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今宵彼女の夢を見る
ピース・中
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「仕方ないわ。笹部君、まずあなたが調べられたことを教えてくれる?」
「はい」と短く返事をして、笹部はマウスを動かした。
「お初天神ビルの被害者は、まだ正式ではありませんがガールズバー『セシリア』の従業員、エマさんで間違いなさそうですね。解剖所見によりますと、死亡時間は明け方四時ごろ。亀井まどか被害者と同じく舌骨や甲状軟骨が骨折しており、左肋骨も骨折。ボスが指摘したように豊胸手術を受けており、三週間前にメンテナンスでまた病院に通った痕跡が残っていたようです。そのシリコンも圧迫した時の衝撃で、体内で破裂していました」
「そう――暴行は?」
「背後から頭を何かで殴られて、首を絞められたようです。殴った物は、現在鑑識で調べているようですが、あの部屋にはありませんでした。石のようなものらしいのですが、そうなると少なくともビルの下で犯人は彼女を殴ったのでしょう。ビルの前には石やブロックがいくつか転がっていましたからね。遺体にはレイプ跡もありません。背後近くに寄っても警戒されなかったのは、犯人と面識があったと考えるべきですね」
パソコン画面には、ビルの一階の階段に上る手前の画像が写されている。確かに、数個石やブロックが転がっている。それと並んで、解剖所見のコピーも表示されていた。実際にあの現場に行ったが、エレベーターではなく外付けの階段しかなかった。そうなると、選択肢が少なくなってくる。
「犯人は、男よねぇ……」
エマは小柄ではあるが、彼女の体をあのビルの三階まで運ぶのは女性では無理だろう。気を失ったり寝ている人間は弛緩していて、通常より重いのだ。階段を上がるのを嫌がった笹部の様に、男でもかなりの力が必要なはずだ。
「胃の内容物は、天ぷらとビールが未消化で残っていました」
「エマさんとサキさんは、その日客とアフターでキタの天ぷら屋さんに行ったと言ってたわね。天ぷら屋さんを出た所で、エマさんは連れ出された……同じマンションのサキさんがいるのに何故一緒に帰らなかったの……?」
サキの任意の事情聴取は宮城に任せている。しかし、その報告はまだ上がってこない。
「亀井まどか被害者の火災の時の映像に映っていた男ですが、拡大して解像度も上げて前歴がないか検索中です。ただ、サングラスをしているので期待しないでください」
笹部はデスクトップとは別にノートパソコンを所持していて、そちらで照合をしているようだ。
「遺体発見の電話も、公衆電話だったのよね?」
「はい、あの日のお昼前でした。でもボス、面白い事が分かりましたよ」
珍しく、笹部が唇の端を上げた。櫻子と篠原は、意外そうに相変わらず目元が見えない彼の、その笑みを不思議そうに見た。
「その公衆電話、亀井まどか被害者のマンション近くの基地局と同じなんです」
「……あら。それは面白いわね」
笹部の言葉に、理解したように櫻子は頷いた。篠原はきょとんとしている。
「もうずいぶん少なくなった公衆電話だからピンと来ないかもしれないけど、スマホと同じよ。スマホや公衆電話は、基地局を繋げて通話しているの。基地局を使う限り、痕跡は消せないのよ。辿っていけば、どこから発信されたのか分かるの」
公衆電話を使ったことない篠原だったが、櫻子の説明で理解して大きく頷く。つまり、キタで発見したはずの遺体の事を、通報者はミナミの――しかも一連の事件と共通する『亀井まどかのマンションの近く』の『同じ』公衆電話から通報したのだ。それは意図してなのか、そうなってしまったのか。
「組織や頭のいい人なら基地局を何度も通して誤魔化そうとするけど、完全な素人の犯罪ね」
櫻子は、軽く息を吐いて瞳を伏せた。
「はい」と短く返事をして、笹部はマウスを動かした。
「お初天神ビルの被害者は、まだ正式ではありませんがガールズバー『セシリア』の従業員、エマさんで間違いなさそうですね。解剖所見によりますと、死亡時間は明け方四時ごろ。亀井まどか被害者と同じく舌骨や甲状軟骨が骨折しており、左肋骨も骨折。ボスが指摘したように豊胸手術を受けており、三週間前にメンテナンスでまた病院に通った痕跡が残っていたようです。そのシリコンも圧迫した時の衝撃で、体内で破裂していました」
「そう――暴行は?」
「背後から頭を何かで殴られて、首を絞められたようです。殴った物は、現在鑑識で調べているようですが、あの部屋にはありませんでした。石のようなものらしいのですが、そうなると少なくともビルの下で犯人は彼女を殴ったのでしょう。ビルの前には石やブロックがいくつか転がっていましたからね。遺体にはレイプ跡もありません。背後近くに寄っても警戒されなかったのは、犯人と面識があったと考えるべきですね」
パソコン画面には、ビルの一階の階段に上る手前の画像が写されている。確かに、数個石やブロックが転がっている。それと並んで、解剖所見のコピーも表示されていた。実際にあの現場に行ったが、エレベーターではなく外付けの階段しかなかった。そうなると、選択肢が少なくなってくる。
「犯人は、男よねぇ……」
エマは小柄ではあるが、彼女の体をあのビルの三階まで運ぶのは女性では無理だろう。気を失ったり寝ている人間は弛緩していて、通常より重いのだ。階段を上がるのを嫌がった笹部の様に、男でもかなりの力が必要なはずだ。
「胃の内容物は、天ぷらとビールが未消化で残っていました」
「エマさんとサキさんは、その日客とアフターでキタの天ぷら屋さんに行ったと言ってたわね。天ぷら屋さんを出た所で、エマさんは連れ出された……同じマンションのサキさんがいるのに何故一緒に帰らなかったの……?」
サキの任意の事情聴取は宮城に任せている。しかし、その報告はまだ上がってこない。
「亀井まどか被害者の火災の時の映像に映っていた男ですが、拡大して解像度も上げて前歴がないか検索中です。ただ、サングラスをしているので期待しないでください」
笹部はデスクトップとは別にノートパソコンを所持していて、そちらで照合をしているようだ。
「遺体発見の電話も、公衆電話だったのよね?」
「はい、あの日のお昼前でした。でもボス、面白い事が分かりましたよ」
珍しく、笹部が唇の端を上げた。櫻子と篠原は、意外そうに相変わらず目元が見えない彼の、その笑みを不思議そうに見た。
「その公衆電話、亀井まどか被害者のマンション近くの基地局と同じなんです」
「……あら。それは面白いわね」
笹部の言葉に、理解したように櫻子は頷いた。篠原はきょとんとしている。
「もうずいぶん少なくなった公衆電話だからピンと来ないかもしれないけど、スマホと同じよ。スマホや公衆電話は、基地局を繋げて通話しているの。基地局を使う限り、痕跡は消せないのよ。辿っていけば、どこから発信されたのか分かるの」
公衆電話を使ったことない篠原だったが、櫻子の説明で理解して大きく頷く。つまり、キタで発見したはずの遺体の事を、通報者はミナミの――しかも一連の事件と共通する『亀井まどかのマンションの近く』の『同じ』公衆電話から通報したのだ。それは意図してなのか、そうなってしまったのか。
「組織や頭のいい人なら基地局を何度も通して誤魔化そうとするけど、完全な素人の犯罪ね」
櫻子は、軽く息を吐いて瞳を伏せた。
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