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ペガサスの少女
そのなな
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さてシュナン一行がぺガサス族の村に迎え入れられた翌日の朝の事です。
山をいくつか越えたボンゴ族の村では族長のボボンゴが村人の一人から驚くべき報告を受けていました。
「大変ですぜ!お頭っ!!ペガサス族の連中が押しかけて来ました!!」
地面に太い支柱を立てその上の高い位置に作られたボンゴ族の伝統様式で建てられた家でくつろいでいたボンゴ族の長ボボンゴの元に急を知らせる為に同族の男が駆け込んで来たのです。
ボンゴ族の族長ボボンゴは身の丈2カール(約2.3メートル)を越える巨漢で尖った耳と突き出た二本の牙そして緑の体色の身体を持つ巨人族の末裔でその力と統率力で部族を上手く取りまとめていました。
しかし最近の彼は生活拠点である故郷の海を怪物に奪われた事に端を発する近隣のペガサス族との海岸部の土地をめぐる部族間の縄張り争いに頭を悩まされていました。
そしてなんと今、その一方の当事者であるペガサス族の長レダがこの村まで仲間たちと共にやって来たというのです。
あの赤髪の美しい少女がー。
ボボンゴはその巨体をすくっと立ち上がると足元にひざまずく部下の男に言いました。
「よし、ボボンゴ行く。レダ、何の為に来たか確かめる」
その頃ボンゴ族の村の入り口までやって来たペガサス族の族長レダそして彼女に付き添うシュナンとメデューサはボンゴ族の村人たちにぐるりと取り囲まれていました。
彼らはボボンゴ族と交渉するために危険を顧みずたった三人だけでこの敵地までやって来たのです。
シュナンはいつもの様に紺色の魔法使いのマントを身にまとい師匠の杖をその手に持っていました。
レダもいつもの革製の黒ビキニ姿で両肩には大きな鎧みたいなパッドを付け今日は腰に長い剣を装着しています。
そしてメデューサはペガサス族の村で手に入れたフード付きの黒マントを羽織りシュナンの側に寄り添って立っています。
メデューサはその蛇の髪の毛をマントのフードを目深くかぶって隠しておりはた目にはゆったりとしたマント姿の背の低いただの女の子に見えました。
ボンゴ族の男たちは木の柵で造られた村の出入り口付近に佇む彼ら三人を取り囲んで敵意に満ちた視線でその姿を睨みつけています。
そしてとうとう我慢出来ずに包囲しているボンゴ族の中の一人の男が手に持つ棍棒を振りかざし彼らに襲いかかりました。
「このガキどもっ!!くたばれっ!!」
しかしペガサス族のリーダーであり最強の剣士でもあるレダはシュナンとメデューサをかばう様に前に出るとボンゴ族の男の攻撃を物ともせず彼の振り下ろした棍棒を軽くかわすと腰につけた長剣を稲妻のように抜き放ち峰打ちで男の巨体を激しく打ち据えました。
「ぐわあぁーっ!!」
たちまち気を失って地面に倒れるボンゴ族の男。
その光景を見たボンゴ族の村人達は激昂して次々とレダに襲いかかります。
「この小娘がーっ!!」
「くたばれーっ!!」
「生かして帰さんっ!!」
その時ー。
レダに襲いかかった数人の男たちについに彼女の必殺剣が炸裂します。
それは音速を超える無数の斬撃を一瞬の間に繰り出すペガサス族に伝わる恐るべき秘剣でした。
「ペガサス流星剣っ!!!」
レダの叫びと共に彼女の神速の峰打ちで男達の身体は次々とはじけ飛び気絶して地面に倒れ込みます。
男達の命をあえて奪わないのは彼女の優しさでありまたボンゴ族との交渉がやりにくくなるという理由もありました。
そしてレダの隣にいるシュナンもまた手に持つ師匠の杖を高く掲げて魔法を使い赤髪の少女を助けます。
シュナンの杖の一振りで地面に複数の火柱が走りボンゴ族を驚かせます。
「ぐわーっ!!」
「熱い!!」
「こいつ魔法使いだーっ!!」
やがて村の出入り口に近いその場にはレダやシュナン達の足元に何体もの気絶したボンゴ族の巨体が転がりそれを遠巻きにして他のボンゴ族が彼らを取り囲む異様な光景が出現しました。
