30 / 31
夕暮れのこっくりさん
過去に消えた少女
しおりを挟む
「確かに『狐』の霊気を感じるが、少女の『魂』が大きく見える――澄玲ちゃん、君をこっくりさんに誘った女の子の顔思い出せるかな?」
昴の問いに、澄玲は少し考えるが首を横に振った。
「三つ編みしていたのは覚えてるけど、お顔はあまり思い出せない。でも、その子は私の事知ってたよ」
祖母の身体に引っ付いて、澄玲は昴にそう返事をした。昴は、紫にも見える瞳で澄玲をじっと見てから、女性なら見惚れてしまうような微笑を見せた。
「有難う。ゲームの続きをしてきていいよ。それと、これを持っていてくれないかな? 無くさないように、大事にね」
「はーい」
昴がジャケットのポケットから出したお守りを受け取りその言葉に素直に返事をすると、澄玲は裏の休憩室に戻った。昴はロックのブランデーを一口呑んだ。澄玲に渡したのは、埼玉県の三峯神社のお守りだ。この神社はオオカミ信仰なので、お守りは狐祓いになる。今狐の気配が残る澄玲を護る為に、昴が用意したのだ。
「霊力のある子どもの魂だ。でも、生気を感じる――生霊でもないが死んだ魂ではない。どういうことだ?」
「……まさか」
昴の言葉に、先代が何かを思い出したように昴に視線を向けた。
「龍生が小さい頃に、こっくりさんをした子供が同じように行方不明になった事があるんです。まさか、それが何か関係あるのでは?」
「……成程」
その事があってから、先代は息子や孫に「こっくりさんをしてはいけない」と言っていたのだ。
「環琉くん。明日は、少し早く起きて『こっち』の仕事も少し手伝って欲しい」
「いいですよ。最近串打ちも早くなったんで、時間の調整は出来そうです」
帰った客の使った食器を下げて来た環琉は、昴の言葉に頷いた。
「紫さん、その行方不明になった子供は龍生くんや澄玲ちゃんと同じ小学校なのかな?」
「はい、M小学校です。私が子供の頃からある、古い小学校ですから」
M小学校は、百年の歴史がある小学校だ。子供が行方不明になった件を調べると言って、昴は店を出て夜の闇に消えた。
「そう言えば、昴さんと先代はどんな縁で組んでいたんですか?」
環琉は生ビールをジョッキに注ぎながら、昴の使ったグラスを下げている先代に訊ねた。かつて昴と組んでいた先代は、龍生を身籠り引退した。そうして環琉と会うまで、昴は一人で祓い屋をしていたと聞いていた。
「不思議な縁ですよ。でも、私のせいで昴さんを一人にさせてしまった……環琉くん、あなたが昴さんの傍にいてくれて、感謝してるわ」
先代はそう言って「この話は縁があればね」と、大事そうに昴のブランデーの瓶を棚の元の位置に戻した。
環琉も深く聞かず、ビールが注がれたジョッキを両手にテーブル席に向かった。
「大変です、昴さん」
次の日、何時ものように喫茶店『来夢』で落ち合った二人は、注文もそこそこに子供の行方不明事件の事で話し合った。
「行方不明だった少女が、帰ってきていたそうです。当時の家は家族の引っ越しでなくなっていたので、フラフラしていたところを警察に保護されたそうです」
「――ふむ。それで、何が大変なのかな?」
「その子は、行方不明になった『小学校五年生のまま』だったそうです。行方不明の間『成長していなかった』らしいんです」
環琉は、スマホの検索した画面を昴に見せた。昴が環琉のスマホを受け取り、その記事を読んだ。その間を見計らって、女店主の梓が注文を聞きに来た。
「昴さんは、いつものかしら。環琉くんは?」
「えっと、前食べた――何だっけ」
「確か喜んで食べていたのは――フルーツサンドイッチかしら? 今の季節は、無花果と巨峰よ」
梓が思い出すようにそう言うと、環琉は嬉しそうに「それ!」と手を上げた。
「それと、クリームソーダをお願いします」
昴から返事がないという事は、いつものカフェ・ロワイヤルで良いという事だろう。梓は笑顔で厨房に消えた。
「成程、時が止まった空間にいたのか。この子は今どこに?」
「ネット記事なんで、そこまでは――でも、スマホって便利ですね。調べ物もある程度、これで出来るなんて」
