢屋に閉じ込められた子供達が発していたのです。
シュナンと手を繋いで神殿の通路を歩いていたメデューサは思わず立ち止まりその牢屋に閉じ込められた子供達の姿を見つめました。
子供達はいくつかの牢屋に男女を問わず分けられほとんど裸同然の姿で閉じ込められていました。
彼らはある者は声を枯らして泣き叫びまたある者は膝をかかえてすすり泣いています。
また諦めた様にぐったりと床にうずくまっている者も大勢いました。
ほとんど食べ物を与えられていないのか彼らは一概にやせ細っておりお腹が空きすぎて腹痛を起こし身体を縮こませて苦しむ子供もいました。
目深くかむったマントのフードの中からそのあまりの惨状を見たメデューサは胸にこみ上げる吐き気を懸命に抑えます。
そして前にいるムスカル王の背中を怒鳴りつけました。
「あんた、子供を無理矢理に狩り集めた上にこんな所に閉じ込めて生贄にしようなんてー。それでもこの国の指導者なの!?」
しかしメデューサたちの前を歩いていたムスカル王は立ち止まって背後を振り向くと目深くかむったフードの奥から自分を睨み付けるメデューサに対してどこ吹く風と言った様子で答えます。
「何か勘違いをしているようだね。確かに今年は子供の数が足りなくて少し狩りも行なったがここにいる子供達のほとんどが親が自主的に差し出して来た子たちだよ。金や財宝と引き換えに喜んでね」
その言葉を聞いたフードの中のメデューサの蛇の髪がゾワッと逆立ちます。
そして歯を食いしばり怒りを懸命に堪えて言いました。
「そ、そんな事って・・・ひ、ひどい」
ムスカル王は軽く肩をすくめてメデューサに言います。
「酷いもなにも事実だからな。まぁ、自分たちが豊かに暮らすためだ仕方なかろう。相場は子供一人につき400ゼニーといったところか。フフッ、私にとってははした金だがね」
メデューサの怒りがついに爆発します。
彼女の頭を隠していたマントのフードがパッとめくれ上がりその下からうごめく蛇の髪の毛と怒りに燃えた魔眼が露わになります。
「人間ってやっぱり本当にクズだわっ!!どんな卑しい動物だって自分の子供の為には命を投げ出すのに!!こんな汚らわしい生き物見たことないっ!!!」
怒りに燃えた魔眼でムスカル王の鏡像を睨みつけるメデューサ。
彼女がここまで怒ったのは生涯で後にも先にも今回を含めて二回だけでした。
そして後の一回は彼女の大切な思い人の命が失われる時だったのです。
烈火の如く怒るメデューサに対して隣に立つシュナンは彼女とずっと繋いでいるその手を更に強く握ります。
彼女の心を少しでも落ち着かせようとしたのです。
そしてシュナンの持つ師匠の杖は怒り狂うメデューサの姿をその大きな眼を光らせながら冷静に観察しています。
一方、シュナンとメデューサの背後で武器を構えながら彼らを見張っていたクズタフ隊長とその部下の兵士たちは何故か恥じる様に顔を伏せ押し黙っていました。
だが、メデューサの魔眼に直接睨まれているムスカル王の鏡像は我関せずといった表情で怒っているメデューサの様子を眺めると鼻にかかった様な口調で言いました。
「こんな汚い餓鬼どもを見せる為にここに連れて来た訳ではない。さぁ、ついて来るがいい。我らの偉大な神に会わせてやろう」
そう言うとムスカル王は白いマントを翻して再び歩き出し後ろにいるシュナン達に自分の後に付いてくるよう促しました。
相変わらず子供達の閉じ込められている牢屋を背にしてムスカル王を睨んでいるメデューサでしたがそんな彼女に対してシュナンは繋いでいる手をキュッと握りしめて言いました。
「行こう、メデューサ。この先どんな恐ろしいものが待っていたとしても前を歩くあの男ほどおぞましくは無いだろう」
メデューサは無言でうなずくとマントのフードをまたすっぽりと頭にかむります。
そうして再びシュナンとメデューサは手を繋ぎながらムスカル王の後を追いかけて神殿の通路の上を歩き始めました。
クズタフ隊長と兵士たちがその後に続きます。
牢の中から聞こえる子供達の呻き声と泣き声が彼らの背中を鞭の様に打ちました。
[続く]
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