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夕暮れのこっくりさん
夕暮れの少女
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――ねえ、澄玲ちゃん。あの噂知ってる?
「噂って、何?」
校庭で遊んでいたら、すっかり日が暮れて夕暮れ空だった。早く帰らないとお父さんが心配する、と澄玲はランドセルを背負い急いで帰ろうとしていた。だが、そんな彼女をおさげ髪の女の子が引き留めた。
あまり見た事ない子だ。でも、自分の名前を知っているならいつか遊んだ子かもしれない。急ぐ気持ちを押さえて、澄玲は立ち止まった。
――澄玲ちゃん、知らないの? こっくりさんだよ! こっくりさんに学校の七不思議を聞いたら、幻の八番目を教えてくれるんだって!
「こっくりさん? こっくりさんって、学校じゃ禁止じゃなかった?」
こっくりさんは、昔から禁止されている。お父さんが若い頃流行っていたが、その頃からこの小学校では禁止されていた。お父さんもおばあちゃんも「誘われても絶対に断りなさい」と言っていたので、澄玲はそれを守っていた。
――澄玲ちゃんは、真面目だよね。禁止されてても、面白いんだから! 明日、やろうよ。旧校舎の、音楽室で待ってるね。絶対に来てね! 四人でやった方がいいから、後二人誘ってあるから。
「でも……」
少女は、楽しそうに笑っている。断ろうとする澄玲の気持ちを分かっているのか、他の子に迷惑がかかると言うように強引に誘った。
――だったら、幻の八番目を聞くだけでもいいでしょ? それ聞いたら、帰ってもいいから。
少女は、澄玲がうんと言うまで帰さないようだ。澄玲は躊躇っていたが、少女が譲歩してくれたので頷くしかなかった。
「誰が来るの?」
――アキちゃんと、ナギサちゃんだよ。二人も、明日必ず来るって言ったから、澄玲ちゃんも必ず来てよ?
アキもナギサも、澄玲は知っている。彼女たちが来るなら、少しは安心出来そうだと頷いた。
――じゃあ、また明日ね。忘れないで、必ず来てね。
少女は、三つ編みを揺らして澄玲を置いて校舎の方へ駆けて行った。澄玲はしばらくその後ろ姿を見ていたが、次第に暗くなる空に慌てて家に向かった。
今日の夕焼けは、綺麗だった。足早に商店街に向かいながら、澄玲は赤い空を飛ぶカラスを眺めて、先程の事は忘れてまだ仕込み中の焼鳥屋に向かう。
「ただいま!」
「おかえり、澄玲。今日は少し遅くないか? もう秋も終わるから、直ぐに暗くなる。早く帰りなさい」
唐揚げ用の肉を、漬け汁が入った袋に入れながら心配そうに店主が時計を見ながらそう言った。
「澄玲には、澄玲の人間関係があるんだよ。全く、心配性だねぇ。澄玲、土曜にはお母さんのお見舞いに行こうね」
店主の母――澄玲の祖母が、店主を叱ってから優しくそう話しかけた。澄玲の母は、癌が見つかって少し離れた町の大きな病院に入院していた。祖母の言葉に頷いて、澄玲は辺りを見た。
「環琉くんはまだ来てないの?」
「今着たんじゃないか? バイクの音が聞こえた」
店主の言葉の通り、しばらくすると裏口が開いて眠そうな環琉が「おはようございます」と入って来た。
「環琉くん、今日は何味飲む? 澄玲が入れてあげる!」
環琉の顔を見ると、澄玲は嬉しそうに厨房の大きな冷蔵庫を指差した。厨房の大きな冷蔵庫には澄玲用のジュースが入っている。それを環琉と飲むのが、澄玲は好きだった。
「あれ……?」
虹色みたい、と澄玲が幼い頃から思っている環琉の瞳がきらりと光った。
「――んー、じゃあ、グレープかな」
「分かった!」
嬉しそうにコップを用意して、澄玲は店主に冷蔵庫を開けて貰いジュースのボトルを取り出して貰う。その澄玲から視線を外すと、環琉は先代に顔を向けて僅かに眉を顰める。
パチン
先代が、指を弾いた。すると、澄玲から何かが弾き飛ばされて消えた。
「祓い屋の元助手の孫に憑りつくなんて、いい度胸した霊がいるもんだね」
先代は、環琉の様に僅かに眉を顰めた。
「噂って、何?」
校庭で遊んでいたら、すっかり日が暮れて夕暮れ空だった。早く帰らないとお父さんが心配する、と澄玲はランドセルを背負い急いで帰ろうとしていた。だが、そんな彼女をおさげ髪の女の子が引き留めた。
あまり見た事ない子だ。でも、自分の名前を知っているならいつか遊んだ子かもしれない。急ぐ気持ちを押さえて、澄玲は立ち止まった。
――澄玲ちゃん、知らないの? こっくりさんだよ! こっくりさんに学校の七不思議を聞いたら、幻の八番目を教えてくれるんだって!
