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南の国の戦
発見
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ヴェンデルガルトに気を遣いながらも、馬は早く走った。途中同じような旅貿易をするものとすれ違う時は、ゆっくりした歩調に変えて偽装する。ヴェンデルガルトとビルギットにとって、国の外に出たのは古龍の元に赴いた時だけだ。その時も古龍の背に乗せて貰ったので、『旅』という感覚とは違った。
ゆったりとした服は着やすく楽だったが、水が大事なのでなるべく控える方がいいと騎士が教えてくれた。城で飲むような水ではなく、川の水やひどい時は泥水の上澄みを飲む事がある。更に南は暑く川も少ない。南を旅するのは、実は困難だと知った。
「だが、南を出て随分こちらに向かっていると聞きます。我々の水で、何とか足りるでしょう」
一日目は、暗くなり始める前に休憩する事になった。荷物に偽装していた塩漬けの肉を川で洗い適当に切り、同じく野菜と共に鍋に入れて煮る。後は固いパンだ。
「ヴェンデルガルト様にこの様な食事をさせてしまい、大変申し訳ありません」
騎士は本当に申し訳ないと全員彼女に頭を下げた。本来なら王女である身だ。彼らが恐縮するのも仕方がない。
「大丈夫よ。私の事は気にしないで?」
「香草もありましたので、少しは口当たりがよくなるはずです」
食事の手伝いをしたビルギットは、あるもので何とか食べやすくしようとしている。馬車の脇に火を焚いて、食事をとる。確かに塩味がきつく城で食べるような美味しいものではないが、戦に向かう兵士の事が知れてヴェンデルガルトは勉強になった。
馬車で、ヴェンデルガルトとビルギットが寝て、騎士と医者は地に毛皮を敷いて寝る事になった。騎士たちは、火の番をしながら交代で寝る。魔獣と盗賊避けに、火を焚いているのだ。
そうして一日が過ぎて、二日目。この日も急ぎ足で向かうが、バルシュミーデ皇国の馬車は見えない。
四日目の朝だ。馬車の荷台にずっと座っていると、腰が痛くなる。まだ日が昇りきらず薄暗い中目覚めたヴェンデルガルトは馬車の外に出ると、辺りに建物がなく大地が広がっている事に驚いた様に視線をあちこちに向けた。
「おはようございます、ヴェンデルガルト様」
伸びをしているヴェンデルガルトに声をかけてきたのは、黄薔薇騎士団副団長のディルクだった。隣には、青薔薇騎士団の騎士がいる。
「おはようございます」
「お茶を淹れましょうか? 少し、お待ちくださいね」
ディルクはそう言うと、手早くお茶の用意をしてくれた。渡してくれたカップを手に、ヴェンデルガルトは「有難うございます」と、礼を言った。
その間にも、ディルクと青薔薇騎士は水の甕に冷ましたお湯を入れていた。そうして再び、川の水を沸かす。
「何をしているのですか?」
「飲み水の交換です。春も半ばになり、もう四日になります。水が痛みやすくなっているので、川の水を沸かして消毒してから甕に直しています」
「なるほど……水がなくなるのは、大変ですものね」
作業風景を眺めながら、ヴェンデルガルトは感心したように頷いた。それに返事をしたのは青薔薇騎士だ。
「小さな事ですが、大事な時に腹を壊していると大変です。先人の知恵を生かし、我々は旅に出ますので」
戦はしばらくしていないが、黄薔薇騎士団と青薔薇騎士団は魔獣討伐で遠くまで旅に出る事が多いと聞く。彼らにとっては、当たり前の作業なのだろう。
「有難うございます」
様々な苦労をして国を護ってくれている騎士団に、ヴェンデルガルトはすべての民に代わって深々と頭を下げる。
「突然どうされました? お気になさらずに、ヴェンデルガルト様」
頭を下げるヴェンデルガルトに礼を言われると、ディルクも青薔薇騎士も驚いた顔になる。彼らにとって国の為に尽くすのは当たり前なのだが、礼を言われるなんて思ってもいなかったのだろう。困った風ではあるが、ヴェンデルガルトの心遣いに表情を柔らかくした。
日が昇る頃には、甕の水も冷めて保存できるようになった。ビルギットが起きてきて、パンの上に焼いた肉を乗せた食事を作った。
「今日か明日には見つけないと――傷が心配だ」
火の片付けをして再び馬車に乗ると、晴れて暑いくらいの日差しをチラリと見て医者が零した。彼も長旅で、少し疲れた顔をしていた。
「急ぎましょう」
ヴェンデルガルトの言葉に頷くと、馬車は再び砂埃を上げて南に向かいかけ出した。
