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コンスタンティン
コンスタンティンの夢
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その日、テオが珍しくヴェンデルガルトの布団に潜り込んできたので、ヴェンデルガルトはテオを抱き締めて眠った。
懐かしい、大きな木の中に作られた小さな家だ。「私が生まれる前から生えている木だよ」と、コンスタンティンは教えてくれた。木は本当に大きくて、ヴェンデルガルトの部屋、コンスタンティンの部屋と書斎、ビルギットの部屋を用意しても広々と使えた。
「今まで私の元に来てくれた子たちと生活して来た所より、過ごしやすそうな所に変えたよ。心配しなくても、お風呂もちゃんとあるからね」
コンスタンティンは長く生きているため大人びていたが、子供っぽい所もあった。一六〇〇年間乙女を連れてきたが、大切にしてきたこと。そうして、ヴェンデルガルトとようやく出逢ったから、もう乙女は望まない事を話してくれた。
コンスタンティンは、本当にヴェンデルガルトを大切にしてくれた。ヴェンデルガルトを同じく大切に思うビルギットにも良くしてくれて、ヴェンデルガルトは毎日がとても幸せだった。
「でもね、ヴェンデルガルト。出逢うのが遅すぎて――私は、もう長くないかもしれない」
三日月が綺麗な夜、大きな木の枝に二人並んで座っていると、コンスタンティンは不意にそう言った。
「私は、ずっと君を待っていて――諦めずにずっと君を探し続けた。そうして、ようやく君を見つけられたのに……悔しくて堪らない。可愛い、私の唯一の伴侶。愛しているよ、ヴェンデルガルト。だから……だから、私がする事を許して欲しい」
とても悲しそうに、コンスタンティンはヴェンデルガルトの髪を撫でながら呟いた。
「私の魔法で治らない? 私の力では、コンスタンティンを助けられないの?」
「――もう、身体が限界なんだよ。老いには逆らえない。こうして人間の若い男の姿で君の前にいるけれど、私は二〇〇〇年ほど生きているお爺さんなんだ。これは、誰も治せない」
ヴェンデルガルトは、コンスタンティンの胸元に抱き着いた。彼が居なくなってしまう悲しみを、受け止めきれずにいた。
「いやよ……私とビルギットを置いて行かないで……」
「大丈夫、ヴェンデルガルト。私は必ず、甦るから。君とビルギットを、もう一度迎えに来るから。また、こうして一緒に月を眺める事が出来るよ。信じてくれる? ヴェンデルガルト」
優しく落ち着いた声音は、いつものコンスタンティンだ。彼が嘘をつくはずないと、ヴェンデルガルトは信じている。涙を拭いながら、ヴェンデルガルトは頷いた。
「今日は本当に綺麗な三日月だね。君と月を見るだけで、私は幸せなんだ。この幸せを知ったから、私は君を――死んでも、離したくないんだ。ごめんね、我儘な龍で。ヴェンデルガルト、両手を出してくれないか?」
コンスタンティンの言葉に、ヴェンデルガルトは両手を開いて彼に向けた。
「――」
聞き取れないのは、龍が使う言語だからだ。コンスタンティンがそう唱えると彼の身体が光り輝き、その光が眩し過ぎて何も見えなくなる。
その時、コロンとしたものがヴェンデルガルトの掌に落ちた。光が引いて、見えなかった目が闇に慣れて元に戻った。
「これ……何?」
真珠の様な、白い石だった。丸くて、温かくて少し重い。ヴェンデルガルトは、見た事が無い宝石だった。
「これは、私の魔力をほぼ全てを凝縮したものだよ。私の魔力を、君にあげよう。龍の魔力があれば、君を護ってくれるかもしれない」
ヴェンデルガルトの掌にある宝石を指でなぞると、ネックレスの金具が付いた。コンスタンティンが、魔法でネックレスにしてくれたのだろう。
「肌身離さず、持っているように。君や私から離れれば、魔力は消えてしまう」
「分かったわ、大切に身に着けているわ」
ヴェンデルガルトの言葉を聞き、コンスタンティンは寂しそうに微笑んだ。そうして、それをヴェンデルガルトの首にかけた。途端、ヴェンデルガルトの瞳が青色から金色に変わった。
「鏡を見てごらん」
コンスタンティンが手の中で手鏡を創ると、ヴェンデルガルトに渡した。彼の言う通り鏡を見て、自分の瞳の色が変わっている事が分かった。
「これは――コンスタンティンの魔力を貰ったから?」
「そうだよ。今の君は、龍と同じくらいの力がある。治癒魔法でなく、攻撃魔法が使えたなら国を奪えるほどの魔力の筈だ」
「国なんていらない。コンスタンティンとビルギットがいれば、そこが私の居場所だもの」
コンスタンティンが腕を伸ばして、ヴェンデルガルトを抱き締めた。ヴェンデルガルトの手から鏡が落ちたが――地面に落ちる前に、魔法が解けて消えた。
「何があっても――何度でも生まれ変わって、君に会いに来るよ。私のヴェンデルガルト」
頬を涙が伝うのに気が付いて、ヴェンデルガルトは目が覚めた。テオが、心配そうにヴェンデルガルトを見つめていた。これも、もう二百年前の出来事だ。
