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陰謀
少女の決意
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ロルフが持って来たタオルをお湯で濡らして、優しく顔を拭う。まだあどけない可愛らしい顔をしていた。しかし絶叫のせいか、その作業中にカリーナが目を覚ました。
「目が覚めたのですね、本当に良かったです。もう目を覚まさないかと――私、本当に心配で……」
と、カリーナまで泣きだした。カリーナはクラーラを世話をしながら、目覚めない彼女が心配で堪らなかったそうだ。クラーラの顔が綺麗になると、ビルギットは彼女に温かいローズティーを差し出した。受け取ったクラーラは、ヴェンデルガルトに視線を向けた。しきたりでは、目上の者が手を付けてからだ。
「私は先に飲んだわ、どうぞ飲んで下さい」
ヴェンデルガルトが笑いかけると、おずおずとカップに口を付けた。温かなものが身体に入ると、ようやくクラーラは落ち着いたようだ。安心させるように隣りに座るカリーナの手をぎゅっと握って、ヴェンデルガルトに顔を向けた。
「失礼の数々、申し訳ありませんでした。私……混乱していて……」
大きな声を出したので、少し咳き込んでいた。その背中も、カリーナが撫でてやる。その言葉に、ヴェンデルガルトは優しく首を横に振った。
「いいえ、気になさらないで。あなたは、とても辛い思いをしていましたね。だから、仕方なかったんです」
「私……私、行儀作法を習いに行ったはずなのに……注射を打たれて、気が付いたらあの地下牢に……侯爵様や伯爵様たちが頻繁に来ていて……薬を打たれると、何も覚えていなくて……私、私! 他の子を見捨ててしまいました! どうしましょう、まだ沢山地下牢にいるのに!」
同じ地下牢に居た少女たちの事を思い出すと、クラーラは顔色を変えた。ガタガタと震えていた。それは、あの地下牢での生活を思い出したからだろう。
「誰に注射を打たれたの?」
「分かりません……ヴェンデルガルト様によく似た金色の髪で、仮面をつけた真っ赤な唇の女性だったと思います……どこかで聞いたような声でした……その髪を見て、ヴェンデルガルト様と間違えたのか混乱していました。申し訳ありません……」
ヴェンデルガルトは屈みこむと、カリーナの手を握るクラーラの手に自分の手を重ねた。
「その地下牢に捕まっている他の子を助ける為に、ジークハルト様にお話しできるかしら? 辛い事を思い出して大変だと思いますが、あなたにしか出来ないの」
ヴェンデルガルトの言葉に、クラーラは不安そうな顔になった。ヴェンデルガルトはその手を、ぎゅっと握る。温かなヴェンデルガルトより少し小さい手だ。
「大丈夫。ここにいる人はあなたを護ってくれる。私も傍にいるわ――お願い、皆助けを待っているわ」
「……分かりました、お話します……皆を助けたい……」
クラーラは不安そうな顔をしていたが、そう言って頷いた。小さく笑って手を外したヴェンデルガルトに代わり、カリーナがクラーラをぎゅっと抱き締めた。
その時、小さく腹が鳴る音がした。クラーラの腹だ。彼女は慌ててお腹を押さえた。
「安心して、お腹が空いたのですね。お食事をお持ちしますよ、何が食べたいですか?」
ビルギットの言葉に、クラーラは恥ずかしそうな顔で「グングラのシチューを……」と、小さな声で言った。グングラは、食用鳥の一つだ。よく走らせて育てるので、噛み応えがあり煮込むと程よい硬さになり、シチューによく使われる。
「お母様はお行儀が悪いと言うのですが、グングラのシチューにパンを浸して食べるのが、私大好きなんです。お母様は一応叱るのですが、その後にザッハのシロップ漬けを出してくれて……お母様……お母様に会いたい……」
「今すぐには無理ですが、お母様ともお父様とも、必ずお会いできますよ。あと少しだけ、頑張ってください」
「あの……」
ビルギットとカリーナは、食事を用意する為に食堂に向かった。小さな声で、クラーラはヴェンデルガルトに声をかけた。
「汚れてしまった私を、お父様もお母様も許してくれるでしょうか……?」
「大丈夫。私の魔法で、あなたは元に戻って綺麗なままよ? 女神アレクシア様に誓って言うわ。無事にお嫁にも行ける。安心してね?」
クラーラはヴェンデルガルトの手を握って、その手を額に当てて「神様……有難うございます……」と囁いた。
奇跡的に、城ではグングラのシチューを作り始めていた。秋めいてきたので、少し肌寒くなってきたので用意していたらしい。ザッハの実もあったので、それのシロップ煮も作って貰った。
「美味しい」
と、泣きながらクラーラは食事を綺麗に食べた。ヴェンデルガルトはジークハルトに「もう話せます」と連絡して貰い、新しい部屋に彼女を連れて向かった。そこにはジークハルトとギルベルト、イザークが待っていた。