「こっくりさん? こっくりさんって、学校じゃ禁止じゃなかった?」
こっくりさんは、昔から禁止されている。お父さんが若い頃流行っていたが、その頃からこの小学校では禁止されていた。お父さんもおばあちゃんも「誘われても絶対に断りなさい」と言っていたので、澄玲はそれを守っていた。
――澄玲ちゃんは、真面目だよね。禁止されてても、面白いんだから! 明日、やろうよ。旧校舎の、音楽室で待ってるね。絶対に来てね! 四人でやった方がいいから、後二人誘ってあるから。
「でも……」
少女は、楽しそうに笑っている。断ろうとする澄玲の気持ちを分かっているのか、他の子に迷惑がかかると言うように強引に誘った。
――だったら、幻の八番目を聞くだけでもいいでしょ? それ聞いたら、帰ってもいいから。
少女は、澄玲がうんと言うまで帰さないようだ。澄玲は躊躇っていたが、少女が譲歩してくれたので頷くしかなかった。
「誰が来るの?」
――アキちゃんと、ナギサちゃんだよ。二人も、明日必ず来るって言ったから、澄玲ちゃんも必ず来てよ?
アキもナギサも、澄玲は知っている。彼女たちが来るなら、少しは安心出来そうだと頷いた。
――じゃあ、また明日ね。忘れないで、必ず来てね。
少女は、三つ編みを揺らして澄玲を置いて校舎の方へ駆けて行った。澄玲はしばらくその後ろ姿を見ていたが、次第に暗くなる空に慌てて家に向かった。
今日の夕焼けは、綺麗だった。足早に商店街に向かいながら、澄玲は赤い空を飛ぶカラスを眺めて、先程の事は忘れてまだ仕込み中の焼鳥屋に向かう。
「ただいま!」
「おかえり、澄玲。今日は少し遅くないか? もう秋も終わるから、直ぐに暗くなる。早く帰りなさい」
唐揚げ用の肉を、漬け汁が入った袋に入れながら心配そうに店主が時計を見ながらそう言った。
「澄玲には、澄玲の人間関係があるんだよ。全く、心配性だねぇ。澄玲、土曜にはお母さんのお見舞いに行こうね」
店主の母――澄玲の祖母が、店主を叱ってから優しくそう話しかけた。澄玲の母は、癌が見つかって少し離れた町の大きな病院に入院していた。祖母の言葉に頷いて、澄玲は辺りを見た。
「環琉くんはまだ来てないの?」
「今着たんじゃないか? バイクの音が聞こえた」
店主の言葉の通り、しばらくすると裏口が開いて眠そうな環琉が「おはようございます」と入って来た。
「環琉くん、今日は何味飲む? 澄玲が入れてあげる!」
環琉の顔を見ると、澄玲は嬉しそうに厨房の大きな冷蔵庫を指差した。厨房の大きな冷蔵庫には澄玲用のジュースが入っている。それを環琉と飲むのが、澄玲は好きだった。
「あれ……?」
虹色みたい、と澄玲が幼い頃から思っている環琉の瞳がきらりと光った。
「――んー、じゃあ、グレープかな」
「分かった!」
嬉しそうにコップを用意して、澄玲は店主に冷蔵庫を開けて貰いジュースのボトルを取り出して貰う。その澄玲から視線を外すと、環琉は先代に顔を向けて僅かに眉を顰める。
パチン
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「祓い屋の元助手の孫に憑りつくなんて、いい度胸した霊がいるもんだね」
先代は、環琉の様に僅かに眉を顰めた。
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