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文車妖妃(ふぐるまようひ)の涙
指輪・下
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「ホンマや、時間がおかしい。人と会うかもしれへんのに、三十分近くも部屋に入らへんなんてありえへん」
櫻子達の言葉に、外井も画面を切り替えて先ほどのロック管理画面を再確認した。そうして、不思議そうにそう零した。
櫻子はその言葉に返事せずに、画面を見ている。それから客が来る様子がない。被害者の入った部屋は、ロックがかかったのが十時三十八分。その時間監視カメラは何も変わらず、十時五十九分に新しいカップルが入店してくる。そうして、十一時三十七分にも新しいカップルが来店。
十二時六分に、どこかの部屋からカップルが退店する姿が映る。被害者の部屋は十二時三十八分に退店予定。しかし、変わった様子はない。ロックが解除された十三時四分は、監視カメラには誰の姿も映ってはいない。
多分アルバイトと清掃員は、先ほどの櫻子達が入ってきたこのフロントから、部屋に向かったのだろう。ここからの出入りなら、監視カメラには映らないようだ。
十三時十六分に、慌てた様子で顔色の悪い清掃の前中が、カメラを横切り店の外に出た。遺体を見てショックで吐きに外に出た、と外井は説明した。
それから十三時二十八分に通報を受けた刑事達が到着したのか、救急隊員の姿も加わり沢山の人が映り画面から消えていく。櫻子は、そこで停止をクリックした。映像が止まった。
「出て来なかったわね」
羽場と一緒に部屋に入った黒服ベール帽の女が姿は、来店から以降姿を見せなかった。ホテルを出る姿がないのだ。
櫻子は、画像を戻す。羽場と女が来店した所まで戻すと、女が顔に手を当てた所で止めた。
「何か気になりますか?」
篠原が声をかけると、櫻子は画面の女を指差した。
「女性の荷物は、ショルダーバッグだけ。ベールの付いた帽子。そして、レースの黒い手袋かしら? そして、これ」
篠原は、瞳を細めて画像の女を見る。左手の中指が、キラリと光っている。
「指輪……でしょうか?」
女性のアクセサリーなど、篠原は疎い。しかし、この荒い画素数で光って見えるのは、かなり大きな宝石の付いた指輪なのだろうか?
「指輪ね。手掛かりになるかもしれないわ……外井さん、これコピーして貰えないかしら?」
「構いませんけど……もう警察には渡してますよ?」
事情を知らない外井は、怪訝そうな顔で新しいDVDを出してコピーする準備をした。
「すみません、部署が違うんです」
代わりに篠原が頭を下げ、その言葉に一応外井は納得したようだ。
「それと、鈴木さんの住所も教えて貰えますか?」
「はいはい、待って下さいね」
櫻子の言葉に、外井は立ち上がり履歴書を管理しているだろうファイルを取り出した。頁をめくる音を聞きながら、櫻子は篠原に話しかけた。
「持って帰って、笹部君に拡大して貰いましょ。ネックレスやイヤリングとかしていないのに、わざわざ手袋の上にあんな指輪してるなんて変よ」
確かに、映像の女は派手な姿ではなく上品そうに見えた。豪華にも見えるその指輪は、彼女の姿からはどこか浮いて見えた。
「そうですね、――それに何だか、人を殺すような人に見えませんね」
篠原は、画像の女を再び見た。羽場の後ろを歩くその女性を見ていても、何だかピンとこなかった。
「――殺意が見えないからじゃない?」
櫻子の言葉に、篠原は瞳を丸くした。ベールで顔は見えない、しかし確かにその女には穏やかさが見えるように感じるのだ。
「――この事件、すぐに解決するのかしら?」
櫻子が呟いた。
「刑事さん、鈴木君の住所はこれです」
言葉の意味を尋ねようとした篠原だったが、外井の言葉に遮られた。仕方なく、彼が履歴書から書き写してくれたメモを、篠原が受け取った。
