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七海美桜

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罪びとは微笑む

発覚・中

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「せやから、今はまだ確認中で発表出来る事はりません!間違った情報で、市民を混乱させたくないんです!――お、宮城と竜崎…に、一条警視」
 マスコミに取り囲まれていた市井いちい副署長は、玄関先に宮城の姿を見つけると安堵した声を上げたが、続いて顔を見せた櫻子を確認すると僅かに顔をしかめた。
「一条警視!事件の説明をお願いできますか!?」
 『堂島・豊中交換殺人事件』でマスコミ嫌いともとれる対応をしていた櫻子だったが、今回は自分を囲むマスコミに丁寧に頭を下げた。
「『特別心理犯罪課』の一条です。現在、捜査が始まったばかりで間違った情報を流さない為にも、お話しできる事がありません。ある程度情報がまとまりましたら、必ず皆様にお話いたしますのでしばらくお待ちください」
 前回の彼女と違う反応に、篠原は驚いたようだった。
「刑事局長に、マスコミを味方にしろって怒られたみたいだよ」
 そんな篠原の疑問に答えるかのように、彼の隣に立っていた笹部はぼんやりと呟いた。マスコミの大半は、男だ。櫻子が申し訳なさそうな、困った様な表情を見せればそれ以上無理に聞き込もうとはしなかった。女性報道陣が、そんな男たちをけんを含んだ視線で睨む。
「では、私たちは確認に向かいます。どうぞ、よろしくお願いします」
 もう一度頭を下げた櫻子は、宮城たちに視線を送ると再び彼らと共に車に戻った。

 現場は、南扇みなみおうぎ町の路地裏のアパートの一室だった。北税務署があり、専門学校が幾つかある290世帯ほどの世帯数が増え始めている町だ。最寄り駅は、地下鉄堺筋線の扇町駅になる。名前の由来は、扇町公園だ。

 路地の突き当りの、古びたアパートの1階の101号室。もう古い為空き部屋が多く、入居しているのは8部屋の内、3世帯だ。6畳と4畳の部屋に、狭い風呂とトイレ。小さな台所が揃っていた。入居している3世帯のうちの、1部屋だ。
「2階の203号室の住人が、変な匂いがするし時々住人じゃない人が部屋に入るのを見かけて、大家に連絡したそうです。大家はもう随分なばあさんで、孫をに頼んで様子を見て貰いに来たら――この死臭ですよ。流石に死臭とは分からなかったそうですが異変を感じて、扇町公園交番の制服警官と共にマスターキーで部屋に入ったら、この有様ですわ」
 捜査一課の林が、大家の孫と制服警官から聞いた話を、櫻子達に報告した。死臭と現場の状況のせいか、少し顔色が悪い。
 アパートの前は、立ち入り禁止のテープが引かれ青いビニールシートでおおわれている。もう暗くなり始めているが、野次馬やマスコミが多い。
「とりあえず、中を見て見ましょ」
 櫻子の言葉に頷き、宮城が手袋をして部屋の中に入った。櫻子が続き、竜崎と篠原と少し遅れて笹部が部屋に入った。
 もう暑くなる季節なので、死体が痛んでいるのだろう。部屋の前でも漂っていた匂いが、玄関に入っただけでもきつくなり、目が痛くなる。鑑識やこの部屋にいる刑事たちは、映画のような防護服と毒ガスマスクを身に着けていて篠原を驚かせた。
「これは…」
 絶句した様に、宮城は言葉を失った。狭い風呂桶にバラバラにされた死体が押し込まれ、あふれた死体がキャラクターのレジャーシートが敷かれた6畳の畳の上に無造作に並べられていた。腐り始めて、蠅が飛び回っている。
「……っ」
 思わず吐きそうになる篠原だったが何とか耐えて、ハンカチで口元を押さえた。竜崎も顔色が悪く、笹部は匂いが不快なのか鼻を指で摘まんでいた。
「多分、全員女性みたいね。顔はめった刺しにされてる」
 ハンカチで口元を押さえながら、櫻子は死体を見渡した。宮城もやや腰が引けているが、櫻子と並んで死体の山を眺めた。竜崎も笹部も、櫻子と宮城、篠原のようにハンカチで鼻と口を押さえている。
「のこぎりが転がっていますが、あれで切ったんでしょうか?」
 風呂の死体の山の上に、乾いた血で汚れたのこぎりが4本転がっていた。
「そうね、並べてみないと分からないけど――5人前後で間違いないでしょうね」
 
 櫻子は部屋を振り返った。物が少なく、生活に最低限必要な日常品しか見当たらなかった。


 これにも、桐生が関わっているのか――櫻子は、ぎゅっと唇を噛んだ。
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