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南の国の戦
三国の関係
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「お前の治癒魔法は、最大どれくらいの範囲まで届くんだ?」
朝食を終えた後、南の国のメイドらしい女性達が片付けをしてくれた。そうして、チャッツを飲みながらアロイスはそう訊ねた。
「どうなんでしょう? 私は今まで、遠隔で試した事が無いので分からないです」
チャッツを一口飲んで、ヴェンデルガルトは首を傾げた。龍の姿のままのコンスタンティンを治した時は、彼の身体に触れて治した。治癒魔法を使うこと自体、そう必要ではなかったのだ。
「三国間で戦争が始まるが、いつどの国から仕掛けるか分からん。お前は自分の身体を護る事を一番にして、余裕があれば兵を回復してくれ」
「話し合いで、話はまとまらないのですか? 出来れば、戦争は避けて欲しいです」
バルシュミーデ皇国で教えられた南の国の状況を思い出しながら、ヴェンデルガルトはそうアロイスに懇願した。しかし彼は、深くため息を零して首を横に振った。
「アンゲラー王国が問題だ。俺達は貿易の通行料さえ出してくれれば、戦争をするまで困っていない。万が一ヘンライン王国があいつらに負ければ、鉱物が手に入らない上俺達の国も危うくなる」
「東のレーヴェニヒ王国が、ヘンライン王国を支援すると聞きましたが……もしバーチュ王国がヘンライン王国を滅ぼす気がないのであれば、ヘンライン王国と手を組んではいかがですか?」
「レーヴェニヒ王国か……」
バーチュ王国にとっても、この国は不思議な国だった。ただ、一度アロイスが国王に会いに行った時、歓迎してくれた事がある。「龍の血が流れる御身に、加護を」と言っていたので、龍が住む国と言われているレーヴェニヒ王国では歓迎されるのだろうか。
「王や兄上たちと、話してみよう。俺も攫っておいて言うのはおかしいかもしれないが、お前が危険な目に遭うのは避けたい。それに、レーヴェニヒ王国と対立はしたくない」
チャッツを飲み干して、アロイスは立ち上がった。
「少し、話し合いをしてくる。何か用があれば、お前につけさせた使用人に言ってくれ」
上体を屈めてヴェンデルガルトの額にキスをすると、アロイスは部屋を出て行った。
――戦いがなくなるなら、ヘンライン王国と手を結んで欲しい。でも、バルシュミーデ皇国がどう出て来るのか。もし自分の為に戦に参加するのなら、それだけはやめて欲しい。ビルギットと、連絡が取れれば……考え込んでいたヴェンデルガルトだったが、ドアがノックされて「どうぞ」と答えて考える事を止めた。
「失礼します、ヴェンデルガルト様」
丁寧にお辞儀をするのは、ベルトだった。手には、籠のようなものを持っている。ヴェンデルガルトは少しほっとして、彼女を部屋にいれた。
「ヴェンデルガルト様、お暇ではありませんか?」
確かに、庭を散策したり宮殿の中を見学しに周ることは出来ない。それに話し相手は、アロイスかベルトしかいない。
「ええ、何をして過ごせばいいかしら。なにか、する事がある?」
ヴェンデルガルトがそう尋ねると、ベルトは手にしていた籠を差し出した。細い毛糸と、長めの針のような細い金属が入っている。
「我が国では、アヤーという織物があります。織機で織るのではなく、針で編みます。これで花嫁衣裳を自分で編む方も多くいらっしゃります。先ずは練習しませんか? 耳飾りやネックレスなど作れば、アロイス様もお喜びになるかもしれません」
「私の作ったものを?」
よく考えれば、ヴェンデルガルトはプレゼントを貰ってばかりだ。誰かにちゃんとした贈り物をした事があったのか――眠る前でも思いつかなかった。
「私、そんなに器用ではありません」
出来るかしら? と困った様に首を傾げるヴェンデルガルトに、ベルトは「出来ます」と返事をした。
「私は小さい頃、母に教わり沢山作ってきました。ヴェンデルガルト様に分かりやすい様にお教えさせて頂きます。作ってみましょう」
確かにする事もなく、戦争が始まればアロイスは忙しくなるだろう。それに、ベルトと仲良くなっておきたかった。
「分かったわ、私に教えてくれる?」
「喜んで、お教えさせて頂きます」
生真面目なベルトは、そう言ってもう一度深々と頭を下げた。そうして「失礼します」とヴェンデルガルトの横に座り、籠の中から針と細い毛糸を取り出した。
朝食を終えた後、南の国のメイドらしい女性達が片付けをしてくれた。そうして、チャッツを飲みながらアロイスはそう訊ねた。
「どうなんでしょう? 私は今まで、遠隔で試した事が無いので分からないです」
チャッツを一口飲んで、ヴェンデルガルトは首を傾げた。龍の姿のままのコンスタンティンを治した時は、彼の身体に触れて治した。治癒魔法を使うこと自体、そう必要ではなかったのだ。
「三国間で戦争が始まるが、いつどの国から仕掛けるか分からん。お前は自分の身体を護る事を一番にして、余裕があれば兵を回復してくれ」
「話し合いで、話はまとまらないのですか? 出来れば、戦争は避けて欲しいです」
バルシュミーデ皇国で教えられた南の国の状況を思い出しながら、ヴェンデルガルトはそうアロイスに懇願した。しかし彼は、深くため息を零して首を横に振った。
「アンゲラー王国が問題だ。俺達は貿易の通行料さえ出してくれれば、戦争をするまで困っていない。万が一ヘンライン王国があいつらに負ければ、鉱物が手に入らない上俺達の国も危うくなる」
「東のレーヴェニヒ王国が、ヘンライン王国を支援すると聞きましたが……もしバーチュ王国がヘンライン王国を滅ぼす気がないのであれば、ヘンライン王国と手を組んではいかがですか?」
「レーヴェニヒ王国か……」
バーチュ王国にとっても、この国は不思議な国だった。ただ、一度アロイスが国王に会いに行った時、歓迎してくれた事がある。「龍の血が流れる御身に、加護を」と言っていたので、龍が住む国と言われているレーヴェニヒ王国では歓迎されるのだろうか。
「王や兄上たちと、話してみよう。俺も攫っておいて言うのはおかしいかもしれないが、お前が危険な目に遭うのは避けたい。それに、レーヴェニヒ王国と対立はしたくない」
チャッツを飲み干して、アロイスは立ち上がった。
「少し、話し合いをしてくる。何か用があれば、お前につけさせた使用人に言ってくれ」
上体を屈めてヴェンデルガルトの額にキスをすると、アロイスは部屋を出て行った。
――戦いがなくなるなら、ヘンライン王国と手を結んで欲しい。でも、バルシュミーデ皇国がどう出て来るのか。もし自分の為に戦に参加するのなら、それだけはやめて欲しい。ビルギットと、連絡が取れれば……考え込んでいたヴェンデルガルトだったが、ドアがノックされて「どうぞ」と答えて考える事を止めた。
「失礼します、ヴェンデルガルト様」
丁寧にお辞儀をするのは、ベルトだった。手には、籠のようなものを持っている。ヴェンデルガルトは少しほっとして、彼女を部屋にいれた。
「ヴェンデルガルト様、お暇ではありませんか?」
確かに、庭を散策したり宮殿の中を見学しに周ることは出来ない。それに話し相手は、アロイスかベルトしかいない。
「ええ、何をして過ごせばいいかしら。なにか、する事がある?」
ヴェンデルガルトがそう尋ねると、ベルトは手にしていた籠を差し出した。細い毛糸と、長めの針のような細い金属が入っている。
「我が国では、アヤーという織物があります。織機で織るのではなく、針で編みます。これで花嫁衣裳を自分で編む方も多くいらっしゃります。先ずは練習しませんか? 耳飾りやネックレスなど作れば、アロイス様もお喜びになるかもしれません」
「私の作ったものを?」
よく考えれば、ヴェンデルガルトはプレゼントを貰ってばかりだ。誰かにちゃんとした贈り物をした事があったのか――眠る前でも思いつかなかった。
「私、そんなに器用ではありません」
出来るかしら? と困った様に首を傾げるヴェンデルガルトに、ベルトは「出来ます」と返事をした。
「私は小さい頃、母に教わり沢山作ってきました。ヴェンデルガルト様に分かりやすい様にお教えさせて頂きます。作ってみましょう」
確かにする事もなく、戦争が始まればアロイスは忙しくなるだろう。それに、ベルトと仲良くなっておきたかった。
「分かったわ、私に教えてくれる?」
「喜んで、お教えさせて頂きます」
生真面目なベルトは、そう言ってもう一度深々と頭を下げた。そうして「失礼します」とヴェンデルガルトの横に座り、籠の中から針と細い毛糸を取り出した。
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