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待っている女
ケンジの話・上
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「そんな場所に病院跡地があるなんて、知らなかったわ。マジサイコ―!」
まだ酔いが残っているケンジは、トオルの車の助手席に乗るとそう声を上げた。サトルとリキヤは、後ろの席でスマホを見ていた。
「そこで、首つり自殺があったの知らない?」
トオルの言葉に、ケンジは首を傾げた。彼の記憶にはなかった。
「ケンジがニュース見る訳ないじゃん。ま、俺らも今確認してるんだけどさ」
「俺たちと同じ大学の女の子らしいぜ。学年が違うけど。今年の春らしい」
ニュースを見終わったらしい二人はスマホをポケットに入れて、座席に座り直した。
「何が悲しくて、自殺なんてするんだろうなぁ。楽しく生きてりゃいいのに」
「皆がケンジみたいに気楽に生きてる訳じゃないよ。それより、そこって何か幽霊が出るとかの噂ないのかな?」
運転しながらそう言うトオルの言葉に、リキヤが首を横に振った。
「スマホで検索したけど、何にも情報ねーな。母ちゃんに聞いたけど、母ちゃんも知らないって言ってた。けど向かいのバーさんに聞いたら、バーさんが小さい頃に診療所って場所だったらしいぜ」
「シンリョウジョって何?」
「病院の古い名前だってさ。最後の医者が老人で、死んでから誰も後を継がないで放置されてたんだってさ。建物壊すのにも金かかるから、そのままだったんだって」
ケンジは「ふーん」と頷いてから、車が山に入るのを眺めていた。
病院は山の中ほどの二股に分かれた、山の奥に入る方の道にあった。ここを目標にしなければ、来る事もない所だ。もう時刻は零時近い。他の車が来るとは思わないが、一応車を脇に置いて藪で塞がれるような道を入っていく。
後にして思うのだが、誰かが通ったので入りやすくなっていた。少し前にここで首つり事件が起きたのだから、警察が来ていたので当然だった。だが入る時にはなぜか首つり事件を忘れていて、緊張しながら入って行った。
「なんか――寒くない?」
サトルが、スマホで撮影をしながらそう呟いた。確かにクーラーが効いた車を降りた時、暑さとまとわりつく虫や蚊に不快感を覚えた。しかし、診療所に向かう最中に暑さが次第に寒さに代わり、虫も居なくなり半袖では寒く感じるほどだった。用意して車に乗せていた懐中電灯をそれぞれ持ちながら、辺りを照らす。さっきまで陽気だった四人だが、気持ちが沈んで言葉が少なくなっていた。
「山だからじゃねーの? 気のせいだって」
リキヤがそう言うと、サトルと共に前を歩いていく。ケンジとトオルは顔を見合わせ、嫌な気分ながらもその後に付いて行った。
「あった、建物」
半分ほどの建物が崩れ落ちているが、民家ほどの大きさの建物が見えた。『飯塚診療所』という」古めかしい看板がもうすぐ落ちそうな角度でぶら下がっていた。その建物の前に、大きな木が枝を伸ばしていた。
「これこれ。この木の枝で、首つったらしいぜ」
トオルが、懐中電灯で木を照らした。その木には、警察が貼っていたのだろう黄色い立ち入り禁止のテープがもう破れて木の幹に巻き付いていた。
「何で自殺したの?」
「遺書はなかったって。だから、最初は殺人事件の可能性も考えて捜査してたんだってさ。でも、おかしな所はないから自殺で捜査打ち切りになったみたい」
さっきスマホで事件の事を見ていたサトルがそう説明した。四人はしばらく木を照らして眺めていたが、警察が捜査した後だったので何も目新しいものがなくてすぐに飽きて診療所へと向かった。
「建物、崩れないよな?」
「崩れたら崩れたで、ネタになるでしょ」
遺体を見た訳ではないが『自殺者の遺体があった』という不気味さが頭のどこかにある。その怖さを忘れる様に、四人はわざと明るい声でそう話す。
四人が中に入ると、大部分の屋根が崩れているので月明りと懐中電灯で十分診療所の内側が見えた。受付があり、待合所、奥にベッドが置かれていたのだろう少し広い部屋と診察室。検査室のような部屋もあった。
四人は、カルテや医療器具がある事がネタになるので探してみたが、見当たらない。
「何だよ、ただの廃屋かよ」
リキヤが残念そうな言葉と裏腹に、何処かホッとした声を上げた。そして続けて、向かいのバーさんの話をする。
「昭和の頃は、ベッドがあるからここでエッチする奴らもいたんだって。ヤンキーの溜まり場所になってたから、ベッドとかは撤去したんだって」
「ひやー、俺はこんなところでやるのは無理。布団だって汚そうじゃん」
「ケンジなら出来るだろ、お前海でナンパした子と廃業して閉めてた海の家でやってたじゃん」
「アカリには内緒なー?」
そんな事を言っている彼らの耳に、「カーン、カーン」という金属のような音が聞こえた。
「……なんだ?」
