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アンドレアス皇帝
皇帝との謁見・上
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ジークハルトにプレゼントされたドレスを着て、ランドルフとギルベルトに貰ったイヤリングと指輪を身に着けると、ため息が零れるほどヴェンデルガルトは美しい。
「ヴェンデルガルト様付きに命じられて、私幸せです……」
カリーナが、うっとりとしたようにその姿を眺めた。
「有難う、カリーナ。でも、少し恥ずかしいわね」
今風のドレスなので、胸元が強調されているのが恥ずかしい。その照れる姿も可愛らしいと、カリーナはヴェンデルガルトを褒めた。
「ジークハルトだ。迎えに来た」
ヴェンデルガルトとメイド二人で楽しんでいる時に、ドアがノックされた。その声の名前を聞いて、三人は慌てて姿勢を正す。
「お待たせしました、ジークハルト様」
カリーナがドアを開けると、ヴェンデルガルトは少し恥ずかしそうにしながらも、エデルガルトに教えて貰った作法でお辞儀をする。自分が贈ったドレス姿のヴェンデルガルトの姿を見て、ジークハルトは僅かに息を飲んだ。女性を見て美しいと思ったのは、初めてだった。
「もう出られるだろうか? それと――ビルギットだったか? 君も来て欲しい」
「私も、ですか?」
「ああ、陛下がそう望んでいらっしゃる。頼む」
ヴェンデルガルトとビルギットは顔を見合わせたが、ビルギットは頭を下げた。
「ヴェンデルガルト様の傍に居る事が、私の役目で望みです。御一緒させて頂きます」
「ヴェンデルガルト様、ビルギット。お茶を用意して待っています」
カリーナに見送られて、ジークハルトとヴェンデルガルト。その後にビルギットが続いて謁見室へと向かった。進むにつれて、赤薔薇騎士団の姿が増えていく。
「ジークハルトです。ヴェンデルガルト嬢と、メイドのビルギットを連れてまいりました」
そう言うと、小さな声なのに謁見室に響く声が返事をした。
「入れ」
ジークハルトが礼をして室内に入る。ヴェンデルガルトとビルギットも、それに倣って中に足を踏み入れた。
中には、豪華な椅子に座ったアンドレアス皇帝。年の頃は、五十半ばだろうか。威厳に満ちた面持ちで、豪華な服や装飾品を身にまとっていた。脇に控える内の一人は、ギルベルトの父であるアダルベルト宰相だろう。ヴェンデルガルトとビルギットの前には、全く知らない男たちが並んでいた。
「そなたが、ヴェンデルガルト王女か」
皇帝の視線がヴェンデルガルトに向けられると、ヴェンデルガルトは綺麗なお辞儀をする。
「ヴェンデルガルト・クリスタ・ブリュンヒルト・ケーニヒスペルガーでございます。二百年前に存在した、バッハシュタイン王国第三王女です。そしてこちらが、私のメイドのビルギット・バルチュです」
室内の人物の視線が、二人に向けられた。眩しい金の髪と瞳が珍しく、室内が少し騒めいた。
「一六〇〇年に、古龍の最後の生贄になったと聞いたが、誠か?」
「はい。私が十四の年に、古龍の元に参りました。二年彼と暮らし、封印されました。封印されたのは――古龍に考えがあっての事です」
皇帝は、真っ直ぐにヴェンデルガルトを見つめた。
「古龍の考えとは何だ?」
「それは――私には、分かりかねます。申し訳ございません」
その言葉に、ジークハルトは僅かに眉を顰めた。彼女は理由を知っているはずだ、なのに何故知らないと? もしかして、古龍が再び龍として甦った場合敵と認識されるのを恐れたのかもしれない。後で確認しよう、とジークハルトは大人しく会話を聞いていた。
「そうか――それで、ヴェンデルガルト王女。我が国は、そなたの国を滅ぼして新しく出来た国だとご存知だな? それを、どう思う?」
「私は、この世界を創られたフロレンツ神の導きだと、この運命を受け入れました。恨みなど、抱いておりません」
凛とした声で、ヴェンデルガルトははっきりとそう言った。
「そうか……分かった、ではそなたの処遇を決めさせて貰った。もしこれを受け入れられなければ、この国を出て貰う事になる」
ヴェンデルガルトは、皇帝のその言葉に何かを感じた――受け入れなければ処刑する、と聞こえたように感じたのだ。
「この、忌々しい悪魔め!」
その時、赤薔薇騎士団の中から一人の男が飛び出した。振りかぶっているのは、剣だ。ヴェンデルガルトの傍には、ビルギットしかいない。
まさかここで、剣を振るう者がいるとは誰も思っていなかった。慌てたジークハルトは飛び出すが、間に合いそうになかった。
ヴェンデルガルトに剣が振り下ろされる――そう誰もが思った時だ。
「防御!」
叫んだのは、ビルギットだ。彼女の青い瞳が、金色に輝いていた。そうして、透明の箱のようなものがヴェンデルガルトを包んで、振り下ろされた剣を弾いた。全員が驚いたように瞳を丸めたが、慌ててジークハルトがヴェンデルガルトを襲おうとした男を蹴り飛ばす。そして赤薔薇騎士団員が、慌ててその男を取り押さえた。
「ビルギットーーあなた、魔法が使えるの?」
「ヴェンデルガルト様付きに命じられて、私幸せです……」
カリーナが、うっとりとしたようにその姿を眺めた。
「有難う、カリーナ。でも、少し恥ずかしいわね」
今風のドレスなので、胸元が強調されているのが恥ずかしい。その照れる姿も可愛らしいと、カリーナはヴェンデルガルトを褒めた。
「ジークハルトだ。迎えに来た」
ヴェンデルガルトとメイド二人で楽しんでいる時に、ドアがノックされた。その声の名前を聞いて、三人は慌てて姿勢を正す。
「お待たせしました、ジークハルト様」
カリーナがドアを開けると、ヴェンデルガルトは少し恥ずかしそうにしながらも、エデルガルトに教えて貰った作法でお辞儀をする。自分が贈ったドレス姿のヴェンデルガルトの姿を見て、ジークハルトは僅かに息を飲んだ。女性を見て美しいと思ったのは、初めてだった。
「もう出られるだろうか? それと――ビルギットだったか? 君も来て欲しい」
「私も、ですか?」
「ああ、陛下がそう望んでいらっしゃる。頼む」
ヴェンデルガルトとビルギットは顔を見合わせたが、ビルギットは頭を下げた。
「ヴェンデルガルト様の傍に居る事が、私の役目で望みです。御一緒させて頂きます」
「ヴェンデルガルト様、ビルギット。お茶を用意して待っています」
カリーナに見送られて、ジークハルトとヴェンデルガルト。その後にビルギットが続いて謁見室へと向かった。進むにつれて、赤薔薇騎士団の姿が増えていく。
「ジークハルトです。ヴェンデルガルト嬢と、メイドのビルギットを連れてまいりました」
そう言うと、小さな声なのに謁見室に響く声が返事をした。
「入れ」
ジークハルトが礼をして室内に入る。ヴェンデルガルトとビルギットも、それに倣って中に足を踏み入れた。
中には、豪華な椅子に座ったアンドレアス皇帝。年の頃は、五十半ばだろうか。威厳に満ちた面持ちで、豪華な服や装飾品を身にまとっていた。脇に控える内の一人は、ギルベルトの父であるアダルベルト宰相だろう。ヴェンデルガルトとビルギットの前には、全く知らない男たちが並んでいた。
「そなたが、ヴェンデルガルト王女か」
皇帝の視線がヴェンデルガルトに向けられると、ヴェンデルガルトは綺麗なお辞儀をする。
「ヴェンデルガルト・クリスタ・ブリュンヒルト・ケーニヒスペルガーでございます。二百年前に存在した、バッハシュタイン王国第三王女です。そしてこちらが、私のメイドのビルギット・バルチュです」
室内の人物の視線が、二人に向けられた。眩しい金の髪と瞳が珍しく、室内が少し騒めいた。
「一六〇〇年に、古龍の最後の生贄になったと聞いたが、誠か?」
「はい。私が十四の年に、古龍の元に参りました。二年彼と暮らし、封印されました。封印されたのは――古龍に考えがあっての事です」
皇帝は、真っ直ぐにヴェンデルガルトを見つめた。
「古龍の考えとは何だ?」
「それは――私には、分かりかねます。申し訳ございません」
その言葉に、ジークハルトは僅かに眉を顰めた。彼女は理由を知っているはずだ、なのに何故知らないと? もしかして、古龍が再び龍として甦った場合敵と認識されるのを恐れたのかもしれない。後で確認しよう、とジークハルトは大人しく会話を聞いていた。
「そうか――それで、ヴェンデルガルト王女。我が国は、そなたの国を滅ぼして新しく出来た国だとご存知だな? それを、どう思う?」
「私は、この世界を創られたフロレンツ神の導きだと、この運命を受け入れました。恨みなど、抱いておりません」
凛とした声で、ヴェンデルガルトははっきりとそう言った。
「そうか……分かった、ではそなたの処遇を決めさせて貰った。もしこれを受け入れられなければ、この国を出て貰う事になる」
ヴェンデルガルトは、皇帝のその言葉に何かを感じた――受け入れなければ処刑する、と聞こえたように感じたのだ。
「この、忌々しい悪魔め!」
その時、赤薔薇騎士団の中から一人の男が飛び出した。振りかぶっているのは、剣だ。ヴェンデルガルトの傍には、ビルギットしかいない。
まさかここで、剣を振るう者がいるとは誰も思っていなかった。慌てたジークハルトは飛び出すが、間に合いそうになかった。
ヴェンデルガルトに剣が振り下ろされる――そう誰もが思った時だ。
「防御!」
叫んだのは、ビルギットだ。彼女の青い瞳が、金色に輝いていた。そうして、透明の箱のようなものがヴェンデルガルトを包んで、振り下ろされた剣を弾いた。全員が驚いたように瞳を丸めたが、慌ててジークハルトがヴェンデルガルトを襲おうとした男を蹴り飛ばす。そして赤薔薇騎士団員が、慌ててその男を取り押さえた。
「ビルギットーーあなた、魔法が使えるの?」
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