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陰謀

ヴェンデルガルトがすべき事

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 朝食を食べ終えたヴェンデルガルトの元に、白薔薇騎士副団長のエルマーが現れた。
「……との事で、少女から話を聞きだす時にお傍にいて欲しいのです。勝手な申し出とは承知ですが、我々はヴェンデルガルト様しか頼れない状態です」
「いいのですよ、頭を上げて下さい。私はこの国の為にお役に立つなら、ぜひ協力させて頂きます。その女性も心配ですし」
 ヴェンデルガルトは笑顔を浮かべて、ビルギットとロルフを振り返った。
「行きましょう。ロルフ、カリーナのお土産は買ってきてくれた?」
「ええ、勿論です」

 なるべく人の目に入らないように気を付けながらエルマーに続いて、ヴェンデルガルトはビルギットとロルフを連れて医務室に向かった。
「あ、ヴェンデルガルト様!」
 医務室の前に立つ騎士に頭を下げてから部屋に入ったヴェンデルガルトを、カリーナは眠そうな目ですぐに見つけた。
「まあ、カリーナ寝てないの?」
 それに気付いたのは、ビルギットだ。心配そうに、カリーナに駆け寄った。
「このお方が何時目覚めても大丈夫なように……起きてました。でも、余程お疲れの様か起きる様子がないですね」
 ごしごしと目を擦りながら、カリーナはそう言うと小さく欠伸をした。
「私たちがいるから、少し寝て? カリーナまで調子が悪くなると、心配だわ」
 ベッドで寝ている少女は、まだ起きる様子がない。その隣のベッドに、ビルギットはカリーナを寝かせた。
「では……お言葉に甘えまして……おやすみなさい」
 カリーナは、本当に眠かったのだろう。言いながらすぐに寝てしまった。その彼女に自分のショールをかけたヴェンデルガルトは、困った様にエルマーを見た。

「カリーナ一人では、お世話は大変だと思うのです。他に、信頼出来るメイドはいないのでしょうか?」
「……お恥ずかしい事です。ジークハルト様から説明があると思いますが、今我が国は……誰が味方で誰が敵なのか、分からない状態なのです。本当に信頼出来る者は、皇帝や皇族の傍にいます。足りないのです……」
 その言葉は、二百年前に滅びたバッハシュタイン王国を彷彿とさせた。今度は、自分が起きている時に謀反が起きる。王国を滅ぼした皇国が、誰かにまた攻められる――南の国で起きたような、あの恐ろしい戦争が始まる。そう考えると、ヴェンデルガルトは身を震わせた。

「分かりました、出来る限り私も手伝います。ビルギットも――」
「勿論です、ヴェンデルガルト様。私は何時でも、ヴェンデルガルト様の為に頑張ります」
「感謝します――本当に、あなたは女神です」
 エルマーは片膝をついて、ヴェンデルガルトに頭を下げた。
「この子の身元は、分かったの?」
「失礼――ヴェンデルガルト嬢、おはよう。すまない、まだ治りきっていない君に頼みごとをして」
 ノックと共に、ジークハルトとランドルフが入って来た。
「おはよう、ヴェンデル。身体はどうだ?」
「おはようございます、ジークハルト様、ランドルフ様。私の体調は、問題ないので気にしないでください。出来る限り、お手伝いさせて頂きますね」
「感謝する――彼女は、カンナビヒ子爵の二女のクラーラだ。ラムブレヒト公爵邸で社交界の勉強をする為預けた、という事らしい。沢山の令嬢にお教えできないから内密に、と言われていたそうだ」
「……なんてひどい事を」
 ランドルフがヴェンデルガルトの横に座ると、優しく彼女の肩を抱いた。ヴェンデルガルトの顔が、青くなり倒れないか心配したのだ。
「他に何人いるか、身元が分かるか――彼女から聞き出したい。下手に踏み込んで、地下牢にいる彼女たちの身に危険があったら、助けられない」
 誘拐された令嬢たちを心配しているジークハルトの言葉に、ヴェンデルガルトはホッとした。助けない、と言われたらどうしようかと悩んでいたのだ。

「しかし――まだ、起きそうにないな」
 少女は、ぐっすりと寝ている。余程疲労していたのだ。
「しばらくは、私はここで過ごします。カリーナ一人では大変ですので……皆様、調べる事など沢山あるのではないですか? どうぞ、この子は私にお任せください」
 しっかりとした声音で、ヴェンデルガルトはジークハルトとランドルフにそう言った。確かに、ラムブレヒト公爵と娘であるフロレンツィアの事で調べる事は沢山あった。

「助かるよ。兄貴、ヴェンデルに任せよう、早めに行動しねぇと先に向こうが行動するかもしれねぇ。今は、ヴェンデルに助けて貰おう」
 ランドルフはヴェンデルガルトの頭を撫でると、兄に視線を向けた。ビルギットも傍にいるし、ロルフが必ず傍にいる。国を立て直すためにも、ラムブレヒト公爵をしっかり調べて処分しなければならない。
「分かった。だが、何かあれば必ず薔薇騎士団に報告してくれ――君の事は、本当にみんなが大事に思っている。無理をしないでくれ」
 ジークハルトの言葉に、ランドルフも同意と言うように頷いた。
「はい。どうぞ、この国をお守りください」
 ヴェンデルガルトは、優しく微笑んだ。

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