四人は、耳を澄ませた。どうやら、診療所のすぐ外から聞こえてきているようだ。懐中電灯を持ち直して、外に出た。
まだ酔いが残っているケンジは、トオルの車の助手席に乗るとそう声を上げた。サトルとリキヤは、後ろの席でスマホを見ていた。
「そこで、首つり自殺があったの知らない?」
トオルの言葉に、ケンジは首を傾げた。彼の記憶にはなかった。
「ケンジがニュース見る訳ないじゃん。ま、俺らも今確認してるんだけどさ」
「俺たちと同じ大学の女の子らしいぜ。学年が違うけど。今年の春らしい」
ニュースを見終わったらしい二人はスマホをポケットに入れて、座席に座り直した。
「何が悲しくて、自殺なんてするんだろうなぁ。楽しく生きてりゃいいのに」
「皆がケンジみたいに気楽に生きてる訳じゃないよ。それより、そこって何か幽霊が出るとかの噂ないのかな?」
運転しながらそう言うトオルの言葉に、リキヤが首を横に振った。
「スマホで検索したけど、何にも情報ねーな。母ちゃんに聞いたけど、母ちゃんも知らないって言ってた。けど向かいのバーさんに聞いたら、バーさんが小さい頃に診療所って場所だったらしいぜ」
「シンリョウジョって何?」
「病院の古い名前だってさ。最後の医者が老人で、死んでから誰も後を継がないで放置されてたんだってさ。建物壊すのにも金かかるから、そのままだったんだって」
ケンジは「ふーん」と頷いてから、車が山に入るのを眺めていた。
病院は山の中ほどの二股に分かれた、山の奥に入る方の道にあった。ここを目標にしなければ、来る事もない所だ。もう時刻は零時近い。他の車が来るとは思わないが、一応車を脇に置いて藪で塞がれるような道を入っていく。
後にして思うのだが、誰かが通ったので入りやすくなっていた。少し前にここで首つり事件が起きたのだから、警察が来ていたので当然だった。だが入る時にはなぜか首つり事件を忘れていて、緊張しながら入って行った。
「なんか――寒くない?」
サトルが、スマホで撮影をしながらそう呟いた。確かにクーラーが効いた車を降りた時、暑さとまとわりつく虫や蚊に不快感を覚えた。しかし、診療所に向かう最中に暑さが次第に寒さに代わり、虫も居なくなり半袖では寒く感じるほどだった。用意して車に乗せていた懐中電灯をそれぞれ持ちながら、辺りを照らす。さっきまで陽気だった四人だが、気持ちが沈んで言葉が少なくなっていた。
「山だからじゃねーの? 気のせいだって」
リキヤがそう言うと、サトルと共に前を歩いていく。ケンジとトオルは顔を見合わせ、嫌な気分ながらもその後に付いて行った。
「あった、建物」
半分ほどの建物が崩れ落ちているが、民家ほどの大きさの建物が見えた。『飯塚診療所』という」古めかしい看板がもうすぐ落ちそうな角度でぶら下がっていた。その建物の前に、大きな木が枝を伸ばしていた。
「これこれ。この木の枝で、首つったらしいぜ」
トオルが、懐中電灯で木を照らした。その木には、警察が貼っていたのだろう黄色い立ち入り禁止のテープがもう破れて木の幹に巻き付いていた。
「何で自殺したの?」
「遺書はなかったって。だから、最初は殺人事件の可能性も考えて捜査してたんだってさ。でも、おかしな所はないから自殺で捜査打ち切りになったみたい」
さっきスマホで事件の事を見ていたサトルがそう説明した。四人はしばらく木を照らして眺めていたが、警察が捜査した後だったので何も目新しいものがなくてすぐに飽きて診療所へと向かった。
「建物、崩れないよな?」
「崩れたら崩れたで、ネタになるでしょ」
遺体を見た訳ではないが『自殺者の遺体があった』という不気味さが頭のどこかにある。その怖さを忘れる様に、四人はわざと明るい声でそう話す。
四人が中に入ると、大部分の屋根が崩れているので月明りと懐中電灯で十分診療所の内側が見えた。受付があり、待合所、奥にベッドが置かれていたのだろう少し広い部屋と診察室。検査室のような部屋もあった。
四人は、カルテや医療器具がある事がネタになるので探してみたが、見当たらない。
「何だよ、ただの廃屋かよ」
リキヤが残念そうな言葉と裏腹に、何処かホッとした声を上げた。そして続けて、向かいのバーさんの話をする。
「昭和の頃は、ベッドがあるからここでエッチする奴らもいたんだって。ヤンキーの溜まり場所になってたから、ベッドとかは撤去したんだって」
「ひやー、俺はこんなところでやるのは無理。布団だって汚そうじゃん」
「ケンジなら出来るだろ、お前海でナンパした子と廃業して閉めてた海の家でやってたじゃん」
「アカリには内緒なー?」
そんな事を言っている彼らの耳に、「カーン、カーン」という金属のような音が聞こえた。
「……なんだ?」
四人は、耳を澄ませた。どうやら、診療所のすぐ外から聞こえてきているようだ。懐中電灯を持ち直して、外に出た。
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