44 / 125
南の国の戦
懐かしい顔
しおりを挟む
『交渉決裂。三国間で戦が始まる』
南の国に行っている白薔薇騎士団と紫薔薇騎士団から、至急の伝令を持った馬が帰って来た。馬も乗っていた白薔薇騎士も疲労困憊だったが、ジークハルトにその旨を何とか伝え、気を失った。そこに、ヴェンデルガルトが呼ばれた。
本来ならこのように疲れている者を起こしたくはないが、戦争が始まると聞き仕方なく気力回復の魔法をかけた。光に包まれた騎士は目を覚ますと、それで辛そうに起き上がり話を続けた。
「長年領国に搾取されていたヘンライン公国が、今回は一歩も譲りませんでした。バーチュ王国とアンゲラー王国に鉱物を売る事を拒否したのです。東のレーヴェニヒ王国はヘンライン王国を支援する旨を伝えて、援軍を送ったそうです。バーチュ王国とアンゲラー王国は一時手を組む事となり、ギルベルト様とランドルフ様は一度撤退されて国に戻って来られるはずです」
そこまで報告すると、水を一気に飲んで深く息を零した。部屋には、ジークハルトとカール、イザークもいた。
「大変だったな、ご苦労。すぐに陛下に連絡をして、我々はどうするか決めなければならない」
ジークハルトが労いの言葉をかけると、白薔薇騎士はぐったりと頭を下げて部屋を出た。
「しかし、あの閉鎖的なレーヴェニヒ王国が介入してくるとは思わなかったな」
カールの言葉に、ジークハルトが難しい顔をして頷いた。ヴェンデルガルトの言葉で、『龍の住む国』と言われるようになったレーヴェニヒ王国だ。国王はまだ若く、ジークハルトより少し上だと聞いた。
「では、陛下の元に行こう」
ジークハルトの手には、先程の白薔薇騎士が持ち帰ったギルベルトの手紙が握られている。
「これで大丈夫、ゆっくり休んでね」
白薔薇騎士と共に戻った馬に治癒魔法をかける。馬は休みなく長期間速足で走らされた事で、かなり疲労していた。ヴェンデルガルトが治癒魔法をかけると元気になったのか、少し眠そうだった。
「ヴェンデルガルト様、ここにいらっしゃったのですね!」
ヴェンデルガルトは騎士を治した後、馬が気になって城門の所で放置されていた馬の所に来ていた。そこに駆け寄ってきたのは、茶色の髪に緑の瞳の青年が駆け寄ってきた。赤薔薇騎士団の制服を着ている。
「本日より正式にヴェンデルガルト様の護衛に任命されました、ロルフ・ザシャ・バッハマンです。お探ししました」
「あなた、ルーカス!?」
ロルフを見たヴェンデルガルトが、驚いたような声を上げた。
「え? あの、先程名乗りましたように俺はロルフですが……?」
自分を見て驚いたようなヴェンデルガルトの様子に、ロルフは少し驚いた。それと同時に、金色の髪に金の瞳の、見た事のない美しさにロルフは彼女に魅入ってしまった。
「ごめんなさい――知っている人に似ているから、びっくりしたの」
「いいえ、お気になさらずに。あ、知らせの馬ですね、俺が預かります――それより、お一人でここに居られるのは不用心です。とにかく、部屋に戻りませんか?」
ロルフの言葉に、ヴェンデルガルトは頷く。安心した様に、ロルフは眠そうな馬の手綱を引き彼女と歩き出す。
ロルフは「遠回りになってしまいすみません」と謝ってから、馬を馬屋へ先に運んだ。ヴェンデルガルトは珍しそうに辺りをきょろきょろしながら、文句を言わずロルフに付いて行く。
「俺は田舎者で得意な事はなく、剣の腕だけで騎士になりました。もしヴェンデルガルト様に無礼な事をしましたら、その時は遠慮なく叱ってください」
ロルフは、恥ずかしそうにそう言ってヴェンデルガルトに頭を下げた。
「そんなこと気にしないでね。これから、よろしくお願いします」
ヴェンデルガルトはそう言って笑うと、彼に頭を下げた。それに慌てたのは、ロルフだ。
「ヴェンデルガルト様、駄目ですよ! 俺なんかに頭を下げては! 五薔薇騎士団長に、俺怒られますから」
ロルフの言葉に「まさか」とヴェンデルガルトは笑って、ようやく自分の部屋に戻って来た。
「あ、ヴェンデルガルト様お帰りなさい」
カリーナが気付いて、声をかけてくれる。お菓子用のパイをテーブルに置こうとしていたビルギットも、その言葉に振り返った。
「ヴェンデルガルト様お帰りなさい……、え、ルーカス!?」
ビルギットは笑顔でヴェンデルガルトを迎えようとしたが、彼女の後ろにいたロルフの姿を見て驚いたように持っていたパイの乗った皿を落としてしまった。
皿は床に落ちた時に、鈍い音を立てて割れてしまいパイが崩れてしまった。そんな事も気が付かないように、ビルギットは懐かしさと悲しさを滲ませた面持ちで彼を見つめていた。
