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南の国の戦
一つの終焉
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「はぁ……、……はぁ……ぁ」
アンゲラー国王子の足元には、兵士の死体が沢山転がっていた。もう残り少なくなった兵士たちは背中を合わせて、自分達を囲む騎士や兵と対峙していた。
王子を囲む兵は、あと数百人だ。切り傷だらけの身体には自分の血と返り血で染まり、薬はまだ効いているのかへらへらと力なく笑っていた。だが呼吸は大きく乱れて、肩で息をしていた。
魔法使いの年老いた男は、レーヴェニヒ王国の兵に馬車から掴み出されて直ぐに首を斬られた。薄くなった金の髪の彼の最後は魔法を唱える事ではなく、命乞いだった。
レーヴェニヒ王国の兵は、数も多かったが何より強かった。バルシュミーデ皇国の知る限り、彼らは大きな戦をした事が無い。もし彼らと戦をする事になれば、自軍に大きな痛手となるだろう。しっかりと統制が取れていて、判断に迷いがない。理想的な兵士たちだった。
アンゲラー王国の残った兵たちもそれぞれ斬られて、最後には王子を捕らえて縄で縛り上げた。舌を噛み自害しないように、口は布でくくられた。
「我々の勝利だー!!」
「我らの勝利!!」
王族と共に、ヴェンデルガルトも下に降りて来た。
辺りに倒れている死体は、殆どがアンゲラー王国のものだ。こちら側にも死亡者はいるが、援軍が来てからはほぼ傷だけで済んでいる。こちら側の死亡者は百人に満たないだろう。
その傷もヴェンデルガルトが上から治していたが、眼下に広がる凄惨な死体が積もる戦の跡に、少し顔色が悪かった。
「こちらは終わりました、王は捕らえましたか?」
『こっちも終わったよ。王と王妃、第一王子と第三王子、第一王女を捕らえた。彼らを連れて、そっちに向かえばいい? 食料とか水とか残り少なくて、それに怪我人が多くてさ』
ヘートヴィヒがイザークに連絡を取ると、イザークがすぐに返事をした。多くの兵はこちらに向かって来ていたので、城の護りは手薄になっていた。バルシュミーデ皇国が後から国を攻めて来るとも思っていなかったようだ。
「分かりました。バーチュ王国から、兵糧がもう少しで届く事になっています。アンゲラー王国の食糧は安全か分からないので、手を着けないでください。城と彼らが育てている毒草を焼いてこちらに来てください」
『了解、すぐに向かう』
「待て」
そこに、アロイスが声を上げた。
「第二王女が居たはずだ。俺より若い――どこに行った?」
その言葉に、捕らえられている第二王子が笑みを浮かべた。
「兄上に! 兄上に連絡を取ってくれ!」
もしかしてバーチュ王国に潜むなら、第二王子のバルドゥルのハーレムかもしれない。色んな所から女を買って、好き勝手にしている。身分を偽り、バーチュ王国で情報を探っていたなら、ハーレムはいい隠れ蓑となった筈だ。ツェーザルもアロイスもハーレムの存在を毛嫌いをしていたので、どんな娘がいるのか把握していない。
「ツェーザル王子、ツェーザル王子?」
カサンドラが、声をかける。しかし、ツェーザルからの応答がない。一同が静かになる。そんな中、布で口を塞がれたアンゲラー王国の第二王子の笑うような不気味な声だけが響いていた。そんな王子の顔を、アロイスは拳で殴った。興奮しているのに、顔色が良くない。不安が、アロイスを包んでいた。
「俺をバーチュ王国に運んでくれ! 頼む!」
アロイスは、ヘートヴィヒに縋る様に叫んだ。ヘートヴィヒとカサンドラは見つめ合い何か心の中で会話したようだった。
「分かりました、行きましょう。もしもの時の為に、ヴェンデルガルトも来ていただけますか?」
「では、俺も行こう。王女一人とは言え、アロイスとヴェンデルガルト嬢だけでは心許ないだろう」
不安そうなヴェンデルガルトの前に、ジークハルトが前に出た。
「感謝する――ジークハルト皇子」
「では行きましょう。バーチュ王国にはレーヴェニヒ王国の五千の兵もいる筈。無謀な事はしないと思うわ」
そう言いながら、ヘートヴィヒは門を出て広い所で龍の姿になった。
「アロイス様、ツェーザル様は無事です! しっかりして下さい!」
青い顔をしているアロイスを、ヴェンデルガルトがそう声をかけて励ました。
「そうだな――俺は兄上を信じるべきだな。有難う、ヴェンデル。行こう」
僅かにぎこちない笑みを浮かべると、三人は水龍の差し出す手に乗った。そうして、落とさないように三人を抱えたヘートヴィヒは薄明るくなってきた空の中飛び立った。
アンゲラー国王子の足元には、兵士の死体が沢山転がっていた。もう残り少なくなった兵士たちは背中を合わせて、自分達を囲む騎士や兵と対峙していた。
王子を囲む兵は、あと数百人だ。切り傷だらけの身体には自分の血と返り血で染まり、薬はまだ効いているのかへらへらと力なく笑っていた。だが呼吸は大きく乱れて、肩で息をしていた。
魔法使いの年老いた男は、レーヴェニヒ王国の兵に馬車から掴み出されて直ぐに首を斬られた。薄くなった金の髪の彼の最後は魔法を唱える事ではなく、命乞いだった。
レーヴェニヒ王国の兵は、数も多かったが何より強かった。バルシュミーデ皇国の知る限り、彼らは大きな戦をした事が無い。もし彼らと戦をする事になれば、自軍に大きな痛手となるだろう。しっかりと統制が取れていて、判断に迷いがない。理想的な兵士たちだった。
アンゲラー王国の残った兵たちもそれぞれ斬られて、最後には王子を捕らえて縄で縛り上げた。舌を噛み自害しないように、口は布でくくられた。
「我々の勝利だー!!」
「我らの勝利!!」
王族と共に、ヴェンデルガルトも下に降りて来た。
辺りに倒れている死体は、殆どがアンゲラー王国のものだ。こちら側にも死亡者はいるが、援軍が来てからはほぼ傷だけで済んでいる。こちら側の死亡者は百人に満たないだろう。
その傷もヴェンデルガルトが上から治していたが、眼下に広がる凄惨な死体が積もる戦の跡に、少し顔色が悪かった。
「こちらは終わりました、王は捕らえましたか?」
『こっちも終わったよ。王と王妃、第一王子と第三王子、第一王女を捕らえた。彼らを連れて、そっちに向かえばいい? 食料とか水とか残り少なくて、それに怪我人が多くてさ』
ヘートヴィヒがイザークに連絡を取ると、イザークがすぐに返事をした。多くの兵はこちらに向かって来ていたので、城の護りは手薄になっていた。バルシュミーデ皇国が後から国を攻めて来るとも思っていなかったようだ。
「分かりました。バーチュ王国から、兵糧がもう少しで届く事になっています。アンゲラー王国の食糧は安全か分からないので、手を着けないでください。城と彼らが育てている毒草を焼いてこちらに来てください」
『了解、すぐに向かう』
「待て」
そこに、アロイスが声を上げた。
「第二王女が居たはずだ。俺より若い――どこに行った?」
その言葉に、捕らえられている第二王子が笑みを浮かべた。
「兄上に! 兄上に連絡を取ってくれ!」
もしかしてバーチュ王国に潜むなら、第二王子のバルドゥルのハーレムかもしれない。色んな所から女を買って、好き勝手にしている。身分を偽り、バーチュ王国で情報を探っていたなら、ハーレムはいい隠れ蓑となった筈だ。ツェーザルもアロイスもハーレムの存在を毛嫌いをしていたので、どんな娘がいるのか把握していない。
「ツェーザル王子、ツェーザル王子?」
カサンドラが、声をかける。しかし、ツェーザルからの応答がない。一同が静かになる。そんな中、布で口を塞がれたアンゲラー王国の第二王子の笑うような不気味な声だけが響いていた。そんな王子の顔を、アロイスは拳で殴った。興奮しているのに、顔色が良くない。不安が、アロイスを包んでいた。
「俺をバーチュ王国に運んでくれ! 頼む!」
アロイスは、ヘートヴィヒに縋る様に叫んだ。ヘートヴィヒとカサンドラは見つめ合い何か心の中で会話したようだった。
「分かりました、行きましょう。もしもの時の為に、ヴェンデルガルトも来ていただけますか?」
「では、俺も行こう。王女一人とは言え、アロイスとヴェンデルガルト嬢だけでは心許ないだろう」
不安そうなヴェンデルガルトの前に、ジークハルトが前に出た。
「感謝する――ジークハルト皇子」
「では行きましょう。バーチュ王国にはレーヴェニヒ王国の五千の兵もいる筈。無謀な事はしないと思うわ」
そう言いながら、ヘートヴィヒは門を出て広い所で龍の姿になった。
「アロイス様、ツェーザル様は無事です! しっかりして下さい!」
青い顔をしているアロイスを、ヴェンデルガルトがそう声をかけて励ました。
「そうだな――俺は兄上を信じるべきだな。有難う、ヴェンデル。行こう」
僅かにぎこちない笑みを浮かべると、三人は水龍の差し出す手に乗った。そうして、落とさないように三人を抱えたヘートヴィヒは薄明るくなってきた空の中飛び立った。
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