そうして昼を過ぎた頃、向こうから馬車の姿が見えた。用心して速度を落とすと、二頭の馬が引く馬車と、それを囲むように四頭の馬が走っている。馬車には、バルシュミーデ皇国の紋章である、二頭の獅子に薔薇が描かれた紋章が見えた。
「見つけたぞ!」
ディルクの大きな声が上がった。
ゆったりとした服は着やすく楽だったが、水が大事なのでなるべく控える方がいいと騎士が教えてくれた。城で飲むような水ではなく、川の水やひどい時は泥水の上澄みを飲む事がある。更に南は暑く川も少ない。南を旅するのは、実は困難だと知った。
「だが、南を出て随分こちらに向かっていると聞きます。我々の水で、何とか足りるでしょう」
一日目は、暗くなり始める前に休憩する事になった。荷物に偽装していた塩漬けの肉を川で洗い適当に切り、同じく野菜と共に鍋に入れて煮る。後は固いパンだ。
「ヴェンデルガルト様にこの様な食事をさせてしまい、大変申し訳ありません」
騎士は本当に申し訳ないと全員彼女に頭を下げた。本来なら王女である身だ。彼らが恐縮するのも仕方がない。
「大丈夫よ。私の事は気にしないで?」
「香草もありましたので、少しは口当たりがよくなるはずです」
食事の手伝いをしたビルギットは、あるもので何とか食べやすくしようとしている。馬車の脇に火を焚いて、食事をとる。確かに塩味がきつく城で食べるような美味しいものではないが、戦に向かう兵士の事が知れてヴェンデルガルトは勉強になった。
馬車で、ヴェンデルガルトとビルギットが寝て、騎士と医者は地に毛皮を敷いて寝る事になった。騎士たちは、火の番をしながら交代で寝る。魔獣と盗賊避けに、火を焚いているのだ。
そうして一日が過ぎて、二日目。この日も急ぎ足で向かうが、バルシュミーデ皇国の馬車は見えない。
四日目の朝だ。馬車の荷台にずっと座っていると、腰が痛くなる。まだ日が昇りきらず薄暗い中目覚めたヴェンデルガルトは馬車の外に出ると、辺りに建物がなく大地が広がっている事に驚いた様に視線をあちこちに向けた。
「おはようございます、ヴェンデルガルト様」
伸びをしているヴェンデルガルトに声をかけてきたのは、黄薔薇騎士団副団長のディルクだった。隣には、青薔薇騎士団の騎士がいる。
「おはようございます」
「お茶を淹れましょうか? 少し、お待ちくださいね」
ディルクはそう言うと、手早くお茶の用意をしてくれた。渡してくれたカップを手に、ヴェンデルガルトは「有難うございます」と、礼を言った。
その間にも、ディルクと青薔薇騎士は水の甕に冷ましたお湯を入れていた。そうして再び、川の水を沸かす。
「何をしているのですか?」
「飲み水の交換です。春も半ばになり、もう四日になります。水が痛みやすくなっているので、川の水を沸かして消毒してから甕に直しています」
「なるほど……水がなくなるのは、大変ですものね」
作業風景を眺めながら、ヴェンデルガルトは感心したように頷いた。それに返事をしたのは青薔薇騎士だ。
「小さな事ですが、大事な時に腹を壊していると大変です。先人の知恵を生かし、我々は旅に出ますので」
戦はしばらくしていないが、黄薔薇騎士団と青薔薇騎士団は魔獣討伐で遠くまで旅に出る事が多いと聞く。彼らにとっては、当たり前の作業なのだろう。
「有難うございます」
様々な苦労をして国を護ってくれている騎士団に、ヴェンデルガルトはすべての民に代わって深々と頭を下げる。
「突然どうされました? お気になさらずに、ヴェンデルガルト様」
頭を下げるヴェンデルガルトに礼を言われると、ディルクも青薔薇騎士も驚いた顔になる。彼らにとって国の為に尽くすのは当たり前なのだが、礼を言われるなんて思ってもいなかったのだろう。困った風ではあるが、ヴェンデルガルトの心遣いに表情を柔らかくした。
日が昇る頃には、甕の水も冷めて保存できるようになった。ビルギットが起きてきて、パンの上に焼いた肉を乗せた食事を作った。
「今日か明日には見つけないと――傷が心配だ」
火の片付けをして再び馬車に乗ると、晴れて暑いくらいの日差しをチラリと見て医者が零した。彼も長旅で、少し疲れた顔をしていた。
「急ぎましょう」
ヴェンデルガルトの言葉に頷くと、馬車は再び砂埃を上げて南に向かいかけ出した。
そうして昼を過ぎた頃、向こうから馬車の姿が見えた。用心して速度を落とすと、二頭の馬が引く馬車と、それを囲むように四頭の馬が走っている。馬車には、バルシュミーデ皇国の紋章である、二頭の獅子に薔薇が描かれた紋章が見えた。
「見つけたぞ!」
ディルクの大きな声が上がった。
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