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陰謀
処分と確認残務
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それから、ヴェンデルガルトは起き上がった少女たちの精神的な支えを甲斐甲斐しく手伝った。根気がいる作業だったが、女神アレクシアの神殿のシスターたちも手伝ってくれたのだ。彼女たちが精神的に落ち着く頃には、フーゲンベルク大陸に冬が訪れて雪が降り始めていた。被害に遭った中で生きている一番古い令嬢は、五年もこの生活をしていて二十二歳になっていた。彼女たちは最初自分たちが何をされたか公表するのを躊躇っていたが、ヴェンデルガルトやシスターたちの説得により証言してくれる事になった。
ラムブレヒト公爵とヒューン伯爵、ヘンチュケ侯爵は直ぐに投獄された。ラムブレヒト公爵の妻であるレナータ夫人、花屋のペトラ・バーデン、長男で執事をしていたアダムも同じく牢屋に監禁された。ペトラの次男のフリッツは直接関わっていなかったが、キョウチクトウとマッサ、アゼルを栽培していた罪は償わなければならない。だが、これらの事件で自分が知り得る事を全て証言する事で、数年の牢獄生活となった。
資料は膨大な量だった。遡ってみると十年ほど前から令嬢誘拐は行われていたようだ。それでコネと資金を得て、国家乗っ取りを考えたようだ。アネモーネによる拷問と合わせて、調べる事は多かった。全ての罪と、関わった人物を探して処分する為だ。令嬢娼婦を買ったり、または薬を買っていた貴族は多く、探される前に自分から名乗り出て全財産を出して謝罪する貴族もいた。
「薔薇騎士の仕事の範囲外だが、全て明るみにする為に仕方がない。腐ったものは全て排除して、貴族も新しくしようと思う」
書類ばかり見ていた疲れを癒したい、とジークハルトがヴェンデルガルトの部屋に来た。手には、深紅の薔薇の花束が握られていた。
とうとう、ジークハルト様迄ご自分の色の薔薇を! と、カリーナが興奮しながらビルギットと話していた。
今日のお茶は、ジークハルトが好きなジャバの葉だ。今日も雪が降り寒い日で、ヴェンデルガルトの部屋の暖炉が赤々と燃えていた。お茶菓子は、勿論ヴェンデルガルトの大好きなガヌレットだ。
「君の顔を見ていると、本当に癒される――君とは、色々な困難を一緒に乗り越えた気がする。まるで、運命の様に君が傍にいるのが当然に思えてきた」
少し小さな声になって、ジークハルトはそうヴェンデルガルトに囁いた。
「あの――フロレンツィア様達は……?」
「ああ、彼女とヒューン伯爵、ヘンチュケ侯爵の令嬢の名前が記載された書類は今見付かっていない。しかし令嬢を誘拐していた証言はあるので、貴族の称号は剥奪。当分は城の牢屋で監禁しておくが、親も処分されるので町の売春宿に行くことになるだろう。皮肉な事に、自分たちが令嬢娼婦になる事になる」
金髪のかつらをかぶり仮面をつけて注射を打っていたのは、レナータのようだ。そうしてフロレンツィアに毒性のある植物を教えたのは、彼女だった。小さな頃から植物を好み、興奮や幻覚作用の植物を使えば、金儲けができる――そう学んだ彼女は、結婚すると夫にその話をした。野望がある夫もその話に乗り、二人で忌まわしき事業を始めた。それに人が集まり、ラムブレヒト公爵は王位を奪える夢を見た。
「これから国を立て直す――出来れば、君も俺の傍で支えて欲しい」
そう言ってジークハルトがヴェンデルガルトの手を取ろうとしたとき、ヴェンデルガルトの部屋のドアがノックされた。
「ちょ、なんでジークハルトがいるんだよ!」
カールだった。書類確認が苦手なカールは、よく抜け出してヴェンデルガルトの部屋に来ていた。
「カール、お前こそ毎回仕事を抜け出して! 仕事に戻れ、俺は休憩中だ」
「ヴェンデル、雪が綺麗なので外に息抜きに行きませんか……って、ジークハルトに、カール迄。何をしているんですか、ヴェンデルの部屋で」
すぐ後にまた部屋のドアがノックされて、今度はギルベルトが入って来た。
「まあまあ、皆様の分のお茶も用意しますので仲良くしてください」
口喧嘩になる前に、カリーナが慌てて二人の椅子を用意する。「お茶を新しく」と、ビルギットは部屋を出て行った。
三人は不満そうだったが、ヴェンデルガルトにも窘められて、四人でお茶をした。
それから不思議で奇妙な、ヴェンデルガルトを取り合う騎士団長の姿が城で見られるようになった。性格が全く違う五人の美しい青年たちが、まるで子供の様にヴェンデルガルトを取り合っている。貴族の謀反で暗くなっていた城の中で、それはメイドや執事たちが思わず吹き出してしまうような微笑ましい出来事だった。誰がヴェンデルガルト様の心を奪えるのか!? と、町でも話題になっている。明るく優しくて微笑が似合うヴェンデルガルトの存在が、今バルシュミーデ皇国を明るく支えていた。
ラムブレヒト公爵とヒューン伯爵、ヘンチュケ侯爵は直ぐに投獄された。ラムブレヒト公爵の妻であるレナータ夫人、花屋のペトラ・バーデン、長男で執事をしていたアダムも同じく牢屋に監禁された。ペトラの次男のフリッツは直接関わっていなかったが、キョウチクトウとマッサ、アゼルを栽培していた罪は償わなければならない。だが、これらの事件で自分が知り得る事を全て証言する事で、数年の牢獄生活となった。
資料は膨大な量だった。遡ってみると十年ほど前から令嬢誘拐は行われていたようだ。それでコネと資金を得て、国家乗っ取りを考えたようだ。アネモーネによる拷問と合わせて、調べる事は多かった。全ての罪と、関わった人物を探して処分する為だ。令嬢娼婦を買ったり、または薬を買っていた貴族は多く、探される前に自分から名乗り出て全財産を出して謝罪する貴族もいた。
「薔薇騎士の仕事の範囲外だが、全て明るみにする為に仕方がない。腐ったものは全て排除して、貴族も新しくしようと思う」
書類ばかり見ていた疲れを癒したい、とジークハルトがヴェンデルガルトの部屋に来た。手には、深紅の薔薇の花束が握られていた。
とうとう、ジークハルト様迄ご自分の色の薔薇を! と、カリーナが興奮しながらビルギットと話していた。
今日のお茶は、ジークハルトが好きなジャバの葉だ。今日も雪が降り寒い日で、ヴェンデルガルトの部屋の暖炉が赤々と燃えていた。お茶菓子は、勿論ヴェンデルガルトの大好きなガヌレットだ。
「君の顔を見ていると、本当に癒される――君とは、色々な困難を一緒に乗り越えた気がする。まるで、運命の様に君が傍にいるのが当然に思えてきた」
少し小さな声になって、ジークハルトはそうヴェンデルガルトに囁いた。
「あの――フロレンツィア様達は……?」
「ああ、彼女とヒューン伯爵、ヘンチュケ侯爵の令嬢の名前が記載された書類は今見付かっていない。しかし令嬢を誘拐していた証言はあるので、貴族の称号は剥奪。当分は城の牢屋で監禁しておくが、親も処分されるので町の売春宿に行くことになるだろう。皮肉な事に、自分たちが令嬢娼婦になる事になる」
金髪のかつらをかぶり仮面をつけて注射を打っていたのは、レナータのようだ。そうしてフロレンツィアに毒性のある植物を教えたのは、彼女だった。小さな頃から植物を好み、興奮や幻覚作用の植物を使えば、金儲けができる――そう学んだ彼女は、結婚すると夫にその話をした。野望がある夫もその話に乗り、二人で忌まわしき事業を始めた。それに人が集まり、ラムブレヒト公爵は王位を奪える夢を見た。
「これから国を立て直す――出来れば、君も俺の傍で支えて欲しい」
そう言ってジークハルトがヴェンデルガルトの手を取ろうとしたとき、ヴェンデルガルトの部屋のドアがノックされた。
「ちょ、なんでジークハルトがいるんだよ!」
カールだった。書類確認が苦手なカールは、よく抜け出してヴェンデルガルトの部屋に来ていた。
「カール、お前こそ毎回仕事を抜け出して! 仕事に戻れ、俺は休憩中だ」
「ヴェンデル、雪が綺麗なので外に息抜きに行きませんか……って、ジークハルトに、カール迄。何をしているんですか、ヴェンデルの部屋で」
すぐ後にまた部屋のドアがノックされて、今度はギルベルトが入って来た。
「まあまあ、皆様の分のお茶も用意しますので仲良くしてください」
口喧嘩になる前に、カリーナが慌てて二人の椅子を用意する。「お茶を新しく」と、ビルギットは部屋を出て行った。
三人は不満そうだったが、ヴェンデルガルトにも窘められて、四人でお茶をした。
それから不思議で奇妙な、ヴェンデルガルトを取り合う騎士団長の姿が城で見られるようになった。性格が全く違う五人の美しい青年たちが、まるで子供の様にヴェンデルガルトを取り合っている。貴族の謀反で暗くなっていた城の中で、それはメイドや執事たちが思わず吹き出してしまうような微笑ましい出来事だった。誰がヴェンデルガルト様の心を奪えるのか!? と、町でも話題になっている。明るく優しくて微笑が似合うヴェンデルガルトの存在が、今バルシュミーデ皇国を明るく支えていた。
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