ボンゴ族はレダの剣技とシュナンの魔法を恐れてなかなか彼らに近寄れないみたいでした。
しかしボンゴ族の連中は今度は彼らに一斉に襲いかかろうと徐々に包囲の輪を縮めていました。
さすがにレダ達も数十人の屈強な巨人の群れに同時に襲われればどうなるか分かりません。
それに彼らは争うためにこの場所に来たわけではありませんでした。
それぞれ杖と剣を構え巨人族の動きを警戒しながらも事態をどう打開するか懸命に考えるシュナンとレダ。
そんな彼らの背後からスッと前に出て包囲するボンゴ族の正面に立ちはだかる者がいました。
それは今までシュナンたちに守られながら彼らの背中越しに事の成り行きをずっと静観していたメデューサでした。
フードのついた大きめのマントを羽織っていてそれで蛇の髪の毛と顔を隠しています。
彼女はこのままではさすがにシュナンたちが危ないと考えてついに自分が矢面に立つ決心をしたのです。
メデューサの意外な行動に驚くシュナンとレダ。
「お、おい、メデューサ。何をー」
「メデューサ様ーっ」
慌ててメデューサの背中に声をかけるシュナンとレダ。
しかしシュナンたちを背にして彼らとボンゴ族の巨人たちの間に立ち塞がるメデューサは仲間に声をかけられても後ろは振り返らずに逆に目深くかぶったフードの中から正面の方を睨み付けます。
そして自分たちを取り囲むボンゴ族を怒鳴りました。
「やあやあ、我こそは張飛翼徳・・・じゃなくてっ!族長を出しなさいっ!!」
シュナンたちを遠巻きにしているボンゴ族の連中は最初は小柄なマント姿の女の子がいきなり前に出て来て自分たちを怒鳴ったのでかなりビックリしました。
しかしすぐに殺気をみなぎらせ罵声を発します。
「族長がお前らなんかに会うもんかっ!!」
「そんなフードで顔を隠しやがって!!」
「よっぽどブスなんだな!顔を見せろっ!!」
ボンゴ族はフード付きのマントで顔と身体をすっぽりと覆ったメデューサに次々と悪口を浴びせます。
しかしメデューサはシュナンとレダが心配そうに見守る中ゆっくりマントのフードに手をかけて隠されていたその頭部を露わにしました。
「そんなに見たいなら見せてあげる。「ブス」かどうか自分の目で確かめてみなさい」
メデューサの蛇の髪で覆われた顔が周囲の視線にさらされます。
一瞬にしてその場の空気は凍りつきました。
そしてその直後パニックになったボンゴ族の悲鳴があちこちから上がり彼らは包囲を解いて姿を露わにしたメデューサの前から後ずさりをします。
「メ、メデューサだ!!!」
「伝説の怪物だ!!逃げろっ!!」
「石にされるぞっ!!!」
メデューサの石化能力の恐ろしさは伝説となってボンゴ族の間にも伝わっていました。
ボンゴ族の連中は先程までの威勢は何処へやら我れ先に押し合いながらメデューサやシュナン達に背中を向け村の奥へと逃げ込もうとして一斉に駆け出しました。
恐怖に我を忘れた彼らは逃げ出す最中に体同士が互いにぶつかり弾き飛ばされたり将棋倒しになって倒れる者が続出しました。
メデューサはそんな慌てふためくボンゴ族の様子を蛇の前髪の下から無言で見つめ傍らにいるシュナンとレダも戸惑いながらその場に立っています。
シュナンの持つ師匠の杖が言葉を発します。
「やれやれ滅茶苦茶だな」
その時メデューサから逃げ出す為に我れ先に押し合って村の奥の方へと逃げ込もうとするボンゴ族の男たちに向かって鋭い怒声が飛んで来て辺り一面に響き渡りました。
「逃げる、見っともない!!やめるっ!!おまえら、ボンゴ族の恥っ!!」
思わず逃げるのをやめてその場に立ち止まるボンゴ族の男たち。
そして彼らは村内からやって来て今しがた自分たちを怒鳴りつけた人物の為に左右に移動し大きく道を開けます。
逃げ出そうとしたボンゴ族の間をかき分ける様にその人物はシュナン一行の前にやって来ました。
彼の周りには数人の取り巻きがおりシュナンたちを睨んでいます。
そう一瞬で動揺するボンゴ族を黙らせて落ち着かせたその人物こそ村の中から騒ぎを聞きつけここにやって来たボンゴ族の族長ボボンゴだったのです。
ボボンゴは一族の中でも一際逞しい体躯の持ち主でその緑色に光る筋肉はまるでエメラルドの様でした。
