120 / 125
陰謀
因縁
しおりを挟む
「ヴェンデルガルト様!」
今夜はパーティーで物騒なのでカールの別荘に泊まる事になり、眠っている彼女たちの近くの部屋でヴェンデルガルトは同じように眠りについていた。そこに、黄薔薇騎士の副団長でもあるディルクは馬を急ぎ走らせて来た。案内するビルギットを急かし、荒い息で頭を下げている。
「何かお城であったのですか?」
事情は分からずとも、ヴェンデルガルトは賢い。着替える時間が惜しいと、ショールを纏って彼に話しかける。
「二人が、毒で倒れました。今回の反乱での容疑者なので、ここで死なせたくないのです」
「分かりました、行きます。ビルギットは、彼女たちが起きた時の為にここにいて」
「ヴェンデルガルト様!」
付いて来ようとしたビルギットだったが、ロルフが止めて「任せて下さい」と再び城に戻るディルクとヴェンデルガルトに続いた。
「駆け足で行きます、しっかり捕まっていてください」
ロルフの馬に乗ると、彼はもう走り出したディルクの馬を追う様に急いだ。ヴェンデルガルトが馬や駱駝に乗ってきた時の中で、一番早かった。振り落とされないようにするので精一杯だった。
城の中は、静かになっていた。パーティーの客たちは混乱と混雑を避ける為、帰されたようだ。
「ヴェンデルガルト様が到着しました!」
急ぎ向かうディルクに続いて、ヴェンデルガルトは入った事が無い部屋に向かった。そこには、二人のドレス姿の女性がいた。
「毒だ、間に合うか!?」
ジークハルトの言葉に、ヴェンデルガルトは慌てて回復魔法をかけた。
「治療」
ヴェンデルガルトがそう唱えると、「ごふっ」と喉に詰まっていた物を吐いて、二人の女性の呼吸が戻った。あと少し遅ければ、間に合わなかっただろう。吐瀉物まみれの彼女達を、紫騎士たちがどこかに連れて行った。
「――すまない、君に頼ってばかりだ」
ジークハルトは、安堵したように表情を和らげてヴェンデルガルトに礼を言った。
「俺も飲みそうだった――もう毒は遠慮したい」
ランドルフはそう言って、ヴェンデルガルトを抱き締めた。南の国の毒のせいで、ランドルフは生死をさ迷ったからだろう。ランドルフが飲む予定だったグラスは証拠品として、騎士たちが回収していた。割れたワイングラスは、三個。フロレンツィアも少し飲んでいたが、彼女は定期的に毒を飲んでいる。一度ヴェンデルガルトに治癒魔法をかけられて耐性が無くなった筈だが、あれから再び毒を飲んできただろう。きっと、毒に耐えているはずだ。
「口封じの為に、仲間を殺そうとしたか――確かに、親より娘たちの方が弱くて口を割る可能性が高い。容疑者の一人であるフロレンツィアが逃亡したとなると、証拠品が処分される可能性が高くなる。青薔薇騎士と紫薔薇騎士で、街を探してくれ」
ジークハルトの命で薔薇騎士団がフロレンツィアを探しに奔走したが、朝になっても彼女と執事は見つからなかった。
「私ね、どうしても不思議な事があるの」
昨夜遅くにカールの別荘に戻り眠り直したヴェンデルガルトが、朝の食事をしている時にそう話し始めた。
「ラムブレヒト公爵とフロレンツィア様。それに愛人の花屋の方――色々な人が出てくるけれど、ラムブレヒト公爵の奥様――フロレンツィア様のお母様は、何処にいらっしゃるの?」
「ああ、ヴェンデルガルト様はご存じなかったのでしょうか?」
眠そうに目を擦りながら、パンを口にしたロルフがそれに答えた。
「レナータ様は、教会の支援をなさっていて屋敷には滞在されず、ずっと教会で生活されています。夫と娘と合わないって、ずっと口にされていたそうです。西側にある全能神のフロレンツ神の教会にいらっしゃいますよ」
それを聞いて、ヴェンデルガルトは少し考えこんだ。協会は、騎士たちも報告などで使っている。騎士がよく入る場所――ラファエルがビルギットに言った、意外な場所。
「朝食が終わったら、そこへ行きたいわ。一緒に行ける薔薇騎士団の方が居たら、出来たら一緒に。女の子たちが目覚めたら、すぐ戻るわ。少し、気になる事があるの」
「分かりました、俺も付き添います。一度城に行って、声をかけて向かいましょう」
ロルフがそう言うと、ヴェンデルガルトは少し緊張した顔で朝食を食べ終えた。
「レナータ様に会いに? それなら、私がご一緒しましょう」
城に行くと、ギルベルトがそう言った。イザークは証拠を探すのに忙しく、ランドルフとカールはフロレンツィアを探していた。ジークハルトは、ラムブレヒト公爵たちを城に滞在させて監視している。
「有難うございます。無駄足になったら申し訳ありません」
「いいのですよ、可愛いヴェンデル。ラムブレヒト公爵とあなたは――少し、因縁がありますから」
意外なギルベルトの言葉に、ヴェンデルガルトは不思議そうな顔になる。
「バルシュミーデ皇国を作ったのは、ゲープハルト・ハイノ・フンベルト・アインホルン辺境伯。彼が一番信頼していて、当時の王族……あなたの家族を処刑したのはラムブレヒト公爵家の先祖です」
今夜はパーティーで物騒なのでカールの別荘に泊まる事になり、眠っている彼女たちの近くの部屋でヴェンデルガルトは同じように眠りについていた。そこに、黄薔薇騎士の副団長でもあるディルクは馬を急ぎ走らせて来た。案内するビルギットを急かし、荒い息で頭を下げている。
「何かお城であったのですか?」
事情は分からずとも、ヴェンデルガルトは賢い。着替える時間が惜しいと、ショールを纏って彼に話しかける。
「二人が、毒で倒れました。今回の反乱での容疑者なので、ここで死なせたくないのです」
「分かりました、行きます。ビルギットは、彼女たちが起きた時の為にここにいて」
「ヴェンデルガルト様!」
付いて来ようとしたビルギットだったが、ロルフが止めて「任せて下さい」と再び城に戻るディルクとヴェンデルガルトに続いた。
「駆け足で行きます、しっかり捕まっていてください」
ロルフの馬に乗ると、彼はもう走り出したディルクの馬を追う様に急いだ。ヴェンデルガルトが馬や駱駝に乗ってきた時の中で、一番早かった。振り落とされないようにするので精一杯だった。
城の中は、静かになっていた。パーティーの客たちは混乱と混雑を避ける為、帰されたようだ。
「ヴェンデルガルト様が到着しました!」
急ぎ向かうディルクに続いて、ヴェンデルガルトは入った事が無い部屋に向かった。そこには、二人のドレス姿の女性がいた。
「毒だ、間に合うか!?」
ジークハルトの言葉に、ヴェンデルガルトは慌てて回復魔法をかけた。
「治療」
ヴェンデルガルトがそう唱えると、「ごふっ」と喉に詰まっていた物を吐いて、二人の女性の呼吸が戻った。あと少し遅ければ、間に合わなかっただろう。吐瀉物まみれの彼女達を、紫騎士たちがどこかに連れて行った。
「――すまない、君に頼ってばかりだ」
ジークハルトは、安堵したように表情を和らげてヴェンデルガルトに礼を言った。
「俺も飲みそうだった――もう毒は遠慮したい」
ランドルフはそう言って、ヴェンデルガルトを抱き締めた。南の国の毒のせいで、ランドルフは生死をさ迷ったからだろう。ランドルフが飲む予定だったグラスは証拠品として、騎士たちが回収していた。割れたワイングラスは、三個。フロレンツィアも少し飲んでいたが、彼女は定期的に毒を飲んでいる。一度ヴェンデルガルトに治癒魔法をかけられて耐性が無くなった筈だが、あれから再び毒を飲んできただろう。きっと、毒に耐えているはずだ。
「口封じの為に、仲間を殺そうとしたか――確かに、親より娘たちの方が弱くて口を割る可能性が高い。容疑者の一人であるフロレンツィアが逃亡したとなると、証拠品が処分される可能性が高くなる。青薔薇騎士と紫薔薇騎士で、街を探してくれ」
ジークハルトの命で薔薇騎士団がフロレンツィアを探しに奔走したが、朝になっても彼女と執事は見つからなかった。
「私ね、どうしても不思議な事があるの」
昨夜遅くにカールの別荘に戻り眠り直したヴェンデルガルトが、朝の食事をしている時にそう話し始めた。
「ラムブレヒト公爵とフロレンツィア様。それに愛人の花屋の方――色々な人が出てくるけれど、ラムブレヒト公爵の奥様――フロレンツィア様のお母様は、何処にいらっしゃるの?」
「ああ、ヴェンデルガルト様はご存じなかったのでしょうか?」
眠そうに目を擦りながら、パンを口にしたロルフがそれに答えた。
「レナータ様は、教会の支援をなさっていて屋敷には滞在されず、ずっと教会で生活されています。夫と娘と合わないって、ずっと口にされていたそうです。西側にある全能神のフロレンツ神の教会にいらっしゃいますよ」
それを聞いて、ヴェンデルガルトは少し考えこんだ。協会は、騎士たちも報告などで使っている。騎士がよく入る場所――ラファエルがビルギットに言った、意外な場所。
「朝食が終わったら、そこへ行きたいわ。一緒に行ける薔薇騎士団の方が居たら、出来たら一緒に。女の子たちが目覚めたら、すぐ戻るわ。少し、気になる事があるの」
「分かりました、俺も付き添います。一度城に行って、声をかけて向かいましょう」
ロルフがそう言うと、ヴェンデルガルトは少し緊張した顔で朝食を食べ終えた。
「レナータ様に会いに? それなら、私がご一緒しましょう」
城に行くと、ギルベルトがそう言った。イザークは証拠を探すのに忙しく、ランドルフとカールはフロレンツィアを探していた。ジークハルトは、ラムブレヒト公爵たちを城に滞在させて監視している。
「有難うございます。無駄足になったら申し訳ありません」
「いいのですよ、可愛いヴェンデル。ラムブレヒト公爵とあなたは――少し、因縁がありますから」
意外なギルベルトの言葉に、ヴェンデルガルトは不思議そうな顔になる。
「バルシュミーデ皇国を作ったのは、ゲープハルト・ハイノ・フンベルト・アインホルン辺境伯。彼が一番信頼していて、当時の王族……あなたの家族を処刑したのはラムブレヒト公爵家の先祖です」
0
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜
松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】
(ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』
※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています!
【あらすじ】
架空の国、ジュエリトス王国。
人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。
国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。
そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。
数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた!
仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。
さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す!
まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います!
恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり)
応援よろしくお願いします😊
2023.8.28
カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。
本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。
氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。
それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。
「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」
それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが?
人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。
小説家になろうにも投稿しています。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる