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罪びとは微笑む
発見・中
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「7月18日の土曜日、19時のニュースです。月曜に北区南扇町のアパートで五人の遺体が発見されたばかりですが、今度は十三のスナックで同じような遺体が発見されたようです。現場は繁華街であり、警察が調査中です。なおこれらは連続殺人事件の疑いが……」
竜崎が曽根崎警察署に連絡をすると、すぐに捜査員と鑑識が駆け付けた。それに気が付いたらしいマスコミが追いかけてきて、報道ニュースが始まった。それを見たらしい野次馬と繁華街にいた人たちも集まって、現場は騒然となった。
雑居ビルの一階と二階の店を閉める様に頼んだが、仕入れたばかりの生花や仕込みが終わったばかりの花屋と居酒屋は、営業妨害だと警察に抗議した。だが、腐乱死体があるのに営業するのかと言えば仕方なく店を閉めて、従業員たちはビルから出て行った。念のために店舗にある食品は破棄するように伝えると、居酒屋の店長は落胆していた。
周りは制服警官が警備して、三階のスナックのドアの前とビルの周りは青いビニールシートで隠し、立ち入り禁止の黄色いテープを張る。そうして、何とかして撮影しようとするマスコミや野次馬を抑えていた。
「隠そうとするのは、何か警察にやましい事があるんじゃないんか? 発表はまだなんですか!?」
「先月の冤罪みたいに、また誰かに罪被せようとしてるんやないんか?」
「再生数上げたいから、頼むからホンマに少しでいいから死体映させてや!」
マスコミや動画配信者らしい人達からの心無い言葉に、現場への出入りできる箇所に立つ警察官は何も言葉を返さずに、黙って入ろうとする彼らを止めていた。櫻子に「何も話さなくていい。出来るだけ視線も合わさないように」と言われていたからだ。
人が死んでいる。しかも、それは殺人事件で殺されたと思われる。それなのに、同じ人間としてなぜ彼らはこんなにも『興味』や『利益』の為だけに、不幸な人を世間に見せようとしているのか。警察官たちは、亡くなった人を不憫に思い、悲しみに耐える様に強く歯を噛み締めた。
後から来た鑑識や捜査員たちは防護服を着たが、櫻子達はもう今回も服を捨てる事にして置かれていたビニール袋を開けた。
ビニール袋は全部で八個。七個には、先日の現場の遺体と同じように、バラバラにされた遺体が二重にされた袋に収められていた。残りの一個には、女性ものの服やカバン、靴などが放り込まれていた。
保険証や運転免許証が二人分あり、この遺体の山の一部だと思われた。櫻子達が予想したように、神原絵美と遠藤五月だ。袋から床に広げて確認出来た頭部は三個あるので、もう一体の遺体はこのスナックのママの鯵川真紀だと思われる。
しかし、検死やDNA検査などしないと確証は取れない。遺体を確認するも、ほぼミイラのようになっていて死因などは当然分からなかった。勿論、指紋も取れない。歯形とDNAでしか、確認は取れそうになかった。
櫻子が不思議に思ったアイスペールからは、鑑識が調べるとやはりルミノール反応が出た。しかしこれで殴った訳ではなく、内側から反応が出た。つまり、血か肉片などをここに入れた、と考えられる。他に、シンクに転がっていたグラスからも同じようにルミノール反応が出た。
「……血を飲んだのかしら?」
櫻子の呟きに、篠原がぎょっとした表情を浮かべた。
「この店は、鯵川さんだけで回してたの?」
「いえ、普段は鯵川さんだけの用でしたが、週末や予約あった時に若い子が二人ほど交代でバイトに来てたみたいです。現在、その二人を調べています」
応援に来た一課の富田が櫻子に答えた。
「そう、じゃあ私達は戻るわ。宮城さん、先に失礼するわね。ご遺体を運ぶ車に、一緒に乗せて貰って帰るわ」
「警視、私と竜崎も一度戻ります。富田、ここは暫く任せる――竜崎、いくぞ」
珍しく、宮城は現場を離れると口にして竜崎を呼んだ。
「私にも、昔ながらの情報網があります。着替えて、会いに行きますわ」
「そう、情報頼むわ。今は、少しでも多くの情報が欲しい――あのSNSは凍結させているけれど、新しい被害者が出る前に捕まえたいの」
頷いた櫻子は、彼らを連れて曽根崎警察署に戻った。勿論現場から出て来る彼女達にマスコミが殺到したが、微かに漂う死臭に自然と足を止めて呆然と見送った。
