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アリアドネのカタストロフィ
警告・中
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「え? 犯人の事ですか?」
佐々木が驚いたように、そう呟いた櫻子の美しい顔を見た。彼女は彼の顔を見ず、小さく頷く。
「まず、現場が綺麗すぎる。多数で押し入った形跡はないから、犯人は一人。そうなると、一人で男性を含めた三人を殺害するには、力が必要。腕力――そして、もし姿を見られても騒がれなかった思われる事から、普通に見える若い男。映画やドラマの様な殺人現場を演出しているけれど、それを快感に思っていない。これは、過剰殺傷がない事から想像できる。犯人像を快楽殺人者に見せる為の、小細工か……私達を揶揄っているか警告している。月子さんと陸さんを拘束して制圧してから、母親を最初に殺している。これは、『愛情に飢えている』からね。そして母親……陽子さんが自分の子供を殺されるのを、見ないようにした。そして、海斗さんに『お別れを伝えられる』ように、電話をさせた。彼はその電話に出られなかったから、本当の意味は分からないけれど……。短時間に、離れているとはいえ人家に気付かれないように犯行を行った事から、計画してその通りに犯行を遂行した……秩序型」
櫻子は、そう一気に話した。山本が慌ててメモを取り出して、それを書き記している。
「快楽殺人でない証拠に……切り取られた月子さんと陸さんの瞼と耳は、近隣に捨てられていると思うわ。犯人にとって、それは興味ないから。そうね、伊丹駅付近を探すといいと思うわ」
「おい、警察犬の要請しろ! 大至急や! その間に、家の中と付近を全力で探せ!」
佐々木が、周りにいた刑事の一人に大声を上げた。その刑事は慌ててスマホを取り出して何処かへ電話を掛けた。それと同時に、鑑識と刑事たちが慌てて家の中と外の捜索に分かれた。
「警告って、どういう……?」
山本はメモから顔を上げると、櫻子に尋ねた。
「犯人は、『私達ではなく』竜崎さんが先に『一家殺人事件が起こる』と予想したからよ」
篠原が、はっと顔を上げた。竜崎がランチに誘った時に行っていた言葉だ。桐生が行ったと思われる事件が、間隔を空き模倣されている。そう竜崎は、篠原に話していた。
「私達……? 警視、それは曽根崎警察が、という事ですか?」
「それは……それは、いずれ分かるわ。竜崎さん――竜崎海斗さんは今どこに?」
櫻子は言葉を濁し、未だ姿の見えない竜崎の名を口にした。
「宮城課長に竜崎さんから連絡が入ったんです。その時、宮城課長に指示されて自分が宮城課長を乗せて、運転してこの竜崎さんの家に来ました。そして、倒れている竜崎さんと、ご家族の遺体を発見しました。竜崎さんは気を失っていたので救急車を呼び、私は伊丹署に電話をして状況を説明しました。宮城課長は、警視への連絡と曽根崎警察捜査一課への指揮に、一度戻られたんです。竜崎さんは、今病院です」
山本の報告に、櫻子は眉を寄せた。
「私達が景光容疑者がいる流星さんの部屋にいた時に、竜崎さんのスマホは鳴っていた……19時前後くらいよね? ここは、駅から離れている……バスか自家用車を使わないと駅まで行けないわね。自家用車を使ったとは考えられない……バスに乗ったのかしら?」
犯人は、返り血を浴びないようにしていた筈だ。多分この家中を探しても、指紋など痕跡は一切出ないだろう。姉弟を縛ったロープや被害者たちを刺した包丁かナイフ、ひょっとしたら着替えなどの荷物も用意して来たはずだ。そんな大荷物で帰宅時間帯のバスに乗れば、目立つかもしれない。
「あの……もしかしたら、ですが……竜崎さんの自転車……」
遠慮がちに、山本が口を挟んだ。その言葉に、櫻子の顔が強張る。
「竜崎さんの自転車? 駅まで、彼は自転車通勤していたの?」
「は、はい。お姉さんは自動車通勤。竜崎さんと弟さんは、駅まで自転車を使っていると聞きました。駅の近くの駐輪所を借りているそうです」
もしその竜崎か弟の自転車を使ったとなれば、竜崎の事を全て調べられて犯行が行われているという事になる。
やはり、今回も桐生が関係しているとみて間違いないのかもしれない。
「すんません、遅くなりました――あ、佐々木さん。どうもうちの者がお邪魔してます」
そこへ、宮城と同じく捜査一課の牧瀬が来た。現場責任者である伊丹署の佐々木に、宮城は頭を下げた。佐々木も丁寧に頭を下げた。
「一条警視、大丈夫ですか?」
流星の事件から続いているので、宮城は彼女の体調をまず心配したようだ。
「体調の事に構ってられないわ――これも、桐生が関係しているから」
「……やはり、そうですか」
宮城は、大きく息を吐いた。そうであって欲しくない――櫻子と篠原、宮城の心からの思いだった。
佐々木が驚いたように、そう呟いた櫻子の美しい顔を見た。彼女は彼の顔を見ず、小さく頷く。
「まず、現場が綺麗すぎる。多数で押し入った形跡はないから、犯人は一人。そうなると、一人で男性を含めた三人を殺害するには、力が必要。腕力――そして、もし姿を見られても騒がれなかった思われる事から、普通に見える若い男。映画やドラマの様な殺人現場を演出しているけれど、それを快感に思っていない。これは、過剰殺傷がない事から想像できる。犯人像を快楽殺人者に見せる為の、小細工か……私達を揶揄っているか警告している。月子さんと陸さんを拘束して制圧してから、母親を最初に殺している。これは、『愛情に飢えている』からね。そして母親……陽子さんが自分の子供を殺されるのを、見ないようにした。そして、海斗さんに『お別れを伝えられる』ように、電話をさせた。彼はその電話に出られなかったから、本当の意味は分からないけれど……。短時間に、離れているとはいえ人家に気付かれないように犯行を行った事から、計画してその通りに犯行を遂行した……秩序型」
櫻子は、そう一気に話した。山本が慌ててメモを取り出して、それを書き記している。
「快楽殺人でない証拠に……切り取られた月子さんと陸さんの瞼と耳は、近隣に捨てられていると思うわ。犯人にとって、それは興味ないから。そうね、伊丹駅付近を探すといいと思うわ」
「おい、警察犬の要請しろ! 大至急や! その間に、家の中と付近を全力で探せ!」
佐々木が、周りにいた刑事の一人に大声を上げた。その刑事は慌ててスマホを取り出して何処かへ電話を掛けた。それと同時に、鑑識と刑事たちが慌てて家の中と外の捜索に分かれた。
「警告って、どういう……?」
山本はメモから顔を上げると、櫻子に尋ねた。
「犯人は、『私達ではなく』竜崎さんが先に『一家殺人事件が起こる』と予想したからよ」
篠原が、はっと顔を上げた。竜崎がランチに誘った時に行っていた言葉だ。桐生が行ったと思われる事件が、間隔を空き模倣されている。そう竜崎は、篠原に話していた。
「私達……? 警視、それは曽根崎警察が、という事ですか?」
「それは……それは、いずれ分かるわ。竜崎さん――竜崎海斗さんは今どこに?」
櫻子は言葉を濁し、未だ姿の見えない竜崎の名を口にした。
「宮城課長に竜崎さんから連絡が入ったんです。その時、宮城課長に指示されて自分が宮城課長を乗せて、運転してこの竜崎さんの家に来ました。そして、倒れている竜崎さんと、ご家族の遺体を発見しました。竜崎さんは気を失っていたので救急車を呼び、私は伊丹署に電話をして状況を説明しました。宮城課長は、警視への連絡と曽根崎警察捜査一課への指揮に、一度戻られたんです。竜崎さんは、今病院です」
山本の報告に、櫻子は眉を寄せた。
「私達が景光容疑者がいる流星さんの部屋にいた時に、竜崎さんのスマホは鳴っていた……19時前後くらいよね? ここは、駅から離れている……バスか自家用車を使わないと駅まで行けないわね。自家用車を使ったとは考えられない……バスに乗ったのかしら?」
犯人は、返り血を浴びないようにしていた筈だ。多分この家中を探しても、指紋など痕跡は一切出ないだろう。姉弟を縛ったロープや被害者たちを刺した包丁かナイフ、ひょっとしたら着替えなどの荷物も用意して来たはずだ。そんな大荷物で帰宅時間帯のバスに乗れば、目立つかもしれない。
「あの……もしかしたら、ですが……竜崎さんの自転車……」
遠慮がちに、山本が口を挟んだ。その言葉に、櫻子の顔が強張る。
「竜崎さんの自転車? 駅まで、彼は自転車通勤していたの?」
「は、はい。お姉さんは自動車通勤。竜崎さんと弟さんは、駅まで自転車を使っていると聞きました。駅の近くの駐輪所を借りているそうです」
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「体調の事に構ってられないわ――これも、桐生が関係しているから」
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宮城は、大きく息を吐いた。そうであって欲しくない――櫻子と篠原、宮城の心からの思いだった。
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