獣皮で作った腰布を下半身に巻いており足には雪駄に似た靴を履いています。
そしてその太い両手両足にはバンテージのように包帯を巻いていて首には武器にもなる太く長い鎖を下げています。
ボボンゴはその緑色の巨体で威圧する様にシュナンたちの前に立ち彼らをギロリと見下ろしました。
彼はまずマントのフードを外してその正体を現したメデューサの蛇の前髪で覆われた顔をチラリと見やるとフンと鼻で笑いました。
伝説の怪物を目の当たりにしても彼はまったく恐れていないようです。
そして更に彼は隣に立つ目隠しをした杖を持つ魔法使いの少年シュナンをいちべつしてから最後に仇敵であるペガサス族の若き族長レダの方を向き彼女と目を合わせました。
レダも負けじとボボンゴの巨体を見上げ睨みつけます。
やがてボボンゴがその牙の生えた口でニヤリと笑い言いました。
「レダ血迷ったか?怪物と魔法使い味方につけて。俺たち脅しに来たか?」
ボボンゴから目を離さず首を軽く振りながら答えるレダ。
彼女の赤髪のポニテが左右に揺れます。
「違う。話し合いに来たのよ、ボボンゴ。隣のシュナンがあなたと話したいんだって。でもあなたの村の人たちがー」
レダは足元に転がっているまだ気絶しているボンゴ族の男たちを見下ろし肩をすくめます。
ボボンゴは自分と彼と向き合うレダたちとの間に横たわる気絶した仲間たちを軽蔑する様にいちべつし足先で軽く小突きました。
「情け無い、こいつらボンゴの恥」
そして彼はレダの隣にいるシュナンの目隠しで覆われた顔をあらためて見つめ言いました。
「魔法使い、話、何だ」
今は周りにいる他のボンゴ族やそれにシュナンの両隣りのレダとメデューサも押し黙り両者の話し合いを固唾を飲んで見守っています。
やがてボボンゴに対峙していたシュナンは自分の持っている杖を掲げてその先端をボボンゴの方へ向けました。
するとその杖から声が発せられました。
「巨人族の末裔よ。一つ提案がある」
「杖・・・喋った!」
さすがのボボンゴも少し驚きます。
そして師匠の杖が喋った事に驚いている彼に対して今度はその杖を掲げるシュナン少年が言いました。
「君たちの海を奪った怪物をみんなで倒そう。海獣クラーケンをー」
[続く]
山をいくつか越えたボンゴ族の村では族長のボボンゴが村人の一人から驚くべき報告を受けていました。
「大変ですぜ!お頭っ!!ペガサス族の連中が押しかけて来ました!!」
地面に太い支柱を立てその上の高い位置に作られたボンゴ族の伝統様式で建てられた家でくつろいでいたボンゴ族の長ボボンゴの元に急を知らせる為に同族の男が駆け込んで来たのです。
ボンゴ族の族長ボボンゴは身の丈2カール(約2.3メートル)を越える巨漢で尖った耳と突き出た二本の牙そして緑の体色の身体を持つ巨人族の末裔でその力と統率力で部族を上手く取りまとめていました。
しかし最近の彼は生活拠点である故郷の海を怪物に奪われた事に端を発する近隣のペガサス族との海岸部の土地をめぐる部族間の縄張り争いに頭を悩まされていました。
そしてなんと今、その一方の当事者であるペガサス族の長レダがこの村まで仲間たちと共にやって来たというのです。
あの赤髪の美しい少女がー。
ボボンゴはその巨体をすくっと立ち上がると足元にひざまずく部下の男に言いました。
「よし、ボボンゴ行く。レダ、何の為に来たか確かめる」
その頃ボンゴ族の村の入り口までやって来たペガサス族の族長レダそして彼女に付き添うシュナンとメデューサはボンゴ族の村人たちにぐるりと取り囲まれていました。
彼らはボボンゴ族と交渉するために危険を顧みずたった三人だけでこの敵地までやって来たのです。
シュナンはいつもの様に紺色の魔法使いのマントを身にまとい師匠の杖をその手に持っていました。
レダもいつもの革製の黒ビキニ姿で両肩には大きな鎧みたいなパッドを付け今日は腰に長い剣を装着しています。
そしてメデューサはペガサス族の村で手に入れたフード付きの黒マントを羽織りシュナンの側に寄り添って立っています。
メデューサはその蛇の髪の毛をマントのフードを目深くかぶって隠しておりはた目にはゆったりとしたマント姿の背の低いただの女の子に見えました。
