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文車妖妃(ふぐるまようひ)の涙
指輪・中
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フロントは、丁度客とフロントの中にいる者が目を合わせない位置でスモークガラスに切り替わって仕切られていた。フロントのベルト鳴らすと、中にいたらしい店員が窓側に来るのが見えた。
「あれ? 今日は休みですよ? どうやって入ったんですか? 外にお巡りさん前におったでしょ?」
「私、刑事の一条櫻子と申します。お話が聞きたいのですが」
櫻子がそう返すと、「分かりました」と店員の男が一度姿を消して裏側からドアを開ける音がした。やはり篠原と櫻子の二人連れは、利用客に見えるらしい。
「どうぞ、こちらから」
櫻子と篠原が声をかけられたそちらに向かうと、フロントに繋がるドアを開けている黒いフレームの眼鏡の男が立っていた。反対側には、多分客と会わずに外に出れるだろうドアも見えた。五十歳手前の、少し小太りな男だった。
「社員の外井です。狭い場所ですみません」
そう言うが、休憩も出来るような広さで三人が入っていても特別窮屈ではなかった。パイプ椅子を二脚置いてくれて、外井はフロントの椅子に腰を掛けた。櫻子と篠原も腰を落とす。
「あの時発見したんは、バイトの子と清掃の人なんで、俺が分かる事はあんまりないと思うんですが……」
そう前置きして、外井は深くため息をついた。
「週末の繁盛時期から店閉めなあかんし、本店から怒られてこっちはえらい迷惑ですわ――死んだ人には申し訳ないけど」
「発見したのは、バイトの子なんですね?」
「はぁ、弁護士試験に何浪もしてる鈴木君ですわ。うちで一年ほど働いて貰ってます。事件から店は『現場保持』? で、休むように言われてるんで社員の私と清掃員しか来てません」
「彼はその日、何時から何時までのシフトだったんですか?」
櫻子の問いに、外井は首を横に振った。
「刑事さん、この業種のバイトは『24時間勤務』ですよ。一日八時間とかじゃなくて、丸一日仕事が入ると、二日ほど休みでまた丸一日。普通のホテルの仕事と、仕事形態は変わりません」
ラブホテルのシフト体制を知らなかった櫻子は、村岡の言葉に瞳を丸くした。アルバイトと聞いていたので、てっきり普通のアルバイトシフトだと勘違いしていたのだ。
「そうなんですね、失礼しました。では、鈴木さんは出勤して、しばらくした昼頃に事件に遭遇した――という事なんですね?」
「そうです、うちは朝七時に夜勤との勤務交代になってます。チェーン店なんで、この店舗には本店から指示された店長一人と社員三人で、アルバイトやパートを管理してます」
村岡の言葉に、櫻子は頷く。篠原は、笹部から預かったボイスレコーダーで、外井の話を録音していた。「メモ取るより早いですから」と、付いて行く気がない事を隠そうともせずに、平然としていた笹部から借りたのだ。
「『時間が合わない』と、鈴木さんは言っていたそうなんですが、その事は聞きました?」
「時間がおかしい? ――いえ、聞いていません。鈴木君は、事情聴取をしてから、自宅待機するように言われているので、家にいると思いますよ。勉強してるんやないかなぁ」
「各部屋のロックとロック解除の時間、分かりますか? 事件があった日のあの部屋のだけでいいんです」
櫻子がそう問うと、村岡はフロントの机の上に置いてあったパソコンを操作しだした。
「すぐ分かりますよ――ええと、十五日の105号ですよね……」
部屋と時間が表示された画面が現れる。画面をスクロールさせて、村岡はそれを見つけ出した。
「十五日は、朝七時に前の客が出て十分後に清掃が入ってます。清掃時間は、十五分。七時三十分には空室になってます。そして、十時三十八分にサービスタイムでロックが入り十三時四分にロック解除になってます」
「十三時四分に、鈴木さんと清掃の方が向かわれたという事ですね」
「これを見る限りは、そうなります」
その時間を繰り返し頭の中で整理すると、櫻子は再び村岡に視線を向けた。
「その日のフロントの監視映像はここにありますか?」
「ええ、ありますよ。刑事さんはコピーして持って帰りはりました。見ますか?」
村岡の言葉に、櫻子は表情を明るくした。
「ええ、お願いします」
DVDを取り出した村岡は、それをパソコンに読み込ませると時間を探すようにマウスを動かす。
「あ、これです」
客が店に入ってくるのを見つけた村岡は、一時停止を押すと櫻子と篠原に見える様に体を横にずらした。
そこには、背広姿の背の高い男と少し後から全体的に黒っぽい服装の女が入ってくるのが見えた。画像は荒いが、幸いカラーだ。女は黒く長い髪に、ベールのかかった帽子を被っていたので顔が見えない。
