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文車妖妃(ふぐるまようひ)の涙
死因・中
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「死体が発見されたのは、北区堂島エリアのラブホテルです。五月十五日の金曜日の昼十二時頃、清掃員の女性とフロントの男性が発見しました。休憩タイムで利用されたみたいですが、チェックアウトの時間になっても清算されなかったようです。フロントが電話しましたが応答がなく、フロントの男と清掃員とで部屋に向かったみたいですね。マスターキーで開けた部屋の中で、男が倒れていました」
笹部は、二人にパソコンを付けるように促した。二人は、自分の前のパソコンの電源を慌てて付ける。
「十五日という事は、先週の週末ね」
「発見時にはもうすでに冷たくなっていたようで、救急車と警察に連絡が入りました。男の身元は、所持していた運転免許証ですぐに判明しました。淀屋橋に本社がある村岡証券会社本店営業部の、羽場浩紀三十七歳です。駆けつけた救急隊員が確認したところ、アーモンド臭がしたため死亡を確認してすぐに検死解剖へ回されました」
「アーモンド臭?」
不思議そうな篠原に、櫻子は視線を向けた。
「シアン化合物が胃酸と反応すると、アーモンドやオレンジ系の香りがするの。胃酸と反応したという事は、被害者はシアン化合物――つまり、青酸カリを飲んだか飲まされた様ね」
「青酸カリで殺人なんて、漫画かアニメみたいですね」
姪が好きな推理アニメを思い出して、篠原は首を傾げた。日常生活を行う上で、青酸カリと遭遇する事なんてそうありはしない。
「そうだね、漫画みたいに青酸カリの殺人ばかりだと捜査が大変だよ――羽場は衣服を身に着けていた状態で、彼の飲みかけのコーラが零れたグラスも転がっていました。これは、ホテルに備え付けのものだったみたいですね。コーラの入ったグラスと零れたコーラから、青酸カリの反応も出ています」
「商社の営業マンが、昼間からラブホテル?」
櫻子は、嫌悪を滲ませた表情を浮かべた。
「つまり、仕事中に女とホテルに行っていたのね。女かどうかは分からないけど――常習なのかしら?」
パソコンに映し出された羽場の運転免許署の写真を、櫻子は嫌そうに眺めた。櫻子は仕事に真面目で、不真面目――仕事を怠慢にするような、また、性にだらしない人物が嫌いなようだった。
「検視結果が出る前に、天満警察署の刑事が村岡証券に聞き込みに行ってます。今日ですね。ラブホテルの方には、昨日聞き込みをしています」
「そう、じゃあ私達も動きましょうか」
櫻子はさっさとパソコンの電源を落として、立ち上がった。
「行きましょ、篠原君」
にっこり微笑むと、お気に入りのブランドのバックを手にする。篠原は慌ててパソコンの電源を落とした。
「ボス、この事件調べるんですか?」
笹部の言葉に、櫻子は頷いた。
「ええ、調べて見て興味が湧きそうだったら続けてみるわ。単独ですぐ終わりそうなら、さっさと終わらせる。毒物の事件なんて、そうないし」
「では、僕は羽場の事を調べます。篠原君、ボスをよろしく」
笹部は櫻子の言葉に頷くと、もう冷めかけの珈琲を口にした。笹部は超が付くほど猫舌なのだ。
「カップは、帰ってから洗いますんで――笹部さん、また今回も行かないんですか?」
「ほらほら、行くわよ」
櫻子は篠原の腕を引いて、さっさとこの部屋を出ていく。笹部は篠原に軽く手を振り見送って、パソコンに向き直った。
「さて、先ずはラブホテルの方から行きましょうか」
「え」
仕事だとは言え、櫻子のその言葉に篠原は思わず顔を赤くした。
笹部は、二人にパソコンを付けるように促した。二人は、自分の前のパソコンの電源を慌てて付ける。
「十五日という事は、先週の週末ね」
「発見時にはもうすでに冷たくなっていたようで、救急車と警察に連絡が入りました。男の身元は、所持していた運転免許証ですぐに判明しました。淀屋橋に本社がある村岡証券会社本店営業部の、羽場浩紀三十七歳です。駆けつけた救急隊員が確認したところ、アーモンド臭がしたため死亡を確認してすぐに検死解剖へ回されました」
「アーモンド臭?」
不思議そうな篠原に、櫻子は視線を向けた。
「シアン化合物が胃酸と反応すると、アーモンドやオレンジ系の香りがするの。胃酸と反応したという事は、被害者はシアン化合物――つまり、青酸カリを飲んだか飲まされた様ね」
「青酸カリで殺人なんて、漫画かアニメみたいですね」
姪が好きな推理アニメを思い出して、篠原は首を傾げた。日常生活を行う上で、青酸カリと遭遇する事なんてそうありはしない。
「そうだね、漫画みたいに青酸カリの殺人ばかりだと捜査が大変だよ――羽場は衣服を身に着けていた状態で、彼の飲みかけのコーラが零れたグラスも転がっていました。これは、ホテルに備え付けのものだったみたいですね。コーラの入ったグラスと零れたコーラから、青酸カリの反応も出ています」
「商社の営業マンが、昼間からラブホテル?」
櫻子は、嫌悪を滲ませた表情を浮かべた。
「つまり、仕事中に女とホテルに行っていたのね。女かどうかは分からないけど――常習なのかしら?」
パソコンに映し出された羽場の運転免許署の写真を、櫻子は嫌そうに眺めた。櫻子は仕事に真面目で、不真面目――仕事を怠慢にするような、また、性にだらしない人物が嫌いなようだった。
「検視結果が出る前に、天満警察署の刑事が村岡証券に聞き込みに行ってます。今日ですね。ラブホテルの方には、昨日聞き込みをしています」
「そう、じゃあ私達も動きましょうか」
櫻子はさっさとパソコンの電源を落として、立ち上がった。
「行きましょ、篠原君」
にっこり微笑むと、お気に入りのブランドのバックを手にする。篠原は慌ててパソコンの電源を落とした。
「ボス、この事件調べるんですか?」
笹部の言葉に、櫻子は頷いた。
「ええ、調べて見て興味が湧きそうだったら続けてみるわ。単独ですぐ終わりそうなら、さっさと終わらせる。毒物の事件なんて、そうないし」
「では、僕は羽場の事を調べます。篠原君、ボスをよろしく」
笹部は櫻子の言葉に頷くと、もう冷めかけの珈琲を口にした。笹部は超が付くほど猫舌なのだ。
「カップは、帰ってから洗いますんで――笹部さん、また今回も行かないんですか?」
「ほらほら、行くわよ」
櫻子は篠原の腕を引いて、さっさとこの部屋を出ていく。笹部は篠原に軽く手を振り見送って、パソコンに向き直った。
「さて、先ずはラブホテルの方から行きましょうか」
「え」
仕事だとは言え、櫻子のその言葉に篠原は思わず顔を赤くした。
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