もう慣れつつある篠原は、少しだけ心が痛んだ――立ち止まった彼らと自分が、まるで違う生き物になってしまったように感じたからだ。
竜崎が曽根崎警察署に連絡をすると、すぐに捜査員と鑑識が駆け付けた。それに気が付いたらしいマスコミが追いかけてきて、報道ニュースが始まった。それを見たらしい野次馬と繁華街にいた人たちも集まって、現場は騒然となった。
雑居ビルの一階と二階の店を閉める様に頼んだが、仕入れたばかりの生花や仕込みが終わったばかりの花屋と居酒屋は、営業妨害だと警察に抗議した。だが、腐乱死体があるのに営業するのかと言えば仕方なく店を閉めて、従業員たちはビルから出て行った。念のために店舗にある食品は破棄するように伝えると、居酒屋の店長は落胆していた。
周りは制服警官が警備して、三階のスナックのドアの前とビルの周りは青いビニールシートで隠し、立ち入り禁止の黄色いテープを張る。そうして、何とかして撮影しようとするマスコミや野次馬を抑えていた。
「隠そうとするのは、何か警察にやましい事があるんじゃないんか? 発表はまだなんですか!?」
「先月の冤罪みたいに、また誰かに罪被せようとしてるんやないんか?」
「再生数上げたいから、頼むからホンマに少しでいいから死体映させてや!」
マスコミや動画配信者らしい人達からの心無い言葉に、現場への出入りできる箇所に立つ警察官は何も言葉を返さずに、黙って入ろうとする彼らを止めていた。櫻子に「何も話さなくていい。出来るだけ視線も合わさないように」と言われていたからだ。
人が死んでいる。しかも、それは殺人事件で殺されたと思われる。それなのに、同じ人間としてなぜ彼らはこんなにも『興味』や『利益』の為だけに、不幸な人を世間に見せようとしているのか。警察官たちは、亡くなった人を不憫に思い、悲しみに耐える様に強く歯を噛み締めた。
後から来た鑑識や捜査員たちは防護服を着たが、櫻子達はもう今回も服を捨てる事にして置かれていたビニール袋を開けた。
ビニール袋は全部で八個。七個には、先日の現場の遺体と同じように、バラバラにされた遺体が二重にされた袋に収められていた。残りの一個には、女性ものの服やカバン、靴などが放り込まれていた。
保険証や運転免許証が二人分あり、この遺体の山の一部だと思われた。櫻子達が予想したように、神原絵美と遠藤五月だ。袋から床に広げて確認出来た頭部は三個あるので、もう一体の遺体はこのスナックのママの鯵川真紀だと思われる。
しかし、検死やDNA検査などしないと確証は取れない。遺体を確認するも、ほぼミイラのようになっていて死因などは当然分からなかった。勿論、指紋も取れない。歯形とDNAでしか、確認は取れそうになかった。
櫻子が不思議に思ったアイスペールからは、鑑識が調べるとやはりルミノール反応が出た。しかしこれで殴った訳ではなく、内側から反応が出た。つまり、血か肉片などをここに入れた、と考えられる。他に、シンクに転がっていたグラスからも同じようにルミノール反応が出た。
「……血を飲んだのかしら?」
櫻子の呟きに、篠原がぎょっとした表情を浮かべた。
「この店は、鯵川さんだけで回してたの?」
「いえ、普段は鯵川さんだけの用でしたが、週末や予約あった時に若い子が二人ほど交代でバイトに来てたみたいです。現在、その二人を調べています」
応援に来た一課の富田が櫻子に答えた。
「そう、じゃあ私達は戻るわ。宮城さん、先に失礼するわね。ご遺体を運ぶ車に、一緒に乗せて貰って帰るわ」
「警視、私と竜崎も一度戻ります。富田、ここは暫く任せる――竜崎、いくぞ」
珍しく、宮城は現場を離れると口にして竜崎を呼んだ。
「私にも、昔ながらの情報網があります。着替えて、会いに行きますわ」
「そう、情報頼むわ。今は、少しでも多くの情報が欲しい――あのSNSは凍結させているけれど、新しい被害者が出る前に捕まえたいの」
頷いた櫻子は、彼らを連れて曽根崎警察署に戻った。勿論現場から出て来る彼女達にマスコミが殺到したが、微かに漂う死臭に自然と足を止めて呆然と見送った。
もう慣れつつある篠原は、少しだけ心が痛んだ――立ち止まった彼らと自分が、まるで違う生き物になってしまったように感じたからだ。
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