「――時間は……」
タッチパネルに移動する彼らは、カメラから映らなくなった。時間は、十時一分。
「確かに、時間が合わないわ」
「あれ? 今日は休みですよ? どうやって入ったんですか? 外にお巡りさん前におったでしょ?」
「私、刑事の一条櫻子と申します。お話が聞きたいのですが」
櫻子がそう返すと、「分かりました」と店員の男が一度姿を消して裏側からドアを開ける音がした。やはり篠原と櫻子の二人連れは、利用客に見えるらしい。
「どうぞ、こちらから」
櫻子と篠原が声をかけられたそちらに向かうと、フロントに繋がるドアを開けている黒いフレームの眼鏡の男が立っていた。反対側には、多分客と会わずに外に出れるだろうドアも見えた。五十歳手前の、少し小太りな男だった。
「社員の外井です。狭い場所ですみません」
そう言うが、休憩も出来るような広さで三人が入っていても特別窮屈ではなかった。パイプ椅子を二脚置いてくれて、外井はフロントの椅子に腰を掛けた。櫻子と篠原も腰を落とす。
「あの時発見したんは、バイトの子と清掃の人なんで、俺が分かる事はあんまりないと思うんですが……」
そう前置きして、外井は深くため息をついた。
「週末の繁盛時期から店閉めなあかんし、本店から怒られてこっちはえらい迷惑ですわ――死んだ人には申し訳ないけど」
「発見したのは、バイトの子なんですね?」
「はぁ、弁護士試験に何浪もしてる鈴木君ですわ。うちで一年ほど働いて貰ってます。事件から店は『現場保持』? で、休むように言われてるんで社員の私と清掃員しか来てません」
「彼はその日、何時から何時までのシフトだったんですか?」
櫻子の問いに、外井は首を横に振った。
「刑事さん、この業種のバイトは『24時間勤務』ですよ。一日八時間とかじゃなくて、丸一日仕事が入ると、二日ほど休みでまた丸一日。普通のホテルの仕事と、仕事形態は変わりません」
ラブホテルのシフト体制を知らなかった櫻子は、村岡の言葉に瞳を丸くした。アルバイトと聞いていたので、てっきり普通のアルバイトシフトだと勘違いしていたのだ。
「そうなんですね、失礼しました。では、鈴木さんは出勤して、しばらくした昼頃に事件に遭遇した――という事なんですね?」
「そうです、うちは朝七時に夜勤との勤務交代になってます。チェーン店なんで、この店舗には本店から指示された店長一人と社員三人で、アルバイトやパートを管理してます」
村岡の言葉に、櫻子は頷く。篠原は、笹部から預かったボイスレコーダーで、外井の話を録音していた。「メモ取るより早いですから」と、付いて行く気がない事を隠そうともせずに、平然としていた笹部から借りたのだ。
「『時間が合わない』と、鈴木さんは言っていたそうなんですが、その事は聞きました?」
「時間がおかしい? ――いえ、聞いていません。鈴木君は、事情聴取をしてから、自宅待機するように言われているので、家にいると思いますよ。勉強してるんやないかなぁ」
「各部屋のロックとロック解除の時間、分かりますか? 事件があった日のあの部屋のだけでいいんです」
櫻子がそう問うと、村岡はフロントの机の上に置いてあったパソコンを操作しだした。
「すぐ分かりますよ――ええと、十五日の105号ですよね……」
部屋と時間が表示された画面が現れる。画面をスクロールさせて、村岡はそれを見つけ出した。
「十五日は、朝七時に前の客が出て十分後に清掃が入ってます。清掃時間は、十五分。七時三十分には空室になってます。そして、十時三十八分にサービスタイムでロックが入り十三時四分にロック解除になってます」
「十三時四分に、鈴木さんと清掃の方が向かわれたという事ですね」
「これを見る限りは、そうなります」
その時間を繰り返し頭の中で整理すると、櫻子は再び村岡に視線を向けた。
「その日のフロントの監視映像はここにありますか?」
「ええ、ありますよ。刑事さんはコピーして持って帰りはりました。見ますか?」
村岡の言葉に、櫻子は表情を明るくした。
「ええ、お願いします」
DVDを取り出した村岡は、それをパソコンに読み込ませると時間を探すようにマウスを動かす。
「あ、これです」
客が店に入ってくるのを見つけた村岡は、一時停止を押すと櫻子と篠原に見える様に体を横にずらした。
そこには、背広姿の背の高い男と少し後から全体的に黒っぽい服装の女が入ってくるのが見えた。画像は荒いが、幸いカラーだ。女は黒く長い髪に、ベールのかかった帽子を被っていたので顔が見えない。
「――時間は……」
タッチパネルに移動する彼らは、カメラから映らなくなった。時間は、十時一分。
「確かに、時間が合わないわ」
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