ボンゴ族の男たちは木の柵で造られた村の出入り口付近に佇む彼ら三人を取り囲んで敵意に満ちた視線でその姿を睨みつけています。
そしてとうとう我慢出来ずに包囲しているボンゴ族の中の一人の男が手に持つ棍棒を振りかざし彼らに襲いかかりました。
「このガキどもっ!!くたばれっ!!」
しかしペガサス族のリーダーであり最強の剣士でもあるレダはシュナンとメデューサをかばう様に前に出るとボンゴ族の男の攻撃を物ともせず彼の振り下ろした棍棒を軽くかわすと腰につけた長剣を稲妻のように抜き放ち峰打ちで男の巨体を激しく打ち据えました。
「ぐわあぁーっ!!」
たちまち気を失って地面に倒れるボンゴ族の男。
その光景を見たボンゴ族の村人達は激昂して次々とレダに襲いかかります。
「この小娘がーっ!!」
「くたばれーっ!!」
「生かして帰さんっ!!」
その時ー。
レダに襲いかかった数人の男たちについに彼女の必殺剣が炸裂します。
それは音速を超える無数の斬撃を一瞬の間に繰り出すペガサス族に伝わる恐るべき秘剣でした。
「ペガサス流星剣っ!!!」
レダの叫びと共に彼女の神速の峰打ちで男達の身体は次々とはじけ飛び気絶して地面に倒れ込みます。
男達の命をあえて奪わないのは彼女の優しさでありまたボンゴ族との交渉がやりにくくなるという理由もありました。
そしてレダの隣にいるシュナンもまた手に持つ師匠の杖を高く掲げて魔法を使い赤髪の少女を助けます。
シュナンの杖の一振りで地面に複数の火柱が走りボンゴ族を驚かせます。
「ぐわーっ!!」
「熱い!!」
「こいつ魔法使いだーっ!!」
やがて村の出入り口に近いその場にはレダやシュナン達の足元に何体もの気絶したボンゴ族の巨体が転がりそれを遠巻きにして他のボンゴ族が彼らを取り囲む異様な光景が出現しました。
ボンゴ族はレダの剣技とシュナンの魔法を恐れてなかなか彼らに近寄れないみたいでした。
しかしボンゴ族の連中は今度は彼らに一斉に襲いかかろうと徐々に包囲の輪を縮めていました。
さすがにレダ達も数十人の屈強な巨人の群れに同時に襲われればどうなるか分かりません。
それに彼らは争うためにこの場所に来たわけではありませんでした。
それぞれ杖と剣を構え巨人族の動きを警戒しながらも事態をどう打開するか懸命に考えるシュナンとレダ。
そんな彼らの背後からスッと前に出て包囲するボンゴ族の正面に立ちはだかる者がいました。
それは今までシュナンたちに守られながら彼らの背中越しに事の成り行きをずっと静観していたメデューサでした。
フードのついた大きめのマントを羽織っていてそれで蛇の髪の毛と顔を隠しています。
彼女はこのままではさすがにシュナンたちが危ないと考えてついに自分が矢面に立つ決心をしたのです。
メデューサの意外な行動に驚くシュナンとレダ。
「お、おい、メデューサ。何をー」
「メデューサ様ーっ」
慌ててメデューサの背中に声をかけるシュナンとレダ。
しかしシュナンたちを背にして彼らとボンゴ族の巨人たちの間に立ち塞がるメデューサは仲間に声をかけられても後ろは振り返らずに逆に目深くかぶったフードの中から正面の方を睨み付けます。
そして自分たちを取り囲むボンゴ族を怒鳴りました。
「やあやあ、我こそは張飛翼徳・・・じゃなくてっ!族長を出しなさいっ!!」
シュナンたちを遠巻きにしているボンゴ族の連中は最初は小柄なマント姿の女の子がいきなり前に出て来て自分たちを怒鳴ったのでかなりビックリしました。
しかしすぐに殺気をみなぎらせ罵声を発します。
「族長がお前らなんかに会うもんかっ!!」
「そんなフードで顔を隠しやがって!!」
「よっぽどブスなんだな!顔を見せろっ!!」
ボンゴ族はフード付きのマントで顔と身体をすっぽりと覆ったメデューサに次々と悪口を浴びせます。
しかしメデューサはシュナンとレダが心配そうに見守る中ゆっくりマントのフードに手をかけて隠されていたその頭部を露わにしました。
「そんなに見たいなら見せてあげる。「ブス」かどうか自分の目で確かめてみなさい」
メデューサの蛇の髪で覆われた顔が周囲の視線にさらされます。
一瞬にしてその場の空気は凍りつきました。