昴から返して貰ったスマホを、環琉は改めて興味深げに見た。環琉のスマホの待ち受け画面は、昔撮った京都の山の夕暮れと蕾の桜だ。携帯電話で撮ったので、少し画像が荒い。
「何時ものように、図書館で当時の記事を探して実家があった所に行こう。何か分かるかもしれない」
昴は、梓が持って来たブランデーの良い香りの珈琲を味わうように一口飲んでから、今日の予定を口にした。少し遅れて運ばれてきたフルーツサンドを頬張りながら、環琉は頷いた。
「俺の原付の後ろに乗ります?」
「君の運転は雑だから、上手くなってからにさせて貰う。しかし、よくあんな運転で免許証がとれたね」
呆れたような声音で、昴が呟いた。
「すぐに上手くなりますよ」
嫌味も気にせず、環琉はクリームと季節のフルーツに笑顔を見せた。
昴の問いに、澄玲は少し考えるが首を横に振った。
「三つ編みしていたのは覚えてるけど、お顔はあまり思い出せない。でも、その子は私の事知ってたよ」
祖母の身体に引っ付いて、澄玲は昴にそう返事をした。昴は、紫にも見える瞳で澄玲をじっと見てから、女性なら見惚れてしまうような微笑を見せた。
「有難う。ゲームの続きをしてきていいよ。それと、これを持っていてくれないかな? 無くさないように、大事にね」
「はーい」
昴がジャケットのポケットから出したお守りを受け取りその言葉に素直に返事をすると、澄玲は裏の休憩室に戻った。昴はロックのブランデーを一口呑んだ。澄玲に渡したのは、埼玉県の三峯神社のお守りだ。この神社はオオカミ信仰なので、お守りは狐祓いになる。今狐の気配が残る澄玲を護る為に、昴が用意したのだ。
「霊力のある子どもの魂だ。でも、生気を感じる――生霊でもないが死んだ魂ではない。どういうことだ?」
「……まさか」
昴の言葉に、先代が何かを思い出したように昴に視線を向けた。
「龍生が小さい頃に、こっくりさんをした子供が同じように行方不明になった事があるんです。まさか、それが何か関係あるのでは?」
「……成程」
その事があってから、先代は息子や孫に「こっくりさんをしてはいけない」と言っていたのだ。
「環琉くん。明日は、少し早く起きて『こっち』の仕事も少し手伝って欲しい」
「いいですよ。最近串打ちも早くなったんで、時間の調整は出来そうです」
帰った客の使った食器を下げて来た環琉は、昴の言葉に頷いた。
「紫さん、その行方不明になった子供は龍生くんや澄玲ちゃんと同じ小学校なのかな?」
「はい、M小学校です。私が子供の頃からある、古い小学校ですから」
M小学校は、百年の歴史がある小学校だ。子供が行方不明になった件を調べると言って、昴は店を出て夜の闇に消えた。
「そう言えば、昴さんと先代はどんな縁で組んでいたんですか?」
環琉は生ビールをジョッキに注ぎながら、昴の使ったグラスを下げている先代に訊ねた。かつて昴と組んでいた先代は、龍生を身籠り引退した。そうして環琉と会うまで、昴は一人で祓い屋をしていたと聞いていた。
「不思議な縁ですよ。でも、私のせいで昴さんを一人にさせてしまった……環琉くん、あなたが昴さんの傍にいてくれて、感謝してるわ」
先代はそう言って「この話は縁があればね」と、大事そうに昴のブランデーの瓶を棚の元の位置に戻した。
環琉も深く聞かず、ビールが注がれたジョッキを両手にテーブル席に向かった。
「大変です、昴さん」
次の日、何時ものように喫茶店『来夢』で落ち合った二人は、注文もそこそこに子供の行方不明事件の事で話し合った。
「行方不明だった少女が、帰ってきていたそうです。当時の家は家族の引っ越しでなくなっていたので、フラフラしていたところを警察に保護されたそうです」
「――ふむ。それで、何が大変なのかな?」
「その子は、行方不明になった『小学校五年生のまま』だったそうです。行方不明の間『成長していなかった』らしいんです」
環琉は、スマホの検索した画面を昴に見せた。昴が環琉のスマホを受け取り、その記事を読んだ。その間を見計らって、女店主の梓が注文を聞きに来た。
「昴さんは、いつものかしら。環琉くんは?」
「えっと、前食べた――何だっけ」
