アナグラム

七海美桜

文字の大きさ
上 下
150 / 188
アリアドネのカタストロフィ

警告・中

しおりを挟む
「え? 犯人の事ですか?」
 佐々木が驚いたように、そう呟いた櫻子の美しい顔を見た。彼女は彼の顔を見ず、小さく頷く。

「まず、現場が綺麗すぎる。多数で押し入った形跡はないから、犯人は一人。そうなると、一人で男性を含めた三人を殺害するには、力が必要。腕力――そして、もし姿を見られても騒がれなかった思われる事から、普通に見える若い男。映画やドラマの様な殺人現場を演出しているけれど、それを快感に思っていない。これは、過剰殺傷がない事から想像できる。犯人像を快楽殺人者に見せる為の、小細工か……私達を揶揄からかっているか警告している。月子さんと陸さんを拘束して制圧してから、母親を最初に殺している。これは、『愛情に飢えている』からね。そして母親……陽子さんが自分の子供を殺されるのを、見ないようにした。そして、海斗さんに『お別れを伝えられる』ように、電話をさせた。彼はその電話に出られなかったから、本当の意味は分からないけれど……。短時間に、離れているとはいえ人家に気付かれないように犯行を行った事から、計画してその通りに犯行を遂行した……秩序型」

 櫻子は、そう一気に話した。山本が慌ててメモを取り出して、それを書き記している。
「快楽殺人でない証拠に……切り取られた月子さんと陸さんの瞼と耳は、近隣に捨てられていると思うわ。犯人にとって、それは興味ないから。そうね、伊丹駅付近を探すといいと思うわ」

「おい、警察犬の要請しろ! 大至急や! その間に、家の中と付近を全力で探せ!」
 佐々木が、周りにいた刑事の一人に大声を上げた。その刑事は慌ててスマホを取り出して何処かへ電話を掛けた。それと同時に、鑑識と刑事たちが慌てて家の中と外の捜索に分かれた。

「警告って、どういう……?」
 山本はメモから顔を上げると、櫻子に尋ねた。
「犯人は、『私達ではなく』竜崎さんが先に『一家殺人事件が起こる』と予想したからよ」
 篠原が、はっと顔を上げた。竜崎がランチに誘った時に行っていた言葉だ。桐生が行ったと思われる事件が、間隔を空き模倣もほうされている。そう竜崎は、篠原に話していた。

「私達……? 警視、それは曽根崎警察が、という事ですか?」
「それは……それは、いずれ分かるわ。竜崎さん――竜崎海斗さんは今どこに?」
 櫻子は言葉をにごし、未だ姿の見えない竜崎の名を口にした。

「宮城課長に竜崎さんから連絡が入ったんです。その時、宮城課長に指示されて自分が宮城課長を乗せて、運転してこの竜崎さんの家に来ました。そして、倒れている竜崎さんと、ご家族の遺体を発見しました。竜崎さんは気を失っていたので救急車を呼び、私は伊丹署に電話をして状況を説明しました。宮城課長は、警視への連絡と曽根崎警察捜査一課への指揮に、一度戻られたんです。竜崎さんは、今病院です」

 山本の報告に、櫻子は眉を寄せた。
「私達が景光容疑者がいる流星さんの部屋にいた時に、竜崎さんのスマホは鳴っていた……19時前後くらいよね? ここは、駅から離れている……バスか自家用車を使わないと駅まで行けないわね。自家用車を使ったとは考えられない……バスに乗ったのかしら?」
 犯人は、返り血を浴びないようにしていた筈だ。多分この家中を探しても、指紋など痕跡は一切出ないだろう。姉弟を縛ったロープや被害者たちを刺した包丁かナイフ、ひょっとしたら着替えなどの荷物も用意して来たはずだ。そんな大荷物で帰宅時間帯のバスに乗れば、目立つかもしれない。

「あの……もしかしたら、ですが……竜崎さんの自転車……」
 遠慮がちに、山本が口を挟んだ。その言葉に、櫻子の顔が強張る。

「竜崎さんの自転車? 駅まで、彼は自転車通勤していたの?」
「は、はい。お姉さんは自動車通勤。竜崎さんと弟さんは、駅まで自転車を使っていると聞きました。駅の近くの駐輪所を借りているそうです」
 もしその竜崎か弟の自転車を使ったとなれば、竜崎の事を全て調べられて犯行が行われているという事になる。

 やはり、今回も桐生が関係しているとみて間違いないのかもしれない。

「すんません、遅くなりました――あ、佐々木さん。どうもうちの者がお邪魔してます」
 そこへ、宮城と同じく捜査一課の牧瀬が来た。現場責任者である伊丹署の佐々木に、宮城は頭を下げた。佐々木も丁寧に頭を下げた。
「一条警視、大丈夫ですか?」
 流星の事件から続いているので、宮城は彼女の体調をまず心配したようだ。
「体調の事に構ってられないわ――これも、桐生が関係しているから」
「……やはり、そうですか」
 宮城は、大きく息を吐いた。そうであって欲しくない――櫻子と篠原、宮城の心からの思いだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

処理中です...