コピーして貰ったDVDも受けとると、櫻子と篠原は現場を後にした。
櫻子達の言葉に、外井も画面を切り替えて先ほどのロック管理画面を再確認した。そうして、不思議そうにそう零した。
櫻子はその言葉に返事せずに、画面を見ている。それから客が来る様子がない。被害者の入った部屋は、ロックがかかったのが十時三十八分。その時間監視カメラは何も変わらず、十時五十九分に新しいカップルが入店してくる。そうして、十一時三十七分にも新しいカップルが来店。
十二時六分に、どこかの部屋からカップルが退店する姿が映る。被害者の部屋は十二時三十八分に退店予定。しかし、変わった様子はない。ロックが解除された十三時四分は、監視カメラには誰の姿も映ってはいない。
多分アルバイトと清掃員は、先ほどの櫻子達が入ってきたこのフロントから、部屋に向かったのだろう。ここからの出入りなら、監視カメラには映らないようだ。
十三時十六分に、慌てた様子で顔色の悪い清掃の前中が、カメラを横切り店の外に出た。遺体を見てショックで吐きに外に出た、と外井は説明した。
それから十三時二十八分に通報を受けた刑事達が到着したのか、救急隊員の姿も加わり沢山の人が映り画面から消えていく。櫻子は、そこで停止をクリックした。映像が止まった。
「出て来なかったわね」
羽場と一緒に部屋に入った黒服ベール帽の女が姿は、来店から以降姿を見せなかった。ホテルを出る姿がないのだ。
櫻子は、画像を戻す。羽場と女が来店した所まで戻すと、女が顔に手を当てた所で止めた。
「何か気になりますか?」
篠原が声をかけると、櫻子は画面の女を指差した。
「女性の荷物は、ショルダーバッグだけ。ベールの付いた帽子。そして、レースの黒い手袋かしら? そして、これ」
篠原は、瞳を細めて画像の女を見る。左手の中指が、キラリと光っている。
「指輪……でしょうか?」
女性のアクセサリーなど、篠原は疎い。しかし、この荒い画素数で光って見えるのは、かなり大きな宝石の付いた指輪なのだろうか?
「指輪ね。手掛かりになるかもしれないわ……外井さん、これコピーして貰えないかしら?」
「構いませんけど……もう警察には渡してますよ?」
事情を知らない外井は、怪訝そうな顔で新しいDVDを出してコピーする準備をした。
「すみません、部署が違うんです」
代わりに篠原が頭を下げ、その言葉に一応外井は納得したようだ。
「それと、鈴木さんの住所も教えて貰えますか?」
「はいはい、待って下さいね」
櫻子の言葉に、外井は立ち上がり履歴書を管理しているだろうファイルを取り出した。頁をめくる音を聞きながら、櫻子は篠原に話しかけた。
「持って帰って、笹部君に拡大して貰いましょ。ネックレスやイヤリングとかしていないのに、わざわざ手袋の上にあんな指輪してるなんて変よ」
確かに、映像の女は派手な姿ではなく上品そうに見えた。豪華にも見えるその指輪は、彼女の姿からはどこか浮いて見えた。
「そうですね、――それに何だか、人を殺すような人に見えませんね」
篠原は、画像の女を再び見た。羽場の後ろを歩くその女性を見ていても、何だかピンとこなかった。
「――殺意が見えないからじゃない?」
櫻子の言葉に、篠原は瞳を丸くした。ベールで顔は見えない、しかし確かにその女には穏やかさが見えるように感じるのだ。
「――この事件、すぐに解決するのかしら?」
櫻子が呟いた。
「刑事さん、鈴木君の住所はこれです」
言葉の意味を尋ねようとした篠原だったが、外井の言葉に遮られた。仕方なく、彼が履歴書から書き写してくれたメモを、篠原が受け取った。
コピーして貰ったDVDも受けとると、櫻子と篠原は現場を後にした。
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