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アリアドネのカタストロフィ
衝撃・中
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用意されていたのは、国産の白いボディに黒のラインが特徴的な、SUVだった。成人男性五人と荷物が乗り込んでも窮屈ではなく、ナビも最新式が取り付けてあった。
「一条警視がここに異動された時に、警視庁から新調された車や」
運転は、篠原と森が交代でする事になった。そう遠い距離ではない。
「鑑識の、田村と久保です。宮城課長、私達は先ず何をすればいいのでしょうか? 奈良の方でも鑑識がいるでしょうし……」
田村が、奈良に向かう道中に宮城に尋ねた。
「あっちには、警視と刑事局長が話を付けてくれてる。自由に調べてくれたらいいんやけど……一番先に、調べて欲しい事がある」
「何でしょう?」
「俺の実家の食べ物飲み物、口にする食器類を全て調べて欲しい。『堂島と蛍池で使われたシアン化合物』と、同じ遺伝子のものが出るか」
宮城の言葉に、車内の男達が僅かに動揺したように息を飲んだ。
「え!? あの、毒殺交換殺人事件の?」
「あの事件は、解決したのでは?」
「あの時の情報が入ったこれは、お前たちに預ける。無くすなよ? 『あの事件』は終わったけど、繋がりがあるかもしれへん……今は、何とも言われんのや。お偉いさんたちが必死に探してる情報やから、今は詳しく説明できないのを理解してくれ。とにかく、奈良の人が知らんこっちの事件と共通するもんがないか、それを調べんといかんのや」
櫻子から預かった真新しいタブレットを田村に渡して、宮城はエアコンの温度を下げる様に篠原に頼んだ。今日は天気も良く、外は暑い。
宮城の家族の事が心配だったが、助手席の篠原は櫻子の事も心配していた。
高速を降りてしばらく走ると、段々と畑や田んぼの光景が増えてきた。京都の陰で目立たないが奈良は最初の都で歴史が古く、京都と同じく新しい家を建てようとすると遺跡や古い遺産が発掘されることが多く、建築関係者は頭を悩ませることが少なくないという。
宮城の実家は奈良の宇陀市という所だ。2006年に合併して出来た市なのだが、柿本人麻呂が大宇陀の阿騎野で詠んだ秀歌が有名だろう。他に、樹齢300年を超える『又兵衛桜』や女人禁制の高野山に対して『女人高野』と呼ばれた室生寺など、由緒ある古い地域だ。
かつて宇陀警察署があったのだが、現在は隣接している桜井市の桜井警察署の管轄になっている。代わりに宇陀警察分署が置かれており、宮城の実家はその分署の制服警官と桜井警察署の刑事と、帰り支度を始める鑑識で溢れていた。
「すみません、大阪の曽根崎警察署の宮城捜査課長と、うちの捜査員です」
彼らに声をかけると、ガヤガヤと話していた刑事たちが黙り込んだ。そうして、彼らをかき分けるように小柄な男が出てきた。
「桜井署捜査一課の、曽根です。この度は暑い中、わざわざ大阪から大変でしたなぁ。うちは今あらかた片付いたんで、どうぞ中に――って、学年違うけど同じ高校やな、宮城さん。刑事局長と警視が、奈良県警に連絡してきて情報共有する様に、と聞いてるから安心してや」
曽根も、地元に昔から住んでいたようだ。宮城の事を調べていたのだろう。
「高校時代の先輩でしたか、奇遇ですな。すみません、しばらくお世話になります。それと、飲食関係などは――」
「それも、一条警視から連絡貰って触らんようにしてます。うちは、取り合えず玄関先と住宅内に侵入されてないかと、届けられた爆発物をメインに調べたんで。これから会議があるんで、一度俺は署に戻ります。ここにいる間は――おい、越前!」
遠巻きにこちらを見ていた刑事たちの中から、名を呼ばれた制服警官が慌てて駆け寄ってきた。二十代後半の、篠原とそう変わらないだろう青年だ。
「分署の、越前に案内やら任せますわ。ま、宮城さんは地元やし地理的な問題はないと思いますが。それでは、何かありましたら遠慮なく連絡ください」
曽根がそう言って宮城たちに軽く頭を下げて離れると、続くように鑑識と刑事たちが興味深げに宮城たちを見ながら車に戻って行った。数人刑事が残っているが、聞き込みに回るのだろう。
「越前です、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくな」
宮城たちに頭を下げる彼に、宮城は同じように頭を下げた。
「さて――田村と久保、頼んだ。俺達は、まず被害者に会おう」
