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陰謀
温室
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「例の温室は、ここか?」
夜も更けているので、松明を持って彼らは辺りを見渡した。昼間に確認していたので、間違っていないはずだ。鍵を壊し開けて中に入ると、桃色の花と何かの植物が栽培されていた。それを確認している青薔薇騎士の耳に、石が転がる様な小さな音が聞こえた。
「誰だ!?」
それは、誰かがこの場から立ち去ろうとした音だ。松明を高くして辺りを確認すると、逃げる黒い人影を見つけた。青薔薇騎士が急いで馬で追いかけると、直ぐにその人物は捕まった。人相書きで覚えていた、花屋の次男だ。母と一緒に、花の世話をしているのだ。彼がここを見張っていてもおかしくはない。
「お前は花屋店主、ペトラ・バーデンの息子だな」
「……お前たちは、薔薇騎士団か?」
問いかけには答えず、反対に質問をしてきた。騎士たちは顔を見合わせたが、一人の騎士が前に出て名乗った。
「青薔薇騎士団、第一班班長のベルノルト・ダミアン・ヴェルレだ。薔薇騎士団総帥ジークハルト様の命により、この温室を調べに来た」
その言葉を聞くと、男は全てを諦めたように肩を落とした。
「毒がバレたか薬がバレたか……だから俺は止めとけって言ったんだ……あんな胡散臭い男に騙されて……ああ、俺は次男のフリッツだ。母は家にいる」
自分たちの身元を明かした途端素直になった男に、青薔薇騎士団は怪訝そうな顔になった。
「お前は、母親たちの仲間ではないのか?」
「俺は、反対していた。キョウチクトウやマッサを育てるなんて――俺は、花を育てて人に喜ばれたかったんだ。純粋に花屋を経営したかったんだ」
肩を落とした男は、拘束しなくても逃げる様子ではなかった。率先して温室に入ると、「この花がキョウチクトウ、この手のような形の葉がマッサ、緑の瘤のようなのがアゼルだ」と説明し始めた。
「アゼルとは何だ?」
ベルノルトが尋ねると。男はその瘤のようなものを握って潰した。中には、黒い種のようなものがぎっしり詰まっていた。
「マッサと同じようなものだ。乾燥させて細かくしたものを注射したり、炙ったり鼻から吸い込むと幻覚作用や快感を得る」
「誰が持ち込んだ?」
フリッツは深く息を吐くと、力なく呟いた。
「母のパトロンのラムブレヒト公爵だ。元々温室にあった花は、侯爵の庭に植えた――枯れてしまっただろう、可哀想に」
「お前が知っている事を素直に話せば、お前の罪は軽くなるように頼んでやれる。話してくれるか?」
男は、花を気遣ってばかりの言葉だ。薔薇騎士団に協力的な事もあり、フリッツはそうベルノルトに交渉した。
「母と兄は――裁かれるのでしょうね?」
「君は指示されて栽培していただけだ。母親はラムブレヒト公爵に賄賂を貰い栽培場所の提供、皇国に謀反する人物を斡旋していた。兄は執事として少女たちを薬漬けにしていた。二人の罪より、ずっと軽くなる。反対に、二人の罪が軽くなる事はない。素直に、皇国に従った方が君の為だ」
ベルノルトは、言葉に詰まったように黙り込んだ。それから、膝から地面に落ちてその地面を強く叩いた。
「兄は、絵を描くのが好きだった――あの女……ラムブレヒト公爵の娘に、騙されてこんな事を……! あの豚野郎に仕返しが出来るなら、協力します。母と兄の敵討ちができるなら!」
暫くベルノルトを見ていた青薔薇騎士団だったが、フリッツが自分の馬にベルノルトを乗せて城に戻った。残りの青薔薇騎士は温室を封鎖して、警護する事になった。
あとは、ラムブレヒト公爵が皇国に謀反をする明確な証拠さえ見つければ、彼ら一派を捕らえる事が出来る。他の青薔薇騎士たちは、ずっとそれを探していた。
「すまない、ワインがなくなっていますね。新しいワインをお持ちしましょう」
ジークハルトがラムブレヒト公爵とフロレンツィアとワインを手に話しをしていたが、公爵のグラスにワインが入っていない事に気が付いた。メイドを呼ぼうとした時に、フロレンツィアの執事が三人の側に歩み寄ってきた。
「旦那様、家の花が枯れました」
「なんと……そうか」
「花ですか? 何か、大事な花でも育てていたのですか?」
二人の会話に、ジークハルトが尋ねた。ジークハルトには、それが捕らえられた少女だという事は分かっている。
「ええ、大事な花です。残念です――新しいものを用意しないと」
ラムブレヒト公爵は、それでも狼狽えた様子はなかった。
「すまない、ワインを」
ジークハルトが声を上げると、赤薔薇騎士がワインを手にやって来た。それは、赤薔薇騎士副団長のバルナバスだった。無事に、少女たちと使用人たちを回収したという合図だった。
「申し訳ありません、ラムブレヒト公爵、ヘンチュケ侯爵、ヒューン伯爵。お話があるのですが、少しお時間よろしいでしょうか?」
出来るだけ愛想よく、ジークハルトがそう言った。名を呼ばれたヘンチュケ侯爵とヒューン伯爵が、赤薔薇騎士に無言で追いやられる様に、ジークハルトの前に集まった。
夜も更けているので、松明を持って彼らは辺りを見渡した。昼間に確認していたので、間違っていないはずだ。鍵を壊し開けて中に入ると、桃色の花と何かの植物が栽培されていた。それを確認している青薔薇騎士の耳に、石が転がる様な小さな音が聞こえた。
「誰だ!?」
それは、誰かがこの場から立ち去ろうとした音だ。松明を高くして辺りを確認すると、逃げる黒い人影を見つけた。青薔薇騎士が急いで馬で追いかけると、直ぐにその人物は捕まった。人相書きで覚えていた、花屋の次男だ。母と一緒に、花の世話をしているのだ。彼がここを見張っていてもおかしくはない。
「お前は花屋店主、ペトラ・バーデンの息子だな」
「……お前たちは、薔薇騎士団か?」
問いかけには答えず、反対に質問をしてきた。騎士たちは顔を見合わせたが、一人の騎士が前に出て名乗った。
「青薔薇騎士団、第一班班長のベルノルト・ダミアン・ヴェルレだ。薔薇騎士団総帥ジークハルト様の命により、この温室を調べに来た」
その言葉を聞くと、男は全てを諦めたように肩を落とした。
「毒がバレたか薬がバレたか……だから俺は止めとけって言ったんだ……あんな胡散臭い男に騙されて……ああ、俺は次男のフリッツだ。母は家にいる」
自分たちの身元を明かした途端素直になった男に、青薔薇騎士団は怪訝そうな顔になった。
「お前は、母親たちの仲間ではないのか?」
「俺は、反対していた。キョウチクトウやマッサを育てるなんて――俺は、花を育てて人に喜ばれたかったんだ。純粋に花屋を経営したかったんだ」
肩を落とした男は、拘束しなくても逃げる様子ではなかった。率先して温室に入ると、「この花がキョウチクトウ、この手のような形の葉がマッサ、緑の瘤のようなのがアゼルだ」と説明し始めた。
「アゼルとは何だ?」
ベルノルトが尋ねると。男はその瘤のようなものを握って潰した。中には、黒い種のようなものがぎっしり詰まっていた。
「マッサと同じようなものだ。乾燥させて細かくしたものを注射したり、炙ったり鼻から吸い込むと幻覚作用や快感を得る」
「誰が持ち込んだ?」
フリッツは深く息を吐くと、力なく呟いた。
「母のパトロンのラムブレヒト公爵だ。元々温室にあった花は、侯爵の庭に植えた――枯れてしまっただろう、可哀想に」
「お前が知っている事を素直に話せば、お前の罪は軽くなるように頼んでやれる。話してくれるか?」
男は、花を気遣ってばかりの言葉だ。薔薇騎士団に協力的な事もあり、フリッツはそうベルノルトに交渉した。
「母と兄は――裁かれるのでしょうね?」
「君は指示されて栽培していただけだ。母親はラムブレヒト公爵に賄賂を貰い栽培場所の提供、皇国に謀反する人物を斡旋していた。兄は執事として少女たちを薬漬けにしていた。二人の罪より、ずっと軽くなる。反対に、二人の罪が軽くなる事はない。素直に、皇国に従った方が君の為だ」
ベルノルトは、言葉に詰まったように黙り込んだ。それから、膝から地面に落ちてその地面を強く叩いた。
「兄は、絵を描くのが好きだった――あの女……ラムブレヒト公爵の娘に、騙されてこんな事を……! あの豚野郎に仕返しが出来るなら、協力します。母と兄の敵討ちができるなら!」
暫くベルノルトを見ていた青薔薇騎士団だったが、フリッツが自分の馬にベルノルトを乗せて城に戻った。残りの青薔薇騎士は温室を封鎖して、警護する事になった。
あとは、ラムブレヒト公爵が皇国に謀反をする明確な証拠さえ見つければ、彼ら一派を捕らえる事が出来る。他の青薔薇騎士たちは、ずっとそれを探していた。
「すまない、ワインがなくなっていますね。新しいワインをお持ちしましょう」
ジークハルトがラムブレヒト公爵とフロレンツィアとワインを手に話しをしていたが、公爵のグラスにワインが入っていない事に気が付いた。メイドを呼ぼうとした時に、フロレンツィアの執事が三人の側に歩み寄ってきた。
「旦那様、家の花が枯れました」
「なんと……そうか」
「花ですか? 何か、大事な花でも育てていたのですか?」
二人の会話に、ジークハルトが尋ねた。ジークハルトには、それが捕らえられた少女だという事は分かっている。
「ええ、大事な花です。残念です――新しいものを用意しないと」
ラムブレヒト公爵は、それでも狼狽えた様子はなかった。
「すまない、ワインを」
ジークハルトが声を上げると、赤薔薇騎士がワインを手にやって来た。それは、赤薔薇騎士副団長のバルナバスだった。無事に、少女たちと使用人たちを回収したという合図だった。
「申し訳ありません、ラムブレヒト公爵、ヘンチュケ侯爵、ヒューン伯爵。お話があるのですが、少しお時間よろしいでしょうか?」
出来るだけ愛想よく、ジークハルトがそう言った。名を呼ばれたヘンチュケ侯爵とヒューン伯爵が、赤薔薇騎士に無言で追いやられる様に、ジークハルトの前に集まった。
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