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ヴェンデルガルトの考察
新しい友達
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ヴェンデルガルトが魔獣のアプトを飼い始めたというのは、すぐに城内に知れ渡った。ヴェンデルガルトがビルギットと一緒にテオを連れて中庭を散歩していると、騎士たちが話しかけてきてテオを撫でてくれる。アプトは勘が鋭いので、騎士たちに悪意がないのを知っているのか、喜んで尻尾を振っていた。テオはヴェンデルガルトとはまた違う意味で、騎士たちのアイドルになった。
手の空いた者が散歩をしてくれたり、躾をしてくれる。テオの可愛らしさに癒され、ヴェンデルガルトに礼を言われて嬉しく思い、騎士たちはテオが来た事を心から喜んだ。
そんな事がしばらく続いたある日。ジークハルトから、カードとドレスが入った大きな箱が届いた。
『皇帝陛下と謁見して頂きたい。三日後、朝の十時に迎えを部屋まで行かせる。その時に着て欲しいドレスも送る』
生真面目なジークハルトらしい、綺麗な字だった。ヴェンデルガルトが箱を空けると、紺色に金の刺繍がされたクラシカルなドレスが入っていた。金糸はヴェンデルガルトの眠る前に流行っていた装飾だし、ヴェンデルガルトの金の髪と瞳に会う色のドレスだった。
「素敵ですねぇ、ヴェンデルガルト様に良く似合うドレスだと思いますわ」
カリーナが褒めると、ビルギットも頷いた。
「でも、皇帝陛下に会うなんて、緊張するわ」
「陛下は厳しく静かな方ですが、横暴な方ではありません……との、噂です。ヴェンデルガルト様らしくお会いすれば、大丈夫だと思います。応援しております」
カリーナがそう言うと、ヴェンデルガルトは深く息を吐いてから頷いた。
「そうね、私は私らしくするわ。飾ってボロが出たら、ジークハルト様にご迷惑をおかけするかもしれないですし――でも、今の貴族の礼儀作法を知らないわ。どうしましょう」
ヴェンデルガルトが困った様にそう言うと、部屋のドアがノックされた。
「突然の訪問失礼致します。エデルガルト・カルラ・キーデルレンと申します。キーデルレン子爵家の者でございます」
知らない名前だ。しかし、カリーナが素早くドアを開けた。そこには、明るい茶色の髪に緑の瞳の少し年上らしい黄色いドレス姿の女性が立っていた。連れはいないようだ。
「どうぞ、エデルガルト様」
カリーナが部屋へ促すと、彼女は部屋に入って来る。ドレスをベッドの上で広げていたヴェンデルガルトは、慌ててそれを箱に戻すと頭を下げて出迎えた。
「初めまして、エデルガルト様。ヴェンデルガルトでございます」
「ヴェンデルガルト様、初めまして。キーデルレン子爵家二女のエデルガルトです。お会い出来て光栄です――連絡もなく、突然の訪問大変失礼いたします」
エデルガルトは、綺麗なお辞儀をした。
「どうぞ、おかけください」
テーブルに案内すると、カリーナがお茶の用意を始める。エデルガルトは「有難うございます」と言ってから、椅子に腰を掛けた。続いて、ヴェンデルガルトも向かいに座る。
「私、赤薔薇団騎士団第一隊長の婚約者です。秋に婚礼があるのですが――それまで、ヴェンデルガルト様の社交界の事をお教えさせて頂くように、命を受けました」
それは、思ってもいない言葉だった。
「助かります――実は三日後、皇帝陛下に謁見する事になっていまして、今の礼儀など知らず不安だったのです」
「ヴェンデルガルト様の事は、婚約者から聞きました。私で役に立つなら、是非お力になりたいです」
薄くそばかすが浮かぶ彼女は、愛嬌があり可愛らしかった。にこにこと笑っていて、同じ婚約者でもフロレンツィアとは大違いだった。
「私は田舎者ですが、礼儀作法は親から丁寧に教えて頂きました。私のようなものがヴェンデルガルト様に礼儀を教えるなど、大変失礼な事ですが……」
「そんなこと関係ないですわ! 私、友達がいないので……あの、友人になって下さると、嬉しいです」
ヴェンデルガルトがおずおずとそう言うと、エデルガルトはニコッと笑った。
「光栄です! どうぞこれからよろしくお願いします、ヴェンデルガルト様」
ここに来て、初めてできた貴族の友人だ。ビルギットはカリーナとお茶の用意をしながら、嬉しさにあふれそうな涙を耐えた。
そこに、テオが散歩から帰って来た。どうやら散歩に連れて行ってくれたのは、エデルガルトの婚約者の騎士だったようだ。
「ヴェンデルガルト様、エデルガルトをよろしくお願いします」
と、礼をした。立ち上がったエデルガルトは、彼の隣に並んで同じように頭を下げた。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。とても嬉しいし、心強いです」
