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陰謀
テオの役目
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「ヴェンデルガルト嬢、テオを貸して貰えないだろうか」
テオとは、白い毛に赤い目のアプトという犬に似た魔獣だ。手負いのアプトの子供を、ジークハルトがヴェンデルガルトに護衛を兼ねてプレゼントしたのだ。名付け親も、ジークハルトだ。
「テオを? どうするのですか?」
テオは、ヴェンデルガルトが南の国に連れ去られて戻ってきた時も、彼女を忘れていなかった。テオに再び会った時は、もう大きくなっているのに甘えて彼女のベッドから離れなかった。
「ギルベルト達が考えている作戦を行うと、沢山の女性を匿う事になる。テオにも護衛をして貰えたなら、安心なんだが」
アプトは飼い慣らすと、主人のいう事をしっかりと聞く。実際テオは従順で、ヴェンデルガルトとビルギット、カリーナのいう事をよく聞いた。それに、散歩に連れて行ってくれている騎士団にも懐いていた。テオに彼女達を守れと命じるなら、確かに心強いだろう。仮にも魔獣だからだ。
「どちらで匿うのですか?」
「ジークハルトやランドルフの管理している屋敷は駄目だよ。フロレンツィアに知られている可能性がある。カールの別荘を使おう」
イザークの言葉に、ギルベルトも賛成と頷いた。
「フロレンツィアは、カールが苦手なんですよ」
どうしてカールが選ばれたのか不思議そうな女性達に、ギルベルトが小さく笑って教えてあげた。ギルベルトの元婚約者だったフロレンツィアの従姉妹――ゾフィーアに、カールは「君は婚姻前に愛人と淫らな行為を行って恥ずかしくないのか!? 君のような破廉恥な女性には、侯爵家は似合わない。陛下に話して、君を公爵家から追放して貰う!」とパーティーの席で大声で怒鳴り、本当にバルテル侯爵家から追放していたのだ。
真っ直ぐで純粋なカールは、ジークハルトの父であるアンドレアス皇帝に気に入られている。ビルギットを気に入っているのも、同じ理由だからだろう。
カールの一言で貴族から追放される――その噂は瞬く間に広まり、フロレンツィアですらカールには嫌味を言うので精一杯だった。
目の見えなかったギルベルトを罵った事を、カールは本気で怒ったのだ。それが嬉しくて感謝しているのだが、カールにはつい悪戯をしてしまう。
「カール様、実はすごいんですね……」
カリーナの声に、ヴェンデルガルトは楽しそうに小さく笑った。
「皇帝に話して、身元がしっかりして信頼出来るメイドを何人かこちらに回して貰える事になった。そこで――屋敷でのメイド長はカリーナになって貰う。お願いできるだろうか?」
ジークハルトのその言葉に、クラーラを抱き締めていたカリーナが茫然となる。皇帝や皇族についていたメイドを差し置いて、まだ十七の自分が指揮する立場になるなんて思いもしなかった。
「ヴェンデルガルト嬢のメイドである君だからこそ、お願いしたいんだ」
「お願い! あなたに傍にいて欲しいわ!」
ジークハルトとクラーラにそう頼られて、カリーナは困った顔をしてヴェンデルガルトとビルギットを見つめた。二人は、にっこりと笑って頷いた。こうなると、カリーナは諦めるしかなかった。
「ヴェンデルガルト様とビルギットも、たまには来て下さるんですよね?」
「勿論よ! 治療もあるし、カリーナを応援する為に、必ず毎日通うわ!」
「分かりました……後で間違いだったって言わないでくださいね……」
カリーナの言葉に、ジークハルトは頷いた。
「では、早速カールに話しましょう。それと、紫薔薇と白薔薇騎士でも信頼できる騎士を選んで、救出から警備を任せます」
ギルベルトはそう言うと、頭を下げて部屋を出て行った。
「待って、青薔薇も救出に参加するよ!」
と、イザークがギルベルトの後を追った。
「少し、休憩しよう」
二人がバタバタと出て行くと、ジークハルトは疲れたように深くため息を零した。その言葉に、ビルギットは直ぐに立ち上がった。
「お茶とお菓子を用意してきます――カリーナは、クラーラ様の傍にいて下さいね」
「分かりました」
笑顔を見せるようになったが、まだクラーラの事が心配だったのだろう。立ち上がろうとしたカリーナにビルギットはそう言った。それが分かったのか。カリーナはクラーラを抱いたまま頷いた。
「あの金髪は、偽物なのでしょうか? 仮面の女性の髪……」
クラーラがそう言うと、ジークハルトは頷いた。
「ああ、偽物だろう。君たちに、ヴェンデルガルト嬢を憎むように――もしかすると、ヴェンデルガルト嬢がやったと偽装する為に」