「あの……手を握っていてくれますか……?」
クラーラは、歳が近いカリーナに手を差し伸べた。それを見たジークハルトは、クラーラの横に椅子を置いてカリーナを座らせた。
ジークハルト達の後ろに、ヴェンデルガルトとビルギットとロルフは座っている。
クラーラは、そこでようやく地獄のような日々を口にした。
「目が覚めたのですね、本当に良かったです。もう目を覚まさないかと――私、本当に心配で……」
と、カリーナまで泣きだした。カリーナはクラーラを世話をしながら、目覚めない彼女が心配で堪らなかったそうだ。クラーラの顔が綺麗になると、ビルギットは彼女に温かいローズティーを差し出した。受け取ったクラーラは、ヴェンデルガルトに視線を向けた。しきたりでは、目上の者が手を付けてからだ。
「私は先に飲んだわ、どうぞ飲んで下さい」
ヴェンデルガルトが笑いかけると、おずおずとカップに口を付けた。温かなものが身体に入ると、ようやくクラーラは落ち着いたようだ。安心させるように隣りに座るカリーナの手をぎゅっと握って、ヴェンデルガルトに顔を向けた。
「失礼の数々、申し訳ありませんでした。私……混乱していて……」
大きな声を出したので、少し咳き込んでいた。その背中も、カリーナが撫でてやる。その言葉に、ヴェンデルガルトは優しく首を横に振った。
「いいえ、気になさらないで。あなたは、とても辛い思いをしていましたね。だから、仕方なかったんです」
「私……私、行儀作法を習いに行ったはずなのに……注射を打たれて、気が付いたらあの地下牢に……侯爵様や伯爵様たちが頻繁に来ていて……薬を打たれると、何も覚えていなくて……私、私! 他の子を見捨ててしまいました! どうしましょう、まだ沢山地下牢にいるのに!」
同じ地下牢に居た少女たちの事を思い出すと、クラーラは顔色を変えた。ガタガタと震えていた。それは、あの地下牢での生活を思い出したからだろう。
「誰に注射を打たれたの?」
「分かりません……ヴェンデルガルト様によく似た金色の髪で、仮面をつけた真っ赤な唇の女性だったと思います……どこかで聞いたような声でした……その髪を見て、ヴェンデルガルト様と間違えたのか混乱していました。申し訳ありません……」
ヴェンデルガルトは屈みこむと、カリーナの手を握るクラーラの手に自分の手を重ねた。
「その地下牢に捕まっている他の子を助ける為に、ジークハルト様にお話しできるかしら? 辛い事を思い出して大変だと思いますが、あなたにしか出来ないの」
ヴェンデルガルトの言葉に、クラーラは不安そうな顔になった。ヴェンデルガルトはその手を、ぎゅっと握る。温かなヴェンデルガルトより少し小さい手だ。
「大丈夫。ここにいる人はあなたを護ってくれる。私も傍にいるわ――お願い、皆助けを待っているわ」
「……分かりました、お話します……皆を助けたい……」
クラーラは不安そうな顔をしていたが、そう言って頷いた。小さく笑って手を外したヴェンデルガルトに代わり、カリーナがクラーラをぎゅっと抱き締めた。
その時、小さく腹が鳴る音がした。クラーラの腹だ。彼女は慌ててお腹を押さえた。
「安心して、お腹が空いたのですね。お食事をお持ちしますよ、何が食べたいですか?」
ビルギットの言葉に、クラーラは恥ずかしそうな顔で「グングラのシチューを……」と、小さな声で言った。グングラは、食用鳥の一つだ。よく走らせて育てるので、噛み応えがあり煮込むと程よい硬さになり、シチューによく使われる。
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「今すぐには無理ですが、お母様ともお父様とも、必ずお会いできますよ。あと少しだけ、頑張ってください」
「あの……」
ビルギットとカリーナは、食事を用意する為に食堂に向かった。小さな声で、クラーラはヴェンデルガルトに声をかけた。
「汚れてしまった私を、お父様もお母様も許してくれるでしょうか……?」
「大丈夫。私の魔法で、あなたは元に戻って綺麗なままよ? 女神アレクシア様に誓って言うわ。無事にお嫁にも行ける。安心してね?」
クラーラはヴェンデルガルトの手を握って、その手を額に当てて「神様……有難うございます……」と囁いた。
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「あの……手を握っていてくれますか……?」
クラーラは、歳が近いカリーナに手を差し伸べた。それを見たジークハルトは、クラーラの横に椅子を置いてカリーナを座らせた。
ジークハルト達の後ろに、ヴェンデルガルトとビルギットとロルフは座っている。
クラーラは、そこでようやく地獄のような日々を口にした。
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