【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜

文字の大きさ
上 下
84 / 125
南の国の戦

南の国との別れ

しおりを挟む
「怪我をしている方、私が治療します! 小さな傷でも、遠慮なく申し出て下さい!」
 風呂から出たヴェンデルガルトは、すぐに戻って来て待機している兵士や騎士たちにそう声をかけた。同じような臍の出ている南の服で、カールとイザークは真っ赤になってヴェンデルガルトの姿をなかなか見れずにいた。

 アロイスの姿がない事に気が付いているはずなのに、ヴェンデルガルトは何故かを聞かなかった。相変わらず賢い女性だとジークハルトは手当てをしている彼女を見守った。

 怪我人の数は多かったが、ヴェンデルガルトは文句も言わず全ての人を治した。亡くなった人の山には、祈りも捧げた。
「北に帰るまで、七日ほどかかる。我々もそろそろ戻る準備をしよう」
「では、我らと共に途中まで戻りませんか?」
 ジークハルトの言葉に、レーヴェニヒ王国のコンラート大将軍が声をかけた。これだけの軍で戻れば、盗賊や魔獣が出ても安心だろう。バルシュミーデ皇国の騎士団は、これを快く受け入れた。

「ヴェンデルガルト様、本来なら別の形でお会いしたかったです」
 左の大臣のエッカルトが、改めてヴェンデルガルトに挨拶をした。右の大臣のエトヴィンも同じように頭を下げた。
「我らは双子です」
 似た二人に戸惑うヴェンデルガルトに、左右の大臣は笑って説明をした。
「王に話して、改めてお会いするかもしれません。その時は、どうぞよろしくお願いします」
 それは、コンスタンティンの遺言の事だろう。その話を知らないジークハルト達は不思議そうな顔をしたが、ヴェンデルガルトは小さく頷いた。
「ヴェンデルガルト、本当に有難う。コンスタンティン様に名前を頂いた私たちは、あなたの味方です。あなたの為なら、いつでも駆け付けます」
 カサンドラが、腹を気にしながらヴェンデルガルトを抱き締めた。ヴェンデルガルトも、優しく彼女を抱き返した。
「あなたは、元気な子供を産んで下さい。そして、この国を立て直して兵も育てて下さい」
 ヴェンデルガルトの言葉に、カサンドラは頷いた。ヘンライン王国は、これからの問題が山積みだ。それを助けて欲しいと、ヴェンデルガルトは願っていた。
「ええ、勿論です。いずれ私はこの国を出る。その時までに、立派な国に育てます――この子と共に」
 自分の腹を撫で、カサンドラは微笑んだ。
「ツェーザル様にも、よろしくお伝えください。お会いすると、別れるのが辛くなります。ヴェンデルガルトは、ヘンライン王国とバーチュ王国の幸せを祈っています」
「分かりました。本当に有難う、ヴェンデルガルト」
 ヴェンデルガルトは、カサンドラの腹を優しく撫でて幸せを願う祈りを唱えた。腹の温かさは、カサンドラと腹の中の赤ちゃんのものだ。いつか自分も、誰かの子を産むのだろうか。

「ヴェンデルガルト嬢、こちらは用意が出来た」
 ジークハルトがそう声をかけると、ヴェンデルガルトはもう一度カサンドラを抱き締めてから離れた。

「皆様、有難うございました。これから、頑張ってください」
 ヘンライン王国は、ヴェンデルガルトを始めバルシュミーデ皇国とレーヴェニヒ王国の兵士たちに感謝して見送った。
 ヴェンデルガルトは、ジークハルトと二人で馬車に乗った。カールとイザークも一緒に乗ると騒いだが、ジークハルトは話があるから後にしろと二人だけで乗った。

「ヴェンデルガルト嬢」
 暫く二人は黙ったままだったが、最初に口を開いたのはジークハルトだった。
「見知らぬ土地で、一人でよく耐えたな。バルシュミーデ皇国の皆が、君を心配している。ビルギットとカリーナも、君の帰りを待っている」

 ヴェンデルガルトの瞳から、涙が零れた。
 見知らぬ土地でも、アロイスがいたから不安ではなかった。彼に護られて愛されて、ヴェンデルガルトは確かに幸せだった。
「アロイス王子を護れなく――申し訳なかった」
「いいえ――いいえ、これが神の決めた事なのです。ジークハルト様のせいでは……!」
 そこまで言ったヴェンデルガルトを、ジークハルトが優しく抱き締めた。

「ヴェンデルガルト嬢、悲しい時は泣く方がいい。今は、俺と君だけだ。泣きたいだけ、泣くといい。俺が、君の悲しみを受け止める」

「出逢った時に――分かったんだ。俺は、お前に恋をすると。お前に会う為に、俺は生きてきたんだと。だから、お前を護る事は俺の喜びだ」

 コンスタンティンと同じ言葉を言った、アロイス。優しいキスは、彼と同じものだった。また、失ってしまった。心から自分を愛してくれる人を。

「私は……誰も守れず……、ごめんなさい、ジークハルト様……」
 ヴェンデルガルトは、ジークハルトの胸に顔を埋めて沢山涙を零した。コンスタンティンとアロイスを想い、沢山の涙を流した。そうして泣き疲れて眠ってしまった彼女を、休憩の場所に着くまでジークハルトは抱き締めていた。彼女の悲しみを、癒すように。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

処理中です...