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今宵彼女の夢を見る
後悔・下
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「先に正体がばれそうなユウはすぐに辞めさせてから一旦姿を隠させていた。時期を見て、二人で海外に行こうと思ってた。でも――あなたが店に来てから取り調べが始められて、私は簡単に抜け出せそうになかった。『エマと常に一緒に行動してた』からね。警察から逃げれば、すぐに追いかけられる――疲れたわ」
サキは燃え尽きた煙草を廊下のコンクリートの上に落とすと、再び一本取り出して口に咥えて火をつけた。空っぽになったらしい煙草の空袋を、カーディガンのポケットの中で握りつぶす音が聞こえた。
「刑事さん――頭いいなら、「けりを探せ」って言葉、覚えていて」
サキは声のトーンを落として、櫻子にしか聞き取り難そうに呟いた。そうして、煙草を咥えたまま廊下の低い壁に凭れて空を見上げた。
「ユウは、何もしてない。私が全て一人でやったの。詳しくは、警察署で話せばいいんでしょ? 私だけを、連れて行って」
「何言うてるねん! 俺もサキと一緒に行く!! 俺も、サキと一緒に罰を受けるんや! ――離れへん……そう、約束したやろ?」
ユウが、慌ててサキの肩を掴んだ。しかしその時、アイリを部屋に残して安井が表に現れた。その動きで、ユウの視線が自然とサキから離れて、安井に映る。
「ヤスさん……やっぱり、あかんかったわ……なんで俺らは幸せになられへんねんやろ……?」
「悠君、大丈夫や。今からでも、紗季ちゃんとやり直そう。私も手伝うから――な? そうやろ? 紗季ちゃん」
安心させるように、安井はサキとユウに歩み寄る。サキもゆっくりと安井に視線を向けた。緊張したのか、笹部が不意に少し後ずさる。
「――ごめん、ヤスさん。有難う、今まで助けてくれて」
サキの瞳から涙がこぼれて頬を伝い、消え入りそうな笑みを浮かべた。
「サキと俺は、もう絶対に離れへんから」
笹部が後ろに下がったことで、空間が出来ていた。その空間に向かって、ユウがサキを抱きかかえて走り抜けた。その先は――丈の低い、廊下の柵だった。ユウとサキは、それを乗り超えて飛び降りてしまった。一瞬、誰もが動けなかった。スローモーションを見ているかのように、サキとユウが落ちていく。
サキの吸いかけのメンソールの煙草が、ふわりと宙を舞った。
それから直ぐにグシャッと何か重いものが破裂するような音と、固いものが割れる音が辺りに響いた。
「サキ! ユウ!!」
安井の大きな声で、全員が我に返って慌てて三階から下を見下ろした。二人は何の障害物もなく真っすぐにコンクリートに叩きつけられていた。不自然な姿勢の二人から、辺りに血が広がっていく。
「救急車呼べ!!」
宮城の言葉に、竜崎がスマホを取り出して慌てて救急に連絡する。安井と篠原は、下まで降りると二人の様子を見に行く。櫻子は、二人が飛び降りる事を想定していた。しかし、二人の安井への思慕で、それを思い止まるだろうと思っていた。だが――甘かった。
唇を噛み締める。これは、自分の失態だ。男女の犯罪者の結末は、殆どが自滅すると統計があるのに。それを、知っているはずだったのに。
「庇って下になっているユウさんは、駄目でしょうね。サキさんは、もしかしたら生き残るかもしれません」
櫻子の隣で、笹部が他人事のように呟いた。それを聞き流すと、櫻子もゆっくり1階へ降りた。
辺りに漂うのは、血の香りだ。ユウもサキも呼吸しているのかすら分からない。安井がサキの手を握り締めて、血に濡れたコンクリートに伏して泣いていた。
マンションの扉が所々開いて、中の住人が様子を窺っているが出てくる様子はない。
ようやく遠くから、サイレンの音が大きく聞こえてきた。
サキは燃え尽きた煙草を廊下のコンクリートの上に落とすと、再び一本取り出して口に咥えて火をつけた。空っぽになったらしい煙草の空袋を、カーディガンのポケットの中で握りつぶす音が聞こえた。
「刑事さん――頭いいなら、「けりを探せ」って言葉、覚えていて」
サキは声のトーンを落として、櫻子にしか聞き取り難そうに呟いた。そうして、煙草を咥えたまま廊下の低い壁に凭れて空を見上げた。
「ユウは、何もしてない。私が全て一人でやったの。詳しくは、警察署で話せばいいんでしょ? 私だけを、連れて行って」
「何言うてるねん! 俺もサキと一緒に行く!! 俺も、サキと一緒に罰を受けるんや! ――離れへん……そう、約束したやろ?」
ユウが、慌ててサキの肩を掴んだ。しかしその時、アイリを部屋に残して安井が表に現れた。その動きで、ユウの視線が自然とサキから離れて、安井に映る。
「ヤスさん……やっぱり、あかんかったわ……なんで俺らは幸せになられへんねんやろ……?」
「悠君、大丈夫や。今からでも、紗季ちゃんとやり直そう。私も手伝うから――な? そうやろ? 紗季ちゃん」
安心させるように、安井はサキとユウに歩み寄る。サキもゆっくりと安井に視線を向けた。緊張したのか、笹部が不意に少し後ずさる。
「――ごめん、ヤスさん。有難う、今まで助けてくれて」
サキの瞳から涙がこぼれて頬を伝い、消え入りそうな笑みを浮かべた。
「サキと俺は、もう絶対に離れへんから」
笹部が後ろに下がったことで、空間が出来ていた。その空間に向かって、ユウがサキを抱きかかえて走り抜けた。その先は――丈の低い、廊下の柵だった。ユウとサキは、それを乗り超えて飛び降りてしまった。一瞬、誰もが動けなかった。スローモーションを見ているかのように、サキとユウが落ちていく。
サキの吸いかけのメンソールの煙草が、ふわりと宙を舞った。
それから直ぐにグシャッと何か重いものが破裂するような音と、固いものが割れる音が辺りに響いた。
「サキ! ユウ!!」
安井の大きな声で、全員が我に返って慌てて三階から下を見下ろした。二人は何の障害物もなく真っすぐにコンクリートに叩きつけられていた。不自然な姿勢の二人から、辺りに血が広がっていく。
「救急車呼べ!!」
宮城の言葉に、竜崎がスマホを取り出して慌てて救急に連絡する。安井と篠原は、下まで降りると二人の様子を見に行く。櫻子は、二人が飛び降りる事を想定していた。しかし、二人の安井への思慕で、それを思い止まるだろうと思っていた。だが――甘かった。
唇を噛み締める。これは、自分の失態だ。男女の犯罪者の結末は、殆どが自滅すると統計があるのに。それを、知っているはずだったのに。
「庇って下になっているユウさんは、駄目でしょうね。サキさんは、もしかしたら生き残るかもしれません」
櫻子の隣で、笹部が他人事のように呟いた。それを聞き流すと、櫻子もゆっくり1階へ降りた。
辺りに漂うのは、血の香りだ。ユウもサキも呼吸しているのかすら分からない。安井がサキの手を握り締めて、血に濡れたコンクリートに伏して泣いていた。
マンションの扉が所々開いて、中の住人が様子を窺っているが出てくる様子はない。
ようやく遠くから、サイレンの音が大きく聞こえてきた。
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