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陰謀
調査
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「すまない、花を見てもいいかな? 婚約者が花を見たいというので」
イザークが店主にそう声をかけると、つばの広い麦わら帽子を被った女店主は愛想よく笑顔を浮かべて振り返った。
「勿論です。今日は花を沢山仕入れたので、婚約者様のお気に召す花が見つかるといいのですが」
未亡人と聞いていたが、確かに妙な色気があり男に人気がありそうだ。現に、花屋を訪れているのは男が多い。イザークは馬から降りて、ビルギットが降りるのを助ける。馬から降りたビルギットは、イザークに身を寄せてニコニコと笑っていた。
「失礼ながら小さな店だと思いましたが、種類が多いですね」
そのビルギットの肩を抱いて、イザークは普段とは違い愛想よく店主に話しかけた。
「ええ、仕入れもしていますが温室も持っているのでそこでも育てているんです。今は人に貸しているので、これでも少ない方なんですよ」
「温室を、貸しているのですか?」
笑顔のイザークだが、その言葉が気になったようだ。しかし女店主は「しまった、内緒なんですぅ」と困った顔をして頭を下げる。
「いえいえ、お気になさらずに。今日は彼女の誕生日なんですよ、彼女に似合う花を選んで下さりませんか?」
「ええ、喜んで! お誕生日にお花を送って下さるなんて、素敵な婚約者様ですね。貴族のお方、ですよね?」
ふと、女店主が値踏みをするようにイザークを眺めた。
「ええ、男爵家の気楽な次男です。小さな頃から剣術を学んできましたが、薔薇騎士団に入る事が出来ず皇兵として働いています。ですが剣の腕を認めてくれるような、どこかの国の騎士団に入ろうかと悩んでいる所なんです」
「まあまあ、それは大変ですね。西は植民地ばかりですし、東か南に行くしかないですね――あの、よろしければいいお話があるんです」
来た。イザークは、内心笑みを深めた。
「功績によっては領地を下さる様な、素晴らしい兵を探しているお方がいるんです。私は参加しませんが、詳しい話が聞けるお茶会が来週あります。行ってみますか?」
「それは素晴らしい! 私が行ってもよろしいのですか?」
「ええ、小さな頃から剣術を学んでいらしたのならきっと歓迎されますわ。私の紹介――ああ、失礼しました。私はペトラ・バーデンと申します。私からのこの招待状を持って、東の伯爵家に行って下さい。詳しい話は、そこで聞けます」
ペトラは一度店の中に入ると、蝋封された手紙を取り出した。上質な紙だ。それを受け取ると、ペトラはビルギットに向かった。
「好きな色やお花はありますか? それに合わせて作りますよ」
パトロンの手伝いもするが、自分の仕事にも熱心なようだ。ビルギットは「桃色が好きです」と、ヴェンデルガルトの好みを口にした。
作って貰った花束を手に馬に乗ると、手を振り店を出て城の裏口まで戻って来た。
「無事、お役に立てたでしょうか?」
馬から降りたビルギットは、イザークに少し心配そうに尋ねた。そんな彼女に、イザークは頷く。
「ああ、上出来だよ。感謝する――新たな情報も手に入れたし、ジークハルトにいい報告が出来そうだ。ヴェーの元に戻っていいよ」
「あの、このお洋服と花は?」
馬で何処かに行こうとするイザークに、ビルギットは声をかけた。
「花は、ヴェーに。君もそのつもりなんだろ? 君からのプレゼントとして、ヴェーに渡してくれればいい。服は、お駄賃だよ。好きに使ってくれ」
「有難うございます」
ビルギットは丁寧にお辞儀をした。「では」と、イザークはそのまま馬で走り去っていった。
ヴェンデルガルトが好きな花が詰め込まれた花束――落ち込んでいる彼女の慰めになるだろうか。
ビルギットは少しでも彼女の為になるように、急いでヴェンデルガルトの部屋に向かった。
「まあ!」
ノックして部屋に入ると、ヴェンデルガルトは起きていて洋服姿のビルギットを見て嬉しそうな声を上げた。
「お帰りなさい」
カリーナが笑いかけて、ロルフは頭を下げてランドルフは軽く手を振った。
「その服、とても素敵ね! でも、ドレスの色はビルギットの瞳と同じの青色が良かったわ。イザーク様に注意しておかないと」
青色は、イザークの色だ。イザークを不憫に思いながらも、ビルギットは手にしていた桃色の花で溢れた花束を、ヴェンデルガルトに差し出した。
「私から、ヴェンデルガルト様に。よく頑張ってお薬を飲んでいる、ご褒美ですよ」
渡された花を見て、ヴェンデルガルトは驚いた顔から満面の笑みを浮かべた。カリーナもロルフも、ランドルフも思わず和んでしまうような可愛らしい久しぶりのヴェンデルガルトの笑顔だった。
「有難う! 薬は、あと少しよね。頑張って飲みきるわ!」
「いい事だ――では、俺は仕事に戻る。ビルギット、イザークの手伝い有難うな」
ランドルフは立ち上がるとビルギットに礼を言って、ベッドの上に座っているヴェンデルガルトの頭を優しく撫でた。
「早く良くなれ。秋には、少し遠くまで花見に行こう」
「まあ、嬉しい。約束ですよ、ランドルフ様」
ヴェンデルガルトは微笑んで、部屋を出て行く彼を見送った。
イザークが店主にそう声をかけると、つばの広い麦わら帽子を被った女店主は愛想よく笑顔を浮かべて振り返った。
「勿論です。今日は花を沢山仕入れたので、婚約者様のお気に召す花が見つかるといいのですが」
未亡人と聞いていたが、確かに妙な色気があり男に人気がありそうだ。現に、花屋を訪れているのは男が多い。イザークは馬から降りて、ビルギットが降りるのを助ける。馬から降りたビルギットは、イザークに身を寄せてニコニコと笑っていた。
「失礼ながら小さな店だと思いましたが、種類が多いですね」
そのビルギットの肩を抱いて、イザークは普段とは違い愛想よく店主に話しかけた。
「ええ、仕入れもしていますが温室も持っているのでそこでも育てているんです。今は人に貸しているので、これでも少ない方なんですよ」
「温室を、貸しているのですか?」
笑顔のイザークだが、その言葉が気になったようだ。しかし女店主は「しまった、内緒なんですぅ」と困った顔をして頭を下げる。
「いえいえ、お気になさらずに。今日は彼女の誕生日なんですよ、彼女に似合う花を選んで下さりませんか?」
「ええ、喜んで! お誕生日にお花を送って下さるなんて、素敵な婚約者様ですね。貴族のお方、ですよね?」
ふと、女店主が値踏みをするようにイザークを眺めた。
「ええ、男爵家の気楽な次男です。小さな頃から剣術を学んできましたが、薔薇騎士団に入る事が出来ず皇兵として働いています。ですが剣の腕を認めてくれるような、どこかの国の騎士団に入ろうかと悩んでいる所なんです」
「まあまあ、それは大変ですね。西は植民地ばかりですし、東か南に行くしかないですね――あの、よろしければいいお話があるんです」
来た。イザークは、内心笑みを深めた。
「功績によっては領地を下さる様な、素晴らしい兵を探しているお方がいるんです。私は参加しませんが、詳しい話が聞けるお茶会が来週あります。行ってみますか?」
「それは素晴らしい! 私が行ってもよろしいのですか?」
「ええ、小さな頃から剣術を学んでいらしたのならきっと歓迎されますわ。私の紹介――ああ、失礼しました。私はペトラ・バーデンと申します。私からのこの招待状を持って、東の伯爵家に行って下さい。詳しい話は、そこで聞けます」
ペトラは一度店の中に入ると、蝋封された手紙を取り出した。上質な紙だ。それを受け取ると、ペトラはビルギットに向かった。
「好きな色やお花はありますか? それに合わせて作りますよ」
パトロンの手伝いもするが、自分の仕事にも熱心なようだ。ビルギットは「桃色が好きです」と、ヴェンデルガルトの好みを口にした。
作って貰った花束を手に馬に乗ると、手を振り店を出て城の裏口まで戻って来た。
「無事、お役に立てたでしょうか?」
馬から降りたビルギットは、イザークに少し心配そうに尋ねた。そんな彼女に、イザークは頷く。
「ああ、上出来だよ。感謝する――新たな情報も手に入れたし、ジークハルトにいい報告が出来そうだ。ヴェーの元に戻っていいよ」
「あの、このお洋服と花は?」
馬で何処かに行こうとするイザークに、ビルギットは声をかけた。
「花は、ヴェーに。君もそのつもりなんだろ? 君からのプレゼントとして、ヴェーに渡してくれればいい。服は、お駄賃だよ。好きに使ってくれ」
「有難うございます」
ビルギットは丁寧にお辞儀をした。「では」と、イザークはそのまま馬で走り去っていった。
ヴェンデルガルトが好きな花が詰め込まれた花束――落ち込んでいる彼女の慰めになるだろうか。
ビルギットは少しでも彼女の為になるように、急いでヴェンデルガルトの部屋に向かった。
「まあ!」
ノックして部屋に入ると、ヴェンデルガルトは起きていて洋服姿のビルギットを見て嬉しそうな声を上げた。
「お帰りなさい」
カリーナが笑いかけて、ロルフは頭を下げてランドルフは軽く手を振った。
「その服、とても素敵ね! でも、ドレスの色はビルギットの瞳と同じの青色が良かったわ。イザーク様に注意しておかないと」
青色は、イザークの色だ。イザークを不憫に思いながらも、ビルギットは手にしていた桃色の花で溢れた花束を、ヴェンデルガルトに差し出した。
「私から、ヴェンデルガルト様に。よく頑張ってお薬を飲んでいる、ご褒美ですよ」
渡された花を見て、ヴェンデルガルトは驚いた顔から満面の笑みを浮かべた。カリーナもロルフも、ランドルフも思わず和んでしまうような可愛らしい久しぶりのヴェンデルガルトの笑顔だった。
「有難う! 薬は、あと少しよね。頑張って飲みきるわ!」
「いい事だ――では、俺は仕事に戻る。ビルギット、イザークの手伝い有難うな」
ランドルフは立ち上がるとビルギットに礼を言って、ベッドの上に座っているヴェンデルガルトの頭を優しく撫でた。
「早く良くなれ。秋には、少し遠くまで花見に行こう」
「まあ、嬉しい。約束ですよ、ランドルフ様」
ヴェンデルガルトは微笑んで、部屋を出て行く彼を見送った。
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