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罪びとは微笑む
容疑・中
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「景光は、『若さ』に執着してたの?」
『ホストやキャバ嬢、アイドル……色々、『若さ』に取りつかれてる奴は多い。若さってのは、武器になるからな。ホストの世界もそうや、売り上げを出す武器の一つが若さや。景光は若い頃は結構客持って人気があったから、店長にまで上げた。けど、流星が入ってくると客は流星に流れるし新規も増えた。年も取り始めて、ってのも大きかったんやろ。主任に落とした時は軽いノイローゼになっとったな』
香田は、思い出すように話す。時折、氷がグラスに当たる音が聞こえた。彼はブランディ―を飲んで、慣れた自室でゆったりしているのだろう。
キタの『Majesty』はオーナーの香田自ら客を呼ぶ事もあり、売り上げが大きな店なのだろう。それなら、実力重視で入れ替えがあってもおかしくない。
「よく辞めなかったのね」
『櫻子さんも知ってるやろうけど、流星はこの業界に似合わんほど、優しい性格や。大抵のホストは、客を風呂に落とすまで金を搾り取る。けどあいつは売り上げが落ちた客の代わりの新規を見つけてきて、風呂に落とすまで搾り取らへん。落ちぶれた景光に声かけて飯に誘ったり、励ましてたんは同僚の中であいつだけや。せやから、景光は復帰する気になったし、流星を慕っている。殺したりはせんやろ』
殺人犯という単語を聞いたので、流星が危険な状況なのを知った香田はそう言葉を選んだ。
「長い事付き合ってる女もいたな……確か、十三でスナックを開いてる女や。子供が出来て困ってるって話は聞いたけど、それから何も言わんから堕ろして別れたんやろうか」
宮城と櫻子が顔を見合わせた。十三の彼女のスナックで見つかった最初の頃の被害者である、鯵川真紀の事に違いない。
その時、ノックの音と共に特別心理犯罪課のドアが開かれた。
「一条警視! あの水ボトルに入っていた血は乾和香子のものだと分かりました!」
生活安全課の、赤井だった。検査結果の紙らしきものと、それとは別のものらしい紙を手にしていた。
『物騒な話やな。俺が知ってる話は、それくらいや――ほな、池田。あとは任せた』
香田はそう言って、電話を切った。通話中だった事に気が付いた赤井は、慌てて口を押さえてから大きく頭を下げた。
「いいのよ、もう部外者もいるし。それで――その紙は?」
申し訳なさそうに頭を下げたままの赤井にそう言って、櫻子は気になっていた紙の束に視線を向けた。
「あ、これは水ボトルの検査結果を貰った時に、宮城捜査課長か一条警視に渡すよう頼まれたものです」
赤井はどちらに渡すか悩んだようだが、階級を考えたのか櫻子に渡した。
「南扇町で発見された遺体には、妊娠初期に見られるhCGホルモン、卵胞ホルモン、黄体ホルモンが僅かに全員に出ていた――つまり、殺害された被害者たちは妊娠初期だった事で間違いないわね。十三の遺体は、調べるのに難航するでしょう……周りの聞き込みやSNSでの捜査を強化しかないわ」
櫻子は書類を宮城にも見せやすいように確認して、それを彼に渡した。
「どうします? 引っ張ってきましょうか?」
「そうね、確実な証拠はないけど他に被害者が出ないうちに、身柄を拘束しておいた方がいいわ――行きましょう」
「あ。唯菜――」
赤井と笹部以外の全員が外に出る準備をしようとして、篠原がはっと思い出したようにソファに座りジュースを飲んでいた唯菜の存在を思い出した。
「唯菜ちゃん、俺が預かるわ。家の人も忙しいんやろ?」
意外な事に、池田がそう言った。
「え、でもそれは申し訳ありませんよ……親父の熱くらいなら、母に頼みます」
「唯菜、てっちゃんとご飯食べる」
唯菜は、余程池田を気に入った様だ。池田の腕に抱き着いた。
「……池田君なら、大丈夫よ。任せましょう――唯菜ちゃん、お兄さんとお留守番できる?」
櫻子はそう言うと、唯菜の頭を撫でた。唯菜は櫻子に撫でられたのが嬉しいのか、にっこりと笑って頷いた。
「うん! おじちゃんもさくらこちゃんもお仕事なんだよね? 気を付けてね」
赤井は生活安全課に戻り、笹部はSNSを調べる為に残る事になった。外に出ると竜崎が車を回して来て、池田はタクシーを呼び停めていた。
「組に戻ってます。何かあったら、連絡してください。唯菜ちゃんの事は、俺が責任持ちますんで」
「ごめんなさい、お願するわ」
「よろしくお願いします」
「――うちのもんが面倒を掛けました、容疑が固まったら……よろしくお願いします」
篠原が深々と頭を下げると、池田も苦々しい顔になりながらも軽く頭を下げた。そうして、池田と唯菜はタクシーに乗って、桜海會へと向かった。
「いいんですか、警視。一応、反社会勢力ですよ」
車に乗り込んだ宮城が、櫻子に尋ねた。慣れ合っているが、本来なら慣れ合ってはいけないのだ。
「桐生の事もあるし、なるべく安全な人に任せたいの――それが、反社会勢力でも。今は、信頼できる人が少ないから」
櫻子がそう言うと、宮城は頷いて竜崎に車を出すように指示した。
『ホストやキャバ嬢、アイドル……色々、『若さ』に取りつかれてる奴は多い。若さってのは、武器になるからな。ホストの世界もそうや、売り上げを出す武器の一つが若さや。景光は若い頃は結構客持って人気があったから、店長にまで上げた。けど、流星が入ってくると客は流星に流れるし新規も増えた。年も取り始めて、ってのも大きかったんやろ。主任に落とした時は軽いノイローゼになっとったな』
香田は、思い出すように話す。時折、氷がグラスに当たる音が聞こえた。彼はブランディ―を飲んで、慣れた自室でゆったりしているのだろう。
キタの『Majesty』はオーナーの香田自ら客を呼ぶ事もあり、売り上げが大きな店なのだろう。それなら、実力重視で入れ替えがあってもおかしくない。
「よく辞めなかったのね」
『櫻子さんも知ってるやろうけど、流星はこの業界に似合わんほど、優しい性格や。大抵のホストは、客を風呂に落とすまで金を搾り取る。けどあいつは売り上げが落ちた客の代わりの新規を見つけてきて、風呂に落とすまで搾り取らへん。落ちぶれた景光に声かけて飯に誘ったり、励ましてたんは同僚の中であいつだけや。せやから、景光は復帰する気になったし、流星を慕っている。殺したりはせんやろ』
殺人犯という単語を聞いたので、流星が危険な状況なのを知った香田はそう言葉を選んだ。
「長い事付き合ってる女もいたな……確か、十三でスナックを開いてる女や。子供が出来て困ってるって話は聞いたけど、それから何も言わんから堕ろして別れたんやろうか」
宮城と櫻子が顔を見合わせた。十三の彼女のスナックで見つかった最初の頃の被害者である、鯵川真紀の事に違いない。
その時、ノックの音と共に特別心理犯罪課のドアが開かれた。
「一条警視! あの水ボトルに入っていた血は乾和香子のものだと分かりました!」
生活安全課の、赤井だった。検査結果の紙らしきものと、それとは別のものらしい紙を手にしていた。
『物騒な話やな。俺が知ってる話は、それくらいや――ほな、池田。あとは任せた』
香田はそう言って、電話を切った。通話中だった事に気が付いた赤井は、慌てて口を押さえてから大きく頭を下げた。
「いいのよ、もう部外者もいるし。それで――その紙は?」
申し訳なさそうに頭を下げたままの赤井にそう言って、櫻子は気になっていた紙の束に視線を向けた。
「あ、これは水ボトルの検査結果を貰った時に、宮城捜査課長か一条警視に渡すよう頼まれたものです」
赤井はどちらに渡すか悩んだようだが、階級を考えたのか櫻子に渡した。
「南扇町で発見された遺体には、妊娠初期に見られるhCGホルモン、卵胞ホルモン、黄体ホルモンが僅かに全員に出ていた――つまり、殺害された被害者たちは妊娠初期だった事で間違いないわね。十三の遺体は、調べるのに難航するでしょう……周りの聞き込みやSNSでの捜査を強化しかないわ」
櫻子は書類を宮城にも見せやすいように確認して、それを彼に渡した。
「どうします? 引っ張ってきましょうか?」
「そうね、確実な証拠はないけど他に被害者が出ないうちに、身柄を拘束しておいた方がいいわ――行きましょう」
「あ。唯菜――」
赤井と笹部以外の全員が外に出る準備をしようとして、篠原がはっと思い出したようにソファに座りジュースを飲んでいた唯菜の存在を思い出した。
「唯菜ちゃん、俺が預かるわ。家の人も忙しいんやろ?」
意外な事に、池田がそう言った。
「え、でもそれは申し訳ありませんよ……親父の熱くらいなら、母に頼みます」
「唯菜、てっちゃんとご飯食べる」
唯菜は、余程池田を気に入った様だ。池田の腕に抱き着いた。
「……池田君なら、大丈夫よ。任せましょう――唯菜ちゃん、お兄さんとお留守番できる?」
櫻子はそう言うと、唯菜の頭を撫でた。唯菜は櫻子に撫でられたのが嬉しいのか、にっこりと笑って頷いた。
「うん! おじちゃんもさくらこちゃんもお仕事なんだよね? 気を付けてね」
赤井は生活安全課に戻り、笹部はSNSを調べる為に残る事になった。外に出ると竜崎が車を回して来て、池田はタクシーを呼び停めていた。
「組に戻ってます。何かあったら、連絡してください。唯菜ちゃんの事は、俺が責任持ちますんで」
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「――うちのもんが面倒を掛けました、容疑が固まったら……よろしくお願いします」
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「いいんですか、警視。一応、反社会勢力ですよ」
車に乗り込んだ宮城が、櫻子に尋ねた。慣れ合っているが、本来なら慣れ合ってはいけないのだ。
「桐生の事もあるし、なるべく安全な人に任せたいの――それが、反社会勢力でも。今は、信頼できる人が少ないから」
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