105 / 125
陰謀
ビルギットとイザーク
しおりを挟む
泣き疲れて寝てしまったヴェンデルガルトをベッドに寝かせると、ビルギットはランドルフの為に新しいお茶を用意する。
「龍の伴侶って、生まれ変わっても同じなのか?」
ヴェンデルガルトを見つめながら、ランドルフはビルギットに訊ねた。ビルギットは新しいカップにいつものお茶を淹れながら首を横に振った。
「分かりません――少なくとも、私は知りません。相手が人間である事があるのも、ヴェンデルガルト様で初めて知りました。でも、ヴェンデルガルト様に嫌な言葉を言った人は分かりました」
「誰だ?」
ビルギットはティーポットをテーブルに置くと、少し怖い顔をした。
「レーヴェニヒ王国の国王、ラファエル様――不思議な能力をお持ちの方です。市場で解毒の薬を下さった方です」
意外な言葉に、ランドルフは不思議そうにビルギットを見た。
「レーヴェニヒ王国の国王が来ているなんて、聞いてないぞ? それに、ビルギット、お前会ったのか? ヴェンデルは、どうやって会ったんだ?」
「あ、それで高価な薬を……」
カリーナが小さく呟いた。ロルフが『王族専用の高価な薬』と言っていたのを思い出したらしい。
「市場で会いました。名を名乗られませんでしたが、東から来た方から絵姿を見せて頂きましたが、間違いなくラファエル様でした。どうやってお会いしたかは分かりません――私と会った時も、突然消えました。誰かの口を借りて『ヴェンデルガルト様には新しい出会いを』と言っていました。もしかしたら、昨夜会いに来たと言われても、もう驚きません」
まるで、魔法使いだ。ランドルフもカリーナも驚いて言葉が出なかった。
そこに、ドアがノックされた。「イザークだ、ビルギットに用事がある」と珍しい事を言っていた。カリーナが開けたドアから中に入ると、ランドルフが居るのを見て「まだ居たんだね、丁度いい」と頷く。手には、洋服らしいものを持っていた。そうして、彼自身はいつもの騎士服ではなく、あまり高価そうではない下級貴族のような服装だった。
「ビルギット、少し調べたい店があるんだ。すまないが、連れの女性の振りをして欲しい。ランドルフは、ビルギットが戻るまでヴェーを護っててよ」
ロルフがいるが、ビルギットはヴェンデルガルトを護る『盾』の魔法が使える。つまり二重の守りがある。昼間にビルギットを連れ出すので、その二重の守りを崩したくなかったのだ。
「よろしいのでしょうか?」
ビルギットは、ランドルフに許可を得る為話しかける。ランドルフは、小さく頷く。
「すまないが、イザークを助けてくれ。戻るまで、俺はヴェンデルを護る」
イザークが調べ物をしている事は、ランドルフも知っている。ビルギットを連れて行くという事は、口が堅い連れが欲しいという事だろう。五人の騎士団たちは、ビルギットのヴェンデルガルトへの忠誠心には驚かされている。それほど彼女は、優秀なメイドだった。
「これに着替えてくれ」
そう言って、手にしていたものをビルギットに渡した。よく見れば、下級貴族の娘らしい洋服だった。
「分かりました」
何故とも聞かず、素直にその服を受け取り隣のヴェンデルガルトの衣裳部屋に入って行った。手早く着替えて、部屋に戻って来た。
「南の花屋に行く。僕と君は婚約中。名前は――面倒だからロルフでいいや。君はデリア。騎士に憧れている男爵家の次男って設定でよろしく」
「かしこまりました」
「じゃあ、ビルギットを借りていくよ。後をよろしく」
頭を下げるビルギットを連れて、イザークは素早く部屋を出て行った。
「どうして、私ではなかったんでしょう」
カリーナが残念そうに言うと、お茶を一口飲んだランドルフが首を竦めた。
「お前だと、探偵ごっこが楽しくてはしゃぎすぎるからだろう。ビルギットは大人しく言いつけを守るからな」
「残念です――傷付いた私の心を慰める為に、ケーキ頂いてもいいですか?」
「はいはい、好きなだけ食べろ――あぁ、ロルフも呼んでやれ」
ランドルフが来るので、ロルフは部屋の前で待機していたのだ。ランドルフは、メイドや護衛の彼の分もケーキを買ってきていた。
「分かりました!」
ケーキを早く食べたいカリーナは、ロルフを呼びにドアを開けた。
ランドルフは、静かに寝ている少し目が赤いヴェンデルガルトを見つめた――新しい恋をしろ。そう言われたという事は、彼女は古龍のものではない。自由に彼女が伴侶を選べるのだ。
南の国で怪我を負いもう死ぬかもしれないと半ば諦めそうになった時――彼女が助けに来てくれた。本当に、神がいると信じた瞬間だった。
そうして、小さくて柔らかな口で水を飲ませてくれた。本当に、自分が生涯をかけて愛するのは彼女しかいないと、改めて心に誓った。だから、傷付いた彼女を支えたいとランドルフは温かな視線で彼女を見ていた。
「この店を調べるんですね」
馬に乗った二人は、南の方にある小さな花屋の前にいた。四十代半ばの、妙に色っぽい店主の女が花を並べていた。
「そうだ。会話をふられた時だけ適当に返事して、後はニコニコしてくれていればいい」
「分かったわ、ロルフ。綺麗な花屋さんね、私花を見たいわ」
すぐ役を演じ始めたビルギットに、イザークはホッとした顔になる。
「分かったよ、寄っていこう」
二人は、花屋へと足を踏み入れた。
「龍の伴侶って、生まれ変わっても同じなのか?」
ヴェンデルガルトを見つめながら、ランドルフはビルギットに訊ねた。ビルギットは新しいカップにいつものお茶を淹れながら首を横に振った。
「分かりません――少なくとも、私は知りません。相手が人間である事があるのも、ヴェンデルガルト様で初めて知りました。でも、ヴェンデルガルト様に嫌な言葉を言った人は分かりました」
「誰だ?」
ビルギットはティーポットをテーブルに置くと、少し怖い顔をした。
「レーヴェニヒ王国の国王、ラファエル様――不思議な能力をお持ちの方です。市場で解毒の薬を下さった方です」
意外な言葉に、ランドルフは不思議そうにビルギットを見た。
「レーヴェニヒ王国の国王が来ているなんて、聞いてないぞ? それに、ビルギット、お前会ったのか? ヴェンデルは、どうやって会ったんだ?」
「あ、それで高価な薬を……」
カリーナが小さく呟いた。ロルフが『王族専用の高価な薬』と言っていたのを思い出したらしい。
「市場で会いました。名を名乗られませんでしたが、東から来た方から絵姿を見せて頂きましたが、間違いなくラファエル様でした。どうやってお会いしたかは分かりません――私と会った時も、突然消えました。誰かの口を借りて『ヴェンデルガルト様には新しい出会いを』と言っていました。もしかしたら、昨夜会いに来たと言われても、もう驚きません」
まるで、魔法使いだ。ランドルフもカリーナも驚いて言葉が出なかった。
そこに、ドアがノックされた。「イザークだ、ビルギットに用事がある」と珍しい事を言っていた。カリーナが開けたドアから中に入ると、ランドルフが居るのを見て「まだ居たんだね、丁度いい」と頷く。手には、洋服らしいものを持っていた。そうして、彼自身はいつもの騎士服ではなく、あまり高価そうではない下級貴族のような服装だった。
「ビルギット、少し調べたい店があるんだ。すまないが、連れの女性の振りをして欲しい。ランドルフは、ビルギットが戻るまでヴェーを護っててよ」
ロルフがいるが、ビルギットはヴェンデルガルトを護る『盾』の魔法が使える。つまり二重の守りがある。昼間にビルギットを連れ出すので、その二重の守りを崩したくなかったのだ。
「よろしいのでしょうか?」
ビルギットは、ランドルフに許可を得る為話しかける。ランドルフは、小さく頷く。
「すまないが、イザークを助けてくれ。戻るまで、俺はヴェンデルを護る」
イザークが調べ物をしている事は、ランドルフも知っている。ビルギットを連れて行くという事は、口が堅い連れが欲しいという事だろう。五人の騎士団たちは、ビルギットのヴェンデルガルトへの忠誠心には驚かされている。それほど彼女は、優秀なメイドだった。
「これに着替えてくれ」
そう言って、手にしていたものをビルギットに渡した。よく見れば、下級貴族の娘らしい洋服だった。
「分かりました」
何故とも聞かず、素直にその服を受け取り隣のヴェンデルガルトの衣裳部屋に入って行った。手早く着替えて、部屋に戻って来た。
「南の花屋に行く。僕と君は婚約中。名前は――面倒だからロルフでいいや。君はデリア。騎士に憧れている男爵家の次男って設定でよろしく」
「かしこまりました」
「じゃあ、ビルギットを借りていくよ。後をよろしく」
頭を下げるビルギットを連れて、イザークは素早く部屋を出て行った。
「どうして、私ではなかったんでしょう」
カリーナが残念そうに言うと、お茶を一口飲んだランドルフが首を竦めた。
「お前だと、探偵ごっこが楽しくてはしゃぎすぎるからだろう。ビルギットは大人しく言いつけを守るからな」
「残念です――傷付いた私の心を慰める為に、ケーキ頂いてもいいですか?」
「はいはい、好きなだけ食べろ――あぁ、ロルフも呼んでやれ」
ランドルフが来るので、ロルフは部屋の前で待機していたのだ。ランドルフは、メイドや護衛の彼の分もケーキを買ってきていた。
「分かりました!」
ケーキを早く食べたいカリーナは、ロルフを呼びにドアを開けた。
ランドルフは、静かに寝ている少し目が赤いヴェンデルガルトを見つめた――新しい恋をしろ。そう言われたという事は、彼女は古龍のものではない。自由に彼女が伴侶を選べるのだ。
南の国で怪我を負いもう死ぬかもしれないと半ば諦めそうになった時――彼女が助けに来てくれた。本当に、神がいると信じた瞬間だった。
そうして、小さくて柔らかな口で水を飲ませてくれた。本当に、自分が生涯をかけて愛するのは彼女しかいないと、改めて心に誓った。だから、傷付いた彼女を支えたいとランドルフは温かな視線で彼女を見ていた。
「この店を調べるんですね」
馬に乗った二人は、南の方にある小さな花屋の前にいた。四十代半ばの、妙に色っぽい店主の女が花を並べていた。
「そうだ。会話をふられた時だけ適当に返事して、後はニコニコしてくれていればいい」
「分かったわ、ロルフ。綺麗な花屋さんね、私花を見たいわ」
すぐ役を演じ始めたビルギットに、イザークはホッとした顔になる。
「分かったよ、寄っていこう」
二人は、花屋へと足を踏み入れた。
0
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる