メデューサの旅

きーぼー

文字の大きさ
上 下
6 / 79
旅立ち

その6

しおりを挟む
 恐怖の表情を浮かべるその石像をあらためて見つめるシュナン少年と師匠の杖。
戸惑っている二人に対してメデューサは冷たい声で説明をしました。

「お父さんは元々この山に迷い込んだ旅人だったの。お母さんのメデューサに気に入られて結婚してわたしが生まれた。でも結局は怪物のお母さんが恐ろしくなってこの館から逃げだそうとした。それで怒ったお母さんに石にされたという訳。お父さんの足元にあるのがお母さんのお墓よ」

シュナンと師匠の杖が目を落として石像の足元を見ると確かに先程見た通り花が供えられた小さなお墓があります。
メデューサは言います。

「わたしはこのお墓と石像を守って一生を過ごすつもり。お母さんにはわたしも男を捕まえて子孫を残すように言われたけど。まっぴらごめんよ。外界や人間たちとは関わらずこの魔の山で静かに暮らすわ。だからあなた達もおとなしくこの山を去りなさい。今ならまだ無事に帰してあげるわ」

しかしシュナンはなおも彼女を説得しようとします。

「そう言わず僕たちに協力して欲しい。今この時にも外の世界では大勢の人々が飢えに苦しんでいるんだ。僕の生まれた村の人達だってー」

メデューサの声が怒りの口調に変わります。

「だからなんでわたしが人間を助けなきゃいけないの?!散々わたしの一族を迫害した連中を。あなたにとっては確かに自分の村の人達は大切なのかもしれない。でもあたしにとっては人間は敵よ!一切関わりたくない下賤な生き物だわっ!あなた達も含めてね」

シュナンの持つ師匠の杖に刻まれた大きな目が光ります。

「君たちの一族も元々は人間だったー」

「今は違うー」

唇を噛んで怒りの口調で杖の言葉をさえぎるラーナ・メデューサ。
メデューサの顔の上部を覆っている髪の毛の蛇が妖しげにうごめきます。

「今は違う。何度も同じ事を言わせないで。あなた藪を突いて蛇を出すという言葉を知ってる?今からわたしの力を見せてあげる。怪物メデューサの力をね。身体の一部でも石になればその恐ろしさがわかるでしょう」

そして彼女はシュナンの上半分が目隠しで覆われた顔を見て鼻で笑います。

「何その変な目隠し?ちゃんと歩いてるとこを見ると全く前が見えてないわけじゃないみたいだけど。そんなものでわたしの魔力は防げないと思うわ」

メデューサがそう言うとその無数の蛇でできた髪の毛がくねくねと揺り動きました。
そして彼女の顔を覆う前髪の様な数匹の蛇がゆっくりと立ち上がり隠されていたその魔眼がついにあらわになりました。
妖しく光り輝くメデューサの魔眼が杖を構えたシュナンを鋭く見つめます。
普通ならシュナンの身体はたちまち石化していたはずでした。
しかしー。
メデューサの石化の魔眼で見つめられたにも関わらずシュナンの様子には全く異変が感じられません。

「え・・・」

自分の魔力が通じない事に驚くメデューサ。
そんな彼女にシュナンが静かな声で告げました。

「どうやら驚いたようだね、メデューサ。種明かしをしようか。実はね僕は全く目が見えないんだよ。目隠しをしてもしなくても関係ない。僕は目が見えないー。だから君の魔眼を見ることはないしその魔力は通じない」

メデューサはシュナンに疑問をぶつけます。

「でもあなた、普通に歩いたり周りの出来事に反応してるじゃない。とても目が見えないとは思えない」

シュナンは肩をすくめると更に説明をつけ加えました。

「それは僕の持つこの師匠の杖のおかげなんだー」

すると今度はその彼の持つ先端が突起がある円板になっている大きな目が刻まれた長い杖が喋り始めました。

「わたしの名はレプカール。都の魔術師だ。この魔法の杖にはわたしの意識が封じられている。そして杖の先端の円板についているこの目を通じて周りの視覚情報をシュナンの頭脳に伝えているのだ。もっとも杖から身体を離すと元どおりに盲目に戻ってしまうがね。ともあれ直接的に君の魔眼を見ている訳ではない。だから石化はしないのだ」

シュナンとその手に持つ師匠の杖の仕組みの説明を聞いてメデューサはかなり驚いた様子でしたがやがてそのあらわになった魔眼を細めて言いました。

「なるほどね・・・でもわたしだってまだ本気は出してない。今からわたしの全力を見せてあげる。果たして耐えられるかしら?」

「無駄な事だ」

師匠の杖の言葉と共にシュナンは再び身構えました。
そんな彼らに対してメデューサが今度は全力で魔眼の力を使おうとしたその時でした。
ドドドドーッという地響きと一緒にメデューサの館の外で巨大な土煙が上がります。
その方角にはシュナン達が通り抜けて来た魔物が封印された洞窟がありました。
そしてその土煙の中から現れたのはー。
見るも恐ろしい姿の巨大な怪物でした。
その怪物は色々な生き物のあいのこの様な奇怪な姿をしていました。
通常のそれよりも何回りも大きな獅子の胴体と狒々に似た頭そしてコウモリの様な一対の背中に生えた翼と鋭い針のついた蠍の尻尾を持っています。
そうこの怪物こそメデューサの一族がこの山に住み着く際に魔法で件の洞窟に封じ込めたこの山の元々の主、伝説の魔獣マンティコアだったのです。
マンティコアはこの300年間というもの封印の扉の奥に閉じ込められ自分を封じたメデューサ族に対する憎悪をつのらせながら解放される日をずっと待っていたのです。
そして先刻シュナンが封印の扉の前に置かれた石碑を誤って倒した為に劣化していた結界が破れてしまい封印の扉は開かれて中からマンティコアが出て来てしまったのでした。
メデューサ族への復讐に燃える彼は眼を真っ赤に血走らせ凄まじい勢いで自分が閉じ込められていた洞窟内を一気に疾り抜け外へと飛び出しました。
地上に出たマンティコアは土煙を巻き上げながらその巨体をうならせて森の中を走りシュナン達のいるメデューサの館の方へ真っ直ぐに突っ込んで行ったのです。

[続く]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。

トロ猫
ファンタジー
仕事をやめ、なんとなく稼ぎながら暮らしていた白川エマ(39)は、買い物帰りに偶然道端で出会った虐待された少年と共に異世界に飛ばされてしまう。 謎の光に囲まれ、目を開けたら周りは銀世界。 「え?ここどこ?」 コスプレ外国人に急に向けられた剣に戸惑うも一緒に飛ばされた少年を守ろうと走り出すと、ズボンが踝まで落ちてしまう。 ――え? どうして カクヨムにて先行しております。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

蒼き炎の神鋼機兵(ドラグナー)

しかのこうへい
ファンタジー
クーリッヒ・ウー・ヴァンの物語を知るものは幸せである…。ある日、突然目覚めた16歳の少年、ライヴ。しかし、その意識には現代日本人としてのパーソナリティが存在していて…。昔懐かしダン◯インのような世界観でお送りする、大河長編SFファンタジー。 なお、更新は時間がある時に行っております。不定期となりますが、その旨どうかご理解の程よろしくお願い申し上げます。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

Olympus Quest

狩野 理穂
ファンタジー
過去に父親を亡くした少年、ルーシュは信じてもいない神に選ばれ、世界を救う冒険に出る。 全三部構成の狩野理穂ワールド、炸裂! この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

処理中です...