今日は、皇帝に会う日。懐かしい思い出を少し忘れて、ヴェンデルガルトはベッドから身を起こした。
懐かしい、大きな木の中に作られた小さな家だ。「私が生まれる前から生えている木だよ」と、コンスタンティンは教えてくれた。木は本当に大きくて、ヴェンデルガルトの部屋、コンスタンティンの部屋と書斎、ビルギットの部屋を用意しても広々と使えた。
「今まで私の元に来てくれた子たちと生活して来た所より、過ごしやすそうな所に変えたよ。心配しなくても、お風呂もちゃんとあるからね」
コンスタンティンは長く生きているため大人びていたが、子供っぽい所もあった。一六〇〇年間乙女を連れてきたが、大切にしてきたこと。そうして、ヴェンデルガルトとようやく出逢ったから、もう乙女は望まない事を話してくれた。
コンスタンティンは、本当にヴェンデルガルトを大切にしてくれた。ヴェンデルガルトを同じく大切に思うビルギットにも良くしてくれて、ヴェンデルガルトは毎日がとても幸せだった。
「でもね、ヴェンデルガルト。出逢うのが遅すぎて――私は、もう長くないかもしれない」
三日月が綺麗な夜、大きな木の枝に二人並んで座っていると、コンスタンティンは不意にそう言った。
「私は、ずっと君を待っていて――諦めずにずっと君を探し続けた。そうして、ようやく君を見つけられたのに……悔しくて堪らない。可愛い、私の唯一の伴侶。愛しているよ、ヴェンデルガルト。だから……だから、私がする事を許して欲しい」
とても悲しそうに、コンスタンティンはヴェンデルガルトの髪を撫でながら呟いた。
「私の魔法で治らない? 私の力では、コンスタンティンを助けられないの?」
「――もう、身体が限界なんだよ。老いには逆らえない。こうして人間の若い男の姿で君の前にいるけれど、私は二〇〇〇年ほど生きているお爺さんなんだ。これは、誰も治せない」
ヴェンデルガルトは、コンスタンティンの胸元に抱き着いた。彼が居なくなってしまう悲しみを、受け止めきれずにいた。
「いやよ……私とビルギットを置いて行かないで……」
「大丈夫、ヴェンデルガルト。私は必ず、甦るから。君とビルギットを、もう一度迎えに来るから。また、こうして一緒に月を眺める事が出来るよ。信じてくれる? ヴェンデルガルト」
優しく落ち着いた声音は、いつものコンスタンティンだ。彼が嘘をつくはずないと、ヴェンデルガルトは信じている。涙を拭いながら、ヴェンデルガルトは頷いた。
「今日は本当に綺麗な三日月だね。君と月を見るだけで、私は幸せなんだ。この幸せを知ったから、私は君を――死んでも、離したくないんだ。ごめんね、我儘な龍で。ヴェンデルガルト、両手を出してくれないか?」
コンスタンティンの言葉に、ヴェンデルガルトは両手を開いて彼に向けた。
「――」
聞き取れないのは、龍が使う言語だからだ。コンスタンティンがそう唱えると彼の身体が光り輝き、その光が眩し過ぎて何も見えなくなる。
その時、コロンとしたものがヴェンデルガルトの掌に落ちた。光が引いて、見えなかった目が闇に慣れて元に戻った。
「これ……何?」
真珠の様な、白い石だった。丸くて、温かくて少し重い。ヴェンデルガルトは、見た事が無い宝石だった。
「これは、私の魔力をほぼ全てを凝縮したものだよ。私の魔力を、君にあげよう。龍の魔力があれば、君を護ってくれるかもしれない」
ヴェンデルガルトの掌にある宝石を指でなぞると、ネックレスの金具が付いた。コンスタンティンが、魔法でネックレスにしてくれたのだろう。
「肌身離さず、持っているように。君や私から離れれば、魔力は消えてしまう」
「分かったわ、大切に身に着けているわ」
ヴェンデルガルトの言葉を聞き、コンスタンティンは寂しそうに微笑んだ。そうして、それをヴェンデルガルトの首にかけた。途端、ヴェンデルガルトの瞳が青色から金色に変わった。
「鏡を見てごらん」
コンスタンティンが手の中で手鏡を創ると、ヴェンデルガルトに渡した。彼の言う通り鏡を見て、自分の瞳の色が変わっている事が分かった。
「これは――コンスタンティンの魔力を貰ったから?」
「そうだよ。今の君は、龍と同じくらいの力がある。治癒魔法でなく、攻撃魔法が使えたなら国を奪えるほどの魔力の筈だ」
「国なんていらない。コンスタンティンとビルギットがいれば、そこが私の居場所だもの」
コンスタンティンが腕を伸ばして、ヴェンデルガルトを抱き締めた。ヴェンデルガルトの手から鏡が落ちたが――地面に落ちる前に、魔法が解けて消えた。
「何があっても――何度でも生まれ変わって、君に会いに来るよ。私のヴェンデルガルト」
頬を涙が伝うのに気が付いて、ヴェンデルガルトは目が覚めた。テオが、心配そうにヴェンデルガルトを見つめていた。これも、もう二百年前の出来事だ。
今日は、皇帝に会う日。懐かしい思い出を少し忘れて、ヴェンデルガルトはベッドから身を起こした。
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