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七海美桜

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罪びとは微笑む

ヒント・中

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「やはり、彼女は犯人と何か繋がりがあったのね……犯人にとって、私達が彼女に接触するのは不都合だった……」
 篠原が捜査課に電話をして、応援を頼んだ。それからホテルにも今いる客を帰らさないように、赤井は受付に連絡しに階下に向かっている。「もう犯人はいないと思うけれど、形式的に聞き込みをしないとね」と櫻子が指示をしたので、生活課の同僚にも応援を頼んだようだ。

 鑑識を連れてイートンホテルに来たのは、竜崎と間島という若い刑事。宮城は、捜査本部から離れられないため、竜崎を櫻子に送った様だ。それと、ホテルを利用していた人の聞き込みの為の、生活安全課の五人。彼らは、早速聞き込みに向かった。遅くなればごねる客もいるので、迅速に行動するようにと指示された。

「この人は、ストーカー犯であり『連続子宮泥棒犯』の被害者なんですか?」
 間島の言葉に、櫻子は僅かに眉を顰めた。

「なに、その名前」

「すみません、どうやらマスコミに今回の事件の内容が流れたらしく、今日発売の週刊誌や新聞のそんな名前で書かれています」
 竜崎がフォローする様に、櫻子に頭を下げた。慌てて間島も頭を下げる。櫻子は「そう」とだけ呟くと、彼女に会いに来た流れを話して赤井を紹介した。赤井は、聞き込みには参加をしていない。アヤナと流星の事で櫻子に何か聞かれてもいいように、と残っている。
 勿論同じ警察署で、竜崎も間島も赤井の事は知っている。だが、彼女の警告を無視した捜査課の対応に、少なからず櫻子は怒っていた。

「もう少し、情報は大事にしてね。事件の内容がマスコミに流れないように――生活安全課の情報も精査するように」
「すみません、まさか繋がっているかもしれなかったとは――富田さんと滝井さんが忙しいと、話をろくに聞かずに追い返したんです。申し訳ありませんでした」

 階級的に、竜崎の方が富田や滝井より上の筈だ。だが、昔ながらの年功序列意識が残っているため、竜崎は彼らにいつも気を遣っていた。
「い、いいんです、私ももっと粘ればよかったんです!」
 婦警に人気のある竜崎を目の当たりにして、赤井は赤い顔になって同じように頭を下げた。そんな彼らの脇で鑑識が素早く捜査を始めている。

「間島君、フロントに行ってここを借りた人物の情報と監視カメラの画像を、借りて持ってきてくれるかな?」
「はい!」
 竜崎の指示に、間島は急いでフロントに向かった。このイートンホテルは身分証の提示が必須ではない、ビジネスホテルだ。レジストレーションカード受付用紙に掛かれている者は多分嘘だろうが、指紋や筆跡鑑定に使える。

「乳房や子宮は取られてないわね? 顔に傷もない」
 遺体を確認している鑑識の横に並ぶと、櫻子はざっと目視で確認して尋ねた。服を脱いだ形跡もないが、派手なピンクのワンピース姿だ。スカートが短く、倒れた際にめくり上がって下着が見えていたが正直見たいとは思わなかった。

「はい、犯人は返り血を浴びないように動脈系は外してます。包丁サイズの凶器で、正面から下腹部二ヶ所と肺辺りを刺していますね。どうやらこの部屋には、凶器は残っていないようです。バスルームで包丁と手を洗って、そこにおいてあるタオルで拭ったようですね。エアコンも入っていますが、遺体の死亡時間をかく乱するほどのものではありません。直腸温度から、死亡したのは今日の四時前後くらいかと。詳しい時間は、検死待ちですね」

 鑑識は、的確に必要な情報だけ口にした。
「刺されてから、失血死した感じかしら?」
「多分……そうだと考えられます。そうなりますと、流れている血の量から刺されたのは三時過ぎが妥当かと……検死しなければ、確実とは言えませんが」
 遺体はドア付近。指名されたのが三時だったので、部屋に入って持っていたカバンをソファに置く。それから備え付けの冷蔵庫に向かおうとして、刺された。と、考えられる。
「スマホが見当たりませんね。しかし、被害者のカバンから、これが……」
 白い手袋をした竜崎の両手には、安物の赤ワインの小ボトルとプラスチックの水ボトルがあった。それは、櫻子が見たものと同じだが、少し違っていた。

「……血、ね……」

 水ボトルは、トマトジュースが入っているかのように真っ赤だった。赤井が、顔を青くした。
「被害者の月経血……では、ありませんよね?」
「多分、一番新しい遺体の血よ。犯人から、受け取ったのね――口止め料だったのかしら。彼女もカリバリズムの延長線――血を飲んで若返ろうとしていたのね」

 あまりの事に倒れそうになった赤井を、篠原が支えた。赤井が、はっとなって篠原に礼を言う。そこに、フロントから間島が戻って来た。
 利用者の名前は、『桐生蒼馬』――櫻子は、思わずそのレジストレーションカードを破りそうになるのを、篠原に止められた。

「ごめんなさい、ここは貴方達に任せるわ。私は――確認しに行くわ」
「一条警視、一人では危険です。俺も行きます!」
 桐生に会いに行くのだと、竜崎も篠原も分かった。篠原は慌ててそう言ったが、櫻子は首を横に振った。
「人員が足りないわ――篠原君。貴方は、笹部君と宮城さんの指示に従って。私なら、大丈夫だから」
「一条課長! ――課長!!」

 櫻子はそう言うと、篠原の声に振り返らずにイートンホテルを出た。
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