古いが手入れの行き届いた、日本家屋。増築して二階建てにしたようだ。宮城は、実家の家族が二階の部屋にいると連絡を受けていたので、篠原たちを連れて部屋へと向かった。
「一条警視がここに異動された時に、警視庁から新調された車や」
運転は、篠原と森が交代でする事になった。そう遠い距離ではない。
「鑑識の、田村と久保です。宮城課長、私達は先ず何をすればいいのでしょうか? 奈良の方でも鑑識がいるでしょうし……」
田村が、奈良に向かう道中に宮城に尋ねた。
「あっちには、警視と刑事局長が話を付けてくれてる。自由に調べてくれたらいいんやけど……一番先に、調べて欲しい事がある」
「何でしょう?」
「俺の実家の食べ物飲み物、口にする食器類を全て調べて欲しい。『堂島と蛍池で使われたシアン化合物』と、同じ遺伝子のものが出るか」
宮城の言葉に、車内の男達が僅かに動揺したように息を飲んだ。
「え!? あの、毒殺交換殺人事件の?」
「あの事件は、解決したのでは?」
「あの時の情報が入ったこれは、お前たちに預ける。無くすなよ? 『あの事件』は終わったけど、繋がりがあるかもしれへん……今は、何とも言われんのや。お偉いさんたちが必死に探してる情報やから、今は詳しく説明できないのを理解してくれ。とにかく、奈良の人が知らんこっちの事件と共通するもんがないか、それを調べんといかんのや」
櫻子から預かった真新しいタブレットを田村に渡して、宮城はエアコンの温度を下げる様に篠原に頼んだ。今日は天気も良く、外は暑い。
宮城の家族の事が心配だったが、助手席の篠原は櫻子の事も心配していた。
高速を降りてしばらく走ると、段々と畑や田んぼの光景が増えてきた。京都の陰で目立たないが奈良は最初の都で歴史が古く、京都と同じく新しい家を建てようとすると遺跡や古い遺産が発掘されることが多く、建築関係者は頭を悩ませることが少なくないという。
宮城の実家は奈良の宇陀市という所だ。2006年に合併して出来た市なのだが、柿本人麻呂が大宇陀の阿騎野で詠んだ秀歌が有名だろう。他に、樹齢300年を超える『又兵衛桜』や女人禁制の高野山に対して『女人高野』と呼ばれた室生寺など、由緒ある古い地域だ。
かつて宇陀警察署があったのだが、現在は隣接している桜井市の桜井警察署の管轄になっている。代わりに宇陀警察分署が置かれており、宮城の実家はその分署の制服警官と桜井警察署の刑事と、帰り支度を始める鑑識で溢れていた。
「すみません、大阪の曽根崎警察署の宮城捜査課長と、うちの捜査員です」
彼らに声をかけると、ガヤガヤと話していた刑事たちが黙り込んだ。そうして、彼らをかき分けるように小柄な男が出てきた。
「桜井署捜査一課の、曽根です。この度は暑い中、わざわざ大阪から大変でしたなぁ。うちは今あらかた片付いたんで、どうぞ中に――って、学年違うけど同じ高校やな、宮城さん。刑事局長と警視が、奈良県警に連絡してきて情報共有する様に、と聞いてるから安心してや」
曽根も、地元に昔から住んでいたようだ。宮城の事を調べていたのだろう。
「高校時代の先輩でしたか、奇遇ですな。すみません、しばらくお世話になります。それと、飲食関係などは――」
「それも、一条警視から連絡貰って触らんようにしてます。うちは、取り合えず玄関先と住宅内に侵入されてないかと、届けられた爆発物をメインに調べたんで。これから会議があるんで、一度俺は署に戻ります。ここにいる間は――おい、越前!」
遠巻きにこちらを見ていた刑事たちの中から、名を呼ばれた制服警官が慌てて駆け寄ってきた。二十代後半の、篠原とそう変わらないだろう青年だ。
「分署の、越前に案内やら任せますわ。ま、宮城さんは地元やし地理的な問題はないと思いますが。それでは、何かありましたら遠慮なく連絡ください」
曽根がそう言って宮城たちに軽く頭を下げて離れると、続くように鑑識と刑事たちが興味深げに宮城たちを見ながら車に戻って行った。数人刑事が残っているが、聞き込みに回るのだろう。
「越前です、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくな」
宮城たちに頭を下げる彼に、宮城は同じように頭を下げた。
「さて――田村と久保、頼んだ。俺達は、まず被害者に会おう」
古いが手入れの行き届いた、日本家屋。増築して二階建てにしたようだ。宮城は、実家の家族が二階の部屋にいると連絡を受けていたので、篠原たちを連れて部屋へと向かった。
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