「確か喜んで食べていたのは――フルーツサンドイッチかしら? 今の季節は、無花果と巨峰よ」
梓が思い出すようにそう言うと、環琉は嬉しそうに「それ!」と手を上げた。
「それと、クリームソーダをお願いします」
昴から返事がないという事は、いつものカフェ・ロワイヤルで良いという事だろう。梓は笑顔で厨房に消えた。
「成程、時が止まった空間にいたのか。この子は今どこに?」
「ネット記事なんで、そこまでは――でも、スマホって便利ですね。調べ物もある程度、これで出来るなんて」
昴から返して貰ったスマホを、環琉は改めて興味深げに見た。環琉のスマホの待ち受け画面は、昔撮った京都の山の夕暮れと蕾の桜だ。携帯電話で撮ったので、少し画像が荒い。
「何時ものように、図書館で当時の記事を探して実家があった所に行こう。何か分かるかもしれない」
昴は、梓が持って来たブランデーの良い香りの珈琲を味わうように一口飲んでから、今日の予定を口にした。少し遅れて運ばれてきたフルーツサンドを頬張りながら、環琉は頷いた。
「俺の原付の後ろに乗ります?」
「君の運転は雑だから、上手くなってからにさせて貰う。しかし、よくあんな運転で免許証がとれたね」
呆れたような声音で、昴が呟いた。
「すぐに上手くなりますよ」
嫌味も気にせず、環琉はクリームと季節のフルーツに笑顔を見せた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
バベル病院の怪
中岡 始
ホラー
地方都市の市街地に、70年前に建設された円柱形の奇妙な廃病院がある。かつては最先端のモダンなデザインとして話題になったが、今では心霊スポットとして知られ、地元の若者が肝試しに訪れる場所となっていた。
大学生の 森川悠斗 は都市伝説をテーマにした卒業研究のため、この病院の調査を始める。そして、彼はX(旧Twitter)アカウント @babel_report を開設し、廃病院での探索をリアルタイムで投稿しながらフォロワーと情報を共有していった。
最初は何の変哲もない探索だったが、次第に不審な現象が彼の投稿に現れ始める。「背景に知らない人が写っている」「投稿の時間が巻き戻っている」「彼が知らないはずの情報を、誰かが先に投稿している」。フォロワーたちは不安を募らせるが、悠斗本人は気づかない。
そして、ある日を境に @babel_report の投稿が途絶える。
その後、彼のフォロワーの元に、不気味なメッセージが届き始める——
「次は、君の番だよ」

都市伝説から逃げ切るには……
こーぷ
ホラー
山奥の廃墟となった村が舞台となったある都市伝説がオカルト界で話題になっていた。その都市伝説は【マサオさん】と言うらしい。
その都市伝説では、ある若者達が度胸試しで廃村の場所にキャンプをしに行ったらしい。そしてその村に着くとマサオと言う男性が現れて若者達に寝床を提供すると言い自分の家に招待する。次の日起きてみると若者の一人がは無残な姿で殺されているのを発見し次々と殺され結局は誰一人戻って来なかったとの話だ……。
主人公であるオカは暇を持て余し、毎日ネットサーフィンをする日々を過ごしていた。そんなある日【マサオさん】のスレを見つけ回覧する。そしてマサオさんの聖地巡礼の募集スレがあり、大学も単位を取り尽くして暇なオカは応募し友人のカリンと一緒に参加する事にした。
そして、その村でオカ達は絶望するのである……。

Cuore
伏織
ホラー
(「わたしの愛した世界」の加筆修正が終わったら続き書きます。いつになることやら)
二学期の初日、人気者の先生の死を告げられた生徒達。
その中でも強いショックを受け、涙を流して早退することになった主人公。
彼女は直感的に「先生の死には何か重大な秘密がある」と感じ、独自に調査をしようとします。
そんな彼女を襲う噂、悪夢、…………そして先生の幽霊。
先生は主人公に何を伝えたくて現れるのか、それを知るため、彼女は更に調査を進めていきます。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる