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南の国の戦
懐かしい国への帰路
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ずっと一緒に岐路に向かっていたが、レーヴェニヒ王国の兵と別れる道に辿り着いた。
「この度は、本当に有難うございました。アンドレアス皇帝を始め、残りの薔薇騎士団長様にも、よろしくお伝えください」
コンラート大将軍が、馬から降りてジークハルト、カール、イザーク、ヴェンデルガルトに深々と頭を下げた。
「こちらこそ、レーヴェニヒ王国には大変お世話になりました。ラファエル王は、俺と同じくらいの年だと聞いています。この様な立派な軍をお持ちという事は、王として素晴らしい才をお持ちかと思います。いつかゆっくりお話が出来るように、願っております」
ジークハルトと共に、皆が頭を下げた。するとコンラート大将軍とバルタザール大将軍補佐は、ヴェンデルガルトの前に片膝をついて彼女の手を取った。
「ヴェンデルガルト様。我が国は、あなたをいつでも歓迎しております。我が国は、あなたの味方でございます。また――ヴェンデルガルト様にお会いできる時を心待ちにしております」
コンラート大将軍とバルタザール大将軍補佐は、交代にその手の甲に唇を触れさせた。
「沢山お力を貸していただきました――ラファエル王と、龍たちによろしくお伝えください。それと……アロイス王子を、どうかよろしくお願いします」
コンラート大将軍の言葉の意味が分からない三人の薔薇騎士団団長が不思議そうな顔をする中、ヴェンデルガルトは笑みを浮かべて頷いた。
「それでは、レーヴェニヒ王国へ戻ります! 皆様お元気で!」
再び馬に乗ったコンラート大将軍がそう大きな声で言うと、レーヴェニヒ王国の兵たちは「ヴェンデルガルト様に幸運を」「ヴェンデルガルト様万歳」と去って行った。バルシュミーデ皇国の騎士団たちは、何故レーヴェニヒ王国がヴェンデルガルトを称えているのか分からなかった。
「詳しいお話は、皆さんが集まった時にお話します」
と、ヴェンデルガルトはすまなそうにジークハルト達に頭を下げた。イザークは不満そうだったが、ヴェンデルガルトの言葉には逆らわない。とにかく、バルシュミーデ皇国へ戻る事を優先した。
「ヴェンデル、ずっと馬車に乗っていて腰が痛くならない?」
カールが、馬車に乗ろうとしたヴェンデルガルトに話しかけた。ヴェンデルガルトは、申し訳なさそうに小さく笑った。
「そうですね、少し身体が痛いです」
「なら、次の休憩まで俺の前に乗らないかい? 今日は晴れていて、風景を見るだけでも気がまぎれると思うよ」
「よろしいのですか?」
ヴェンデルガルトの顔が、嬉しそうに輝いた。それに真っ先に嚙みついたのはイザークだ。
「カールずるいよ! ヴェー、僕の所においでよ、ゆっくり走らせるから!」
「誘ったのは俺だよ、イザークには譲らない」
カールはイザークに舌を出してそう言うと、自分の馬にヴェンデルガルトを支えて乗せてやる。馬は暴れることなく、ヴェンデルガルトを歓迎する様に穏やかな顔になった。
「喧嘩するな。次の休憩で、代わればいいだろう」
呆れたようにジークハルトは言うが、出来る事なら自分もヴェンデルガルトを乗せて走りたかった。
「では、引き続き北へ!」
ジークハルトの声が合図で、一行は再びバルシュミーデ皇国へと向かい動き出した。
次第に、南の国の暑さが薄れてきた。馬や馬車が走る道も、細かな砂から大きな砂道に変わって来た。まるで長い夢を見ていたような、激動の南の国の滞在だった。だが、忘れられない出逢いの数々だった。ヴェンデルガルトは、南の国の出来事を忘れずに、いつまでも大切に想って胸に留めていようと思った。自分を愛してくれた、同じ赤い瞳の男。二人を失って、ヴェンデルガルトは恋をするのを躊躇いはじめながら。
カールとイザークの馬に載せて貰い、はしゃいだのと長い旅の疲れでヴェンデルガルトは少し疲れたようだ。薪を囲んで夕食を取り、のんびりとしていた時隣に座るジークハルトの肩に頭を乗せて、眠ってしまった。
ジークハルトは、ヴェンデルガルトが辛い時傍にいた。それが、ヴェンデルガルトに安心を与えているのかもしれない。南の国の服は、いくら夏が近いとは言え北の国のバルシュミーデ皇国がある北の朝晩には少し肌寒いかもしれない。温もりを求める様にジークハルトに寄り添って眠っている。
「アロイス王子が刺されなかったら、ヴェーは南の国に残ったのかな?」
その寝顔を見ながら、イザークが切なそうに呟いた。カールは何も言えず、黙り込んでいる。
「それをヴェンデルガルト嬢が望んだら、俺達は叶えるべきだろう。だが、彼女は国に帰る事を選んだ。今まで通り、彼女に接してくれ」
カールが、眠るヴェンデルガルトにマントをかけてやる。眠るヴェンデルガルトが、小さく微笑んだような気がした。
「この度は、本当に有難うございました。アンドレアス皇帝を始め、残りの薔薇騎士団長様にも、よろしくお伝えください」
コンラート大将軍が、馬から降りてジークハルト、カール、イザーク、ヴェンデルガルトに深々と頭を下げた。
「こちらこそ、レーヴェニヒ王国には大変お世話になりました。ラファエル王は、俺と同じくらいの年だと聞いています。この様な立派な軍をお持ちという事は、王として素晴らしい才をお持ちかと思います。いつかゆっくりお話が出来るように、願っております」
ジークハルトと共に、皆が頭を下げた。するとコンラート大将軍とバルタザール大将軍補佐は、ヴェンデルガルトの前に片膝をついて彼女の手を取った。
「ヴェンデルガルト様。我が国は、あなたをいつでも歓迎しております。我が国は、あなたの味方でございます。また――ヴェンデルガルト様にお会いできる時を心待ちにしております」
コンラート大将軍とバルタザール大将軍補佐は、交代にその手の甲に唇を触れさせた。
「沢山お力を貸していただきました――ラファエル王と、龍たちによろしくお伝えください。それと……アロイス王子を、どうかよろしくお願いします」
コンラート大将軍の言葉の意味が分からない三人の薔薇騎士団団長が不思議そうな顔をする中、ヴェンデルガルトは笑みを浮かべて頷いた。
「それでは、レーヴェニヒ王国へ戻ります! 皆様お元気で!」
再び馬に乗ったコンラート大将軍がそう大きな声で言うと、レーヴェニヒ王国の兵たちは「ヴェンデルガルト様に幸運を」「ヴェンデルガルト様万歳」と去って行った。バルシュミーデ皇国の騎士団たちは、何故レーヴェニヒ王国がヴェンデルガルトを称えているのか分からなかった。
「詳しいお話は、皆さんが集まった時にお話します」
と、ヴェンデルガルトはすまなそうにジークハルト達に頭を下げた。イザークは不満そうだったが、ヴェンデルガルトの言葉には逆らわない。とにかく、バルシュミーデ皇国へ戻る事を優先した。
「ヴェンデル、ずっと馬車に乗っていて腰が痛くならない?」
カールが、馬車に乗ろうとしたヴェンデルガルトに話しかけた。ヴェンデルガルトは、申し訳なさそうに小さく笑った。
「そうですね、少し身体が痛いです」
「なら、次の休憩まで俺の前に乗らないかい? 今日は晴れていて、風景を見るだけでも気がまぎれると思うよ」
「よろしいのですか?」
ヴェンデルガルトの顔が、嬉しそうに輝いた。それに真っ先に嚙みついたのはイザークだ。
「カールずるいよ! ヴェー、僕の所においでよ、ゆっくり走らせるから!」
「誘ったのは俺だよ、イザークには譲らない」
カールはイザークに舌を出してそう言うと、自分の馬にヴェンデルガルトを支えて乗せてやる。馬は暴れることなく、ヴェンデルガルトを歓迎する様に穏やかな顔になった。
「喧嘩するな。次の休憩で、代わればいいだろう」
呆れたようにジークハルトは言うが、出来る事なら自分もヴェンデルガルトを乗せて走りたかった。
「では、引き続き北へ!」
ジークハルトの声が合図で、一行は再びバルシュミーデ皇国へと向かい動き出した。
次第に、南の国の暑さが薄れてきた。馬や馬車が走る道も、細かな砂から大きな砂道に変わって来た。まるで長い夢を見ていたような、激動の南の国の滞在だった。だが、忘れられない出逢いの数々だった。ヴェンデルガルトは、南の国の出来事を忘れずに、いつまでも大切に想って胸に留めていようと思った。自分を愛してくれた、同じ赤い瞳の男。二人を失って、ヴェンデルガルトは恋をするのを躊躇いはじめながら。
カールとイザークの馬に載せて貰い、はしゃいだのと長い旅の疲れでヴェンデルガルトは少し疲れたようだ。薪を囲んで夕食を取り、のんびりとしていた時隣に座るジークハルトの肩に頭を乗せて、眠ってしまった。
ジークハルトは、ヴェンデルガルトが辛い時傍にいた。それが、ヴェンデルガルトに安心を与えているのかもしれない。南の国の服は、いくら夏が近いとは言え北の国のバルシュミーデ皇国がある北の朝晩には少し肌寒いかもしれない。温もりを求める様にジークハルトに寄り添って眠っている。
「アロイス王子が刺されなかったら、ヴェーは南の国に残ったのかな?」
その寝顔を見ながら、イザークが切なそうに呟いた。カールは何も言えず、黙り込んでいる。
「それをヴェンデルガルト嬢が望んだら、俺達は叶えるべきだろう。だが、彼女は国に帰る事を選んだ。今まで通り、彼女に接してくれ」
カールが、眠るヴェンデルガルトにマントをかけてやる。眠るヴェンデルガルトが、小さく微笑んだような気がした。
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