ヴェンデルガルトは、フロレンツィアに嫌われていた事は分かっていた。しかし、こんな犯罪の汚名を着せられる程だとは、思いもしなかった。
――ジークハルト様を、とても愛しているのね。
彼を愛しているのに、父親と共にバルシュミーデ皇国を滅ぼそうとしている。その矛盾した行動の中でも、フロレンツィアがジークハルトを強く愛している事に、ヴェンデルガルトは愛とは難しいものだと改めて知った。
テオとは、白い毛に赤い目のアプトという犬に似た魔獣だ。手負いのアプトの子供を、ジークハルトがヴェンデルガルトに護衛を兼ねてプレゼントしたのだ。名付け親も、ジークハルトだ。
「テオを? どうするのですか?」
テオは、ヴェンデルガルトが南の国に連れ去られて戻ってきた時も、彼女を忘れていなかった。テオに再び会った時は、もう大きくなっているのに甘えて彼女のベッドから離れなかった。
「ギルベルト達が考えている作戦を行うと、沢山の女性を匿う事になる。テオにも護衛をして貰えたなら、安心なんだが」
アプトは飼い慣らすと、主人のいう事をしっかりと聞く。実際テオは従順で、ヴェンデルガルトとビルギット、カリーナのいう事をよく聞いた。それに、散歩に連れて行ってくれている騎士団にも懐いていた。テオに彼女達を守れと命じるなら、確かに心強いだろう。仮にも魔獣だからだ。
「どちらで匿うのですか?」
「ジークハルトやランドルフの管理している屋敷は駄目だよ。フロレンツィアに知られている可能性がある。カールの別荘を使おう」
イザークの言葉に、ギルベルトも賛成と頷いた。
「フロレンツィアは、カールが苦手なんですよ」
どうしてカールが選ばれたのか不思議そうな女性達に、ギルベルトが小さく笑って教えてあげた。ギルベルトの元婚約者だったフロレンツィアの従姉妹――ゾフィーアに、カールは「君は婚姻前に愛人と淫らな行為を行って恥ずかしくないのか!? 君のような破廉恥な女性には、侯爵家は似合わない。陛下に話して、君を公爵家から追放して貰う!」とパーティーの席で大声で怒鳴り、本当にバルテル侯爵家から追放していたのだ。
真っ直ぐで純粋なカールは、ジークハルトの父であるアンドレアス皇帝に気に入られている。ビルギットを気に入っているのも、同じ理由だからだろう。
カールの一言で貴族から追放される――その噂は瞬く間に広まり、フロレンツィアですらカールには嫌味を言うので精一杯だった。
目の見えなかったギルベルトを罵った事を、カールは本気で怒ったのだ。それが嬉しくて感謝しているのだが、カールにはつい悪戯をしてしまう。
「カール様、実はすごいんですね……」
カリーナの声に、ヴェンデルガルトは楽しそうに小さく笑った。
「皇帝に話して、身元がしっかりして信頼出来るメイドを何人かこちらに回して貰える事になった。そこで――屋敷でのメイド長はカリーナになって貰う。お願いできるだろうか?」
ジークハルトのその言葉に、クラーラを抱き締めていたカリーナが茫然となる。皇帝や皇族についていたメイドを差し置いて、まだ十七の自分が指揮する立場になるなんて思いもしなかった。
「ヴェンデルガルト嬢のメイドである君だからこそ、お願いしたいんだ」
「お願い! あなたに傍にいて欲しいわ!」
ジークハルトとクラーラにそう頼られて、カリーナは困った顔をしてヴェンデルガルトとビルギットを見つめた。二人は、にっこりと笑って頷いた。こうなると、カリーナは諦めるしかなかった。
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ギルベルトはそう言うと、頭を下げて部屋を出て行った。
「待って、青薔薇も救出に参加するよ!」
と、イザークがギルベルトの後を追った。
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「ああ、偽物だろう。君たちに、ヴェンデルガルト嬢を憎むように――もしかすると、ヴェンデルガルト嬢がやったと偽装する為に」
ヴェンデルガルトは、フロレンツィアに嫌われていた事は分かっていた。しかし、こんな犯罪の汚名を着せられる程だとは、思いもしなかった。
――ジークハルト様を、とても愛しているのね。
彼を愛しているのに、父親と共にバルシュミーデ皇国を滅ぼそうとしている。その矛盾した行動の中でも、フロレンツィアがジークハルトを強く愛している事に、ヴェンデルガルトは愛とは難しいものだと改めて知った。
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