南の国に行っている白薔薇騎士団と紫薔薇騎士団から、至急の伝令を持った馬が帰って来た。馬も乗っていた白薔薇騎士も疲労困憊だったが、ジークハルトにその旨を何とか伝え、気を失った。そこに、ヴェンデルガルトが呼ばれた。
本来ならこのように疲れている者を起こしたくはないが、戦争が始まると聞き仕方なく気力回復の魔法をかけた。光に包まれた騎士は目を覚ますと、それで辛そうに起き上がり話を続けた。
「長年領国に搾取されていたヘンライン公国が、今回は一歩も譲りませんでした。バーチュ王国とアンゲラー王国に鉱物を売る事を拒否したのです。東のレーヴェニヒ王国はヘンライン王国を支援する旨を伝えて、援軍を送ったそうです。バーチュ王国とアンゲラー王国は一時手を組む事となり、ギルベルト様とランドルフ様は一度撤退されて国に戻って来られるはずです」
そこまで報告すると、水を一気に飲んで深く息を零した。部屋には、ジークハルトとカール、イザークもいた。
「大変だったな、ご苦労。すぐに陛下に連絡をして、我々はどうするか決めなければならない」
ジークハルトが労いの言葉をかけると、白薔薇騎士はぐったりと頭を下げて部屋を出た。
「しかし、あの閉鎖的なレーヴェニヒ王国が介入してくるとは思わなかったな」
カールの言葉に、ジークハルトが難しい顔をして頷いた。ヴェンデルガルトの言葉で、『龍の住む国』と言われるようになったレーヴェニヒ王国だ。国王はまだ若く、ジークハルトより少し上だと聞いた。
「では、陛下の元に行こう」
ジークハルトの手には、先程の白薔薇騎士が持ち帰ったギルベルトの手紙が握られている。
「これで大丈夫、ゆっくり休んでね」
白薔薇騎士と共に戻った馬に治癒魔法をかける。馬は休みなく長期間速足で走らされた事で、かなり疲労していた。ヴェンデルガルトが治癒魔法をかけると元気になったのか、少し眠そうだった。
「ヴェンデルガルト様、ここにいらっしゃったのですね!」
ヴェンデルガルトは騎士を治した後、馬が気になって城門の所で放置されていた馬の所に来ていた。そこに駆け寄ってきたのは、茶色の髪に緑の瞳の青年が駆け寄ってきた。赤薔薇騎士団の制服を着ている。
「本日より正式にヴェンデルガルト様の護衛に任命されました、ロルフ・ザシャ・バッハマンです。お探ししました」
「あなた、ルーカス!?」
ロルフを見たヴェンデルガルトが、驚いたような声を上げた。
「え? あの、先程名乗りましたように俺はロルフですが……?」
自分を見て驚いたようなヴェンデルガルトの様子に、ロルフは少し驚いた。それと同時に、金色の髪に金の瞳の、見た事のない美しさにロルフは彼女に魅入ってしまった。
「ごめんなさい――知っている人に似ているから、びっくりしたの」
「いいえ、お気になさらずに。あ、知らせの馬ですね、俺が預かります――それより、お一人でここに居られるのは不用心です。とにかく、部屋に戻りませんか?」
ロルフの言葉に、ヴェンデルガルトは頷く。安心した様に、ロルフは眠そうな馬の手綱を引き彼女と歩き出す。
ロルフは「遠回りになってしまいすみません」と謝ってから、馬を馬屋へ先に運んだ。ヴェンデルガルトは珍しそうに辺りをきょろきょろしながら、文句を言わずロルフに付いて行く。
「俺は田舎者で得意な事はなく、剣の腕だけで騎士になりました。もしヴェンデルガルト様に無礼な事をしましたら、その時は遠慮なく叱ってください」
ロルフは、恥ずかしそうにそう言ってヴェンデルガルトに頭を下げた。
「そんなこと気にしないでね。これから、よろしくお願いします」
ヴェンデルガルトはそう言って笑うと、彼に頭を下げた。それに慌てたのは、ロルフだ。
「ヴェンデルガルト様、駄目ですよ! 俺なんかに頭を下げては! 五薔薇騎士団長に、俺怒られますから」
ロルフの言葉に「まさか」とヴェンデルガルトは笑って、ようやく自分の部屋に戻って来た。
「あ、ヴェンデルガルト様お帰りなさい」
カリーナが気付いて、声をかけてくれる。お菓子用のパイをテーブルに置こうとしていたビルギットも、その言葉に振り返った。
「ヴェンデルガルト様お帰りなさい……、え、ルーカス!?」
ビルギットは笑顔でヴェンデルガルトを迎えようとしたが、彼女の後ろにいたロルフの姿を見て驚いたように持っていたパイの乗った皿を落としてしまった。
皿は床に落ちた時に、鈍い音を立てて割れてしまいパイが崩れてしまった。そんな事も気が付かないように、ビルギットは懐かしさと悲しさを滲ませた面持ちで彼を見つめていた。
1
お気に入りに追加
945
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる