57 / 125
南の国の戦
交渉
しおりを挟む
城内は途端に騒がしくなった。メイドや執事、コックたちが忙しく走り回る。レーヴェニヒ王国では神の花とされる、蓮の花を温室から運んできて花瓶に綺麗に活けた。
料理は、こちらの国のメニューを揃える。普段食べる機会がないらしいので、ギルベルトはそう判断した。国王が来たのではないので、皇帝は交渉をジークハルトとギルベルトに任せて部屋に戻った。
「しっかりしろ、ギルベルト!」
指示をしてその様子を見ていたギルベルトに、ジークハルトは声をかけた。ギルベルトは少し疲れた顔をしてその美しさが陰っていた。
「この短期間で、重大な失敗ばかりしています。今回は失敗できません――可哀想に、ヴェンデル……一人で心細いでしょう。私の命を懸けて、アロイス王子から奪い返すべきでした」
「お前が死んで、それでヴェンデルガルト嬢が喜ぶと思っているのか?」
ジークハルトは真っ直ぐに幼馴染の顔を見つめて、静かに尋ねた。ギルベルトは唇を噛んで、小さく首を横に振った。
「間が悪い時が重なったんだ。大丈夫だ、お前は賢い。この交渉、失敗はしない。俺と一緒に頑張ろう」
「分かりました、頑張ります。焦らず、今までの様に……有難うございます、ジークハルト」
覚悟したように小さく頷いてから、ようやくギルベルトはジークハルトに笑いかけた。それを見て、ジークハルトは安心したようだ。彼も小さく笑みを浮かべた。
「失礼いたします。レーヴェニヒ公国からの使者様、ご到着です」
すっかり元気になったランドルフの声が、ドアの向こうから聞こえた。ジークハルトとギルベルトは、背筋を伸ばした。
「ようこそ、バルシュミーデ皇国へ。第一皇子で薔薇騎士団総帥のジークハルト・ロルフ・ゲルルフ・アインホルンです」
「遠い所、ようこそいらして下さいました。宰相の息子であり、白薔薇騎士団団長のギルベルト・ギュンター・アダルベルトでございます」
ドアが開かれると、白い袖の長い上着に裾が広いズボンを身に着けた、よく似た顔立ちの二人の青年が並んでいた。黒髪に、薄い茶色の瞳だ。
「エッカルトと申します。左の大臣です」
白い服の袖に編み込まれた赤いリボンの青年がそう名乗る。
「エトヴィンと申します。右の大臣です」
次いで、青いリボンの青年も名乗る。
「我らが国王ラファエル様から、南の三国で勃発した戦についての我が国の対応及びバルシュミーデ皇国へのお願いについての文をお持ちしました」
「承知いたしました。では先ず、長旅の疲れを少しでも癒して頂きたくお茶とお菓子をお持ちいたします。こちらへ」
必死に料理の準備をしている隣の部屋のテーブルに、ジークハルトは二人の大臣と付き添いの五人の部下達をテーブルに案内した。後十名ほど来たらしいが、謁見の席には参加せず別の部屋で休憩をしている。
「お心遣いありがとうございます。では、遠慮なく頂戴します」
長旅と言っても二国の距離は南の国ほどではないが、それでも少し疲れた顔をしていた。二人の大臣はお茶の言葉に、ホッとした表情を浮かべた。
すぐに、王族付きのメイドたちがお茶とお菓子を用意しに部屋に入って来た。ジークハルトとギルベルトも席について、緊張して震えそうになる手を押さえて笑顔を浮かべた。
「少し休みましょう、ヴェンデルガルト様。お疲れになられたでしょう」
ベルトにそう声をかけられて、ヴェンデルガルトは自分が夢中になって作っていた事に気が付いた。確かに同じような姿勢でいたので、身体が強張って痛んだ。
「簡単そうなのに、難しいのね」
すぐに編み目を間違えたり歪んでしまうので、解いては編み直しという作業を繰り返していた。三個目のものを今手にしているが、やはり少し歪んでしまっている。
「慣れです、ヴェンデルガルト様」
不格好な自分が編んだものを眺めていると、いつの間にかベルトがチャッツを用意していた。手際よく、銀食器に淹れてくれる。お茶菓子は、朝ヴェンデルガルトが気に入ったラルラを練り込んだ蒸しケーキだ。
「アロイス王子は、朝から随分お喜びですよ。ヴェンデルガルト様がお食事を召し上がらなかったらどうしようか、それをずっと心配されていましたから。出来るだけラルラを使った料理を出して欲しいと、料理人に話していらっしゃいました」
「もしかして、昨日私が食事の前に寝ちゃったからかしら?」
「はい。医者はお疲れだから大丈夫です、と申したのですがずっとヴェンデルガルト様の傍にいらっしゃいました。今朝、嬉しそうに食事をされているヴェンデルガルト様の姿に、ようやく安心したようです」
そんな意外なアロイスの話を聞いて、ヴェンデルガルトは少し顔を赤くした。
料理は、こちらの国のメニューを揃える。普段食べる機会がないらしいので、ギルベルトはそう判断した。国王が来たのではないので、皇帝は交渉をジークハルトとギルベルトに任せて部屋に戻った。
「しっかりしろ、ギルベルト!」
指示をしてその様子を見ていたギルベルトに、ジークハルトは声をかけた。ギルベルトは少し疲れた顔をしてその美しさが陰っていた。
「この短期間で、重大な失敗ばかりしています。今回は失敗できません――可哀想に、ヴェンデル……一人で心細いでしょう。私の命を懸けて、アロイス王子から奪い返すべきでした」
「お前が死んで、それでヴェンデルガルト嬢が喜ぶと思っているのか?」
ジークハルトは真っ直ぐに幼馴染の顔を見つめて、静かに尋ねた。ギルベルトは唇を噛んで、小さく首を横に振った。
「間が悪い時が重なったんだ。大丈夫だ、お前は賢い。この交渉、失敗はしない。俺と一緒に頑張ろう」
「分かりました、頑張ります。焦らず、今までの様に……有難うございます、ジークハルト」
覚悟したように小さく頷いてから、ようやくギルベルトはジークハルトに笑いかけた。それを見て、ジークハルトは安心したようだ。彼も小さく笑みを浮かべた。
「失礼いたします。レーヴェニヒ公国からの使者様、ご到着です」
すっかり元気になったランドルフの声が、ドアの向こうから聞こえた。ジークハルトとギルベルトは、背筋を伸ばした。
「ようこそ、バルシュミーデ皇国へ。第一皇子で薔薇騎士団総帥のジークハルト・ロルフ・ゲルルフ・アインホルンです」
「遠い所、ようこそいらして下さいました。宰相の息子であり、白薔薇騎士団団長のギルベルト・ギュンター・アダルベルトでございます」
ドアが開かれると、白い袖の長い上着に裾が広いズボンを身に着けた、よく似た顔立ちの二人の青年が並んでいた。黒髪に、薄い茶色の瞳だ。
「エッカルトと申します。左の大臣です」
白い服の袖に編み込まれた赤いリボンの青年がそう名乗る。
「エトヴィンと申します。右の大臣です」
次いで、青いリボンの青年も名乗る。
「我らが国王ラファエル様から、南の三国で勃発した戦についての我が国の対応及びバルシュミーデ皇国へのお願いについての文をお持ちしました」
「承知いたしました。では先ず、長旅の疲れを少しでも癒して頂きたくお茶とお菓子をお持ちいたします。こちらへ」
必死に料理の準備をしている隣の部屋のテーブルに、ジークハルトは二人の大臣と付き添いの五人の部下達をテーブルに案内した。後十名ほど来たらしいが、謁見の席には参加せず別の部屋で休憩をしている。
「お心遣いありがとうございます。では、遠慮なく頂戴します」
長旅と言っても二国の距離は南の国ほどではないが、それでも少し疲れた顔をしていた。二人の大臣はお茶の言葉に、ホッとした表情を浮かべた。
すぐに、王族付きのメイドたちがお茶とお菓子を用意しに部屋に入って来た。ジークハルトとギルベルトも席について、緊張して震えそうになる手を押さえて笑顔を浮かべた。
「少し休みましょう、ヴェンデルガルト様。お疲れになられたでしょう」
ベルトにそう声をかけられて、ヴェンデルガルトは自分が夢中になって作っていた事に気が付いた。確かに同じような姿勢でいたので、身体が強張って痛んだ。
「簡単そうなのに、難しいのね」
すぐに編み目を間違えたり歪んでしまうので、解いては編み直しという作業を繰り返していた。三個目のものを今手にしているが、やはり少し歪んでしまっている。
「慣れです、ヴェンデルガルト様」
不格好な自分が編んだものを眺めていると、いつの間にかベルトがチャッツを用意していた。手際よく、銀食器に淹れてくれる。お茶菓子は、朝ヴェンデルガルトが気に入ったラルラを練り込んだ蒸しケーキだ。
「アロイス王子は、朝から随分お喜びですよ。ヴェンデルガルト様がお食事を召し上がらなかったらどうしようか、それをずっと心配されていましたから。出来るだけラルラを使った料理を出して欲しいと、料理人に話していらっしゃいました」
「もしかして、昨日私が食事の前に寝ちゃったからかしら?」
「はい。医者はお疲れだから大丈夫です、と申したのですがずっとヴェンデルガルト様の傍にいらっしゃいました。今朝、嬉しそうに食事をされているヴェンデルガルト様の姿に、ようやく安心したようです」
そんな意外なアロイスの話を聞いて、ヴェンデルガルトは少し顔を赤くした。
1
お気に入りに追加
947
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ騎士団の光の聖女ですが、彼らの心の闇は照らせますか?〜メリバエンド確定の乙女ゲーに転生したので全力でスキル上げて生存目指します〜
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
恋愛
攻略キャラが二人ともヤンデレな乙女ーゲームに転生してしまったルナ。
「……お前も俺を捨てるのか? 行かないでくれ……」
黒騎士ヴィクターは、孤児で修道院で育ち、その修道院も魔族に滅ぼされた過去を持つ闇ヤンデレ。
「ほんと君は危機感ないんだから。閉じ込めておかなきゃ駄目かな?」
大魔導師リロイは、魔法学園主席の天才だが、自分の作った毒薬が事件に使われてしまい、責任を問われ投獄された暗黒微笑ヤンデレである。
ゲームの結末は、黒騎士ヴィクターと魔導師リロイどちらと結ばれても、戦争に負け命を落とすか心中するか。
メリーバッドエンドでエモいと思っていたが、どっちと結ばれても死んでしまう自分の運命に焦るルナ。
唯一生き残る方法はただ一つ。
二人の好感度をMAXにした上で自分のステータスをMAXにする、『大戦争を勝ちに導く光の聖女』として君臨する、激ムズのトゥルーエンドのみ。
ヤンデレだらけのメリバ乙女ゲーで生存するために奔走する!?
ヤンデレ溺愛三角関係ラブストーリー!
※短編です!好評でしたら長編も書きますので応援お願いします♫
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜
松浦どれみ
恋愛
【読んで笑って! 詰め込みまくりのラブコメディ!】
(ああ、なんて素敵なのかしら! まさかリアム様があんなに逞しくなっているだなんて、反則だわ! そりゃ触るわよ。モロ好みなんだから!)『本編より抜粋』
※カクヨムでも公開中ですが、若干お直しして移植しています!
【あらすじ】
架空の国、ジュエリトス王国。
人々は大なり小なり魔力を持つものが多く、魔法が身近な存在だった。
国内の辺境に領地を持つ伯爵家令嬢のオリビアはカフェの経営などで手腕を発揮していた。
そして、貴族の令息令嬢の大規模お見合い会場となっている「貴族学院」入学を二ヶ月後に控えていたある日、彼女の元に公爵家の次男リアムとの婚約話が舞い込む。
数年ぶりに再会したリアムは、王子様系イケメンとして令嬢たちに大人気だった頃とは別人で、オリビア好みの筋肉ムキムキのゴリマッチョになっていた!
仮の婚約者としてスタートしたオリビアとリアム。
さまざまなトラブルを乗り越えて、ふたりは正式な婚約を目指す!
まさかの国にもトラブル発生!? だったらついでに救います!
恋愛偏差値底辺の変態令嬢と初恋拗らせマッチョ騎士のジョブ&ラブストーリー!(コメディありあり)
応援よろしくお願いします😊
2023.8.28
カテゴリー迷子になりファンタジーから恋愛に変更しました。
本作は恋愛をメインとした異世界ファンタジーです✨
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
親友に裏切られた侯爵令嬢は、兄の護衛騎士から愛を押し付けられる
当麻月菜
恋愛
侯爵令嬢のマリアンヌには二人の親友がいる。
一人は男爵令嬢のエリーゼ。もう一人は伯爵令息のレイドリック。
身分差はあれど、3人は互いに愛称で呼び合い、まるで兄弟のように仲良く過ごしていた。
そしてマリアンヌは、16歳となったある日、レイドリックから正式な求婚を受ける。
二つ返事で承諾したマリアンヌだったけれど、婚約者となったレイドリックは次第に本性を現してきて……。
戸惑う日々を過ごすマリアンヌに、兄の護衛騎士であるクリスは婚約破棄をやたら強く進めてくる。
もともと苦手だったクリスに対し、マリアンヌは更に苦手意識を持ってしまう。
でも、強く拒むことができない。
それはその冷たい態度の中に、自分に向ける優しさがあることを知ってしまったから。
※タイトル模索中なので、仮に変更しました。
※2020/05/22 タイトル決まりました。
※小説家になろう様にも重複投稿しています。(タイトルがちょっと違います。そのうち統一します)
昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど
睦月はむ
恋愛
剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。
そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。
予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。
リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。
基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。
気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。
連載中のサイトは下記4か所です
・note(メンバー限定先読み他)
・アルファポリス
・カクヨム
・小説家になろう
※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。
Hamu's Nook> https://mutsukihamu.blogspot.com/
※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる