【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜

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南の国の戦

あたしが、あなたを

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 三人が宮殿の前に出ると、一部の兵がヘートヴィヒとアロイスが包まれた水の膜を囲んでいた。水に包まれて横たわったままのアロイスは、眠ったままのように見えた。
「アロイス……!」
 ツェーザルは駆け寄るが、その声にも反応しない。ツェーザルはアロイスの顔を見つめてから、傍らの水色の髪の女性に頭を下げた。
「ヘートヴィヒ様、お会い出来て光栄です。バーチュ王国第一王子の、ツェーザルです」
「ごめんなさい、あなたの弟――私の子孫を護る事が出来なくて。でも、アロイスは死んでいない。少しずつ、龍殺しの実の毒が身体から出てきているはずです」
 ヘートヴィヒは、辛そうな顔で水に包まれたアロイスを撫でた。
「でも、どうなるか私は分からない……龍族の子孫が龍殺しの実を身体に受けた事は前例がない――龍であれば、一日で苦しみながら死にます。でも、アロイスは苦しむ様子はなく眠ったまま。いつ目が覚めるのか、もう一度目が覚めるのか……分からない」
 ヘートヴィヒが、力なくそう言った。ヴェンデルガルトも、瞳を閉じたままのアロイスに視線を向けた。少しだけ形が歪んだ、ヴェンデルガルトが織ったアヤーの耳飾りを身につけたアロイス。
「ツェーザル。アロイスをレーヴェニヒ王国へ連れて行ってもいいでしょうか?」
 思いがけない言葉を、ヘートヴィヒが口にした。ツェーザルは、驚いた顔になる。
「他の龍が何か知っているかもしれないし、古い文献を調べます。東の漢方が効くかもしれない――出来る限り、力を尽くします。それに、この魔法を定期的に変えなければならないのです。私が傍にいないと、出来ません」

「――アロイスが生きて再び元に戻れる可能性があるなら……お願いします。王には、あたしから伝えておきます」
 苦しそうに、ツェーザルはそうヘートヴィヒに返事をした。王子は一人死んで、もう自分とアロイスしかいない。アロイスを失う訳にはいかなかった。
「他にも……龍がいるのか」
 ジークハルトが、少し驚いた顔になる。バルシュミーデ皇国では龍の姿を見ていないので、もう絶滅したと思っていたのだ。
「人間の姿になり意思疎通が出来る龍は限られています。ですが、東には龍がまだ多く住んでいます――これ以上は、王の許可なくお話は出来ません」
「いえ、お話下さり有難うございます」
 ジークハルトは、丁寧に頭を下げた。
「これから、アンゲラー王国の領地について話し合いしなければなりません。問題なければ、ヘンライン王国とバーチュ王国で分けるべきでしょう。その様な話し合いも、両国で話し合ってください」
「分かりました。この戦いが終わり、アンゲラー王国が滅んだ事など王に伝えて指示を受けて行動しなければなりません。こちらの準備が整い次第、あたしがヘンライン王国へ向かいます」
 ツェーザルとヘートヴィヒは、これからの事を話しあっている。
「バルシュミーデ皇国としては、今回の本来の目的はヴェンデルガルト嬢を迎えに来たことです。後の事は、お任せします」
 その言葉に、ツェーザルはヴェンデルガルトの立場を思い出した。そうして届けられなかった、ヴェンデルガルトの滞在許可の願いの事も。しかし、彼女に求婚したアロイスは何時目覚めるか分からない――これ以上、彼女をバーチュ王国が留めておくことはできない。
「その話し合いも、アロイスを交えて話したかったのだけど――今回の事で、ヴェンデルガルト様をアロイスが勝手に連れて来た事について謝罪いたします。そうして、彼女がバルシュミーデ皇国に戻れるように……お願いします」
 ツェーザルは、ジークハルトに頭を下げた。ツェーザルは、本来ならヴェンデルガルトにはこのままこの国にいて欲しかった。しかし、そんな我儘を言う程彼は愚かではなかった。

「いえ、彼女が歓迎されて大切に扱われていた事に感謝します。ヘンライン王国を助ける事に手助けも出来ましたし、彼女が許すなら不問にさせて頂きます」
 ヴェンデルガルトを奪還する為の戦いより、ヘンライン王国を助けに向かったと発表する方が反感を買わないだろう。ジークハルトは、ヴェンデルガルトに視線を向けた。

「私は――」

 水に包まれて、眠るアロイスを見つめた。彼とこの国で過ごした日々が、次々と脳裏に浮かぶ。愛を囁かれて、唇に触れた彼の想い。しかし、彼が目覚めるまで待つとは言えなかった。アロイスはレーヴェニヒ王国に向かう。戻るかも分からない、そうすればバーチュ王国にもレーヴェニヒ王国にも、バルシュミーデ皇国にも迷惑がかかる。自分は、バルシュミーデ皇国に戻るしかなかった。

「この国に来て、沢山の事を学びました。感謝します。ツェーザル様やアロイス様と出逢えて――ヴェンデルガルトは幸せでした。有難うございました」
 大粒の涙を零しながら、ヴェンデルガルトは頭を下げた。そんな彼女を、ツェーザルは抱き締めた。

「出来る事なら――あたしが、あなたを連れ去りたかったわ」
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