【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜

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陰謀

一人にはさせない

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 ランドルフは、今日の仕事は忙しくないのでゆっくりヴェンデルガルトとの時間を作ろうと、花束とお菓子を持って彼女の部屋を訪れた。ジークハルトとイザークは忙しいようで、代わりにと花束を預かっていた。彼女の部屋は、ほぼ毎日誰かが花束を送っているので花で溢れていた。
「こんにちは、ランドルフ様」
 カリーナがドアを開けると、沢山の花を抱えたランドルフが現れた。
「俺と、ジークハルトと、イザークからだ」
 ビルギットとカリーナが、その花束を預かる――皆、自分の色の薔薇を選んでいるのがおかしくてメイド二人は笑みを零した。
「ランドルフ様、こんにちは」
 ヴェンデルガルトは、何処かほっとしたような笑みを浮かべた。
「ランドルフ様」
 こそっと、カリーナがランドルフに囁く。
「本日、何故かヴェンデルガルト様は元気がありません。出来れば、楽しいお話をお願いします」
 その言葉に少し驚いた顔をしたランドルフだったが、すぐに笑顔になってヴェンデルガルトが座るテーブルに向かった。
「よう、ヴェンデル。今日は、珍しい西のお菓子を持って来たぜ。少し食べられるようになったと聞いたから、一緒に食おう」
 ランドルフが開けた箱には、黄色みが強い少し焦げ目がついたケーキが入っていた。
「ラルラっていう羊の乳を発酵させたものを混ぜて焼いたケーキみたいなものだ。普通のケーキより濃厚だけど、甘すぎないから美味しいぜ? バウンド・ガ―って言うケーキだ」
 ラルラ、と聞いてヴェンデルガルトの瞳から涙が一筋流れた。
「え、あ、どうした!? ラルラは嫌いだったか!?」
 慌てたランドルフは、ジャケットのポケットからハンカチを取り出してヴェンデルガルトの涙を拭った。しかしヴェンデルガルトは笑顔を浮かべてランドルフを見上げた。
「いいえ、懐かしくて――ラルラ、大好きなんです。食べましょう。ランドルフ様も、珍しい東のお茶はいかがですか?」
「へえ、でもそれはヴェンデルの薬なんじゃねぇのか?」
 ヴェンデルガルトの涙は悲しみだった訳ではないので、ランドルフは安心した顔になる。椅子に腰を下ろして、ビルギットとカリーナが用意するお茶を不思議そうに眺めた。そんな彼に、ビルギットは茶葉の説明をする。
「アヴァッケラーとコラーレね。初めて飲む気がする。楽しみだな」
 淹れられたお茶が入ったカップが前に置かれると、濃い緑のお茶を不思議そうに眺めた。その様子を、ヴェンデルガルトを始めメイド二人が楽しそうに微笑む。
「いつものお茶より、低めの温度なんだな――うん、青臭そうなイメージがあったけど美味いな」
 お茶を飲んだランドルフは、素直な感想を言った。てっきり薬のようなお茶だと思っていたので、その甘さに驚いたようだ。ケーキも、ヴェンデルガルトは一切れを全部食べれた。それをカリーナは喜び、ビルギットも安心した顔になる。

「薔薇騎士団の皆様には、本当にお世話になっています――私なんて、治癒魔法が使えるだけの何の役にも立たない二百年前の人間なのに」
 ふと、ヴェンデルガルトが沈んだ顔でそう言った。ランドルフのカップを持つ手が、ぴたりと止まった。
「何を言っている――誰かに何かを言われたのか?」
 ヴェンデルガルトは、自分を卑屈に言う人ではなかった。それに違和感を覚えて、ランドルフはヴェンデルガルトの様子が気になった。彼女に会えるのは、メイドの二人と護衛のラルフ、五人の薔薇騎士団だけだ。絶対に彼女を否定する人物はいない筈だ。
「要らないんです――私なんて、眠ったままこの世から忘れられれば良かったんです――どうして、私は生きているの……? 二百年前に、私は死ねば良かったのに」
 再び涙を零すと、ヴェンデルガルトは両手で顔を覆って嗚咽を漏らした。メイド二人が、驚いた顔になる。朝から元気がないと思っていたが、こんな事を言うほど思い詰めているとは思っていなかった。
「ヴェンデル」
 ランドルフは立ち上がって、彼女の傍に行き片膝をついて下から彼女を見上げた。
「誰に何を言われたか知らねぇが……ビルギットも死んだ方がいいと思っているのか?」
「そんな……! ビルギットが死ぬなんて嫌です!」
 その言葉に、ヴェンデルガルトは驚いたような声を上げて顔から手を離した。その涙に濡れた手を取ると、ランドルフはゆっくりと言葉を続けた。
「俺達は、お前が治癒魔法を使えなくてもきっとお前に恋をしていた。お前だから、恋をした。お前に存在価値がない訳がねぇ。お前は一人じゃない。俺たちが、お前を一人にはさせねぇから――だから、俺たちを信じろ。お前はここにいればいい、愛しているヴェンデルガルト」
 ランドルフの真っ直ぐな言葉に、ヴェンデルガルトは腕を伸ばしてランドルフに抱き着いた。ランドルフは優しく彼女を抱き締めると、泣き疲れて眠るまで彼女の背中を優しく撫でていた。
 ビルギットはその姿を見ていて――あの男がヴェンデルガルトに何かを言った事に気が付いていた。

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