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夕暮れのこっくりさん
お稲荷様
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平成元年、という時代が変わった年だ。店長が六歳の頃、同じ学校の五年生の少女が行方不明になった。大掛かりな捜査もされたらしい。しかし、忽然と姿を消した。当時十歳の年なら、今年で四十三歳になるはずだ。それに見つかったのは、偶然にもマリアが消えた日だ。
『平成元年に消えたトウジョウマコさん、三十三年ぶりに発見』としか、発見時の事は新聞に書かれていなかった。週刊誌には、もう少し詳しく書かれている。『行方不明だったトウジョウマコさん、当時の姿のままで発見。発見された本人の証言した名前と生年月日、住所が一致』とあった。顔写真が載っているが、三つ編みのおさげ姿だった。
環琉はそれらの記事をスマホで撮影した。
「平成の神隠し、ね……こっくりさんの事やトウジョウマコさんの住所は分かりませんね」
「狐の気配を辿れば分かるだろう。問題は、M小学校の旧校舎にある音楽室だ。そこも探ってみよう」
図書館を出ると、二人はM小学校に向かった。M小学校にも、何人かマスコミ関係らしい人物がいた。マコの発見と、現在行方不明のマリアの事を取材に来ていたのだろう。
「あ、若神子さんじゃないですか」
声をかけてきたのは、五十代前半の男だった。新聞会社名が入った腕章を付けている。
「蓬莱さん、こんにちは。マリアちゃんの事件ですか?」
「流石、若神子さん。もう耳に入ってらっしゃいますか。それと、トウジョウマコさんの件でも少し」
やはり、同じ小学校で起きた事件の事が何か関係あるのかと、調べているのだろう。
「トウジョウマコさんは、今はどちらに?」
「検査がまだ続いていて、K総合病院にいるそうです。いやしかし、どちらも不思議ですな。若神子さんに頼るしかなさそうですよ。私も彼女を見に行きましたが、確かに少女でした。彼女の両親は幸い健在で、検査と取り調べが終われば会える様に鹿児島から来ているそうですよ」
連日の取材や娘を失った喪失感で、トウジョウ家は平成十年に引っ越しをしていた。まさかその娘が『消えた日』の姿のまま見つかるとは、誰も思っていなかっただろう。
「有難うございます、一度見に行ってきます。マリアさんの方は、今も何も情報出て来ませんか?」
「そうですね。学校の先生も、何も知らないようで対応に困ってらっしゃいます。まるで『入れ替わり』の様に少女が行方不明になるなんて、学校も思っていなかったでしょう。やはり、新校舎を作った時に狐の社を壊した祟りなんでしょうか」
「社を壊した?」
蓬莱の言葉に、環琉が尋ねた。蓬莱が不思議そうに環琉の顔を見た。
「今の僕の助手です。永久環琉くんと言います。それより、狐の社を壊したというのは……?」
「昭和六十年頃に、今の新校舎があるここにお稲荷様を祀った小さな社があったんです。祈祷などもせず壊して、代わりの社も建てずそのままにされたそうです」
蓬莱の言葉に、昴は少し何かを考えるように瞳を伏せた。そんな会話をしていると、「蓬莱さーん!」と、呼ぶ声が聞こえた。
「すみません、新聞社の方に戻ります。また何か情報があれば、お知らせします。それでは」
蓬莱は丁寧に二人に頭を下げて、自分の名を呼んだ人の方に足早に向かった。
「音楽室に向かおう」
昴と環琉は、取材を受けている教師たちの横を通り学校の中に入って行った。
旧校舎は、あと数年で取り壊されるそうだ。昭和を感じさせる、古い建物が不思議と懐かしい。音楽室の位置を二人は知らないが、『念』を辿って歩いていく。
「ここか」
開けた部屋には、確かに古いアップライトピアノが置かれていた。生徒用の机や椅子もある。時間が止まったかのような、不思議な空間だ。確かに、二人には狐の気配が感じられた。
「あるよ、こっくりさんの紙」
環琉が中を見渡し、一つの机を囲むかのように椅子が四個並んでいた。その上に、紙と十円玉が残されたままだ。
しかし、紙は何処か古臭い。黄ばんでいて、カサカサの紙だ。
「ここで、こっくりさんをやったのは間違いないようだね。この紙は、トウジョウマコさんがこっくりさんをした当時のものだろう」
環琉が紙に手を伸ばそうとしたが、昴が止めた。
「まだ力の加減が出来ない君は触らない方がいい。消えてしまう」
環琉が手を戻して、昴がその紙を手にした。幼い文字で、こっくりさんの儀式に必要な形式がきちんと書かれていた。それを確認して、昴は丁寧に紙を折ってジャケットのポケットに入れた。
「今日は、ここまででいいだろう。環琉くん、澄玲ちゃんにトウジョウマコさんの写真を見せてくれないかな。声をかけてきたのが彼女だったのか、確認したい」
「昴さんは店に来ないんですか?」
「今日は、力を休めたい。先日、少し大きな穢れを祓ったから君の姿を見るのも、少し辛すぎるんだよ」
昴は、外国に行っていた。イギリスの城に残る霊を祓って来ていたのだ。
「分かりました、ゆっくり休んで下さい」
二人は、学校で分かれた。
『平成元年に消えたトウジョウマコさん、三十三年ぶりに発見』としか、発見時の事は新聞に書かれていなかった。週刊誌には、もう少し詳しく書かれている。『行方不明だったトウジョウマコさん、当時の姿のままで発見。発見された本人の証言した名前と生年月日、住所が一致』とあった。顔写真が載っているが、三つ編みのおさげ姿だった。
環琉はそれらの記事をスマホで撮影した。
「平成の神隠し、ね……こっくりさんの事やトウジョウマコさんの住所は分かりませんね」
「狐の気配を辿れば分かるだろう。問題は、M小学校の旧校舎にある音楽室だ。そこも探ってみよう」
図書館を出ると、二人はM小学校に向かった。M小学校にも、何人かマスコミ関係らしい人物がいた。マコの発見と、現在行方不明のマリアの事を取材に来ていたのだろう。
「あ、若神子さんじゃないですか」
声をかけてきたのは、五十代前半の男だった。新聞会社名が入った腕章を付けている。
「蓬莱さん、こんにちは。マリアちゃんの事件ですか?」
「流石、若神子さん。もう耳に入ってらっしゃいますか。それと、トウジョウマコさんの件でも少し」
やはり、同じ小学校で起きた事件の事が何か関係あるのかと、調べているのだろう。
「トウジョウマコさんは、今はどちらに?」
「検査がまだ続いていて、K総合病院にいるそうです。いやしかし、どちらも不思議ですな。若神子さんに頼るしかなさそうですよ。私も彼女を見に行きましたが、確かに少女でした。彼女の両親は幸い健在で、検査と取り調べが終われば会える様に鹿児島から来ているそうですよ」
連日の取材や娘を失った喪失感で、トウジョウ家は平成十年に引っ越しをしていた。まさかその娘が『消えた日』の姿のまま見つかるとは、誰も思っていなかっただろう。
「有難うございます、一度見に行ってきます。マリアさんの方は、今も何も情報出て来ませんか?」
「そうですね。学校の先生も、何も知らないようで対応に困ってらっしゃいます。まるで『入れ替わり』の様に少女が行方不明になるなんて、学校も思っていなかったでしょう。やはり、新校舎を作った時に狐の社を壊した祟りなんでしょうか」
「社を壊した?」
蓬莱の言葉に、環琉が尋ねた。蓬莱が不思議そうに環琉の顔を見た。
「今の僕の助手です。永久環琉くんと言います。それより、狐の社を壊したというのは……?」
「昭和六十年頃に、今の新校舎があるここにお稲荷様を祀った小さな社があったんです。祈祷などもせず壊して、代わりの社も建てずそのままにされたそうです」
蓬莱の言葉に、昴は少し何かを考えるように瞳を伏せた。そんな会話をしていると、「蓬莱さーん!」と、呼ぶ声が聞こえた。
「すみません、新聞社の方に戻ります。また何か情報があれば、お知らせします。それでは」
蓬莱は丁寧に二人に頭を下げて、自分の名を呼んだ人の方に足早に向かった。
「音楽室に向かおう」
昴と環琉は、取材を受けている教師たちの横を通り学校の中に入って行った。
旧校舎は、あと数年で取り壊されるそうだ。昭和を感じさせる、古い建物が不思議と懐かしい。音楽室の位置を二人は知らないが、『念』を辿って歩いていく。
「ここか」
開けた部屋には、確かに古いアップライトピアノが置かれていた。生徒用の机や椅子もある。時間が止まったかのような、不思議な空間だ。確かに、二人には狐の気配が感じられた。
「あるよ、こっくりさんの紙」
環琉が中を見渡し、一つの机を囲むかのように椅子が四個並んでいた。その上に、紙と十円玉が残されたままだ。
しかし、紙は何処か古臭い。黄ばんでいて、カサカサの紙だ。
「ここで、こっくりさんをやったのは間違いないようだね。この紙は、トウジョウマコさんがこっくりさんをした当時のものだろう」
環琉が紙に手を伸ばそうとしたが、昴が止めた。
「まだ力の加減が出来ない君は触らない方がいい。消えてしまう」
環琉が手を戻して、昴がその紙を手にした。幼い文字で、こっくりさんの儀式に必要な形式がきちんと書かれていた。それを確認して、昴は丁寧に紙を折ってジャケットのポケットに入れた。
「今日は、ここまででいいだろう。環琉くん、澄玲ちゃんにトウジョウマコさんの写真を見せてくれないかな。声をかけてきたのが彼女だったのか、確認したい」
「昴さんは店に来ないんですか?」
「今日は、力を休めたい。先日、少し大きな穢れを祓ったから君の姿を見るのも、少し辛すぎるんだよ」
昴は、外国に行っていた。イギリスの城に残る霊を祓って来ていたのだ。
「分かりました、ゆっくり休んで下さい」
二人は、学校で分かれた。
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