そしてその直後パニックになったボンゴ族の悲鳴があちこちから上がり彼らは包囲を解いて姿を露わにしたメデューサの前から後ずさりをします。
「メ、メデューサだ!!!」
「伝説の怪物だ!!逃げろっ!!」
「石にされるぞっ!!!」
メデューサの石化能力の恐ろしさは伝説となってボンゴ族の間にも伝わっていました。
ボンゴ族の連中は先程までの威勢は何処へやら我れ先に押し合いながらメデューサやシュナン達に背中を向け村の奥へと逃げ込もうとして一斉に駆け出しました。
恐怖に我を忘れた彼らは逃げ出す最中に体同士が互いにぶつかり弾き飛ばされたり将棋倒しになって倒れる者が続出しました。
メデューサはそんな慌てふためくボンゴ族の様子を蛇の前髪の下から無言で見つめ傍らにいるシュナンとレダも戸惑いながらその場に立っています。
シュナンの持つ師匠の杖が言葉を発します。
「やれやれ滅茶苦茶だな」
その時メデューサから逃げ出す為に我れ先に押し合って村の奥の方へと逃げ込もうとするボンゴ族の男たちに向かって鋭い怒声が飛んで来て辺り一面に響き渡りました。
「逃げる、見っともない!!やめるっ!!おまえら、ボンゴ族の恥っ!!」
思わず逃げるのをやめてその場に立ち止まるボンゴ族の男たち。
そして彼らは村内からやって来て今しがた自分たちを怒鳴りつけた人物の為に左右に移動し大きく道を開けます。
逃げ出そうとしたボンゴ族の間をかき分ける様にその人物はシュナン一行の前にやって来ました。
彼の周りには数人の取り巻きがおりシュナンたちを睨んでいます。
そう一瞬で動揺するボンゴ族を黙らせて落ち着かせたその人物こそ村の中から騒ぎを聞きつけここにやって来たボンゴ族の族長ボボンゴだったのです。
ボボンゴは一族の中でも一際逞しい体躯の持ち主でその緑色に光る筋肉はまるでエメラルドの様でした。
獣皮で作った腰布を下半身に巻いており足には雪駄に似た靴を履いています。
そしてその太い両手両足にはバンテージのように包帯を巻いていて首には武器にもなる太く長い鎖を下げています。
ボボンゴはその緑色の巨体で威圧する様にシュナンたちの前に立ち彼らをギロリと見下ろしました。
彼はまずマントのフードを外してその正体を現したメデューサの蛇の前髪で覆われた顔をチラリと見やるとフンと鼻で笑いました。
伝説の怪物を目の当たりにしても彼はまったく恐れていないようです。
そして更に彼は隣に立つ目隠しをした杖を持つ魔法使いの少年シュナンをいちべつしてから最後に仇敵であるペガサス族の若き族長レダの方を向き彼女と目を合わせました。
レダも負けじとボボンゴの巨体を見上げ睨みつけます。
やがてボボンゴがその牙の生えた口でニヤリと笑い言いました。
「レダ血迷ったか?怪物と魔法使い味方につけて。俺たち脅しに来たか?」
ボボンゴから目を離さず首を軽く振りながら答えるレダ。
彼女の赤髪のポニテが左右に揺れます。
「違う。話し合いに来たのよ、ボボンゴ。隣のシュナンがあなたと話したいんだって。でもあなたの村の人たちがー」
レダは足元に転がっているまだ気絶しているボンゴ族の男たちを見下ろし肩をすくめます。
ボボンゴは自分と彼と向き合うレダたちとの間に横たわる気絶した仲間たちを軽蔑する様にいちべつし足先で軽く小突きました。
「情け無い、こいつらボンゴの恥」
そして彼はレダの隣にいるシュナンの目隠しで覆われた顔をあらためて見つめ言いました。
「魔法使い、話、何だ」
今は周りにいる他のボンゴ族やそれにシュナンの両隣りのレダとメデューサも押し黙り両者の話し合いを固唾を飲んで見守っています。
やがてボボンゴに対峙していたシュナンは自分の持っている杖を掲げてその先端をボボンゴの方へ向けました。
するとその杖から声が発せられました。
「巨人族の末裔よ。一つ提案がある」
「杖・・・喋った!」
さすがのボボンゴも少し驚きます。
そして師匠の杖が喋った事に驚いている彼に対して今度はその杖を掲げるシュナン少年が言いました。
「君たちの海を奪った怪物をみんなで倒そう。海獣クラーケンをー」
[続く]
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