200年の眠りから覚めた聖王女は龍にもイケメン薔薇騎士に溺愛されて幸せになる未来しか約束されていません

七海美桜

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アロイス編

春一番のレーヴェニヒ王国の使者

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 バルシュミーデ皇国は男性は十七歳、女性は十六歳で成人とされる。春を祝う祝典の後に、成人の祝いの祭りが行われる。ヴェンデルガルトは十六歳で封印から目を覚ましたが、成人の祝いの後だった事もあり、一年が過ぎた十七になる年に成人の祝いの席に参加する事になった。
 成人の祝いを迎える時には、大抵の女性には婚約者が決まっている。ヴェンデルガルトは五薔薇騎士団長から求婚されている事もあり、また本来なら姫の称号を持つ身だ。彼女の婚約者選びに、バルシュミーデ皇国は慎重になっていた。

 ヴェンデルガルトは南の国を救った事や、謀反を起こそうとしていた貴族を暴く事に大きく貢献した事から、赤薔薇騎士団長であり第一王子のジークハルトと婚約するに相応しいと国民が勧めている。ジークハルトの婚約者が婚約破棄された事も大きかった。

 誰もがジークハルトとヴェンデルガルトの婚約発表の報告を待ち望んでいた時、東の国レーヴェニヒ王国から使いの者が現れた。

「南のバーチュ王国第三王子のアロイス王子が、目を覚ましました」
 南の国の争いで、『龍殺しの実』の汁を塗ったナイフで刺され、生死をさ迷っていたアロイス王子。龍の子孫である事から、龍が住むレーヴェニヒ王国で預かられて護られていた。目覚める事はないかもしれない、そう言われていたが奇跡が起きたのだ。

「アロイス王子は、ヴェンデルガルト様と南の国に戻る事を望まれています。この婚姻は、北のバルシュミーデ皇国と南のバーチュ王国の強い同盟にもなります。ですが、無理強いはしたくないとも仰られています。ヴェンデルガルト様のお気持ちを尊重して頂きたい」
 レーヴェニヒ王国の使者は、催された歓待の席でそう言っていた。同じく報告を受けたらしいバーチュ王国の第一王子のツェーザルからも、アロイス王子とヴェンデルガルトの婚姻を認めて欲しいとの便りが届いていた。


「レーヴェニヒ王国から使者が来られているそうですよ。何かあったのでしょうか?」
 噂話が好きなカリーナが、ヴェンデルガルトの髪をブラシで梳きながら興味深そうに話していた。
「雪が解けるのを待っていたのかしら? 春一番に来られるなんて、余程の事ね」
 ヴェンデルガルトはそう言うと、まだ行った事がないレーヴェニヒ王国に思いを馳せた。レーヴェニヒ王国の人物とは沢山会っているが、謎が多い不思議な国だ。
「ヴェンデルガルト様、今日のドレスは春らしく桃色か黄色はいかがですか? もうそろそろ、大人っぽいドレスもお似合いになる頃ですし着られるのは今のうちですよ」
 ビルギットが、桃色と黄色のドレスを持って来た。確かに、この一年でヴェンデルガルトは幼さが残っていた面立ちから少し大人びた顔になった。時折見せる艶やかな笑みに、五薔薇騎士団長は日ごとに恋心を募らせていた。
「そうね。去年最初に着たのは、桃色のドレスだったわ。桃色にしましょう」
 目覚めて、直ぐにカールからプレゼントされたドレスが桃色だった。色々な出来事があった一年だった。それを思い出す為にも、ヴェンデルガルトはそのドレスを選んだ。
「今日の午後のお茶は、レーヴェニヒ王国の使者から頂いたお茶にしましょう。高級なお茶らしいです」
 秘かに毒に侵された時に、助けて貰ったお茶を思い出す。しかし、それとは違う茶葉の甘さが楽しめる高価なお茶との事だった。
「おはようございます、ヴェンデルガルト様。今日のドレス、よく似合っていますね」
 ヴェンデルガルトの着替えが終わると、彼女の護衛である赤薔薇騎士のロルフが部屋に入って来た。
「おはよう、ロルフ」
 ロルフは、お世辞を言わない。それを知っているヴェンデルガルトは、嬉しそうに彼に笑いかけた。
「ねえ、ロルフ。レーヴェニヒ王国の使者は何をしに来たの?」
 早速カリーナが尋ねる。しかしロルフは、首を横に傾げた。
「それが、何も知らされてないんですよ。ジークハルト様とギルベルト様とランドルフ様は歓待の席にいらしたそうなので、お話は聞いていると思います。でも、どの薔薇騎士団副団長も内容を聞かされていないみたいです」

 朝食は、ヴェンデルガルトが望んでロルフと一緒に食べている。メイドの二人は用意があるので、先に済ませていた。
「国同士のお話なら、私たちは関係ないわね。今日みたいに天気がいいなら、今日は街に行きたいわ」
「いいですよ、護衛させて頂きます。ヴェンデルガルト様が街に行かれたら、みんな喜びますよ」
 ヴェンデルガルトは、民衆に慕われている。特に女性に好かれている女性貴族は、ヴェンデルガルトだけではないだろうか。ヴェンデルガルトは自分が元王女であっても、街にいる庶民とも気さくに話す。露店のものを美味しそうに食べる。その行動が、好かれている証だった。彼女のメイドの二人も護衛のロルフも、自慢の主だった。

「申し訳ありません、ヴェンデルガルト様にご連絡があります」
 朝食を終えて街に行こうとしていたヴェンデルガルトの部屋に、赤薔薇騎士が訪れた。
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