二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
106 / 125
陰謀

調査

しおりを挟む
「すまない、花を見てもいいかな? 婚約者が花を見たいというので」
 イザークが店主にそう声をかけると、つばの広い麦わら帽子を被った女店主は愛想よく笑顔を浮かべて振り返った。
「勿論です。今日は花を沢山仕入れたので、婚約者様のお気に召す花が見つかるといいのですが」
 未亡人と聞いていたが、確かに妙な色気があり男に人気がありそうだ。現に、花屋を訪れているのは男が多い。イザークは馬から降りて、ビルギットが降りるのを助ける。馬から降りたビルギットは、イザークに身を寄せてニコニコと笑っていた。
「失礼ながら小さな店だと思いましたが、種類が多いですね」
 そのビルギットの肩を抱いて、イザークは普段とは違い愛想よく店主に話しかけた。
「ええ、仕入れもしていますが温室も持っているのでそこでも育てているんです。今は人に貸しているので、これでも少ない方なんですよ」
「温室を、貸しているのですか?」
 笑顔のイザークだが、その言葉が気になったようだ。しかし女店主は「しまった、内緒なんですぅ」と困った顔をして頭を下げる。
「いえいえ、お気になさらずに。今日は彼女の誕生日なんですよ、彼女に似合う花を選んで下さりませんか?」
「ええ、喜んで! お誕生日にお花を送って下さるなんて、素敵な婚約者様ですね。貴族のお方、ですよね?」
 ふと、女店主が値踏みをするようにイザークを眺めた。
「ええ、男爵家の気楽な次男です。小さな頃から剣術を学んできましたが、薔薇騎士団に入る事が出来ず皇兵として働いています。ですが剣の腕を認めてくれるような、どこかの国の騎士団に入ろうかと悩んでいる所なんです」
「まあまあ、それは大変ですね。西は植民地ばかりですし、東か南に行くしかないですね――あの、よろしければいいお話があるんです」

 来た。イザークは、内心笑みを深めた。

「功績によっては領地を下さる様な、素晴らしい兵を探しているお方がいるんです。私は参加しませんが、詳しい話が聞けるお茶会が来週あります。行ってみますか?」
「それは素晴らしい! 私が行ってもよろしいのですか?」
「ええ、小さな頃から剣術を学んでいらしたのならきっと歓迎されますわ。私の紹介――ああ、失礼しました。私はペトラ・バーデンと申します。私からのこの招待状を持って、東の伯爵家に行って下さい。詳しい話は、そこで聞けます」
 ペトラは一度店の中に入ると、蝋封された手紙を取り出した。上質な紙だ。それを受け取ると、ペトラはビルギットに向かった。
「好きな色やお花はありますか? それに合わせて作りますよ」
 パトロンの手伝いもするが、自分の仕事にも熱心なようだ。ビルギットは「桃色が好きです」と、ヴェンデルガルトの好みを口にした。


 作って貰った花束を手に馬に乗ると、手を振り店を出て城の裏口まで戻って来た。
「無事、お役に立てたでしょうか?」
 馬から降りたビルギットは、イザークに少し心配そうに尋ねた。そんな彼女に、イザークは頷く。
「ああ、上出来だよ。感謝する――新たな情報も手に入れたし、ジークハルトにいい報告が出来そうだ。ヴェーの元に戻っていいよ」
「あの、このお洋服と花は?」
 馬で何処かに行こうとするイザークに、ビルギットは声をかけた。
「花は、ヴェーに。君もそのつもりなんだろ? 君からのプレゼントとして、ヴェーに渡してくれればいい。服は、お駄賃だよ。好きに使ってくれ」
「有難うございます」
 ビルギットは丁寧にお辞儀をした。「では」と、イザークはそのまま馬で走り去っていった。

 ヴェンデルガルトが好きな花が詰め込まれた花束――落ち込んでいる彼女の慰めになるだろうか。
 ビルギットは少しでも彼女の為になるように、急いでヴェンデルガルトの部屋に向かった。

「まあ!」
 ノックして部屋に入ると、ヴェンデルガルトは起きていて洋服姿のビルギットを見て嬉しそうな声を上げた。
「お帰りなさい」
 カリーナが笑いかけて、ロルフは頭を下げてランドルフは軽く手を振った。
「その服、とても素敵ね! でも、ドレスの色はビルギットの瞳と同じの青色が良かったわ。イザーク様に注意しておかないと」
 青色は、イザークの色だ。イザークを不憫に思いながらも、ビルギットは手にしていた桃色の花で溢れた花束を、ヴェンデルガルトに差し出した。
「私から、ヴェンデルガルト様に。よく頑張ってお薬を飲んでいる、ご褒美ですよ」
 渡された花を見て、ヴェンデルガルトは驚いた顔から満面の笑みを浮かべた。カリーナもロルフも、ランドルフも思わず和んでしまうような可愛らしい久しぶりのヴェンデルガルトの笑顔だった。
「有難う! 薬は、あと少しよね。頑張って飲みきるわ!」
「いい事だ――では、俺は仕事に戻る。ビルギット、イザークの手伝い有難うな」
 ランドルフは立ち上がるとビルギットに礼を言って、ベッドの上に座っているヴェンデルガルトの頭を優しく撫でた。
「早く良くなれ。秋には、少し遠くまで花見に行こう」
「まあ、嬉しい。約束ですよ、ランドルフ様」
 ヴェンデルガルトは微笑んで、部屋を出て行く彼を見送った。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

処理中です...