今日は挨拶だけだったので、と二人は揃って部屋を出た。用意したお茶が無駄になるので、ヴェンデルガルトはビルギットとカリーナとお茶を飲むことにした。
手の空いた者が散歩をしてくれたり、躾をしてくれる。テオの可愛らしさに癒され、ヴェンデルガルトに礼を言われて嬉しく思い、騎士たちはテオが来た事を心から喜んだ。
そんな事がしばらく続いたある日。ジークハルトから、カードとドレスが入った大きな箱が届いた。
『皇帝陛下と謁見して頂きたい。三日後、朝の十時に迎えを部屋まで行かせる。その時に着て欲しいドレスも送る』
生真面目なジークハルトらしい、綺麗な字だった。ヴェンデルガルトが箱を空けると、紺色に金の刺繍がされたクラシカルなドレスが入っていた。金糸はヴェンデルガルトの眠る前に流行っていた装飾だし、ヴェンデルガルトの金の髪と瞳に会う色のドレスだった。
「素敵ですねぇ、ヴェンデルガルト様に良く似合うドレスだと思いますわ」
カリーナが褒めると、ビルギットも頷いた。
「でも、皇帝陛下に会うなんて、緊張するわ」
「陛下は厳しく静かな方ですが、横暴な方ではありません……との、噂です。ヴェンデルガルト様らしくお会いすれば、大丈夫だと思います。応援しております」
カリーナがそう言うと、ヴェンデルガルトは深く息を吐いてから頷いた。
「そうね、私は私らしくするわ。飾ってボロが出たら、ジークハルト様にご迷惑をおかけするかもしれないですし――でも、今の貴族の礼儀作法を知らないわ。どうしましょう」
ヴェンデルガルトが困った様にそう言うと、部屋のドアがノックされた。
「突然の訪問失礼致します。エデルガルト・カルラ・キーデルレンと申します。キーデルレン子爵家の者でございます」
知らない名前だ。しかし、カリーナが素早くドアを開けた。そこには、明るい茶色の髪に緑の瞳の少し年上らしい黄色いドレス姿の女性が立っていた。連れはいないようだ。
「どうぞ、エデルガルト様」
カリーナが部屋へ促すと、彼女は部屋に入って来る。ドレスをベッドの上で広げていたヴェンデルガルトは、慌ててそれを箱に戻すと頭を下げて出迎えた。
「初めまして、エデルガルト様。ヴェンデルガルトでございます」
「ヴェンデルガルト様、初めまして。キーデルレン子爵家二女のエデルガルトです。お会い出来て光栄です――連絡もなく、突然の訪問大変失礼いたします」
エデルガルトは、綺麗なお辞儀をした。
「どうぞ、おかけください」
テーブルに案内すると、カリーナがお茶の用意を始める。エデルガルトは「有難うございます」と言ってから、椅子に腰を掛けた。続いて、ヴェンデルガルトも向かいに座る。
「私、赤薔薇団騎士団第一隊長の婚約者です。秋に婚礼があるのですが――それまで、ヴェンデルガルト様の社交界の事をお教えさせて頂くように、命を受けました」
それは、思ってもいない言葉だった。
「助かります――実は三日後、皇帝陛下に謁見する事になっていまして、今の礼儀など知らず不安だったのです」
「ヴェンデルガルト様の事は、婚約者から聞きました。私で役に立つなら、是非お力になりたいです」
薄くそばかすが浮かぶ彼女は、愛嬌があり可愛らしかった。にこにこと笑っていて、同じ婚約者でもフロレンツィアとは大違いだった。
「私は田舎者ですが、礼儀作法は親から丁寧に教えて頂きました。私のようなものがヴェンデルガルト様に礼儀を教えるなど、大変失礼な事ですが……」
「そんなこと関係ないですわ! 私、友達がいないので……あの、友人になって下さると、嬉しいです」
ヴェンデルガルトがおずおずとそう言うと、エデルガルトはニコッと笑った。
「光栄です! どうぞこれからよろしくお願いします、ヴェンデルガルト様」
ここに来て、初めてできた貴族の友人だ。ビルギットはカリーナとお茶の用意をしながら、嬉しさにあふれそうな涙を耐えた。
そこに、テオが散歩から帰って来た。どうやら散歩に連れて行ってくれたのは、エデルガルトの婚約者の騎士だったようだ。
「ヴェンデルガルト様、エデルガルトをよろしくお願いします」
と、礼をした。立ち上がったエデルガルトは、彼の隣に並んで同じように頭を下げた。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。とても嬉しいし、心強いです」
今日は挨拶だけだったので、と二人は揃って部屋を出た。用意したお茶が無駄になるので、ヴェンデルガルトはビルギットとカリーナとお茶を飲むことにした。
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